ボラの神殿


氷の亀裂から導かれたのは、古くに
封印されたのであろう神殿であった。
これまでとは全く異質な、そして
強い妖気がこの建造物の奥深くから
漂ってくる――

D・S:
おかしな場所に迷い込んじまったな。
ここは氷結湖とは関係なさそうだぜ

D・S:
樹海にあった女神の神殿と同質のもの
だな。と、すると、ここにも太古の
魔神の類が祀られてるってワケだ

イダ:
この妖気――私が仕えていた女神と
同等か、それ以上の力を有している
ようですね。強きものは、それだけで
美しい……楽しみです

ヴァイ:
アンタ、ホンット変わってるねぇ

ヨシュア:
……D・S。あなたがこの神殿を探索
するなら、その間に俺は別行動を
取らせてもらいたいんだが――

D・S:
例の、オメエの使命ってヤツ?

ヨシュア:
ま……まあ、そう言うことになるか

D・S:
……ハッハーン。そうか、ヨシュア、
判っちまったぞ

ヨシュア:
な、何をだ? 別に俺は――

D・S:
ランを追っかけてったカイが心配なん
だろ? あのふたり、何かいわくあり
そうだもんな。しっかしヨシュアくん
も男の子だねー。

ヨシュア:
ばっバカなっ! この非常時にそんな
コトを気にしては……いないとは……
(ゴニョゴニョ)

シーン:
そうなの!? うーん、確かにヨシュア
とカイってお似合いだけど、兄さんも
……どうなのかな

ヨシュア:
どうなのだ?

D・S:
やっぱ気にしてんじゃねーか。いーぜ。
行ってこいよ

ヨシュア:
かたじけない。では、後で会おう――

ヨルグ:
ヨシュアが恋か……フ、寂しいな

ヴァイ:
ヨルグ……それ友情と違うゾ。ヤバい










その玄室の中央に、大きな人影が
立ちはだかっていた。

巨漢であった。だが、それ以上に奇異
な風貌がまず人目を引く。逞しい肉体
に不似合いなトーガを身につけ、様々
なアクセサリーで全身を飾っている。
その貌には厚く化粧が施され、素顔が
どのようであるのかすら判断できぬ。

赤く紅を塗った唇が軽く吊り上がり、
男は想像よりも高い声で話しだした。

イダ:
おやおや。野卑な闖入者にしては、
なかなかに美しい方もいらっしゃる

D・S:
テメエは?

イダ:
これは失礼。私はイダ・ディースナ、
美しきものの奴隷と自ら任ずる者です。
今はこの神殿の神に仕え、その美を
侵す者を追い払う責務を負う身――

イダ:
貴方たちに個人的な敵意は抱いて
いませんが、これも私の役目――
悪く思わず、黄泉路へと旅立って
戴きましょうか

イダは腰に下げた二つの水晶球を手に、
短い詠唱とともに印を結んだ。どこ
からか獣の咆哮が響き、床に生じた
法印から何かが飛び出してくる。

シェラ:
召喚士!?

D・S:
チッ……めんどくせえ。いーだろう、
テメエに本当の美ってヤツを教えて
やらあ!

見覚えのある大男が、そこに立ち
はだかっていた。

イダ:
またお会いしましたね

D・S:
テメエ、イダとか言ったな?

イダ:
覚えて戴き光栄です。すでに知らない
間柄ではありませんが、今や私はこの
神殿の主の下僕――その命に従い、
侵入者を排除しなくてはなりません

イダ:
悲しいことですが、またもや我々は
敵同士……それでは私の魔獣たちと
戦って頂きましょうか!

D・S:
またか……上等だ! 今度こそ美しい
戦いってのをテメエの瞼に焼き付けて
やるぜ!

イダ:
おおっ!? うっ、美しい――っ!

D・Sたちの見事な連携に心を打たれ
たのか、イダはその場にへたり込んで
はらはらと涙を流した。

イダ:
このように美しい闘いを見せられては、
私は自らに課した戒律に則って、
貴方たちの軍門に下る他ありません。
私は常に、最も美しき者の従者――

どうやらイダは、この世界について
何も知らないようであった。この神殿
の神に魅せられ、唯一残る記憶――
美しき者に従えとの声に導かれるまま、
ここで守護者を任じていたという。

女神の神殿から逃走したイダは、この
神殿に強制的に実体化させられていた。
どうやらここに棲む神が、己の手足と
なる従者としてイダを召喚したようで
あった。その魔神の力強さを美と
捉えたイダは、ここで再び守護者を
務めていたらしい。

D・Sたちと話すうち、イダの記憶は
急速に蘇っていった。
この男もまた、カルに従う魔戦将軍の
ひとりであった。だが、至高王の話を
聞いても、イダに動揺した様子は
見られなかった

イダ:
美こそが世界で最も尊いもの……それ
に従う限り、私は正義とともにある
――これが私の信条です

イダ:
ならば今、正義はD・S、貴方に従う
ことにあります。カル様への忠誠を
捨てたわけではありませんが、貴方と
ともに進みましょう――

イダ:
どうも貴方たちの戦いぶりは美しく
ありませんね。私の魔獣をまたも
退けた実力は評価しますが……

イダ:
今回も撤退を余儀なくされたようです。
次に遭うことがあれば、私ももう少し
マシな魔獣を用意するとしましょう

イダの姿は、再び足下の魔法陣に
吸い込まれて消えた。

シェラ:
ま、待て! ……行ってしまったか。
イダ……あの男もまた、魔戦将軍――?

D・S:
二度もあんなこと言われると腹立つぜ。
次は必ず、美しく魔獣を片づけて度肝
を抜いてやる! 見てやがれ――

イダ:
その程度の魔獣にこれほど手こずる
とは……美しくありませんね。ですが
私も召喚の種切れです。口惜しいです
が、撤退とするとしましょうか

素早く印を結ぶと、イダは足下に
生じた法印に吸い込まれた。召喚術を
応用して、自らを他の場所に送還した
のであろう。

D・S:
変わった野郎だったな

カイ:
大男のクセに化粧などして……
ああいう輩は許せん! 叩っ斬って
やりたいわ!

ヨシュア:
でも、君が化粧をしたなら、今より
もっと素敵になると思うのだが……
いや、無論今も充分に綺麗だが

カイ:
な……何を言う、のよ……










祭壇から、この神殿全体を支配する
妖気が強烈に放射されている。

何かが姿を現した。巨大な獣の姿と、
悪魔の如き顔を持つ太古の悪神――。
殺戮と破壊によってのみその存在を
誇示し続けた魔神が、新たな生け贄を
前に歓喜と憎悪の咆哮を轟かせた。

D・S:
ククク……こいつの眼も塞いで、魔力
ごと俺の肉体に封印しちまおう――。
フフフ、あと一匹見つけりゃいい。
凄えモンが見られるぜえ――



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最終更新:2020年10月31日 21:20