樹海中心部(南)


没シナリオ
龍樹へと続くであろう洞窟の入口は、
呪力で封印された扉によって堅く閉ざ
されていた。錠を外す鍵がない限り、
こじ開けることもできそうにない。










干涸らびた蝙蝠の屍が、見上げた枝に
ぶら下がっていた。良く見るとその口
に、イヤリングらしき装飾品を咥えて
いる。

D・Sの視線が最後の一押しとなった
のか、風化した脚が千切れて蝙蝠は
落下した。それを受け止め、D・Sは
イヤリングを取り外した。

満月をあしらった、円形の水晶の装飾
が金の金具にぶら下がっている。水晶
の中は空洞であり、青白く輝く液体で
満たされていた。










カイ:
――実はあれから少し記憶が蘇った。
俺と同じくこの森に目覚めた仲間の、
関わりについてだ……むっ!

樹海の小道に足を踏み入れた途端、
黒い疾風が襲いかかってきた。カイ
同様、湖の異変を察してやってきた
黒騎士ランである。

D・S:
黒騎士か。しつっこいな

ラン:
そろそろ決着をつけてやるぞ

カイ:
待て!

ランとの間に入るように、シーンと
カイがD・Sたちの前に回り込んだ。

ラン:
オマエたちか。魔雷妃様への反逆者
どもめ――

カイ:
目を覚ませ、ラン! お前は操られて
いるのだ!

シーン:
そうよ! その呪縛を解き放たなけ
れば――

ラン:
うるさいっ!

狂気を宿した目で、ランは会話を拒否
するように斬撃を繰り出した。大剣の
鈍さを感じさせぬ突風の如き太刀が、
矢継ぎ早にカイに襲いかかる。カイも
その長剣を見事に振るい、一合、二合
と互角に打ち合う。黒騎士の剛剣に
全く引けを取らぬ、凄まじいまでの
剣技であった。

刃を押し返され、黒騎士が体勢を崩す。
だが、それはランの誘いであった。
カイが勝敗を決する一撃を放とうと
した刹那、打ち合いながらその位置
まで移動していたランは、視線をちら
とも向けることなく、その腕を蛇の
迅さで伸ばしてシーンを掴み、瞬時に
楯としてカイの動きを封じていた。

シーン:
あっ

カイ:
くっ……卑怯な!

ラン:
魔雷妃様の命であれば、すべての
行為は正当なのだ。さあ、全員武器を
捨てるがいい!

D・S:
それでどうするんだ? 代わりに
俺たち全員が大人しくテメエに斬られ
てやるってのか? そんな脅しが通る
ほど甘かあねーぜ

ラン:
フン。ならばこの女を貴様らの目の
前で殺すまで。まずはひとり――

カイ:
やめろ! ラン、お前はそんな戦い方
を良しとする男ではなかったはずだ!
それにシーンは……

カイ:
シーンはお前の血を分けた実の妹
なのだぞ!

ラン:
な……に?

シーン:
ええっ!?

カイ:
シーン自身まだ記憶が戻っていない
ようだが、俺は記憶を取り戻した。
お前とシーンは兄妹であり、俺たちは
“鬼道衆”の仲間であるはず!

シーン:
鬼道衆……そうだわ。私たち四人が
この森に目覚めたのは偶然じゃない!
血よりも深い絆で結ばれた、鬼道衆の
仲間であったからこそ――

ラン:
う……鬼道衆……違う、俺は……魔、
魔戦将……ぐ……ん、魔雷妃様に
仕える……? う、ぐおおお――!

カイとシーンの言葉が引き金となり、
記憶を失ったまま洗脳されたランの
脳裏に激しいフラッシュバックが生じ
始めていた。精神への拘束と、蘇る
記憶との狭間で、半ば惑乱状態に
追い込まれたランが絶叫する。

シーン:
きゃああっ!

人質に取ったシーンを乱暴に突き放し、
あたかもこの場から離れれば精神を
苛む苦痛から逃れられるとでも言う
ように、ランは脱兎の如く森の奥へと
走り去る。

カイ:
ラン! 戻れ!

シーン:
ラン……兄さん……

黒い鎧が樹影に飲み込まれ、ランの
姿は樹海に消えた。彼方から苦悩の
雄叫びがこだまし、それもやがて
遠ざかっていった。

D・S:
どうやら、オマエらの言葉で洗脳が
解け始めてるぜ。だが、まだ施された
術のほうが強いようだな

D・S:
あれだけ強力に拘束してるってことは、
どこかに洗脳を維持し続けるための
念波の発生源があるはずだが……

カイ:
それを止めなければ、ランを完全に
正気に戻すことはできないというわけ
か……

ヴァイ:
ところでさ、鬼道衆って何なんだ?

カイ:
……うむ。それはこれから語る、
俺たちの目的にも関わってくる――

カイとシーン、そしてランは、かつて
戦で故郷を失った戦災孤児であった。
鋼と暴力の掟が支配する荒野において、
幼く力なき三人を待つ運命は逃れよう
のない死である。だが、彼らは救い
上げられた。

三人を救った人物は、彼らのような
戦災孤児を集めて特殊な訓練を施し、
鬼道衆と呼ばれる精鋭部隊を育て上げ
ていた。

常人の枠を超える剣技、魔力、あるい
は秘術を備えるべく行われる修練は
苛烈を極めたが、死の顎から救われた
彼らにとっては鬼道衆の一員となる
ことが唯一の生きる術であり、望み
でもあった。三人はいつしか孤児たち
の中でも最も優れた戦闘能力を持つ、
精鋭中の精鋭に成長していった。

鬼道衆を束ねる人物は、厳しい支配者
であると同時に孤児たち全ての親でも
あった。鬼道衆に連なることは彼らの
誇りであり、その忠誠と団結は肉親の
絆よりも深いものとなっていた。

カイ:
――俺たちにとってそのお方は、
親代わりと言うよりもカリスマに近い。
それ故にこれまでは考えもよらなかっ
たのだが……

カイ:
俺の記憶に少しだけ蘇ったそのお方の
面影は――魔雷妃に似ているのだ。
だが! 俺たち鬼道衆の仕える主は、
断じてあのような邪悪ではない!

シーン:
カイ……

カイ:
ランがあそこまで盲従しているのも、
もしかしたら魔雷妃が本当に主だから
なのかも知れない。そうであれば、
俺たちはまさしく反逆者となる――

カイ:
だからこそ、確かめたいのだ! 俺の
記憶にあるあの方の姿が真実なのか、
それとも魔雷妃が本来の主なのかを!
それが、俺が樹棺城を目指す理由だ

シーン:
わたしも同じ……カイほど記憶が
戻ってはいないけれど、多分カイの
言うことは正しいと思う。樹棺城で、
それが確かめられるなら――

D・S:
判った。一緒に樹棺城を目指すと
しようぜ

情報を整理した一行は、ランの精神を
支配する催眠念波は、ヴァイの精神に
変調を来す馬頭石像の森が源ではない
かとの結論に達した。また、水妖の湖
が堰き止められた影響により、シーン
が城を目撃したもうひとつの湖の水位
に変化が生じた可能性もあった。

D・S:
湖か馬頭の森か……どっちに向かった
もんかな










シーン:
やっぱり、ダイのことが気になるわ。
湖のほうを先に調べましょうよ

ラン:
先に湖底の城を調べ尽くすべきだろう。
シーンをさらったという妖魔とやらが
気になる……

龍樹へと続くであろう森の小径は、
呪力で封印された扉によって堅く閉ざ
されていた。錠を外す鍵がない限り、
こじ開けることもできそうにない。



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最終更新:2020年10月31日 21:15