第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 虚神王の砦・前庭虚神王の砦蓮塔巨大聖堂イドクリスタルダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミー クリア後

イドクリスタル


そこは、ヨーコが最後の砦として築き
上げた精神深層の結界の内側であった。

クリスタルの中心に、ティア・ノート・
ヨーコがいた。

D・S:
ヨーコさん!

ヨーコ:
……

D・Sの呼びかけに、ヨーコは何ら
反応を示さなかった。光のない瞳は
何も映すことなく、意志なき人形の
如くに虚空を見つめている。

その傍らに、ひとりの男がいた。

鏡を見るように、D・Sと同じ姿形の
男――だが、その剥き出しの肌には
獣を象った、奇怪な刺青が鮮やかに
浮き上がっている。

D・S:
テメエ……

カル:
あれが虚神だ、D・S――

偽D・S:
ククク……少々遅かったようだな

贋D・S――虚神王と呼ばれる存在は、
声までもD・Sのそれと寸分違わなか
った。薄笑みを浮かべ、彼は続けた。

偽D・S:
この女の精神はもはや我が手の内に
ある。全ては手遅れというわけだ。
フハハハハハ――

D・S:
……じゃあ今すぐヨーコさんを解放
しな。さもねえとテメエ、ただじゃあ
死ねねーぞ。千年消えねえ苦痛で
ジワジワなぶり殺してやる――

ヨーコ:
ルーシェ!? 来てくれたんだね!

不可視の縛鎖に囚われたヨーコの
傍らに、ひとりの男がいた。

偽D・S:
予想外に早かったな。この娘の精神力
を甘く見ていたか……まあ良い。
多少の手間が増えるだけのこと――

アビゲイル:
まずいですね。美しいお嬢さんが
人質に取られた恰好です

ヨーコ:
みんな! ボクに構わないで!
早くコイツをやっつけて! 手遅れに
ならないうちに――

偽D・S:
うるさい娘だ。しばらく眠っているが
いい――

D・Sと同じフォルムの目が、瞬間
蛇のそれのように瞳孔を細め、金色の
光を放った。

ヨーコ:
あっ!?

D・S:
ヨーコさんっ!

妖しい眼光に射すくめられ、ヨーコは
一瞬に意識を奪われた。その瞳は光を
失い、D・Sの呼びかけにも反応を
示さない。強大な神気に撃たれ、精神
と肉体の感覚を切り離されたようで
あった。

偽D・S:
これでゆっくりと話ができるという
ものよな、D・S――

D・S:
テメエ……今すぐヨーコさんにかけた
術を解きやがれ。さもねえと、殺され
たほうがマシだったって後悔すること
になるぜ――

銀の長髪を逆立て、D・Sの怒気が
膨れ上がる。静かな口調とは裏腹に、
その奥歯が凄まじい音を立てて軋む。

ガラ:
やべえ……キレかけてやがる

偽D・S:
フ……さすがは我の見込んだ魔人よ。
その殺気、人間とは思えぬ。神をも
殺せる無限の力よ――故に、惜しいな

D・S:
何をブツブツ言ってやがる。早く
ヨーコさんをもとに戻さねえか!

掌に収斂した魔力の球電が、疾風の
迅さで虚神へと放たれる。高次存在を
も封滅する呪力を込めた、反応する
ことさえ難しい雷速の攻撃である。

だが、それが贋D・Sの肉体に触れる
直前、その部位に瞬時に集中した全く
等量の負エネルギーによって、球電は
音もなく消滅した。

D・S:
チッ……俺の真似は恰好だけじゃねえ
ってワケかよ

偽D・S:
聞け、D・S。お前は人間などと言う
低次元の生き物に拘泥するべき存在
ではない――

偽D・S:
お前は神になれる。今、お前は全能の
力を得る機会を前にしているのだ。
もうこの娘の機嫌を窺う必要もない。
全てはお前の思うままになる――

D・S:
ほう。少しは面白そうな話じゃねーか

偽D・S:
お前は賢い人間だ。どれだけ憤って
いても、冷静に話を理解する能力が
ある。我がパートナーとして相応しい、
素晴らしい資質だ

偽D・S:
神になる方法――それはひとつだ。
D・S、我と融合しろ。我が器をお前
の魔力が満たせば、我々はこの宇宙で
最強の存在となれる――

偽D・S:
創造神も地獄の魔王も、我々の前には
ひれ伏すほかなくなるだろう。かつて
お前が望んだ世界征服――いや、宇宙
を掌握することさえ可能なのだ!

偽D・S:
この精神世界などではない。お前は
現実に、自分の思い描いた通りの
世界を創り出せるのだ!
王に、神になれ、D・S!

QUESTION:
虚神との融合を受け容れるか?
面白そうだな
お断りだね

D・S:
なるほど、面白えな――神か。確かに、
ちまちました闘いを続ける人間どもは、
俺が統べちまえば話は早え――

カル:
D・S! 一体何を――

D・S:
オマエらだって、世界を創り直そうと
戦ってきたんだろ、カルよ? 俺様が
それを叶えてやろうってのさ――

D・S:
いいだろう。融合しようじゃねえか。
来いよ、虚神王――

偽D・S:
明晰な者は話が早くていい。これなら
わざわざこの娘の精神を書き換える
必要もなかったな。さあ、ゆくぞ、
D・S――

カル:
よせ! やめるんだD・S!

ネイ:
ダーシュ! ダメよ――

偽D・S:
お前たちは運がいい。新たな神の誕生
を、目撃することができるのだからな。
人間どもよ、神話の語り部となれ――

D・Sと虚神王の、髪の毛一本まで
寸分違わぬ肉体がひとつに重なり合う。
噴出する闇と炎を思わせるオーラが
それを包み、新たな超存在の肉体を
造り上げていく――。

黒と赤の妖気が霧散した時、そこには
禍々しい神が誕生していた。

D・Sの闘争本能が、破壊衝動が
具象化したものなのか――さながら
煉獄の修羅を連想させるおぞましき
巨体がそこにあった。邪悪に彩られた
D・Sの貌が、かつての仲間たちを
睥睨して嗤う。

D・S&虚神王:
フハハハハハ! 最高の気分だぜ!
何もかも壊しちまえるような力が湧き
出してきやがる。これならやれる――
あの憎き創造神も倒せる――!

アビゲイル:
! D・Sと虚神の人格が融合して
いるのですか!

ガラ:
ありゃあもう、D・Sじゃねえ……。
このバッカヤロウが……こんなのを
おじょーちゃんが望むワケねーじゃ
ねえか――

ネイ:
ダーシュ……ああ……

カル:
もはや、私が師と仰いだ――半身と
なろうとしたD・Sはいない……。
ならばせめて、我らの手で世界の敵と
なったオマエを止めてみせる――

ラーズ:
こうなった以上、D・Sを――いや、
この邪神を止めるのが俺たちの使命だ!
やるぞ! みんな! この世界から
奴を出してはならん――

D・S&虚神王:
グハアァァ――! 貧弱なお前たちに
何ができるというのだ? ひと薙ぎに
してやるぞ――現実世界に戻れぬよう、
魂まで分解してやる!

その刹那、目映い純白の光が、一行を
庇うように出現した。その輝きの中に
あるのは、十二枚の白き翼を持つ
美しい少年の――天使の姿であった。

アビゲイル:
あ、貴方は……ルーシェ・レンレン!
いや――熾天使ルシフェル!

転生したD・Sが封印され、その肉体
と魂を共有する少年ルーシェ――その
正体であるかつての天使長ルシフェル
のアストラル・ボディがそこに出現
していた。魂を分かち合うD・Sが
虚神王と融合したことにより、弾き
出されるように分離し、ここに現れた
のであった。

ルーシェ:
……残念だ、D・S。キミがこうした
道を選択するなんて――ボクの神霊力
の全てをかけても、キミを封じる!

D・S&虚神王:
俺様の中に巣くった忌々しい堕天使め
――。神を滅ぼす手始めに、最強の
天使と呼ばれたお前でこの力を試して
やる――

ルーシェ:
ボクも戦いの仲間に入れて下さい。
こうなった以上、彼を抑えられるのは
ボクの神霊力しか……

ルーシェ:
四人で……最大の力で臨まなければ、
あのD・Sには勝てません!

D・S&虚神王:
グアアァァァ――! 何故だ!
神になった俺が、何故敗ける――!?

ルーシェ:
……キミは人間の持つ力を、自ら捨て
てしまったんだよ。かけがえのない、
仲間たちとともに――

ルーシェ:
悲しいことだけど、キミの魂は虚神に
汚染されてしまった。決してもとに
戻ることはないんだ……だから、
キミの人格を消すよ

ルーシェ:
人格のない、魂のない虚ろな人形――
でも、仕方ないよね。キミが選んだ
結果なんだから……

ルーシェ:
さようなら、D・S……永遠に――

D・S&虚神王:
や、やめろ! うわあぁ――

D・Sは、誕生して以来初めての、
穏やかな安らぎの中にいた。

彼の魂の大部分は、堕天使ルシフェル
によって消去された。残っているのは、
新たな人格を形成するにも満たない、
ただひたすらに穏やかな感情だけ――。

柔らかな光に包まれ、D・Sは幸せな
気持ちに浸っていた。それはこれから
もずっと続くだろう。怒りも悲しみも
ない、薄靄のかかったように平穏な
人生が――。

ルーシェ:
くうっ……何という力だ……これでは
本当に、父なる神をも倒せる――
宇宙の均衡が崩れ去る……ああ……

D・S&虚神王:
フハハハハハ――! 死ね! 死ね!
死にやがれ! もう畏れるものなど
何ひとつない! 俺が新たな宇宙の
創造神だ! 全ての王なのだ――

D・Sは、神となった。

地球全土は瞬く間に戦乱の炎に包まれ、
暴虐なる爆炎の征服王に支配された。
人々に抵抗する術はなく、世界は正義
なき力によって統合を迎えた。

そして、征服者D・Sは宇宙に――
あらゆる神々に戦いを挑む。地球上の、
全ての生命を巻き込んで――。

D・S:
なるほど……神か。面白い話だな

偽D・S:
理解が早くていい。もっとも、拒む
理由などありはしないだろうがな。
フハハハハハ――

D・S:
ククク……アッハッハッハッハ!
お断りだ、このクソバカ

偽D・S:
……何? 何と言った?

D・S:
長く生き過ぎて耳アカでも詰まって
やがんのか? オロカヤロウが――。
誰がテメエなんぞと融合するかよ

D・S:
俺様と融合とか合体とかしていーのは
ヨーコさんだけだぜ! ってゆーか
好みの女だけだ! テメエみてーな
カビクセえ骨董神なんざゴメンだね!

偽D・S:
貴様――お前は今、生涯に二度と
巡ってこない機会を捨てたのだぞ!

D・S:
知るかよ、バァーカ。何が神だ、くっ
だらねえ! 忘れられたテメエはもう、
神としてとっくに終わってるんだよ!
諦めてさっさと消えちまいな――

偽D・S:
……ここまで愚かとはな。失望したぞ、
D・S――

偽D・S:
すでにお前は我が手中にあるのだ。
従わぬ以上、消えてもらうしか
あるまいな――

その刹那、D・Sの全身に凄まじい、
高圧の電撃に似た衝撃が疾った。

D・S:
ぬあああっ!? ぐうああああ――っ!

肉の中に無数の針金をねじ込まれ、
縛り上げられたかの如き、想像を
絶する苦痛がD・Sを襲った。
身動きすら叶わぬ強力な封印――
それはD・Sの存在それ自体を否定
する、魂の根源に絡みつく鎖であった。

D・S:
ぐ、はっ……何だ? こりゃあ……

偽D・S:
ふはははは――先刻までの威勢はどう
した、D・Sよ? いや、もはやお前
はD・Sではない。我こそがD・S
なのだ。そう、この娘に認識させた

D・S:
な、ん……だ、とぉ?

アビゲイル:
! そういうことだったのですか!
美しいお嬢さんを狙った理由は!

ガラ:
どういうこったよ!?

ネイ:
まさか――輸魂の秘法の……?

アビゲイル:
その通りです……虚神は彼女の――
ヨーコの精神を書き換えたのですよ!

D・S:
ぐううおおおお――っ!

かつて、絶命したヨーコを救うため、
D・Sは“輸魂の秘法”と呼ばれる
秘術を用いた。己の生命エネルギーを
分け与えることにより、死にゆく者の
魂を現世に繋ぎ止める高等秘術――
それは結果として、D・Sとヨーコの
魂に共有部分を生み出すことになった。

虚神が目をつけたのは、この事実で
あった。用心深いD・Sの精神を直接
乗っ取ることは不可能に近い。だが、
その魂を共有するヨーコを捕らえて
洗脳し、精神の認識を書き換えたなら
どうか――?

即ち本来のD・Sを否定し、贋の姿を
取った虚神王を本物のD・Sと認識
させたなら? 己の魂の内側から存在
を否定されたD・Sの人格は消え、
その無限の魔力はそっくり虚神の器
へと移し替えられる――それこそが、
この侵攻の狙いであったのだ。

虚神王にとって予想外だったのは、
与し易しと踏んでいたヨーコの抵抗が
頑強だったことであった。カルの援護
があったにせよ、配下の四虚神全てを
捨て駒にしてなお、D・Sの進行に
追いつかれるほど手間取るなど、不測
の事態以外の何ものでもなかった。

だが、それはほんの紙一重の差で間に
合った。ヨーコの認識はほぼ完全に
書き替わり、D・Sは指一本動かせぬ
呪縛に自由を奪われた。あとはわずか
に残るヨーコの抵抗を取り除くことで、
D・Sと呼ばれる人格は完璧に抹消
される。九分通り、虚神王は勝利を
手中にしたのだった。

偽D・S:
お前たちももう、観念するがいい。
頼りとする魔人はもはや虫の息だ。
この精神世界の消滅の後、現世で我と
創造神の闘いを見守るがいい――

ガラ:
ヤロウ……舐めやがって

ネイ:
貴様の思い通りになど、させるものか!

アビゲイル:
貴方のその、D・Sを模した人格を
剥ぎ取れば、美しいお嬢さんの認識は
正常にもどるはず――

ラーズ:
神々の闘いなど、二度と引き起こさせ
てなるものか!

カル:
――D・Sに成り代わり、我らが貴様
を討つ。貴様の軽んずる人間の力を、
その目で確かめるがいい――

偽D・S:
――身の程知らずが。まだ力の差が
判らぬのか、カル=スよ? 良かろう。
お前たちが相手にしてきた虚神がどれ
だけ格下か、教えてやるとしよう

偽D・S:
お前たちがこれほどとは……D・Sの
姿を模していては勝てぬ――口惜しい
が、本来の姿に戻る他あるまい――

贋のD・Sの肉体に変化が生じ始めた。
全身に施された刺青が、全く別の生物
のように蠢き始める。それが幾つかの
動物の姿を取って抜け出すと、D・S
の姿をした肉体は即座に溶け崩れた。

それと同時に、D・Sを呪縛する拘束
が緩んだ。ヨーコの魂が誤認する対象
を失い、書き換えられた精神が正常化
され始めたのだった。

D・S:
うおおおおおおおおお――っ!!

猛り狂う獣の如くに吼え、D・Sはその
縛鎖を引きちぎった。

ネイ:
ダーシュ!

D・S:
世話をかけたな、オメエら……。
もう少しで、ヤバいトコだったぜ――

D・S:
よくもこのD・S様にふざけた真似
してくれたなぁ、虚神王! テメエは
思いっきり無惨な死に様を晒した
神として、歴史に残してやるぜ――

偽D・S:
ふ、ふ、ふ――

肉から抜け出した刺青の獣たちは、
集結して奇怪な姿を取り始めた。
それぞれが部品となって描き出すのは、
巨大な平面のオブジェクト――それが
貌であると気づいた瞬間、空間に浮き
彫りとなった虚神王の両眼が開いた。

虚神王:
本当の神の力を見せてやろう。真の力、
真の不死――お前たちに我を滅する
術などないのだ。同じ高次存在たる
神にしか、我は殺せぬ――

D・S:
……上等だぜ。それが間違いだって
ことを、思い知らせてやらあ!

偽D・S:
ならば、かねてからの予定通り、
この娘の精神を書き換えてお前の力を
我がものとしよう――

D・S:
何だとぉ?

アビゲイル:
やはり……D・Sの姿を模している
のはもしや、と思っていましたが――
美しいお嬢さんを狙った理由が、
ようやく飲み込めました

ガラ:
どーゆーこった?

ネイ:
……まさか、輸魂の秘法の?

アビゲイル:
その通りです。彼らは――虚神は、
ふたりの魂の共有に気がついていたの
ですよ――

虚神王にとって予想外だったのは、
与し易しと踏んでいたヨーコの抵抗が
頑強だったことであった。カルの援護
があったにせよ、配下の四虚神全てを
捨て駒にしてなお、D・Sの進行に
追いつかれるほど手間取るなど、不測
の事態以外の何ものでもなかったのだ。

D・S:
ケチな計略を立てやがって……所詮
テメエは神の器なんかじゃねえぜ!
この俺に――ヨーコさんに手を出した
こと、地獄の底で悔やみやがれ!

偽D・S:
――身の程知らずが。お前たちが
相手にしてきた虚神がどれだけ格下か
教えてやろう。その後でゆっくりと、
お前の人格を抹消してくれるわ――

D・S:
思った通り、悪趣味で古くさい姿だぜ。
そんなに忘れられたくねえなら、俺が
テメエを永久に歴史に残してやるぜ。
最も無惨に死んだ神としてなあ――

D・S:
すぐに判るぜ……
それが間違いだったってことがな!

虚神王:
ぬううぅぅぅ……凄まじいまでの力よ、
D・S――。だが、お前が操る霊子力
では我の本体を滅ぼすことはできぬ。
我が配下の低級神は殺せてもな――

虚神王:
今回は退くとしよう――しかし、
お前の力はいずれ、必ず我がものと
してくれようぞ。我には無限の時が
あるのだからな――

D・S:
逃がすかよ、バカめ! テメエに
残された時間は、もう十秒もねえんだ!
いくぜえぇぇ――!

虚神王:
無駄だ。どのような呪文を用いたとて、
高次の存在たる我には届かぬ――

D・S:
グレン・ケネ・ヒル・ハルフォード!

D・Sの詠唱とともに、虚神王の
周囲に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
空間を立体的に利用した、積層型の
立体魔法陣が、一種の檻として虚神王
の高次次元へのシフトを阻む。

虚神王:
――何? これは……?

D・S:
テメエ言ったよなあ? 同じ神の力で
しか、テメエの本体は傷つかねえって。
だったらその力を利用してやろうじゃ
ねーか! とくと拝みな――

魔法陣の四方に空間の歪みが生じ、
拷問台の如き巨大な台座が出現する。
そこに縛り付けられ、絶え間のない
責め苦を受ける四体の影――それは
D・Sによって封滅された虚神たちで
あった。

鏖帝:
あおおおおお……どこだ、虚神王ぅぅ

トライヴン:
苦しい……苦しいぃぃ……

狼麒:
謀ったなぁ……私を――我々を捨て駒
にしたなぁ……

オクトール:
この苦痛を味わわせてやるぞぅ……
消滅したいと思うほどの、この苦しみ
を――

虚神王:
馬鹿な……こやつらは、お前が殺した
のでは――まさか、神を虜に?

D・S:
ここは俺の世界だぜ! こいつらを
別の精神チャンネルに放り込んでおく
のは大して難しい話じゃねえ

虚神王:
神を四体も……D・S、お前の内宇宙
の器はどれほどのものなのだ――?
我をも……神をも凌ぐのか!

D・S:
さあ、我が虜どもよ! 永遠の拷問
から逃れて死を迎えたくば、蓄積した
苦痛と憎悪の力をテメエらの王に吐き
出しやがれ――!!

鏖帝:
おお……オオオオオオオオ――!!

トライヴン:
ヒイィィ――ッキャアアァァァァ!!

狼麒:
ゴゥオゥエェェェェェ――!!

オクトール:
ブアアアアアアッ! アアアアア!!

四方の拷問台から、魔法陣の中心に
向けて、想像を絶するエネルギーが
放出される。四神が己の存在を消滅
するべく解放した高次霊子力が、相乗
効果によって凄まじい破壊エネルギー
の渦となり、虚神王を飲み込んでいく
――。

虚神王:
――アアアオオオウゥ……我の本体が、
存在が消え……消えてしまうぅぅ――
こんなに……こんなに苦しいなんてぇ
……

D・S:
クククク……最高の苦痛だろうが?
それじゃ、そろそろとどめをくれて
やるぜ! 死ぃぃねえぇぇぇ――!

D・S:
超原子崩壊励起――!!

四神の力をも吸収し、極限にまで膨れ
上がったD・Sの魔力が一点に向けて
――直下の魔法陣の中央で悶え苦しむ
虚神王に向けて迸る。星をも砕くほど
のエネルギーが積層魔法陣の結界内に
凝縮され、原子まで崩壊させる超破壊
フィールドを作り上げる。

虚神王:
手を……手を出すべきではなかった
……この力は――神、以上――

多層次元に響き渡る断末魔の叫びを
残し、古代の神は完全に、あらゆる
次元から消滅した。虚ろなる神々の、
数百年をかけた企てとともに――。

D・S:
ヨーコさん……ヨーコさん!

ヨーコ:
ん……ルーシェ……? あいつは……
キミの贋者は?

D・S:
もういねえよ。消えちまった――心配
しなくていいんだぜ、ヨーコさん

ヨーコ:
良かった……ボク、もうダメかと――
また助けてもらっちゃったね、
ルーシェ……

D・S:
何度だって助けるさ。これからも、
ずっと――俺にとって、ヨーコさんは
宇宙より大切な女なんだから

ヨーコ:
ルーシェ……ありがとう! みんなも!
カルも、無事だったんだね!

カル:
私の力では守りきれなかったが……
良く頑張ってくれた、ティア・ノート
  • ヨーコ

ガラ:
間に合って良かったな、お嬢ちゃん

ヴァイ:
ヨーコ! 俺は……ううっ、ホントに、
良かったあ――

D・S:
コラ、テメーら! 感動の再会なんだ
から、もうちっと気を遣えってんだ!
下がれ下がれっ! 下品な奴らめ!

D・S:
このままムードが盛り上がりゃ、もと
の世界に戻った途端にヨーコさんの
処女は俺のものに……好きよ、とか
言って……ウヒヒヒ――あっ!

ヨーコ:
バカッ! 品がないのはキミだっ!

D・S:
う、うそっ! ごめ、ゴメン!

アビゲイル:
――結局、あの美しいお嬢さんが
宇宙で最強なのかも知れませんね……

ネイ:
くやしいけど、かなわないなあ……

シーラ:
本当に、ね……

ラーズ:
シーラ!?
アイツだけはヤメておけっ!
兄さん絶対許さんぞっ!

シーラ:
兄様……お父様のようになって
きましたわよ

D・S:
さあっ! とっとと帰るぞ、テメーら!

ガラ:
でも、どーやって?

D・S:
あの、空に浮かんだ目玉――あれは
サードアイ、第三の目ってヤツだ。
あそこが精神世界と物質界を繋ぐ
出口になるはずだぜ!

D・Sの肉体から、金色のオーラが
再び渦を巻いて噴出し始める。

アビゲイル:
そう言えば、アンガスは精神世界で
生み出された存在でしたね

D・S:
安心しろアンガス。この世界はもっと
楽しい場所にしてやる。オマエが暮ら
していけるようにな……いつまでも、
俺の中で生き続けるんだぜ!

アンガス:
……あり、が、とう――(にいっ)

D・S:
おう! あばよ!

ヴァイ:
さよなら! アンガスぅ!

D・S:
さあ、跳ぶぜ! 超絶美形D・S様と、
その下僕一行のご帰還だ!

ヨーコ:
どーしてキミはそう口が悪いんだっ!

D・S:
痛いってヨーコさん! ゴメンって!

クリスタルの中の空間を、D・Sの
オーラが満たしていく。やがて外殻の
水晶が割れ、金色の光は大聖堂に――
そして塔全体に溢れ出す――。

塔の輝きを受けて、天空のサードアイ
に異変が生じつつあった。

その巨大な眼から、大粒の涙滴が雨と
なって地上へと降り注ぐ。
膨大な水は渇ききった荒野を潤し、
肥沃な大地へと変えていく。

そこから芽吹いたかの如く、金色の塔
は天に向かって成長を開始した。
塔の茎を伸ばし、ドームのつぼみを
天の高みへと押し上げていく。それは
あたかも、泥土から萌え出た蓮の花の
ようであった。

遥かな高みに達したドームは、やがて
花を咲かせるように――あるいは翼を
広げるようにその外殻を開き、内包
する大聖堂をサードアイの直下に
解放する――。

昇ったのは、巨大な金色の龍だった。
D・Sの根源の生命力を表す神秘の
龍が、長大な螺旋を描いて蓮の塔から
天空の目に向かって昇っていく。それ
は深淵の色をたたえた瞳に吸い込まれ、
この世界に別れを告げた――。

瞳を抜けた龍――D・S一行を包み
込んだエネルギー流は、漆黒の空間を
翔けていた。

そこはD・Sの内宇宙だった。彼方に
輝く銀河や星雲は、この広大無辺の
空間に無数に存在するD・Sの世界が
群れなしたもの――。そして背後では、
たった今あとにした精神世界のひとつ
が急速に遠ざかりつつあった。

ガラ:
おい! あれは――!

アビゲイル:
何と――

カル:
そうだったのか……

それは、ヨーコであった。

ヨーコの聖母の如き裸身が、星々の
瞬く漆黒の宇宙空間に浮かび上がって
いた。虚神との闘いの舞台となった
魂の核となる世界は、ヨーコの姿を
模した大地であったのだ。

ヨーコ:
ボクが、あの世界……

D・S:
こいつぁ……俺も気づかなかったぜ

アビゲイル:
D・Sが美しいお嬢さんをいかに
大切に考えているのか、判るという
ものですね――

ネイ:
きーっ! ダーシュ! 私の世界は
ないワケ?

D・S:
わ、バカよせアーシェス! もとの
世界に還れなくなっちまうじゃねーか!
そしたらヨーコさんとの××××も
おじゃんになっちまう!

ヨーコ:
こらっ! ルーシェ! 何が××××
だっ! ボクぜーったいそんなコト
させないからね! 未来永劫ねっ!!

D・S:
はああぁ……しょんなあぁぁぁ……
じゃ、せめてあのヨーコさんの裸を
よーく拝んで……あーっ! もう
あんなに遠くになっちまった!

ヴァイ:
うおおーっ! もったいねえっ!

ヨーコ:
ダメッ! みんな前向いてなさいっ!

ヨーコ:
(くすっ)

ヨーコ:
ゴメンね、ルーシェ……。
でも、ボクたちはいつも一緒なんだよ。
心がいつも、繋がってる……
キミのこと……好きだよ



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最終更新:2020年10月31日 21:29