双雪山(右)
突如空間が裂け、サイクスが飛び出し
てきた。いつもより、何やら慌てて
いる様子であった。
ヴァイ:
よ! 今回はそんなに間が空かなかっ
たじゃん
サイクス:
いや、まだ振り切れてないんだ、ハァ、
ハァ……
サイクス:
差が縮まる危険を侵してこちらに出て
きたのは他でもない。D・S、君の
性格に少々偏向が生じている
D・S:
偏向だぁ?
サイクス:
無意識のことなのだろうが、いざと
いう時の選択が無法で凶悪な傾向に
偏りつつあるようだ。気をつけた
ほうがいい……! もう来たか!
手刀で素早く空間を裂き、別れの挨拶
もそこそこにサイクスは異次元へと
帰っていった。直後に、この場所と
重なる亜空間を、獰猛な追跡者が通り
抜けていった気配が感じられた。
D・S:
記憶を取り戻す過程で、気づかねえ
うちに人格が変化してやがるのか……?
ま、でも俺は凶悪非道な自分が好き
だしぃ――
ヴァイ:
ヨーコもそうだといいねえ
D・S:
ギクゥッ!
サイクス:
D・S……少々気になっていることが
ある
D・S:
あん?
サイクス:
このところの君の傾向だが、いささか
無法で凶悪な選択に傾いているように
思う。君自身は気づいていないのかも
知れないが――
サイクス:
無意識に、失われた記憶に偏向が起き
ているのかも知れん。気をつけたほう
がいい――
D・S:
ふーん。結構俺は今の自分が気に入っ
てるんだけどねぇ
山と山とを繋ぐ巨大な氷の橋も、
それの威容の前では小さな吊り橋の
ように見える。
眼前に、氷獄塔が聳えていた。橋に
支えられる形で、遥か高空までそそり
立つ雄大な氷の柱――それは青空を
背景に、輝く光の塔のように煌めいて
いた。恐らくはこの塔自体が地下遺跡
からエネルギーを受け取り、巨大な
プリズムとして魔のオーロラを発生
させていたのだろう。
D・S:
いよいよカルの本拠地かよ
マカパイン:
塔では他の魔戦将軍が待ち構えている
だろう。ここからが正念場だぞ。特に
イングヴェイは手強い――
ラン:
できるなら戦いたくはない相手だな
シェラ:
イングヴェイ……目を覚ましてくれ
氷の橋上に、ひとりの男が佇んでいた。
D・S:
マカパインか――
マカパイン:
……遂にここまで来てしまったか。
貴様と再び戦うことなど、あって
欲しくはなかったが――
マカパイン:
私は魔戦将軍、その責務は果たさねば
ならぬ。最後の勝負だ、D・S
ヨルグ:
マカパイン!
D・S:
よせ、ヨルグ。あいつも考え抜いての
ことだ。受けて立つぜ!
マカパイン:
それでこそD・S! 私の好敵手に
相応しき男! ゆくぞ!
マカパイン:
カル様がため……その大義をもって
しても勝てぬか――フフ、主が傀儡で
あれば、大義もまた魂なき操り人形の
如し……
ヨシュア:
マカパインよ。本当の大義とは、その
主に正気を取り戻させることであろう?
今一度、我々に力を貸してくれ
マカパイン:
辛いことを言う……私は侍とは違うが、
恥というものは知っているつもりだぞ
ヨシュア:
恥じ入るのは、己が正しいと思う道に
踏み出せなかった時にこそだ。正しき
大義――正義に身を置く限り、貴様は
決して恥知らずなどではない!
マカパイン:
……侍大将の説法に心を動かされると
はなあ、魔戦将軍マカパインもやきが
回ったものだ。D・S、恥を捨てて
頼もう。ともに、カル様のもとへ――
最終更新:2020年10月31日 21:23