水妖の湖
この湖は、もうひとつの湖と、樹海を
挟んで正反対の位置にあるようだった。
樹海の中心部を貫く川がふたつの湖を
結んでおり、こちらの湖から水が流れ
込んでいる。どうやら潤沢に湧き出す
水源があるらしかった。
湖上に霞んだ島影が見える。カイの
仲間が囚われている場所はその島に
間違いなさそうだったが、この岸辺
からは遠く隔たり、泳いでいくのも
難しそうだった。加えてこの湖には、
生け贄を求める凶暴な魔物が潜んで
いると言う。迂闊な方法で湖水を渡る
のは自殺行為にも等しかった。
D・S:
カイの奴は水妖がどうとか言って
やがったが――
ウンディーネB:
……男よ
ウンディーネC:
……男ね
ウンディーネA:
……男だわ。それもいっぱい
一行の姿を水中から見咎めたのか、
深緑の美しい髪を伸ばした若い娘たち
が湖面に姿を現した。
外見は人間にそっくりであったが、
娘たちは水妖と呼ばれる妖精の一種、
ウンディーネだった。澄んだ水辺を
その棲処とし、悪戯半分に男を誘惑
しては水中に引きずり込んでしまうと
いう。また、人間と恋に落ちることも
あるが、もし裏切られれば相手の命を
必ず水難にて奪う、愛憎深き水の精霊
である。
D・S:
よお。ウンディーネとはずいぶん
変わった住人がいるんだな、この湖は
ウンディーネたちはクスクスと笑い
さざめき、人間の男が珍しいのか、
盛んにウインクや投げキッスを飛ばし
て誘惑してくる。しかし、同性に
対しては目をくれようともしない。
カイの語っていた、男でなければ駄目
だというのは、水妖たちのこの極端な
性癖のことであった。
どうやらウンディーネたちは、魔雷妃
の配下とは別の、湖に根付いた精霊で
あるようだった。魔物を操り傍若無人
に振る舞う魔雷妃には反感を抱いて
いるらしく、そのことを訊ねると口々
に稚拙な悪口を並べ立てた。
しかし彼女たちの知性は見かけほど
高くはないようで、この湖に放たれた
魔性に関しても重要な情報は何ひとつ
得られなかった。
D・S:
……弱ったな。お、そうだ。ひとつ
頼みがあるんだが、俺たちを向こうの
島まで渡してもらえねえかな?
ウンディーネB:
いいわ。でも、ごほうびがないと
イヤー
ウンディーネC:
アナタが戻ってくるまで、イチバン
カッコイイ男のヒトがアタシたちと
遊んでてくれるのがイイー
ウンディーネA:
それ、ステキだわ。そしたらみんな、
島までそっと運んであげるー
D・S:
ここはギブアンドテイクでいくしか
ねーようだな。一番の美形と言えば
2位を宇宙の果てまで引き離して俺様
なんだが、そうもいかねえし――
ヴァイ:
でもよ、水妖って男を水の中に引き
ずり込んだりするんだろ? ひとりで
居残りってコワイんじゃあ――
と、その時木々の梢をざあっと鳴らし、
怪鳥の如き影が頭上から舞い降りて
きた。
ヨルグ:
むっ!? 妖魔か黒騎士か?
ヴァイ:
あ! オマエは!
ザック:
俺に殴られたヤツ!
マカパイン:
ふふっ、久しいなD・S!
現れたのは、かつて鬼忍将ガラの命を
受け、褒賞目当てに度々D・Sの首を
狙った妖縛士、マカパインであった。
マカパイン:
ようやく見つけたぞ! こんな森に
まで逃げ込みおって、今度こそ決着を
つけてやる!
D・S:
……毎回逃げてるのはオメエだろが
マカパイン:
ええい、うるさい! 今までの私だと
思うなよ。冴えに冴えた妖斬糸の舞い、
とくと味わわせてくれる!
D・S:
そんなに痛い目に遭いてえのかね?
大体もう鬼忍将なんていねえんだぞ。
ガラはすっかり素に戻っちまったし
マカパイン:
前にも言ったはずだ。もはや褒賞は
関係ないと。妖縛士の面子にかけて、
貴様だけは我が手で必ず倒す!
QUESTION:
マカパインをどう対処します?
丸め込んでみるか
無駄でも説得すっか
D・S:
でもよ、残念だよなあ、ヴァイ?
(ウインク!)
ヴァイ:
え……あーあ、おお、残念だなあ。
なあヨルグ(わかんねーけどウインク)
ヨルグ:
ななな……何とも残念だ。まったく。
かつて行動をともにした者としても、
実に残念だぞマカパイン!
マカパイン:
何を言っているのだ、貴様ら?
D・S:
ここにいる女の娘たちがな、オマエに
一目でのぼせちまったみたいなんだ。
な、ホラ、あの濡れたような瞳を見て
みろ(水で濡れてんだけどな)
D・S:
そんな娘さんたちの前で、どっちが
勝つにしても血生臭い闘いをしなきゃ
ならないなんて、妖縛士の面子から
見ても残念なコトじゃねーかなあ?
D・S:
俺としても、オマエの挑戦はいつなり
と受けるつもりだぜ。好敵手よ!
だが今このひととき、キミは疲れた
体をこの娘たちとともに癒すべきだ!
ヴァイ:
(うわあ、凄え舌先)その通り!
ヨルグ:
まったくその通りだぞ(もしや、
俺もダマされているのでわ……)
マカパイン:
……ううむ
D・S:
なっ、キミたち? このカッコイイ
お兄さんとしばらくお話ししたいよな?
この心なごむ水辺で!
ウンディーネ:
はーい
D・S:
――ってコトで、ここは彼女たちの
気持ちを汲んでやっちゃもらえねえか?
もう俺とオマエだけの問題じゃなく
なっちまったんだよ。な?
マカパイン:
――判った。そうまで言われては
私も我を通してばかりはいられまい。
だが! 後の再戦、決して忘れるなよ
D・S:
もちろんだとも! ささ、キミたち、
水辺にお一人様ご案内!
ウンディーネB:
はいはーい。わーい
マカパイン:
あ! ちょ、ちょっと待て! そんな
に引っ張るものじゃない! あれ、
あれ? ちょっと……
水妖たちに強引に連れ去られ、水面
から突き出すたくさんの腕に乗せら
れたマカパインは、あれよと言う間に
湖上へ運び出されていった。
D・S:
よーし。あとはアイツ、好きにして
いいから。さ、早いトコ向こうの島へ
運んでくれ
ヴァイ:
えげつネエ……
D・S:
うはは。知略と呼べ、知略と!
ヨルグ:
もうよせマカパイン! この連中は
――D・Sは必ずオマエも迎え入れて
くれる! そんな意地を通して
どうなると言うのだ!
マカパイン:
フ、笑止な! 私に見捨てられたとは
言え、すぐさま敵方に寝返った貴様に
あれこれ意見される覚えはないわ!
D・S、覚悟!
マカパイン:
くそうっ! またもや……だが私は
諦めんぞ、D・S! 貴様を足下に
這いつくばらせるまで、私は諦めん!
ヨルグ:
マカパイン……
マカパイン:
また会うぞ!
梢まで張ってあった糸の上を駆け登り、
マカパインは樹上に消えた。
D・S:
ま、いいさ。気の済むまで相手して
やるしかねえだろ
ウンディーネ:
退屈でーす
D・S:
お、悪ィ。待たせたな
D・S:
さて、諸君の中から俺様に次いで
カッチョイイ、ただしその差は大きい
という美男を選出しなければならん。
ここは公正を期して俺が指名しよう
ヴァイ:
どこが公正なんだか
D・S:
だって女に選んでもらったらカドが
立つじゃねえか
ヴァイ:
う……そりゃそうだけどさ
QUESTION:
どなたをこの場に残しますか?
ヴァイ:
オ、オレ? いやあ、ハハハ、照れ
ちまうなあ……ってチョット待てよ。
D・S、アンタ俺をイケニエにする
つもりじゃあ……
D・S:
(ギクゥ!)そんなワケねーじゃん!
さあ、胸を張りたまえナンバー2!
作戦の成否はキミにかかっている!
ヨルグ:
俺が? それは光栄だが……世辞では
ないのか、D・S?
D・S:
その褐色の肌とか、エキゾチックな
顔立ちとか、結構人気あんだよ
ボル:
そ、それがしでござるか? まあ、
確かにモテないほうではなかったで
ござるよ。とりわけ女盛りの御婦人は
このダンディズムにメロメロ……
D・S:
チョーシに乗るんじゃネエ! たま
にはいい目に遭わせてやろうと思った
だけでえ!
ウンディーネA:
おヒゲがス・テ・キ。シブーい
D・S:
ウソ……モテてる……
ザック:
い? 俺かあ? へへ、照れるぜ!
でもさあ、俺あんまし女ってキョーミ
ないんだよなあ
D・S:
コドモだね! オメエはまだ女の
良さを知らねえ! 男ってのは最後は
ハーレム建設の夢を持たなきゃならん
ザック:
ハ、ハーレム? それってどんなもの
なんだ?
D・S:
そこはだな、たくさんの女が囲われて
いて、男と言えば自分ひとり!
もお日替わりで手を変え品を変え――!
はぐぅ……
ヨーコ球がD・Sの顎を砕かんばかり
の勢いで炸裂した。
シーラ:
若者に有害なコトを吹き込むな――
と言うコトみたいですわね
ザック:
なあ、続き教えてくれよう
シェン:
オレには、心に決めた女がいるはず
なんだ。思い出せないにしろ、とても
そんな気には……
D・S:
たまにゃあ気晴らしも必要だって!
いや、ホント! ウソ、イワナイヨ!
シェン:
しかし……まあ、これも人助けか
ヴァイ:
いかがわしい客引きみたいだな……
アンガス:
……
D・S:
栄えある役目に選ばれたというに、
ったく! 何か言葉はネエのか?
感激デスとかよ!
アンガス:
……(ニッ)
D・S:
一応喜んでるのか?
サイクス:
外見を褒められるのは慣れっこだが
……まあ、結局貴婦人たちは私の知性、
つまりは中身に惹かれてゆくのだがね
D・S:
ケッ……ヤな野郎。オマエ、男の
友達がいないタイプだろ
サイクス:
いやいや。中身に自信のある者は、
互いの知性に魅かれ合うものさ。逆に
そこで差がありすぎると、なかなか
うまくはゆかないものだよ
D・S:
ウンディーネたちにゃモテてるみたい
だな。知性にあまり差がない、と
サイクス:
はっ! しまった!
バ・ソリー:
うほっ?
ヴァイ:
待て待て待てえい! それだけは
納得できーん!
ボル:
そ、それがしもチョットだけ傷ついた
でござる
サイクス:
D・S。君がまっとうな審美眼を
持っていないと言うことが判って非常
に残念だよ。遺憾と言ってもいい
バ・ソリー:
コラ、貴様らぁ! 俺様が選ばれた
だけでそこまで抜かすか! ええい、
このカメムシくんのニオイを嗅げえ!
D・S:
うわっ! テメエ身体ん中にそんな
モンまで飼ってやがんのか!?
ヴァイ:
ぎゃーっ! し、しみる! 目が、
目がぁーっ!
ウンディーネC:
ワイルドね。ステキよぅ
D・S:
……オマエら、男なら誰でもいいんじゃ
ねーのか?
D・S:
さて、それじゃ早いトコ島まで渡して
くれ。モタモタしてるとカイの仲間が
喰われちまうかも知れねえ
ウンディーネ:
それでは、参りまーす
水面から数え切れないほどの水妖の
腕が突き出され、一行がそのまま
乗れるほどの足場を作った。
歩き始めると、背後のウンディーネは
素早く前に回って新たな橋を築く。
D・S:
結構な人数がいたんだなぁ。こりゃ、
居残ったヤツは大変かもな
水妖の橋を渡り、D・Sたちは無事、
湖の中央に浮かぶ島へと辿り着いた。
D・S:
それじゃ、帰りもよろしく頼むぜ
ウンディーネA:
はーい。承りましたー
バ・ソリー:
む! クンクン……クンクン
ボル:
そ、それがしではないでござるよ!
バ・ソリー:
誰が喜んで屁の匂いなどを探るかい!
シッ! 静かにせんか。クンクン……
ヴァイ:
何だよ、いきなり匂いを嗅ぎだして?
先祖返りでもしたのか、オッチャン
バ・ソリー:
誰がオッチャンだ! シッ! 静かに
せんか。クンクン……
D・S:
静かだと鼻が利くってワケでもねー
だろうが
バ・ソリー:
――間違いない! この窪地の中に、
ワシの可愛い蟲ちゃんが潜んでおるわ!
ぐふふふふふ……
D・S:
おいおい、まーたあの凶暴な蟲かぁ?
襲ってきたりしねえだろうな?
ヴァイ:
えーっ? またあの蟲ィ? 襲って
きたりしねえだろうなあ?
バ・ソリー:
ダイジョーブ! 大丈夫だって!
このバ・ソリー様と蟲たちは一心同体!
ナウシカだってビックリだって!
バ・ソリー:
さあ出ておいで! ワシの愛しい
珍蟲よ!
バ・ソリーが耳障りな鳴き真似をする
と、それに呼応して窪地の底の柔らか
な泥土が盛り上がり、以前遭遇した
奇蟲に似た生物が出現した。
だが、この珍妙な蟲は、D・Sたちを
見るなり唸り声をあげて突進してきた。
ヴァイ:
バ・ソリーさん、どう見ても捕食
しようとしているのですが……
バ・ソリー:
おお、珍蟲ちゃんの眼が赤い!
空腹に我を忘れておるのかあ――!?
D・S:
このバカたれが。余計な戦闘に
巻き込みやがって!
窪地の底には、洞窟の岩盤を通じて
少量の湖水が滲み出していた。粒子の
細かな土は軟泥状になり、そうした
環境を好む生物の棲処として格好の
環境が作り出されていた。
突如、目の前の泥地でボコリと水泡が
弾けた。何か大きな生き物の呼気だと
気づいた瞬間に、数本の触手が泥を
突き破って生え出す。やがて、本体が
軟泥を掻き分けて浮上してきた。
シーラ:
D・S! 何かいます!
D・S:
退がってろよ、シーラ。すぐにカタ
つけてやるからよ!
ヴァイ:
げげっ! この窪み、何かいるぜ
D・S:
なるほど。餌になる生き物が足を
踏み入れると、嗅ぎつけて土の中から
出てきやがるのか
ヴァイ:
ふーん……って、どうしてこんな
窪みを歩かなきゃならねーんだよ!
D・S:
基本だろ! 基本!
強いダメージを受け、狂暴化した珍蟲
はバ・ソリーの存在に気づいたようで
あった。眼の色を穏やかな青に変え、
甘えたように蟲使いに近づいてくる。
バ・ソリー:
おうおう! 俺様のコトが判るかぁ!
可愛いヤツよ。コイツめ、コイツめ!
D・S:
可愛いのかねえ……
シーラ:
悪い生き物ではなさそうですわ
珍蟲は大量に水分を放出すると、以前
の奇蟲の同様に急速に縮まっていく。
バ・ソリーはそれを嬉しそうに
丸飲みし、体内に寄生させた。
シーラ:
な……な、な?
D・S:
このアホウ! シーラがビックリ
してんじゃねーか
バ・ソリー:
……? 何で?
シーラ:
いえ……いいんです。人それぞれに
好き嫌いがありますし、私も強いて
あげればセロリが苦手で……
D・S:
そーゆー話じゃねーって
力尽きたのか、その蟲のような生物は
ピクリとも動かなくなった。と、見る
間に体表から湯気が立ち上り始める。
やがて、大量の水分を急速に放出した
蟲は拳ほどの大きさにまで干涸らび、
サナギのようになって地面に転がった。
シーラ:
仮死状態になったのですか……
D・S:
あとでバ・ソリーのヤツにくれて
やろう。ヴァイ、拾っときなさい
ヴァイ:
どーして自分で拾わねーんだよ!
D・S:
だって何かバッチイもん
ヴァイ:
きぃーっ! 俺に押しつけんなーっ!
D・S:
……仮死状態になりやがったのか
ヴァイ:
ヘンな蟲だなぁ
サイクス:
外敵に喰われないための知恵だろう。
それにしてもこんな習性を持つ蟲は
極めて珍しい
岬となって湖面に突き出した草地に、
屹立する巨石のオブジェがあった。
祭礼に用いられる場所らしく、湖の
魔物に生け贄を捧げる儀式は、恐らく
ここで行われてきたと思われる。
二本に分かれた石柱の間に、ひとりの
乙女が吊り下げられるように囚われて
いた。捧げ物であると示すためか、
巫女を思わせる白絹の衣装を着せられ
ている。カイのさらわれた仲間とは、
この娘のことであろう。
淡い金色の髪を持つ、まだ少女の面影
を残した美しい娘だった。愛くるしさ
と女性的な魅力を兼ね備えた貌立ちで、
目覚めればその魅了の力はより強く
発揮されることになるだろう。
一見か弱く、他人に庇護されるべき
存在と見える彼女は、式神を操る呪符
魔術の達者であった。カイに遠隔で
式神を送り届けた技量を見れば、その
身に己を守る以上の能力を秘めている
ことは容易に推察できる。
D・S:
仲間ってのは女だったのか……
まだ生け贄好きの化け物はきちゃあ
いねえようだな。
どうやら間に合ったぜ――
その時、石柱の向こうの湖面が小山の
如くに盛り上がった。それを挟んで
二本の巨大なハサミが水面から現れ、
次いで山を覆う水が割れて鎧とも甲羅
ともつかぬゴツゴツした体表が露と
なる。
ハサミで左右の石柱を掴み、それを
支点に這いずるようにして、巨大な
甲殻類の怪物は岬に上陸した。生け贄
のそばにいるD・Sたちを見咎め、
それは怒りに全身の関節をぎちぎちと
軋ませた。口吻と思しき位置から、
唾液混じりの排気が激しく噴出する。
D・S:
このバカでけえザリガニが湖の魔物
かよ――やい、テメエなんぞの下等
生物にこの女はもったいねえ!
茹でロブスターにしてやるぜ!
絶命した巨大甲殻類の屍は、岬を
離れて湖上を漂ってゆく。この湖には
川へと続く流れがあり、屍はそれに
乗って流されているようだった。
このままいけば川の水源は堰き止め
られ、もうひとつの湖へ流れ込む水も
止まるものと思われた。
シーン:
……はっ!? あなたたちは?
石柱から助け下ろされ、娘はようやく
意識を取り戻した。式神を放ったこと
を気取られ、今まで強力な麻酔性の
薬草で眠らされていたようだった。
D・S:
安心しな。カイとの約束でよ、助けに
きてやったのさ
シーン:
あ、ありがとう。眠らされた時には
もうダメだと思ったわ――
娘――呪符魔導士シーン・ハリは、
もうひとつの湖で魔性に拉致されたの
だと語った。カイのもとに戻る途中、
湖に映る城らしきものが見えた――
そう思った瞬間、湖面を波立たせて
現れた妖魔に捕まり、水棲の魔物に
川を通じてこの島まで運ばれてきたと
いうことであった。
D・S:
――で、オマエを捕らえた妖魔は、
魔雷妃の幻体に憑いてる奴らじゃあ
なかったってのか? もっとも二匹は
樹棺城とやらに逃げたハズだがよ
シーン:
ええ。水の中から現れたそいつは、
三妖魅とは違って男の姿をしていたわ。
あなたたちが倒してくれたこの湖の
魔物も、そいつに飼われていたみたい
D・S:
なるほどな。王鴉や毒乙女の他にも、
まだ妖魔の類がいるってワケか――
D・S:
イングヴェイもあの湖で城の幻を
見たって言ってたな。妖魔が現れた
ことと言い、湖の中がアヤシーぜ
D・S:
妖魔が現れたってのがアヤシーな。
そりゃあ多分、湖の中に何かあるぜ
シーン:
とにかく今はカイと合流しましょう。
わたしのコト、きっと心配してるわ
D・S:
そう言やウンディーネどもはお手
柔らかにやってるかな。ちっと心配に
なってきたぜ
D・S:
おーい! 用事は済んだぜ! また
運んでくれー!
ウンディーネ:
はーい。お待ちどおさまー
D・S:
ところでマカパインはどうした?
ウンディーネB:
照れ屋でカワイかったでーす
ウンディーネC:
名残り惜しいけど、約束通り返して
あげましょう
何やら着衣が乱れた様子のマカパイン
が、連れ去られた時と同様に水妖たち
の腕に乗せられて岸まで戻ってきた。
陸に戻ったことも判らないようで、
妖縛士はハフハフと口元を動かして
いる。
マカパイン:
ハア、ハア……やめ、やめてーっ!
そこはダメ、ダメだって! うわーっ
D・S:
……壊れてる
ヨルグ:
よほど恐ろしい目に遭ったのか……
シーラ:
でも何か嬉しそうでもありますわ
と、ようやくマカパインはもう水の
上ではないことに気づいた。
マカパイン:
はっ!? ここは……あっ! D・S!
貴様、私を騙したな!
D・S:
何を人聞きの悪い。キレイどころとの
ひとときの語らい、楽しんで頂けた
でしょーか?
マカパイン:
語らいどころか、私はあんなコトや
こんなコトまでされて……ううう
ウンディーネB:
このヒト、見かけによらず××なの
でーす
ウンディーネA:
とってもビンカン!
マカパイン:
うわーっ! ダマれー! も、もう
私は……。それもこれもD・S、全て
貴様のせいだ! 必ずフクシューして
やるからな! 再戦を忘れるな!
左目を少し潤ませて、マカパインは
後ろも見ずに森へと駆け込んでいった。
D・S:
オマエら、ヤリ過ぎ!
ウンディーネ:
テヘー
D・S:
んで、仲間は?
ウンディーネ:
今きまーす
ヴァイ:
え……あれ、もう終わり? そんな
コト言わないでもう少し続けよーよ
ウンディーネB:
やー! このヒトすごーくエッチー
ウンディーネA:
お返ししまーす
D・S:
……コラ。テメエは何楽しんでやがる
んだ? あんなに疑ってたクセしや
がって、このエロガキ!
ヴァイ:
あ……見てた?
ヨルグ:
ぶ……武士道地に堕ちたり……
ヨルグ:
ありがとう、キミたち。俺、何だか
自信が湧いてきたよ
ウンディーネB:
ステキよう、ヨルグさん
ウンディーネC:
メチャメチャにしてえー
ウンディーネA:
褐色のお肌に、こぼれる白い歯!
シビレるぅー
ヨルグ:
はは……ありがとう、またね。あ、
やあ! D・S!
D・S:
すっかりゲーノー人みたいになっち
まったか……
ボル:
んー? 出迎えか。ご苦労ご苦労。
それがしがいない間、何か変わった
ことはなかったかね? D・S君
D・S:
ヤロウ……すっかり態度をデカく
しやがって。コラ、ウンディーネども!
あんましチョーシづかせんじゃねーよ
ウンディーネA:
だって、おヒゲがとってもイイんです
ものー
ヴァイ:
い、イイって何が!?
ボル:
わははは。熟女キラー・ボル・ギル
ザック:
スゴかったぜ……
D・S:
お、どうした? やけに大人びた面に
なっちまって?
ザック:
D・Sか……アンタの言ってた
ハーレムっての、判ったような気が
するぜ……。世の中って、まだまだ
知らないコトがいっぱいだよなあ――
ウンディーネC:
刺激が強かったみたいー
D・S:
よ、汚れちまってる……
シェン:
ああ……オレは流されるままに……
うおおっ! 最低だ、ううう……
D・S:
何があったんだ、コイツ? 情緒
不安定になってるぞ
ウンディーネB:
教えませーん。でも、結構楽しんでた
わよー
D・S:
いるんだよな。冷めると後悔し始める
ヤツっての
D・S:
コイツは変わらねえなあ
ウンディーネC:
あ、でもね、このヒトね……
アンガス:
……(シッ!)
ウンディーネC:
あ! 何でもなーい
D・S:
? 口に出せねえよーな真似でも
しやがったのか? このムッツリめ!
アンガス:
……(ニッ!)
サイクス:
判ったぞ、D・S。ウンディーネ
たちは思ったよりも知性が高いのだ!
だから私に惹かれてしまったりするの
だな、うん
D・S:
よお、オメエら。2×3は?
ウンディーネ:
ワカリませーん
D・S:
じゃ、“海豚”読んでみろ
ウンディーネB:
うみぶたー
ウンディーネC:
違うって。フグよねー
D・S:
そりゃ“河豚”だ。そんなボケする
ヤツがイルカ! ……と言う結果が
出ましたが、サイクスさん?
サイクス:
高度なボケだと思うのだがなあ
ウンディーネC:
待って! 行かないで!
バ・ソリー:
ええい、離せ離せぃ! 女などに
未練はないわぁ!
D・S:
ウソ……引き留められてる。しかも
ふってる……
バ・ソリー:
このバ・ソリー様の夢は、俺様の蟲
たちの王国、パラダイスを建設する
ことだあぁ!
バ・ソリー:
大地はウジが群れをなし、水辺に
ヒルが震え、空には毒虫が舞い狂う!
いくら引き留められようと、この
壮大な夢を諦めるコトはできぬわ!
ウンディーネC:
ああ……よよよよよ
D・S:
そんな夢を語るほうもアッパレなら、
引き留めるほうもアッパレ! しかし
そーゆー蟲地獄建設は阻止したいです
D・S:
あ、そーだ。この蟲も、やっぱオメエ
のトモダチか?
バ・ソリー:
おおっ!? 珍蟲ちゃんではないか!
この湖がクサいとは思っていたが……
礼を言うぞ、D・S!
バ・ソリーは以前と同じく、蟲の干物
に水分を与えて蘇生させると、それを
丸飲みして体内に寄生させた。
D・S:
ヤなモン見ちまったなぁ、シーラ。
やい、バソ公! いきなり人前で
ソレはやめろ!
バ・ソリー:
何でぇ?
D・S:
それじゃ、ウンディーネたちよ!
元気でな!
ウンディーネ:
さよならー
水飛沫を上げ、ウンディーネたちは
脅威のなくなった湖底へと、嬉しそう
に潜っていった。
それと入れ替わりに、ひとりの女剣士
が森の岸辺に姿を現した。
シーン:
カイ!
カイ:
シーンか!? おお、無事だったのか!
恩に着るぞ、お前たち!
カイは樹海中央部を横切る川の水量が
激減したのを目撃し、湖の異変を察知
して駆けつけてきたのだった。情報を
交換した後、カイは改めてD・Sに
礼を言い、当面の目的を尋ねた。
D・S:
龍樹に囚われてるって話の、龍の
解放だな。そのためにはあの樹への
扉を開く方法を見つけなきゃならねえ
D・S:
で、最終的には樹棺城へ向かうつもり
だぜ。どうもあの魔雷妃って女は、
俺と深い関わりがあるようだからな
カイ:
そうか……ならば俺とシーンも同行
させてくれないか
カイ:
正直な話、俺たちだけでは荊の壁を
越える方策が見つからん。お前たちと
一緒なら、その方法も見つかるかも
知れんしな――
D・S:
そりゃ構わねえけどよ。そもそも
オメエらの目的は何だ? 魔雷妃を
倒すってワケでもねえんだろ
カイ:
うむ……。まずはこの場を離れ、
道すがら話すことにしよう――
最終更新:2020年10月31日 21:18