人造湖~寄岩砦


ヴァイ:
おいD・S!そっちじゃねーよ










湖畔に到達した時点で、湖の湖面は
荒海の如くに激しく波打っていた。
難攻不落の城砦島が、嵐に翻弄される
小舟のように見える。大気を伝わる
エネルギー波は、尋常を越えた域に
達していた。

ヴァイ:
あれを見ろっ!

大峡谷の彼方が、地鳴りとともに強烈
な光を放ち始めた。大地が割れ、そこ
から地龍の輝きが噴き上がる。雷神塔
の地下から続く洞窟は、大峡谷の
直下にまで延びていたらしい。
たわめられたエネルギーの解放が、
今まさに行われようとしていた。

D・S:
いよいよ出やがるぞ!

耳をつんざく咆哮を四方に撒き散らし、
ついに地龍が地表に姿を現した。
地底の寝所で見た時とは比較にならぬ
大きさに膨れ上がった龍は、長大な
胴で螺旋の軌道を描きながら、峡谷に
沿って鬼哭関へ突進していく。次第に
螺旋の回転速度を上げて迫るその姿は、
さながら水平線からせり上がる津波の
如き、圧倒的な破壊力を漲らせていた。

シェラ:
龍からもはや言葉は伝わってこない!
まるで荒れ狂う暴風のよう――いや、
原初の世界に生命が誕生する、その
瞬間の無垢な魂のようだ!

もはや輝くエネルギー流と化した龍は、
鬼哭関に正面から激突した。
破壊不可能と思われたぶ厚い扉は
想像を超えた力の奔流に抉られ、
飴のように歪み、砕け散った。

地龍は瞬間、湖水を大量の水蒸気に
変えながら進み、湖中央の自走砦を
掠めて、対角の外輪山上空へと飛び
去っていった。

ヴァイ:
! 湖の水が引いていくぜ

湖水を堰き止める役割を果たしていた
鬼哭関が破壊され、膨大な水は激流と
なって大峡谷に放出されつつあった。
谷は大河と化し、海岸方向に向かって
勢いよく流れ続けている。人造湖の
水位はみるみるうちに減少し、本来の
カルデラ盆地の姿を取り戻していく。

D・S:
予想以上の破壊エネルギーだったぜ。
巻き込まれてたらまず助からなかった

この時、D・Sは肉体の奥底から、
得体の知れぬ力が漲ってくるのを
感じていた。尾骨に沿って湧き上がる
その力は、しかし本来そこにあった
器に注ぎ込まれたようでもあった。
脳に電流が疾り抜け、魔力の増大する
感覚がD・Sの中枢に刹那の快楽を
生じさせる。

ロス:
さ、て、と。それじゃD・S、
アタシもここでオサラバさせてもらう
わねー

ヴァイ:
え? 何で?

ロス:
前に言ったでしょ。探してるモノが
あるって。警戒のキツイ雷神塔にある
と思ったのに、実は龍のためだった、
なんてね。アテが外れたワケよ

ロス:
ホントはもっと早く別行動しようと
思ってたんだけど、雷神塔からの行き
がかり上、途中でケツ……あら下品、
オシリまくるのもスッキリしないしね

ロス:
じゃ、また会いましょうねー。
スリルがあって楽しかったわよ。
バッハハーイ!

D・S:
見かけによらず律儀なヤロウだ。
ん? オカマって野郎なのかな?

ロス:
オカマじゃないわよーう!

ヴァイ:
げっ……地獄耳ィ

湖水はほぼ排出され、孤島のように
見えた砦も、その全容を露にしていた。

それは、カルデラ盆地の中央に嵌め
込まれた巨大な岩塊だった。釣り鐘型
の六角柱に近い形状で、高く隆起した
中央部が湖面から突出し、島と見えた
部分を形成していたらしい。

巨大な自走砦も、この一枚岩の塊の
上では寄生した蟲のようであった。
岩塊全てを砦と見れば、自走砦は本丸
部分であるとも見える。否、それは
仮説ではなく、自走砦は本来そこに
収納され、この大岩窟の天守閣として
機能する脱着部であったのだ。

その天守閣の真上で、黒雲が凄まじい
速度で旋回を続け、漏斗を逆さにした
ような大渦巻を天空に描いていた。
渦の底は空に向けてどこまでも細く
延び、時折黒雲の中で閃く稲妻が、
渦に吸い込まれて高空まで疾り抜ける。
地龍の超エネルギーの干渉によって
一時的に停滞していた破界門の進行が、
再び活性化し始めたようであった。

ヨルグ:
鬼忍将が自分の砦を“寄岩砦”と
呼んでいるのを以前耳にしたんだが、
このことだったのか……

D・S:
寄岩砦ね……へっ! あの岩柱の
台座ごとブチ壊してやるぜ。早いトコ
シーラを助けて、鬼忍将のヤロウに
思い知らせてやる!

サイクス:
そのほうがいいな。霊子力が極大に
まで高まっている。触媒となっている
彼女の負担は相当のものだろう

サイクス:
それに破界門が開ききってしまえば、
鬼忍将はあの自走天守閣ごと異界へ
逃げてしまうはずだ。急がねば――

D・S:
もう地続きで砦に渡れるな。行くぜ、
ヤロウども! 俺様に続けい!

ヴァイ:
パワーに満ち溢れてやがる。ヤバイ
薬でもヤッたんじゃねーだろうな?

D・S:
地龍が飛んでってから、何でか知ら
ねーが力が漲ってしょうがねえ。あの
波動の影響かな?

ヴァイ:
そお? 俺は何ともねーけど

カルデラ湖の底だった盆地を下り、
一行は高く聳える寄岩砦へと向かう。
途中、取り残された巨大魚が何匹も
ぬかるんだ地面でのたうっているのを
目にし、彼らは改めて湖を渡ることが
不可能であったと認識した。

ヴァイ:
化け物魚に喰われたあの蟲使い、
生きてっかなあ

D・S:
大峡谷に流されてった魚も無数に
いるからな。ことによると海まで
いっちまったかもな、ケケケ

巨岩の周囲をくまなく探索した一行で
あったが、外面を天守閣まで直接登る
術はなく、発見できたのは湖の底部に
面した岩塊部分の入口だけであった。



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最終更新:2020年10月31日 21:09