地龍神殿


洞窟内に掘り抜かれたこの神殿は、
かなり長い間、足を踏み入れる者も
なかったようだった。にもかかわらず、
そこは聖域として確実に生きていた。
かつての信仰の力が衰微しつつ残留
しているのではなく、現在も魔力が
注ぎ込まれ、神殿そのものが息づいて
いるのが肌で感じ取れる。

D・S:
へへっ、こいつは無駄足には
なりそうにねーぜ

ヴァイ:
するってえと、ここにあの要石の
本体があるってことか?

D・S:
こういう場所はな、結界を張るには
もってこいなんだぜ。見つけ出したら
俺様の呪文でバラッバラに砕いてやる。
フッフッフッハッハ――

ヨシュア:
……D・S、確かにあなたの秘めた
力は強大だ。今は記憶を失っていても、
次第にその力を取り戻していくだろう。
しかし――

ヨシュア:
飛び抜けたひとりの力は、時として
暗黒に呑まれることがある。結界は
むしろ、仲間との協調を促すために
存在しているのではあるまいか――

D・S:
コナゴナにしてくれるぜ、ハッハー!
一時たりともこのD・S様の行く手を
阻んだことを、たとえ無機物だろうと
後悔させてやるう! フハハーッ!

ヴァイ:
ん? ヨシュア何か言ったか?
ダメだよ、このオッサンはこうなると
人の話なんざ聞いちゃいねえんだから。
で、何の話だって?

ヨシュア:
……いや、いいんだ
(D・Sが自ら、その事実に気づか
なければ……)










その石版は、微かに振動していた。
神殿に満ちたエネルギーが作用して
いるのか、磨き上げられた表面が時折、
呼吸するように周囲の光を反射する。

ヴァイ:
この石、震えてるぜ。触ってると
筋肉痛とかに良さそうだな……おっ、
こいつはキクぜ

D・S:
何でテメエはそうやって無警戒に、
いかにもアヤしそーなものに手を
出したりするんだ? え? 罠が
仕掛けられてるとか考えねーのか?

ヴァイ:
おおっと、危なかったー!

D・S:
……ま、幸い罠じゃなかったようだ。
それにしても、どうしてモノリスが
振動なんかしてやがんだ……むっ!?

D・Sが触れた途端、その手を通じて
一連の言葉が意識に飛び込んできた。
モノリス自体に変化はなく、ヴァイも
触っていながら言葉を受け取った
様子はない。どうやらこのモノリスは、
ちょうどD・Sの意識にのみ同調する
周波数で振動しているようだった。

“声を聞く者、汝、その正当なる力を
奪い去られし者なり――”

“内陸深く進むには力が必要となる。
汝、力持たざれば滅びは必定なり。
汝、汝に従う者とともに力を示せ。
さすれば封は消え去るであろう”

ヴァイ:
……い! おいってば! D・S!

D・S:
ん……ああ?

ヴァイ:
やっと返事しやがった。モノリスに
触ったっきり動かなくなりやがって。
もしかして肩コリ治してたとか?

D・S:
バッキャロー、そんな齢じゃ……?
そういや俺っていくつなんだっけ?。
えらく長い人生を送ってたような気も
すんだけどな

ヴァイ:
ヨーコはきっと、俺みたいに若さの
弾けるティーンエイジャーが好みだと
思うなー

D・S:
バカさの弾ける低脳じゃー、だろ










“汝の力、魔の力のみに頼るに非ず。
己のみを信ずるは愚かなり。力を
合わせる知恵を持てば、閉ざされた
道は切り拓かれよう。汝、心せよ”










“我が声を聞く者よ。扉の先にて
汝の力を試せ――”

モノリスの振動がにわかに高まり、
重い扉の動く音が神殿内に響き渡った。

D・S:
どこかで扉が開いたな。どうやら
そこで力試しをしなきゃならねえ
ようだぜ

ブラド:
面白いではないか。少々退屈して
いたところよ

ヴァイ:
でもよ、何だかこの神殿は俺たち
……いや、D・S、アンタを待ってた
ような感じだよな。罠にハマった
みたいで、不気味じゃねえか?

D・S:
確かに、俺を名指しして待ち構えて
いたように思える。だがな、どうも
敵に罠を仕掛けられているような気は
しねえ

D・S:
これと言って根拠があるワケじゃ
ねえけどな……

ヴァイ:
ふうん……ま、鬼が出るか蛇が
出るか、行ってみるしかねえか










結界の幻影と同じ要石が、確かな
実体としてそこに鎮座していた。
神殿の構造から見て、こここそが
霊的な磁場の中心であり、要石に
強力なエネルギーを注ぎ込んで
いるのは明白であった。

D・S:
予想通り、本体がありやがった。
それじゃ早速ブチ砕いてやるとするか

ヴァイ:
待てよD・S。さっき言ってた
力試しってこれのコトなんだろ?
そんなに簡単に済むのかよ?

D・S:
なーに、俺様に任せておけば
間違いない。さて、と

QUESTION:
要石にダムドを唱えるか?
おう
やめとこう

D・S:
ハンサム様の道を遮りやがった
罪深い石コロよ、砕け散りやがれ!
うおらあっ、ダムドォッ!

呪文が炸裂した瞬間、要石は目映い
閃光に包まれた。爆発の衝撃が亀裂を
生じさせ、高熱が内側まで伝達されて
巨石を一瞬に破砕する――はずだった。

しかし、要石を覆った閃光は、呪文の
熱によるものではなかった。それは
石をコーティングするように施された
魔法障壁であり、あらゆる呪文を
術者へと跳ね返す強力な反射機能を
備えていた。当然の帰結として、
爆裂の呪文は魔力を放ったD・Sに
逆流することとなった。

D・S:
ぐわあーっ!!

ヴァイ:
……むごすぎて笑えねえぞ

ボル:
む!? 要石が!

D・S:
っとと……そう言や、モノリスで
魔の力に頼るな、とか聞いたな。
やっぱ調べてみたほうがいいか……
ん? 何だ!?

巨大な、明らかに何らかの呪力が
施されていると思しき石の神体が
そこにあった。神殿の構造から見て、
ここが中心部であり、霊的な力の
集中する祭祀の場であることは間違い
なかった。

ヴァイ:
力試しって、この岩をどうにか
しろってコトか?

D・S:
こういうのは要石ってんだ。何かの
封印に使われてんだろうな。で、当然
俺様がブチ砕ーく!

ヴァイ:
おいおい、警戒しろって言ってたの
アンタだぜ

ヨシュア:
そうだD・S。要石を詳しく調べて
からでも遅くないのでは――

D・S:
俺に不可能はない。ワハハハハ!

D・S:
ちいとばかし記憶がなくなってるが、
石コロ風情に力試しされるたあ俺様も
ナメられたもんだぜ! うおらあっ、
喰らえ! ダムドォッ!

要石が微かに身じろぎしたように
見えた。と、今度はD・S以外にも
感じ取れるだけの、モノリスとは
比べものにならぬ強力な思念波が
放射された。

“我は地の龍。生命の力の根源にして
全ての始まりなり。我、すでに侵され
最後の力にてこの地を封印す。汝が力、
我が封を破りてここに示せ――”

QUESTION:
要石を破壊する準備はよいか
はい
いいえ

要石が砕け散る直前、思念波が再び
意識に響き渡った。

“相応しき者よ! この地の封印は
解かれたり!”

“されどまだ、大地にはびこり我を
封ずる者どもを払拭するには能わず”

“力を高めよ! 汝に呼応し集った
仲間を探し、その力を束ねて我の封じ
込められた地を求めよ。我を解き放ち
螺の道を開け――”

巨岩は弾け、そして分子の結合までが
断ち切られたのか、かけらも残さず
雲散霧消した。大気に横溢していた
魔力も消え、神殿は水を打ったような
静寂に満たされた。

D・S:
地龍、とかぬかしやがったな。
これだけの封印を維持できるとなると、
ちょっとやそっとでお目にかかれる
ようなドラゴンとは思えねえな

D・S:
本当に龍の眷属だとすりゃ、えらく
霊格が高いヤツだろうぜ。しかも
そいつが、恐らくは俺たちの記憶を
消した敵に封印されてるらしい

D・S:
こいつはこの先、ナメてかかれねえ
かも知れねえな――

ヨシュア:
地龍……もはや敵の手に……

ヴァイ:
とにかくよ、俺たち力試しには合格
したんだろ?

D・S:
ああ。本体をぶち壊したんだ、あの
洞窟の幻影も消えているだろうぜ

D・S:
そうだな。この神殿も働きを止めた
ようだし、ここにはもう用はねえ。
早いとこ内陸に向かうとするか



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最終更新:2020年10月31日 21:06