第一章 第二章 第三章 第四章 黒斑洞黒の館気洞溶解雨の湿地デュアディナムトンネルランゲルハンス島スーゼミの神殿血路癌臓宮癌臓宮中枢部ダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミー 第五章 クリア後

癌臓宮


血路を抜けた先は、これまでとは
明らかに異なる大空洞が広がっていた。
天蓋を支える大壁面には、巨大な生物
の骨を思わせる白い石柱が幾筋も浮き
出している。天蓋からは赤い、直径が
数十メートルにも及ぶ管状の物体が
そこかしこから垂れ下がっている。

その管に吊られる形で、空洞の中央に
浮かぶ奇怪な建造物があった。

否、それは建物などではなかった。
元来この空洞にあったのであろう巨大
な岩塊――臓器を彷彿とさせる有機的
なフォルムであり、並の城塞を丸ごと
包むほどの大きさがある――に、寄生
するが如くに繁殖した異物の集合体。

それは黒の館や龍を形作っていた
肉腫と、機械的な建材が融合して
生み出された悪夢の宮殿であった。
生命を蝕む病巣――まさしく、大地に
害毒を撒き散らす癌細胞と呼ぶべき
代物であったのだ。

D・S:
やっぱりな……あの暗黒僧と、その
背後にいる腐れた神には、これ以上は
ないってほど似合いの魔宮だぜ――

ネイ:
ここは一体……?

D・S:
言ったろ。世界の心臓だって……さあ、
乗り込むぜ!










その宮殿の内部は、一見無機質な印象
を与える建材で構成されていた。だが、
細部まで注意を払って観察すると、
壁や床の隙間にはびっしりと、例の
黒い肉腫細胞が繁殖している。怖気が
疾るような、生理的嫌悪感を催す宮殿
であった。

ダイ:
美しいぃぃぃぃ!

ネイ:
黙んなさい

D・S:
あの、黒い館ン時と一緒だぜ……この
癌細胞みたいなモンを生み出してる
奴がいるんだろう。まずはそいつを
潰さなくちゃな――










そこは宮殿の中心と思しき広間だった。
中央に、深い穴が穿たれている。この
宮殿の基底部にまで通じているのか、
竪穴を吹き抜ける風の音が遥か深淵か
ら響いてくる。それはまるで、奈落の
底でもがく亡者の呻きの如く聴こえた。

その穴から、黒い肉腫が次々と吐き
出されていた。天井に届くほど勢い
良く、あるものは穴の縁から滲み出す
ように――。蠢く癌細胞の集合体は、
ここから宮殿の全域へと転移し続けて
いるのだった。

一行の接近を察したのか、穴の底から
何かが這い昇ってくる気配がする。
響いてくるのは、柔らかな無数の脚が
絶え間なく竪穴の壁を蹴る音だった。

ガラ:
お出でなすったぜ!

穴の口から、爆発したかの勢いで飛び
出してきたのは、能面のように無表情
な女の貌であった。瞼を閉じた、白磁
の如き美しい容貌――ただし、張り付
いているのは巨大な肉塊の先端だった。

その身体のほとんどを竪穴の中に
残したまま、鎌首をもたげて蠢く黒い
長大な肉蟲――それが、癌細胞を生み
出すものの正体であった。この瞬間も、
女の口から黒い肉腫が糸を引いて
吐き出される――。

女の瞼が見開かれた。その双眸は片目
だけが青く、もう片側には瞳のない
白目だけがあった。

D・S:
呪詛の親玉だ――テメエら、油断すん
じゃねえぞ!

女の口から身の毛もよだつ断末魔の
叫びを迸らせ、奈落の肉蟲は広間に
横倒しに絶命した。その肉体を構成
する癌細胞は即座に溶け始め、黒い泡
となって消滅していく。
女の貌を象る肉面だけが、体液で
濡れた床の上に残された。

D・S:
けっ……悪趣味な寄生蟲だぜ。だが、
これで心臓の呪詛は消えたはずだ――

ヴァイ:
見ろよ! ヨーコ球が!

聖玉の表面の曇りが見る間に薄れ、
元の鏡の如き輝きを蘇らせていく。
それに伴い、ヴァイの掌に力なく
転がっていたヨーコ球は、自在に
飛び回る浮力を取り戻し始めた。

D・S:
やったぜ! ヨーコさん!

周りを旋回するヨーコ球に、D・Sは
久しぶりの笑顔を浮かべた。

ネイ:
ダーシュ……私には、あんな顔見せ
ないのよね――妬けるけど、しょうが
ないのかな

ガラ:
しょーがねえしょーがねえ! あんな
鬼畜ヤロウのコトなんざ忘れちまいな
って! ぎゃはははっ!

ネイ:
ダーシュのコト、鬼畜とかゆーなっ!

ガラ:
あんぎゃあぁ――っ! こ、これで
オメエが元気になってくれるなら、
オレは……ぎぃやああぁぁぁ――っ!
で、電圧キツいってばぁぁ――っ!

ネイ:
ありがと……ガラ

ガラ:
な、何か言ったか? あんぎゃああ!
も、もうヤメテ――!

D・S:
よーし、これであとは暗黒僧のヤロウ
を探し出すだけだぜ。そうすりゃ
恐らく、全ての謎は解ける――

ロス:
お宝の匂いが……あっ!

ロスが残された肉面を除けると、青い
眼球と思われたのは、引き込まれそう
な深みの碧色をたたえた宝玉である
ことが判った。その中心には、爬虫類
の瞳孔を思わせる縦長の黒いスリット
が内包されている。

ロス:
あったわぁ、アタシの探してたお宝、
アビサルピューパルが! イヤッホウ!

ロスは宝玉を大事そうに抱えると、
自分の剣であるリビングブレードの
付け根にある空洞に嵌め込んだ。それ
はピタリと収まり、次いで瞼のような
シャッターが瞳を完全に包み込む。
そして柄頭のジャックにすでに取り
つけてあるケーブルを腕に無造作に
巻きつけると、ロスは会心の笑みを
浮かべて言った。

ロス:
重力剣、完成! リビングブレードに
シナプスケーブル、そしてこの宝玉
――“深淵の瞳”が合わさることで、
アタシの最強剣が生まれるのよーっ!

ロス:
これからは格段にパワーアップよぅ!
みんなもゼヒ、試してみてねェ

ヴァイ:
ロス、どっち向いて喋ってんだ?

ロス:
アラ、アタシとしたコトが説明ゼリフ
などを……

D・S:
暗黒僧があとひとりの四天王だったと
すりゃ、そりゃ誰なんだっけな……
もう思い出せそーなんだが

ガラ:
うーん? ヘンな奴だったコタぁ確か
だぜ

ネイ:
うんうん。何て言うかアブないタイプ
で、私もダーシュもヒドイ目に遭わさ
れたような……

D・S:
お? オメーらのヒント、いいカンジ
だぜ。もう少しで記憶が戻ってきそう
な気がしてきた

ガラ:
えーっとな……ナスとかヘチマに似て
やがるんだよ、確か

ネイ:
ふたりっきりになりたくないオトコ
ナンバーワン! 私はカルのコト好き
じゃなかったけど、それとは根本的に
違うイヤーなカンジなのよ

アンガス:
……

ヴァイ:
アンガス、どした? ムズかしい顔
しちゃって……ん? 何か暑くないか?
オマエも汗びっしょりで……わわわ!?

ヨルグ:
ななな!?

シェン:
ア……アンガスが!?

高熱を発していたのはアンガス自身で
あった。その熱のためなのか、彼の
顔の皮膚が急速に溶け崩れ始める。

ヨシュア:
アンガスが……アンガスが溶けていく?
うわあ――っ!

カイ:
落ちつけヨシュア! こいつは――

頭蓋骨の代わりに、溶け落ちた皮膚の
下から露出したのは、メタリックな
輝きを放つ鋼の骨格であった。
鎧が分離して剥がれ、同時にその下の
肉体が凄まじい勢いで蒸発していく。

ガラ:
おっ、オメエは――

ネイ:
アビ……

D・S:
思い出した! アビゲイルだ!

三メートルを越えるアンガスの巨体は、
今や竹馬の如き機械外骨格の正体を
露にしていた。その中にすっぽりと
収まっているのは、これもアンガスと
変わらぬ無表情をぶら下げた僧形の
男であった。

アビゲイルと呼ばれた男はゆっくりと
外骨格から降り、驚きのあまり声も
ない一同を無表情のまま見渡した。

アビゲイル:
ヘンでナスでヘチマでアブなくて、
しかもふたりきりになりたくない男性
ナンバーワンの呼び声高いアビゲイル、
遂にそのヴェールを脱いでみました

ネイ:
あ……アビゲイル、それはその……

ガラ:
ジョークだよジョーク! オレたち
四天王ってみんな仲いーもんな? な?

アビゲイル:
別にいいんですよ。ただね、私がいな
いトコロではいつもこんな風に言われ
ていると思うと、アビちゃんのひ弱な
ハートは今にもしぼみそうで……

D・S:
ドアホウ! このナスッ!

アビゲイル:
おぐっ! ……イキナリ後ろ頭を蹴り
飛ばすとは、最初からトバしますね、
D・S

D・S:
テンメエェェ――今の今までアンガス
のフリしてやがったのか! 俺たちが
超ピンチの時にもっ!

アビゲイル:
いかにもその通りです。敵の目を
欺くにはまず味方から、と言うでは
ありませんか

アビゲイル:
アンガスがロボットだという記憶を
皆さん忘れていてくれたので、私も
楽になりすますコトができました。
敵にとっても私の正体は盲点でしょう

D・S:
で? 敵も味方も欺いて、何か得る
コトはあったのか?

アビゲイル:
ええ。今この時、皆さんが驚き呆れて
くれた――企みが上手くいったとゆう、
これ以上の快感があるでしょうか!
いや、ないッ! あっ!?

D・S:
おーいみんな、フクロだフクロぉ!

ヴァイ:
この野郎! アンガスを返せっ!

ネイ:
このこのこのこのっ!
さあ、お前たちもおやり!

カイ:
はーいネイ様。オラオラオラオラァ!

ガラ:
オレも一発ぐらい入れとくかな……
スカッドボンバァーッ!

アビゲイル:
ああああああああ――

アンガスの正体は、D・S四天王の
ひとり暗黒僧アビゲイルであった。
一行を驚かせるのがアンガスを装った
主たる理由であったようだが、変装
にはそれ以外にも、もうひとつの
理由があった。

敵――アビゲイルは虚神と呼んだが
――は、D・Sの最も信頼できる仲間
である四天王を重点的に洗脳し、手駒
として利用する戦略を採っていた。

それは彼に対しても例外ではなく、
アビゲイルもすんでのところで敵方に
取り込まれそうになったのだった。
これに抗するため、彼は咄嗟に己の
人格を封印し、アンガスの殻を被って
精神を絡め取る魔力の触手から逃れた
のである。

ガラ:
これで四天王は、カルを除いて全員
揃ったってワケか

ネイ:
すると……暗黒僧の正体は一体誰なの
だろう?

アビゲイル:
カルとは思えませんからね……それに、
敵はかつての四天王ガインまで引っぱ
り出してきています。あの仮面の下は、
この私にも推測不能です

D・S:
ケッ。テメーはいつだって推測不能じゃ
ねーか。毎度毎度「迂闊でした。私と
したことが」とか抜かしゃあがって!

アビゲイル:
う……諫言耳が痛いですな

D・S:
とにかくあの野郎の正体は、品のねえ
骨頭をひん剥いてみれば判るこった。
奴の放つ妖気はもう近い……いくぜ!
ヤロウども!










ガラ:
どうやら閉じ込められちまったみたい
だぜ



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最終更新:2020年10月31日 21:27