第一章 第二章 第三章 第四章 黒斑洞黒の館気洞溶解雨の湿地デュアディナムトンネルランゲルハンス島スーゼミの神殿血路癌臓宮癌臓宮中枢部ダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミー 第五章 クリア後

気洞


館が崩れ落ちる中、一行は魔神の背後
に隠されていた通路から裏側の出口に
抜け、辛くも脱出した。大量の塵埃が
もうもうと立ちこめる洞窟を逃げ去る
ように走り抜けて辿り着いたのは、
先刻の洞窟よりも狭く、岩質も違う
坑道らしき通路であった。

定期的に通り抜ける風が虚ろな響きを
奏でている。入口を塞いでいた館が
崩壊したことで、空気の流れが活性化
したようであった。

D・S:
む……ん? 肺の痛みは治まったみて
えだぜ。楽に息ができるようになった

ネイ:
良かった! ダーシュの治癒能力が
機能し始めたのかしら?

D・S:
いや、相変わらず心臓は様子がおかし
いようだぜ……痛みは遮断しているが、
脈拍が一定じゃねえ。呪詛を無効化
したワケじゃなさそうだ

D・S:
たぶん、今の化け物は肺の呪詛を司っ
てやがったんだろう。どんな因果関係
があったのかは判らねえが、心臓への
呪詛も同じように解かなきゃならねえ

D・S:
それでも、戦うこたぁできそうだぜ。
まるっきり本調子とはいかねえが――

ガラ:
ま、オメエはゆっくりしてなって。
うっ! ボクの心臓が……とか言われ
るとコッチの心臓にも悪りいからよ

D・S:
んだぁ? このゴリラ野郎! テメー
がもっとしっかりしてりゃ俺様は鼻歌
混じりでのんびりできるのによ!
四天王ならビッとしろ、ビッと!

ガラ:
ガギグゴ……せっかく人が優しー言葉
をかけてやりゃあ――ブッ殺すぅ!

ネイ:
ガラ! ダーシュは病人なのよ!

ガラ:
だってオメエ、このヤロウが……

ネイ:
それにしても、四天王か……私とガラ、
そしてカル――あとひとりの名が思い
出せんな。まだ封じられている記憶が
あると言うことか……

ネイ:
まさかこの地にも、これまでの我々の
ように操られた四天王が……?

ガラ:
人の話を聞けって! ネイってば!

ネイ:
うるさいっ! 今、重要な考え中!
シビれてなさいっ!

ガラ:
あんぎゃあああ! みんな、オレって
大事にされてる? うぎゃあ――っ!

D・S:
さっきはガインが化けて出やがった
からな。敵もどんな手を使ってくるか
読めたもんじゃねーや

アンガス:
……

D・S:
そーいやオメエのことだけ、何だか
記憶がハッキリしねえんだよな。
重要なコト、忘れてねーかな?

アンガス:
……(ぶん、ぶん)

D・S:
忘れてない? あっそー。うーん?

D・S:
とにかく、この通路を先に進もう。
このままじゃ、俺の心臓はそう長くは
保ちそうにねえ。早く、呪詛の源を
見つけねえと……

ブラド:
おお! 真の騎士よ!

ザック:
ブラドじゃんか!

ブラド:
おう、ザックか!
貴公も無事で何よりだわ!

この洞窟で目覚めたブラドは、仲間の
消息を求めて歩き回っていたらしい。
例によってまた迷っており、洞窟の
構造を把握してはいないようであった。

D・S:
ま、自主的に俺たちと合流できただけ、
オメエも進歩したかな

ザック:
進化じゃないのぉ

ブラド:
どういう意味かな? 貴公?

ザック:
だってオマエ、人類とは思えないほど
デカいんだもん

ブラド:
ぬううっ! この礼儀を知らぬ小童め!
貴様も少しは騎士道精神を学べぃ!

ザック:
やだね。俺は格闘家だもん

ブラド:
うぎぐぎ……成敗してくれるぅ!

ザック:
おっ! やるか!?

ガラ:
おいおい、止めなくていーのかよ?

イングヴェイ:
あのふたりは昔からああだったからな。
ああしてじゃれ合って、年齢差を
埋めているのだろう

ガラ:
ふーん……ザックが若いのは判ると
して、あのオッサンは幾つぐらいなの?

イングヴェイ:
二十代後半だと思ったが――

ガラ:
ウソォ?
オレより年上かと思ってたのに……

ネイ:
アンタだって、忍者の秘法だか何だか
で全然年を取らないじゃない。初めて
会った時からン十年、見かけも中身も
成長してないわよ

ガラ:
あっ、ヒデぇ! オメーだってそーじゃ
ねーか!

ネイ:
私はハーフエルフだもの、しょうが
ないでしょ

ロス:
D・Sと言い、四天王とかってそんな
人ばっかりなのよねえ










そこで、洞窟は二手に分かれていた。
風が流れてくるのは右手の道で、左の
道は大きく湾曲してもときた方角に
近い方向に向かっている。

D・S:
……風の流れてくるほうに向かおう

ネイ:
それが妥当ね










この洞窟の終端は、結界とも何らかの
器官ともつかぬ怪物体によって遮られ
ていた。

それは通路の径とほぼ等しい大きさの、
円形の物体であった。それを構成する
のは、半透明で弾力のある無数の花弁
らしきものである。それはちょうど、
大輪の花を真下から見たような形を
していた。奇妙にも空気は通り抜けて
くるらしく、風に合わせて花弁が微か
に揺れている。

ガラ:
何だこりゃあ? ゼリーみたいだな

ネイ:
柔らかそうだが、剣などは受けつけ
ないようだぞ

D・S:
どいてろ……一発呪文をブチかまして
やるぜ。これ以上モタついてるワケにゃ
いかねえ――

サイクス:
待て! D・S!

D・S:
――? サイクスか? 何で止める?

サイクス:
その物体を良く透かし見てみるといい。
通路の向こう側は、ただの洞窟では
ないぞ

半透明の花弁を通して注意深く観察
すると、確かに大輪の向こうにある
洞窟は、尋常のものではない奇怪な
闇が渦を巻いていた。亜空間、あるい
は高次空間へと繋がる通路が口を開い
ているのだった。たとえこの器官を
破壊しようと、そのまま先に進むこと
はできそうにない。

サイクス:
この半透明の物質は、恐らくその先の
空間を越えるための加速器官だ。破壊
してしまうと、取り返しのつかない
ことになるかも知れん――

サイクス:
もっとも、そうやすやすと破壊できる
ものとも思えないが。呪文を無駄に
使うのも、君の本意ではあるまい?

D・S:
少々アセってるんでな。だが、そう
すっとどうやってこの器官とやらを
動かしたらいいんだ?

サイクス:
この器官、私にはあの龍が開く“螺”
の道に関わるものだと睨んでいる。
だが、どのみちここに手がかりは
なさそうだな――

サイクス:
少し戻ったところにある分岐から、
別の方角を探ってみるのが賢明だろう

D・S:
合流したばっかだってのに、相変わら
ずテキパキしてやがんな

サイクス:
この世界の謎を解き明かそうとする
欲求が、私を衝き動かす力の源なのだ。
全てを解明したい。少しでも早く――

その時、D・Sと物体の間に、次元の
裂け目が現れた。

D・S:
サイクスか!

いつも通り迅速に、サイクスが亜空間
から飛び出してきた。

サイクス:
D・S、この器官の先にあるのはただ
の通路ではない。良く透かし見てみる
といい

D・S:
何ィ?

サイクス:
私が移動している亜空間とは別の、
より高次の空間へと繋がる次元通路だ。
そのままでは、私も侵入することは
できない

サイクス:
この物体は、恐らくは高次空間への
障壁を越えるための加速器官だろう。
私は龍の開く“螺”の道に関わるもの
と推察しているのだが――

D・S:
“螺”の道に?

サイクス:
これまでも、君たちは龍を解放する
ことで、無意識に同様の器官を活性化
し、より高次の空間へとシフトして
いるようだ

サイクス:
私もそれに引きずられ、お陰で危うい
ところで猟犬の追跡を撒いてこれたの
だが……そろそろ限界が近づいてきた

サイクス:
奴の追跡能力は、私の次元跳躍能力を
遥かに上回っている。このままでは
早晩、あの怪物に捕捉されてしまう
だろう……むっ? 予想より早い!

D・S:
サイクス!

サイクス:
私は君たちに賭ける他ない。この世界
のどこかに埋もれている、私の能力を
増幅する装置を見つけだしてくれ。
頼んだぞ――

言い残し、高まる猟犬の殺気を引き
連れて、サイクスは次元の穴に逃げ
込んでいった。

イングヴェイ:
サイクス……相当に追い詰められて
いるようだ

D・S:
ここにはもう手がかりはなさそうだ。
あの分岐の、もう一方に急ぐぜ!
サイクスのためにもな










地面に、巨大な角を持つ獣の頭骨が
転がっている。

ガラ:
牛の骨か、ありゃ?

ネイ:
こんなところにそんなモノがいるか。
魔族か何かの頭蓋骨だと思うが――

その刹那、骨はふわりと床から
浮き上がった。

ガラ:
わわわっ!?

ネイ:
むっ! ……人、か?

浮いたのではなかった。頭骨の下には、
黒い法衣にすっぽりと包まれた身体が
あった。あたかも実体のない者の如く、
骨の仮面を被った怪人は岩盤を透過
してそこに現れたのであった。

ネイ:
何者かっ!

暗黒僧:
ふ、ふ、ふ……

仮面に遮られてくぐもっただけでは
ない、機械的に操作したような、
掠れた声が虚ろに響いた。

暗黒僧:
私の名は、そう……暗黒僧とでも
呼んでもらおう。この汚染された地で、
お前たちの最期を看取る僧侶だ――

D・S:
けっ……縁起でもねえ。どうせテメエ
も得体の知れねえ神とやらに操られて
やがんだろうが。そのけったいな骨頭
を外しやがれ!

暗黒僧:
常人ならとうに死んでいて不思議の
ない呪詛を受けながら、よくもそれ
だけ活力を残しているものだ。
さすがは魔人D・S――

D・S:
テメエか!? この俺様に呪いなんぞを
かけやがったのは?

暗黒僧:
ふ、ふ……呪詛のひとつを破られる
とは思わなんだがな――

暗黒僧:
ここから先は私がお相手しよう。やが
て、お前たちは何も信じられなくなる。
――人間とは滅ぶべき罪深きものだと、
その目で確かめるがいい……

D・S:
テメエ、待ちやがれ――!

乾いた笑い声を残し、暗黒僧と名乗る
怪人は洞窟の奥の闇に、溶けるように
消えていった。

ネイ:
あれは、記憶から消された我々の仲間
なのだろうか――

ガラ:
直々に相手するってコトは、この先にゃ
じっくりと練った罠を用意してあるん
だろーぜ

D・S:
構うかよ! 奴をとっ捕まえて、俺に
呪詛なんかかけやがったコトを死ぬ
ほど後悔させてやるぜ! うぐっ!
こりゃあ、早くしねえとヤバイか……










ガラ:
館の崩壊に巻き込まれっちまうぞ!










D・S:
こっちじゃねえな



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最終更新:2020年10月31日 21:26