ディートの神殿


そこは古い、太古に忘れられた神聖
――あるいは邪悪な神を祀る神殿で
あると思われた。ひんやりした空気の
中に、今もこの場所で神を崇める
儀式が行われていることを示す、
微かな香の匂いが漂っている。










その通路の中央に、大きな人影が
立ちはだかっていた。

巨漢であった。だが、それ以上に奇異
な風貌がまず人目を引く。逞しい肉体
に不似合いなトーガを身につけ、様々
なアクセサリーで全身を飾っている。
その貌には厚く化粧が施され、素顔が
どのようであるのかすら判断できぬ。

赤く紅を塗った唇が軽く吊り上がり、
男は想像よりも高い声で話しだした。

イダ:
おやおや。野卑な闖入者にしては、
なかなかに美しい方もいらっしゃる

D・S:
テメエは?

イダ:
これは失礼。私はイダ・ディースナ、
美しきものの奴隷と自ら任ずる者です。
今はこの神殿の神に仕え、その美を
侵す者を追い払う責務を負う身――

イダ:
貴方たちに個人的な敵意は抱いて
いませんが、これも私の役目――
悪く思わず、黄泉路へと旅立って
戴きましょうか

イダは腰に下げた二つの水晶球を手に、
短い詠唱とともに印を結んだ。どこ
からか獣の咆哮が響き、床に生じた
法印から何かが飛び出してくる。

ボル:
むっ! 召喚士でござるか!?

D・S:
チッ……めんどくせえ。いーだろう、
テメエに本当の美ってヤツを教えて
やらあ!

イダ:
おおっ!? うっ、美しい――っ!

D・Sたちの見事な連携に心を打たれ
たのか、イダはその場にへたり込んで
はらはらと涙を流した。

イダ:
このように美しい闘いを見せられては、
私は自らに課した戒律に則って、
貴方たちの軍門に下る他ありません。
私は常に、最も美しき者の従者――

どうやらイダは、この世界について
何も知らないようであった。この神殿
の神に魅せられ、唯一残る記憶――
美しき者に従えとの声に導かれるまま、
ここで守護者を任じていたという。

イダ:
美こそが世界で最も尊いもの……
それに従う限り、私は正義とともに
ある――これが私の信条です

カイ:
お、大男のクセに化粧などして……
叩っ斬りたいー!

シーン:
カイも貸してもらったら? 絶対
もっとステキになれるわよ

カイ:
うーっ! 誰が化粧なんかするかぁ!

ヨシュア:
素敵なのに……いや、今も充分に

イダ:
その程度の魔獣にこれほど手こずる
とは……美しくありませんね。ですが
私も召喚の種切れです。口惜しいです
が、撤退とするとしましょうか

素早く印を結ぶと、イダは足下に
生じた法印に吸い込まれた。召喚術を
応用して、自らを他の場所に送還した
のであろう。

D・S:
変わった野郎だったな

カイ:
大男のクセに化粧などして……
ああいう輩は許せん! 叩っ斬って
やりたいわ!

ヨシュア:
でも、君が化粧をしたなら、今より
もっと素敵になると思うのだが……
いや、無論今も充分に綺麗だが

カイ:
な……何を言う、のよ……

シーン:
兄さん、カイが照れてるわ

ラン:
む……










神殿の最奥に当たるその祭壇が、滲み
出す強大な妖気の源であるようだった。

やがて、そこに巨大な姿が現れる。
美しく、そして邪悪な死の匂いを
漂わせて――。

太古にその崇拝者たちを失いながらも、
時を越えて生き長らえてきた強大な
死の女神――その血に飢えた瞳が今、
D・Sたちに注がれた。

D・S:
この女神の力、使えるぜ。魔力を
発露する眼を塞ぎ、俺の肉体に封印
すれば……ククク、そうだ。同等の
魔神をあと二匹捕らえりゃあ――



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最終更新:2020年10月31日 21:18