聖域の森


その森の内側には、刈り込まれた高い
生け垣で構成された迷路状の庭園が
広がっていた。密生した垣根は向こう
側を見通すこともできず、中を探索
するには狭い通路に沿って歩くしか
なさそうだった。

D・S:
ご大層な迷路が造られてやがる。
これも妖魔どもの趣味かな

ヨシュア:
D・S! 良くぞ無事で!

D・S:
ヨシュアか!

迷路の中で出くわしたのは、これまで
度々D・Sたちの窮地を救ってくれた
侍・ヨシュアであった。

ヴァイ:
ヨシュアよう……お前も元気そうで
良かったぜ!

ヨルグ:
ヨシュア……

ヨシュア:
ヨルグ……俺の勝手な頼み通り、
良くD・Sたちを支えてくれたな……
ありがとう

ヨルグ:
礼などよせ! それを言い始めたら、
俺はお前に幾ら言っても足りぬ!

D・Sたちは短く情報を伝え合い、
魔雷妃と妖魔のこと、そして今は
翼龍を救うべく動いていることを
ヨシュアに告げた。

ヨシュア:
そうか……龍の心臓が抜き取られて
いるのか。その“翼龍の左眼”とやら
を、良く見せてはもらえないか?

ヨシュアは宝石を受け取ると、その
大きさを測るように丹念に調べ始めた。

ヨシュア:
……先刻迷い込んだ場所に、翼龍
らしきものが描かれた壁画があった。
確証はないが、その左眼の窪みが同じ
くらいの大きさだったように思う――

ヨシュア:
壁画はこの先だ。俺も一緒に行こう

カイ:
この男は……信用できるのか?

ヨルグ:
カイ! 何を言うんだ?

カイ:
話を聞いたところでは、都合のいい
場所で姿をくらますそうではないか?
俺はそんな男を信用せんぞ

ヨシュア:
君は……カイ?

カイ:
! 俺を知っているのか!?

ヨシュア:
いや――今は名前しか……。だが、
知っている。決して忘れ得ぬ名として
――

カイ:
な……何を真顔で言っている! お、
俺はお前のように綺麗な顔をした男は
キライなんだ! そういう奴に限って
なよなよしてたりするからなっ!

ヨシュア:
済まない……混乱させるつもりは
なかった。どうか許して欲しい。ただ、
君を見た瞬間、カイと言う名が記憶に
蘇ったのだ

カイ:
あ、ああ、気にするな! 俺も急に
名前を呼ばれて、取り乱してしまった
だけだ!

ヨシュア:
うん。許してくれてありがとう……
ところで、そちらの彼は――?

ラン:
ランだ。カイとシーンのナイト役と
言ったところだ。よろしくな

ヨシュア:
カイの騎士……ああ、よろしく

ふたりはややぎこちなく、はたから
見ても力の入り過ぎた握手を交わした。

ヴァイ:
あれで二人とも笑ってるのが不気味
だなぁ。血の気がなくなって手が白く
なってるけど……

ヨシュア:
……マカパイン。仲間に加わって
くれたそうだな

マカパイン:
貴様か……あの時は悪かったな

ヨシュア:
いいさ。判ってくれさえすればいい。
我々は助け合わねばならぬのだと言う
ことを――

マカパイン:
……ああ










ブラド:
む……ぐぐ……ごがご……

迷路の奥まった生け垣から、奇怪な
物体が生えていた。

ブラドであった。どうやら森を彷徨う
うちに、この庭園に入り込んでさらに
迷ったらしい。癇癪を起こして垣根に
突進し、上半身をめり込ませた見ての
通りの有様となったようであった。

D・S:
……情けねえカッコウだ。おい、
助けてやれ

ブラド:
うお? ……あ痛ててて、うーっ、
ぶはっ!

D・S:
よお。しっかしオメエはホントに
方向音痴だな

ブラド:
うう……面目ない姿を晒してしまった
わい。どうにもこの樹海から脱出
できなくてな

D・S:
出口は恐らく荊の壁だけだろうぜ。
言っとくがブラド、あの壁にヤケを
起こして突っ込んだりすんなよ。幾ら
オメエが頑丈でも命を落としかねねえ

ブラド:
そ……そんな軽率な真似をするワケが
なかろう! バカにするなよっ!

ヴァイ:
あ、マジで考えてやがったな

ブラド:
む……ま、まあとにかく、またも
助けられてしまったな。礼を言う。
今後も騎士として精進せいよ!

D・S:
ドコ行くんだよ? 荊の壁は越えられ
ねえぜ?

ブラド:
不可能であろうと邁進するのが騎士で
あーる! 不屈の男ブラドがゆく!

ヴァイ:
また迷わなきゃいーけど










ヨシュアの語った通り、左向きに
描かれた翼龍の左眼に当たる位置に、
宝石を嵌め込むのにちょうど良い
大きさの窪みがあった。

D・S:
手がかりはこれしかねえからな。
“翼龍の左眼”を嵌め込んでみるか

宝石を嵌めたものの、何かが起こる
気配はない。
一行が失望しかけたその時、幽かに
壁画の龍が身じろぎしたように思えた。
宝石の左眼は少しずつ、やがて爛々と
輝き始め、翼龍の絵は魂を得たかに
その鮮やかな翼を羽ばたかせ始める。

D・S:
こりゃあ……龍の分霊か!

翼龍は壁の中で一声吼えると、壁画
から抜け出して空に舞い上がる。
翼の巻き起こす突風の中で、一行は
翼龍が彼方の空――龍樹の上空を包む
雨雲へと一瞬に飛び去るのを見た。

龍の突進を受けた雨雲は、暴風に吹き
散らされたかの如くに霧散し、消滅
した。天頂から射し込む太陽光が、
遮るもののなくなった龍樹に真っ直ぐ
降り注いでいるのが見える。

D・S:
心臓を抜かれる前に、翼龍は分霊を
ここに封じておいたんだ。俺たちが
訪れた時に、心臓の位置を伝える術と
してな――

D・S:
龍樹に戻ってみよう。何か起こって
いるはずだぜ

巨大な壁画が、そこに祀られていた。
色鮮やかな顔料を用いて、天駆ける
翼龍の姿が生き生きと描かれている。
間違いなくそれがこの聖域の核となる
場所であり、妖魔が封鎖してでも他者
を近づけたくない要所であった。

D・S:
何か謎が隠されているようだが……
今は何の手がかりも見つからねえな。
先によそを当たるか










ひっそりと隠れ潜むように、岩壁の
内部へと続く入口があった。しかし、
そこはこの樹海にあって極めて異質な、
妖魔のものですらない邪気を放って
いる。

D・S:
ここは差し当たっての目的とは関係
ねえようだが……強い魔力の波動が
ビンビン伝わってきやがるぜ

ロス:
せっかく見つけたんだから入って
みましょうよぅ。スゴイお宝が隠され
てるかも知れないし――

ヴァイ:
オマエってホント、お宝探しが
好きなのな

ボル:
探索するにしても、リスクは少なく
なさそうでござるな



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最終更新:2020年10月31日 21:17