泡角洞
サイクス:
――そうか。判ったぞD・S。この
岩洞が何を意味しているのか
D・S:
意味って、天守閣への侵入を困難に
するための迷宮だろうが
サイクス:
それもある。だが、それ以上に重大な
役割が秘められていたようだ
サイクス:
自走砦の土台となる巨岩部分は、
それ自体が結界――魔法陣なのだ。
天守閣にあるはずの霊子炉を増幅する
ためのブースターなのだよ、ここは
サイクス:
いくらシーラ姫が優秀な霊媒能力を
有していても、破界門をあそこまで
成長させるには別の触媒も必要だとは
思っていた。ここが、それなのだ
D・S:
ははあ。そういやこの岩塊、六角形に
なってやがった。この洞窟がその
一角か。六点の安定したエネルギー点
を設置して増幅してやがるのか!
サイクス:
そう考えて間違いあるまい。シーラ姫
を救うためには、まずこの岩洞にある
エネルギー源を沈黙させ、魔法陣の
ブースター効果を止めねばならん
D・S:
味な真似しやがって……急ぐぜ!
突如、眼前に見覚えのある異次元の
歪みが現れた。
D・S:
! これは越次元……サイクスか?
サイクス:
覚えていてくれて嬉しいよ。やっと
再会できたな
次元移動能力者サイクスが、異次元の
窓から再び飛び出してきた。
ヴァイ:
よ、久しぶり。猟犬みたいなヤツに
追跡されてたんだろ? うまくまいた
のかよ
サイクス:
ああ。だが、一時的に過ぎない。
こうしてこちら側に出た瞬間から、
奴は私の思考波を嗅ぎつけて追尾を
開始しているだろう
サイクス:
だから今回も時間がない。私が掴んだ
情報を手短かに伝えておこう
サイクス:
シーラ姫だが、やはり自走砦――この
砦の天守閣にある霊子炉に囚われて
いるようだ。しかし救出にはひとつ
問題がある
D・S:
問題?
サイクス:
この岩洞を始め、自走砦直下の土台
部分には六つのブロックがある。現在
これら各点にエネルギー源が設置され、
六角形を描いているわけだが――
サイクス:
もう気づいたかも知れないが、それが
魔法陣となって霊子炉を外部から
ブーストしている。だからこそあの
規模まで破界門を成長させられたのだ
D・S:
なるほどな。安定したエネルギー点で
炉の能力を臨界寸前まで引き出して
やがるのか。こっちを先に止めねえと、
触媒のシーラを止められねえ――
サイクス:
その通り。だが、この岩洞を隔てる
隔壁は幸いにも六つのエネルギー源と
直結しているらしい。順次沈黙させて
いけば何とかなるはずだ
その時、サイクスを追う獰猛な追跡者
が、再び接近しつつある兆しが現れた。
次元の裂け目が開き、身の毛もよだつ
絶叫が亜空間から響き渡る。
サイクス:
どうやら許された時間はここまでだ。
お互いの武運を祈ろう。さらば!
言い残して、サイクスは迅速に亜空間
へと撤退した。猟犬と呼ばれるものは
その次元移動を敏感に察知し、即座に
追撃の顎を方向修正する。獰猛な気配
は再び遠ざかり、開きかけた亜空間の
亀裂も修復されていく。
D・S:
あいつ、危険を冒してこっちに出て
きやがったのか……と、こうしちゃ
いられねえ。俺たちも急がねえと――
この岩洞のエネルギー源らしき、輝く
クリスタルの結晶が浮かんでいた。
D・S:
霊子力を封じ込めた水晶か……。
待てよ。これがあと五つあるとすりゃ、
俺が利用できるかも知れねえな
ヴァイ:
利用って、何に?
D・S:
超強力な呪文が頭に浮かびかけてる
んだけどよ、補助エネルギーがねえと
唱えられそうにねえ。うまくすりゃ、
一度きりのとっときになるぜ
D・S:
こいつを俺の法印でくくって、炉の
増幅装置としての機能を切る……と
D・Sが低く詠唱し、水晶の周囲に
指先で複雑な印を描く。と、結晶の
放つ光が収束し、それは純白の輝き
へと変化した。
D・S:
これでよし。いつでも俺の思念に
遠隔で反応するぜ。他へ急ぐぞ!
最終更新:2020年10月31日 21:11