氷獄塔


それはまさしく、氷柱の内側に掘り
抜かれた巨大な塔であった。この膨大
な質量を天空に支えているのが、山頂
にかかる氷の橋だけではあり得ない。
恐らくは強大な浮遊の魔力が、氷獄塔
全体を包み込んでいるのだろう。

ヴァイ:
……で、その魔力がなくなるとどう
なるワケ?

D・S:
数分もしないうちに塔は地上に落下を
始めるだろうな

シェラ:
! 真下には氷漬けの水龍が――もし
封印された状態でこの巨大な氷柱を
受ければ、いかな水龍といえども……。
やはり先に封印を解く方法を――

D・S:
大丈夫だって。たぶんこの塔を落下
させるってのがカルの――いや、敵の
切り札なんだろうが、こっちはそれを
逆手に取ってやらあ。ま、見てなって










ロス:
ハーイ、みんな! おひさー!

カイ:
出たなオカマ将軍!

ロス:
アンタ、相っ変わらず失礼ねっ。ソレ
じゃあ一生オトコなんてできないわよ!

ヨシュア:
そんなことはないっ!

ラン:
訂正しろっ!

ロス:
あらあ……意外とモテモテ。口惜しー!

D・S:
ったく緊迫感のねえヤツだな。
オメエも俺たちを食い止めろって
命令されてるんだろうが

D・S:
ここで現れたってコトは、オメエも
魔戦将軍のひとりだったってことか、
ロスよ? 俺たちを食い止めろって
命令されてるワケか

ロス:
まあね。でもアタシは、そんなに
乗り気じゃないのよねー

カイ:
? 戦う気がないってことか?

ロス:
だってカル様――っていうか至高王は、
どう見たって誰かに操られてるカンジ
じゃない? アタシ、こう見えても
魔戦将軍きってのリアリストなのよ

ロス:
その至高王の命令に従ったところで、
カル様に忠誠を尽くしたことには
ならないでしょ?

ヴァイ:
じゃ、俺たちの側についてくれるのか?

ロス:
それもいいんだけど……ね? アンタ
たち、ひとつアタシと戦ってみない?

ヴァイ:
へ? 何で?

ロス:
実はD・Sといっぺん戦ってみたかっ
たのよ。勝っても負けてもうらみっこ
なしってコトでね。アタシたちがやり
合える機会って、もうないかもよ?

QUESTION:
ロスと戦いますか?
やってみるか
やめとこう

D・S:
確かに、一度手合わせしてみるのも
悪くねえ。やってみるかよ

ロス:
そうこなくっちゃ! さあ、イイ男の
戦いぶり、見せてもらうわよっ!

ロス:
ふう……さっすがぁ! 戦ってみて
ハッキリ判ったわ。これならアタシの
命も預けられる……改めてヨロシクッ!

D・S:
今は戦力を温存してえからな。オメエ
の腕は以前一緒に戦って判ってる。
無傷じゃすまねえだろうし、腕試しは
パスだ

ロス:
そう? 残念だけど、ま、いいわ。
それじゃあ至高王の目を覚ましに
行きましょうか!

ロス:
あっ! それアタシのリビングブレード
じゃない? ワァオ! 手に入れてきて
くれるなんて、最高!

ロス:
さってと……このシナプスケーブルを
剣の柄に接続して――オッケー!

ヴァイ:
そのケーブルって、湖の底の幻影城で
見つけたお宝?

ロス:
そ。何て言ってもこの剣がなくっちゃ
使いものにならないからねー。
助かったわあ!










バ・ソリー:
ここから先は通さぬぞぉ! カル様
から授かった魔法のドリンクでパワー
アップ! 不死身の男バ・ソリー様
見参んん!

ヴァイ:
うわ……しぶといのが出やがった

バ・ソリー:
オマエらには俺様の蟲ちゃんを見つけ
てもらった恩がある……だがしかぁし!
カル様のもとで蟲の楽園を建設する
夢は捨てられぬぅ! 許せぃ!

D・S:
あんまり許したくねえ理由だなぁ

バ・ソリーの肉体は、その体内に
大量に飼育する再生蟲によって、
どんな傷でも瞬時に修復していく――
だがこの時、蟲たちの機能に重大な
障害が発生していた。

バ・ソリー:
うおお! な、どうしたコトだぁ?
む、蟲たちが死んでいくぅ……あああ!
身体が再生しないよぉぉぉぅ!

D・S:
いけねえ! 手当してやれ!

常人と同様に苦しむバ・ソリーに、
迅速に魔法の癒しが施される。危ない
ところで死にかけた蟲使いの生命力は
上向きに転じ、ほどなく生き残った
再生蟲がその肉体の修復を終えた。

バ・ソリー:
何故だ……まさか、カル様から頂戴
したあのクスリが――!?

D・S:
一時的にオメエの能力を高める
劇薬だったんだろうな。その結果、
間接的にそれを吸収した再生蟲どもは
死んじまったんだろう――

D・S:
蟲にしてみりゃ、殺虫剤を飲まされた
ようなもんだな

バ・ソリー:
うう……馬鹿なぁ。許してくれぇ、
俺様の可愛い蟲たちよ!

沼沢地方に住み、蟲との共生を余儀
なくされた辺境の部族――その中から
生まれたのが、積極的に蟲を寄生させ、
その能力を利用して身体機能を高める
術を身につけた“蟲使い”と呼ばれる
者たちであった。

その蟲使いの中にあっても、常識に
外れた尋常ならざる数の蟲を身体に
飼う男――それがバ・ソリーであった。
彼にとって蟲たちは人間よりもずっと
心を通わせることのできる愛すべき
生物であり、その偏愛ぶりは一族から
も放逐されるほどであった。

当然ながらバ・ソリーは孤独であった。
彼の思い描く夢――多くの人間に、
ただ醜いという理由だけで忌み嫌われ
る蟲たちが、駆除されることなく安心
して繁殖できる楽園の建設に、理解を
示す者などいるはずもなかった。

だが、カル=スだけは違った。戦場で
すら蔑まれる蟲使いの技能に敬意を
払うと同時に、バ・ソリーの夢に対し
ても理解を示した唯一の人間であった。

“人は夢を見なければならぬ。私は
全ての者が平等で、飢えることもなく、
夢を実現できる世界を創造したい――”

その言葉に、バ・ソリーは心酔した。
人間の言葉に初めて心を打たれた。
蟲しか愛せなかった彼にとって、
カルは初めて敬愛し、忠誠を捧げる
ことのできる人物であったのだ――。

バ・ソリー:
……違う! カル様は蟲に対しても、
決してこんな無道な仕打ちはなされぬ!
こんなのは、カル様ではない――

バ・ソリー:
――俺様も一緒に行く! カル様に
正気に戻って頂かねば、蟲の楽園建設
の夢は実現できぬ!

ヴァイ:
なるべく、俺んちのそばでは実現して
欲しくないんですケド……

D・S:
おう。これ、オメエのだよな

バ・ソリー:
そ、それは変蟲ちゃん! 可愛い蟲を
またも見つけてくれるとは、やはり
俺様の見込んだ男よ!

D・S:
ったく、調子いいヤロウだな

三匹目の蟲を吸収したバ・ソリーの
肉体に、目には見えぬ変化が起こり
始めていた。

バ・ソリー:
おお……奇蟲珍蟲変蟲が渾然一体に
絡まり合って、俺様のカラダを内側
からヒートアップさせるううぅぅ……。
ああ、カ・イ・感……

D・S:
何言ってやがんだオメーわ!? ついに
脳味噌まで蟲がわきやがったか?

バ・ソリー:
ふうう……これで蟲たちの肉体修復
能力は格段にパワーアップしたずおぉ。
従ってこのバ・ソリー様はますます
不死身になったのだはあぁぁ

ヴァイ:
ホント、人間離れしたオッサンだなあ










D・S:
もう後戻りはできねえな



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最終更新:2020年10月31日 21:24