土星宮


シェン:
はっ! あ……兄者か!?

ジオン:
シェン――無事だったか

現れたのは、暗黒洞に飲まれたまま
行方知れずとなっていた剣士ジオンで
あった。

ジオンは異次元のトンネルから導かれ、
この地下都市遺跡へと実体化したよう
であった。

話を聞くうち、ジオンとD・Sたちの
間では、時間の感覚に大きなずれが
生じていることが判った。
彼にとってはあれから経過したのは
ほんの数時間に過ぎず、明らかに
異次元とこの世界の時の進行に差が
あることを示していた。

D・S:
異次元じゃあ時間の進み方が違うのか
……待てよ。それともこの世界が――?

シェン:
兄者? どうかしたのか?
さっきからどうも態度がおかしいぞ。
もっと再会を喜んでくれてもいいはず
なのに――

ジオン:
――異次元に飛ばされたショックで、
少し記憶が戻ってな。少々混乱して
いるだけだ

ジオン:
……あのまま俺が異次元に留まり、
お前が俺より早く齢を重ねていけば、
いつかはお前が俺の兄になるのかな

シェン:
? 兄者、何を言っているのだ?

ジオン:
お前が兄で、俺が弟なら良かったと、
そう思ったのさ――いや、済まない。
おかしなことを思い出したものでな

シェン:
……?

ジオン:
そうだシェン。お前にこれを渡して
おこう

シェン:
それは黒夜叉――! どうしてそんな
大切な刀を俺に? 代々影流に伝えら
れてきた名刀ではないか

ジオン:
記憶が戻ってきて以来、手に馴染まな
くなってな。それにこの刀は、俺より
お前に相応しいものらしい。ククク、
何かの間違いで、俺が持っていたのさ

シェン:
兄者――?

何を思い出したのか――ジオンの表情
には暗い翳りと、口元に浮かぶ歪んだ
笑みが纏わりつくようになっていた。
兄の変化に対し、シェンは戸惑う
ばかりで、蘇ったその記憶を問う
こともできずにいた。

シェラ:
ジオン……? 魔戦将軍に同じ名の
魔剣士がいたように思ったが……。
影流とやらは侍剣法の流派――魔剣士
とは相容れぬ。人違いか……










幽かな震動が続き、止まった。
土星宮は正しい座標へと移動した。



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最終更新:2020年10月31日 21:23