幻影城


城の中は、先刻まで湖水に没していた
にもかかわらず、乾いた空気に満たさ
れている。やはり何らかの結界が、
城内への浸水を遮断していたようで
あった。

床は塵ひとつなく、この城の住人の
ために手入れされていることが判る。
同時に、侵入者を排除すべく放たれた
守護者たちの気配も、城内を濃密に
漂っていた。










ボル:
むっ? 何か背後から近づいてくるで
ござる

ロス:
あら? 先客がいたのね

D・S:
何だ。ロスじゃねーか

ロス:
みんな、お久しぶりー。初めての人
たちもいるわねー、女のコたちとか。
ロスでーす、よろしくねー

カイ:
何だ? この不愉快なオカマは?

ロス:
オカマじゃないわよー

カイ:
だったらシャキっとしろおっ!
どうしてこんなのが男に生まれて、
俺は女なんだ! ったく!

シーン:
カイ! 言い過ぎでしょ!

ヴァイ:
まあまあ。コイツも慣れるとイイ奴
だからさ

D・S:
で、オメエはどうしてここに?

ロス:
当然お宝探し。湖の水が引いたんで
慌てて来てみたんだけど、アナタたち
に先を越されてるとは思わなかったわ
――

ロス:
アタシの流儀として、お宝は先に
取ったモン勝ちなんだけど……ね?
D・S、賭けをしない?

D・S:
賭け?

ロス:
そ。アタシの勘じゃココには結構な
お宝が眠ってる気がするのよ。どっち
が先にステキな宝物をゲットできるか、
競争ってコトでどう?

ロス:
もし先にアタシのお目当てが取られ
ちゃったなら、腕の立つ剣士がともに
困難に立ち向かったげる……ってのは
どーお?

D・S:
フン……どっちみちオメエには損が
ねーじゃねえか。ま、いーケドよ。
黙って宝を荒らすよりは良心的だって
ところを買おうじゃねーか

ロス:
さっすが! 大物は話が早くって、
しかも話がワカるからいーわあ!
それじゃ、ヨーイドン!

ヴァイ:
あ……もう行っちまった。でも、
アイツ何を探してんのかな?










ヴァイ:
おいおい、ロスに負けちゃうよ

カイ:
まだ妖魔とやらを見つけていないぞ

D・S:
そうだな。もう少し調べてみるか

ヴァイ:
結局ロスの奴とは出くわさなかったな

D・S:
ま、アイツのこったからもうお宝と
やらは手に入れちまってるだろ。また
どこかで会えるんじゃねーか?










薄暗い中で淡く燐光を放つような、
病的に青白い肌を持つ小柄な青年が、
そこに四つん這いになっていた。
そばには掃除のための道具が置かれ、
青年はブツブツと何か呟きながら床を
布で磨いている。どうやら城内を
手入れしているのは、その男のようで
あった。

ダイ:
どうしてこの私が、このような場所で
奴隷働きなどしなければならんのか
……しかも、しかも極限に美しかった
私が、今やこのような姿で……うう

ダイ:
ああ! 磨けば磨くほどに床は鏡の
如くに輝き、私の醜い姿をイヤと言う
ほど間近に見せつける! これでは
繊細な私はたまりませんね――

独り言を延々と呟き続ける青年は、
その言葉とは逆に、非常に整った容姿
を備えていた。中性的な美形と呼ぶべ
き顔立ちで、少年のような細身である。
女性を装った服を身につけ、その長い
睫毛の奥の瞳で見つめたなら、誰もが
彼を女と信じて疑わぬであろう。

しかし、それは陽光のもとで光り輝く
美しさではなかった。日の射さぬ深い
鍾乳洞、あるいは光の届かぬ漆黒の
深海――そのような場所でこそ映える、
どこか背徳と退廃を漂わせた美である。
言葉を吐く度に唇から覗く、白い犬歯
が奇妙に長く、鋭く見えた。

ダイ:
……はっ! そこにいるのはどなた
です? 私、ちゃんとお掃除をして
おりますよ。文句も言っておりません。
報告はそのように……おや?

ダイ:
ラン? それにカイとシーン……?
ははあ、ついにそのふたりも黒騎士の
手に落ちたということですな

ダイ:
アナタたちはカイとシーン……それに
やけに醜いオトコども――ははあ、
さては魔雷妃様への捧げ物を持参して
投降してきたのですね

カイ:
……? もしやお前はダイなのか?

シーン:
ええっ!? に、似ても似つかない
この人が!

ラン:
信じられん……だが、確かに……

ダイ:
はっ! み、見るなあ! 私のこの
醜い姿を視界に捉えるのはヤメなさい!
今すぐ目をつぶって、美しかった私の
マッチョバディを想像するのです!

カイ:
間違いないな。しかしどうしてまた、
そのように変わり果てた姿に?

ダイ:
見ないでえええ――!

カイたちと同じく鬼道衆の一員である
というその青年――ダイ・アモンは、
特異な体質の持ち主であった。人の
生き血を糧とし、不死に限りなく近い
肉体を持つ、しかし生者ではない存在
――即ち、吸血鬼である。

元は人間であったが、元来その血筋が
秘めていた因子を魔術儀式によって
顕在化させ、人間以上の能力を有する
不死怪物の王へと自らを変質させた
異能の術者であった。

しかしランと同じく失った記憶の隙を
衝かれ、魔雷妃の誘惑に乗ったダイは
妖魔に樹棺城へと連行され、そこで
吸血鬼の魔力を根こそぎ搾り取る儀式
を強要された。魔力を吸引されたダイ
の肉体は吸血鬼としての強靱さを失い、
今の、元の人間だった頃の貧弱な身体
に戻ってしまったのである。

その後、搾りカスとなったダイはこの、
幻影城と呼ばれる妖魔の居城に移され、
奴隷のような屈辱的な扱いを受けて
こき使われていたのであった。

ダイ:
この身体にあの漲る魔力さえ戻って
くれば、私には恐れるものなど何も
ないのですが……ああ、美しかった私!
カムバックマイパワーッ! あうう

D・S:
なあ、コイツ今よりも美形だったり
したのか? 俺様はともかく、コイツ
が自分のコトを醜いとか蔑んでると、
ヴァイとかはムカっとくるだろが

ヴァイ:
誰が!

ボル:
それがしはちょっとばかし……

シーン:
いいえ。今のほうがずっとマシ――
って言うより、魔力があった時はもう
化け物みたいだったわ。大きい声じゃ
言えないけど……

カイ:
どうやら自分を含めて、男の容姿に
関しての美的感覚が歪みきっている
らしいぞ

ダイ:
あ、そこのオマエ、オマエですよ。
もっと私にその顔をお見せなさい

D・S:
俺か? なるほど、この超絶美形様の
御尊顔を拝んで、過酷な奴隷生活の
支えにしようってんだな

ダイ:
おお……この顔! きますきます、
元気が湧いてきますよおぉ! 私より
醜い姿で、そーやって平気で生きて
いける人間もいるのだと思うと――

D・S:
……殺しちゃっていーかな?

カイ:
ま、弱っても吸血鬼だからそうそう
簡単に死んだりしないだろ。どぞ!

ダイ:
ひー! やめ、やめなさい! そ、
そんなトコ踏まれたら私わはあ――!

その時、ダイを踏みつけるD・Sの
懐からイヤリングがこぼれた。以前、
森で蝙蝠の死骸から入手したもので、
月を模した水晶の飾りの中には青白く
輝く液体が詰まっている。

ダイ:
おお――っ! それは! この叡智の
塊ダイ・アモンが、儀式を受ける前に
少しだけ退避させておいた魔力の
エキスではないですかぁ!

D・S:
ほおー。こりゃオメエのか。水晶の
中身は魔力の凝縮液で、コレを使えば
吸血鬼の力が戻ってくる、と

ダイ:
そうです! 早くそれを返しなさい!
さもないと吸血鬼パワーが炸裂して
しまいますよ! あっ、踏むのはもう
ヤメなさい!

D・S:
この状態で良く強気なセリフを吐き
やがるな。大体、返してもらえねえと
パワーの炸裂もクソもねーんだろが。
面白過ぎるヤツだぜ、オメエ?

D・S:
返してやらねーでもねえが、ひとつ
条件がある――

ダイ:
何? 何? 何です? そのエキス
さえ返してくれるなら、できる限り
アナタの希望に沿うよう努力する気を
起こさないワケでもありません

D・S:
吸血鬼と言やタフで不死身で何かと
便利だからな。ひとつこのD・S様
御一行に加わって、樹棺城の魔雷妃ん
トコまで付き合ってもらおうか

ダイ:
いええ? イヤです。また魔力を
吸われでもしたらどーするのです

D・S:
踏み!

ダイ:
ぎゃああおうっ! わ、判りました!
条件を飲ませていただきましょう!

ダイは満月のエキスを受け取ると、
丸ごと口に放り込んで噛み砕いた。
水晶の容器が割れ、魔力を蓄えた液体
がダイの体内に流れ込んでいく。

ダイ:
きたきたきたキターッ! 我ながら
このエキスは効きますよおぉ! 五臓
六腑に染み渡って、邪悪な闇のパワー
が漲ってきましたよゥオゥオゥ――

雄叫びとともに、天井を仰いだダイの
喉から赤い水蒸気が噴き上がる。
それは霧となってダイの貧弱な肢体に
纏わりつき、白い肌に染み込んでいく。
内と外から魔力の源を吸収し、その
肉体は急激な変化をきたし始めた。

肌の薄皮が弾け、剥き出しとなった
筋肉繊維が凄まじい速度で紡がれて
いく。骨格すらも変化し、シーンや
カイと同じ程度だった身長は見る間に
1メートル近くも伸び上がる。それを
筋肉の束が何重にも包み込み、新たな
肌が瞬時に全身を覆い尽くす。魔力に
よってもたらされた質量の変化は優に
三倍を越えていた。

ダイ:
おおおおお――っ! 今ここに、
究極の美が復活ゥ! 私を崇めよ!
私は今、世界で一番美しいぃぃぃ!

そこに誕生したのは、呪術的効果を
生む奇怪な刺青に顔面を彩られた、
見るもおぞましい筋肉質の巨漢吸血鬼
であった。先刻までのはかなげな面影
は全く消え去り、闇の眷属特有の邪悪
な魔力が全身から放射されている。
頭部の骨格も根底から変形し、美形で
あった容貌は今や暑苦しい大顔面と
化していた。

カイ:
おお! まさしくもとのダイだ!

シーン:
ニセ者かと思うほど違ってたものね

D・S:
ははあ。コイツにとっちゃコレが
美しいワケか……その観点なら、対極
にある俺様は確かに不細工だわな

ダイ:
ハァーッハッハッハーッ! この姿に
戻ってしまえばコッチのもの!

D・S:
へええ。ヤッパリね

ダイ:
ハイ? 驚いたりズルイぞおぅとか
叫んで涙ながらに抗議したりしないの
ですか?

D・S:
オメエが先に魔力を取り戻したら、
もう目的は果たしたんだから条件を
ホゴにするに決まってるもんなあ。
驚くワケがねーじゃねえか、ククク

ダイ:
……その余裕、まさか何か仕掛けが
あったんじゃあ……あの、エキスに?

D・S:
勘がいいな。アレには遅効性の魔力
分解呪文を織り込んでおいた。俺様が
定期的に時間を延ばしてやらないと、
今度は完全に魔力を失うコトになるぜ

ダイ:
ひえっ! ず、ズルイぞおうぉぅ!

D・S:
一度条件をのんだ以上、テメエに
選択の余地はねえ。俺からはぐれねえ
ようにしっかりついてくるんだな

ダイ:
うう……吸血鬼が泣かされるなんて
世も末ですよぉぉぉぉ

D・S:
頼り甲斐のある仲間が増えたトコで、
この城を仕切ってるヤツのことが聞き
てえんだけどな。湖でシーンを襲った
妖魔だと踏んでるんだけどよ

ダイ:
……私はずっとこの男のそばに仕え
続けなければならないのでしょうか。
ううう……これなら奴隷働きをさせら
れていたほうがマシだったかも……

D・S:
人の話を聞かないヤツは、魔力消滅
までの時間がどんどん早くなるので
注意するように

ダイ:
ハイハイィッ! この城を統括して
いるのは暴凶の三男神、その長兄とか
名乗る妖魔です! だから延長の呪文
をかけてチョーダイ! お願いぃぃ!

カイ:
……ところでさっきの魔力消滅の話、
本当なのか?

D・S:
クックック、ハッタリだ。あのバカ、
ホントに信じてやがるぜ

ヴァイ:
うわあ……相変わらずダマすのが
うまいぜ

ボル:
詐術にかけては入神の域でござるな

D・S:
おいおい、そんなにホメんなよ

ヴァイ:
いや、ホメてないと思うよ

ダイは幻影城を隅々まで清掃するため、
妖魔から鍵を渡されていた。

D・S:
何ィ?

ダイ:
オマエとの約束なんか反故ですよ、
ホゴ! どうしてこの美しく高貴な
支配者ダイ・アモンが、劣った人間
との約束など守らねばならんのです?

D・S:
へへえ? なかなか卑劣じゃねーか

この時、D・Sの脳裏にはある呪文が、
記憶の底から浮かび上がってきていた。
蘇るきっかけとなったのは、恐らく
ダイのマッチョ姿であると思われる。
それは極めて邪悪な、太古の呪いを
相手に施す術であった。

QUESTION:
ダイを呪文で服従させるか?
やっちまおう
やめとこう

D・S:
オメエみたいに嗜虐心をソソるバカは
探してもそーそーいるモンじゃねーが、
どうも昔もこんなコトがあったような
記憶が蘇ってきたぜ――

D・S:
キー・オーブス・プラタ・ロー
蝙蝠の羽根より来たれ 夜魔の王
我が爪に宿り 契約の効力となれ

イヤリングとともに手に入れた蝙蝠の
ミイラから剥ぎ取った皮膜が、D・S
の指先で炎となり、次いで青い爪と
なって不気味に蠢き始める。

ダイ:
は!? な、何をするのです!?

D・S:
コイツはとびっきり邪悪な呪いでな。
このD・S様をナメた野郎にピッタリ
の魔法だぜ――

D・S:
オラぁ! 青爪邪核呪詛!!

D・Sの指が突き出され、ダイの顔に
青い爪が食い込んだ。

ダイ:
ぎゃああ――何コレ!? はあっ!?
もしかして裏切ったりすると……

D・S:
ご明察。テメエが何か良からぬコトを
考えただけで、その爪は青から紫、
そして赤へと変色していく。もし、
それが真紅に染まったなら――

D・S:
テメエの五体はバラバラに引き裂か
れて、醜い無力なヒキガエルになる。
クックック……たとえ吸血鬼でも、
そうなっちまえばシマイだぜぇ

ダイ:
ウッキャアァ――! ゴメ、ゴメン
なさいぃぃ! もうウソつきません!
だからヤメてぇぇぇ!

D・S:
ダーメ

ダイ:
ウギャアアアア――ッ!

呪いの爪はダイの体内深くにめり込み、
その呪詛の効力を振りまきながら左の
人差し指へと移動、爪と同化した。

ヴァイ:
うっひー、ムゴいぜ

カイ:
ま、あのような虚言を吐いたダイも
悪いが……ひょっとして、力を失った
ままここで床を磨いていたほうがマシ
だったかも知れんな

ダイ:
絶対マシ! ギャワーン!

D・S:
そんで、この城を仕切ってやがるのは
誰だ? シーンがここの湖で男の
妖魔にさらわれたって話だが

ダイ:
うう……私のビューテホーな爪が、
こんな真っ青サオにいぃ……

D・S:
俺様の問いを無視したりしても、
爪が赤くなったりするから気をつける
よーにな

ダイ:
ハイハイィッ! この城を統括して
いるのは暴凶の三男神、その長兄とか
名乗る妖魔です!

D・S:
三姉妹の次は三兄弟かよ

D・S:
とびっきりヤベえ呪文で言うことを
聞かせるって手もあるんだけどな。
テメエみてえに笑えてイビリ甲斐の
ある男に使うのはもったいねえ――

ダイ:
ワハハハハ! 負け惜しみはおヤメ
なさい。こうなった以上、もう私を
止められるモノはぬぁーい!

カイ:
卑怯だぞダイ! 約束も守れぬなど、
鬼道衆の風上にも置けぬ!

ダイ:
ふふん。そうですねぇ。一緒に行動
するつもりはないですが、鬼道衆の
よしみでこの幻影城を統括する妖魔の
ことを教えといてあげましょう

ダイ:
何でも、暴凶の三男神の長兄とか
名乗る、タチの悪い醜いヤツですよ。
掃除をサボったくらいで、私をヒドイ
目に遭わせる超凶悪な輩です

ダイ:
アナタたち程度では、とっとと逃げ
出したほうが賢明かも知れませんねぇ

シーン:
もうコワイものがないんだったら、
アナタがアイツに仕返しして行ったら
どう?

ダイ:
う……ハッハッハァ、何を言うのです。
そんなコトしたら弱い者イジメに
なってしまうでしょう? さーて、
それでは失礼しましょーかね

カイ:
ビビってるな

ダイ:
し……失敬ですよっ! 誰があんな
妖魔になど!

カイ:
あ、お前の後ろに……

ダイ:
ギャワアァァ――ッ!

よほど酷い目に遭わされていたのか、
ダイは巨体に似合わぬ、魔物の迅さで
逃げ去っていった。

D・S:
三姉妹の次は三兄弟かよ。それも
かなり凶悪なヤツらしいな

カイ:
ん? ダイめ、鍵を落としていったぞ

シーン:
掃除には必要だもんね

ヴァイ:
でもよ、オマエは別に閉じ込められ
てるワケじゃねえんだろ? ランと
違って洗脳されてねえんなら、逃げ
出せば良かったんじゃねーか?

ダイ:
ヒーッ! ってこのバァカ。逃げよう
にも外は深い湖の底ではないですか。
私はココで床を磨く以外ないのです
……アーッ、もうヤメテ!

D・S:
このこのコノッ! バカはテメエだ!
俺たちがどうしてこの城にいるのか
考えてみろオラ。ん? どうしてかな?
判らないならココも踏んじゃいまーす

ダイ:
やめるダスー! え、どーゆうコト
ですかそれは、あへ。もしかして、
湖の水がなくなってるとか?

D・S:
とっくだアホウ! 踏み!

ダイ:
ぎいやあああ――!

D・S:
ハァ、ハァ……仕置きはこんなモン
だろ。ところでこの幻影城とやらは
誰の城なんだ? シーンをさらった
妖魔がいると踏んでるんだがな

ダイ:
はうう……クセになりそうですよぉ。
え、妖魔? えーえ、残虐なのがこの
城を統括していますよ。暴凶の三男神、
その長兄とか名乗ってましたね

ダイ:
凶悪なヤツですからね。アナタたちも
とっとと逃げ出したほうがいーかも
知れません

ダイ:
水がなくなったと判った以上、私が
こんな場所で掃除などするいわれは
ありません。早く魔力を回復させ、
あの美しいバディを取り戻さねば――

ダイ:
ふんむむむ……変・身!

ポン! と白煙を上げてダイの身体が
弾け、代わりにパタパタと翼を羽ばた
かせる小さな蝙蝠が現れた。魔力を
ほとんど失ったとは言え、吸血鬼の
変身能力は辛うじて残っているようで
あった。

ダイ:
“ああ……この姿まで貧弱です……。
それでは皆さん、さよーならー。次は
私の高貴で美しいマッチョバディを
お目にかけましょーおうおう――”

ダイ蝙蝠は幾度か旋回を繰り返し、
出口へと向かって飛び去っていった。










宝箱に入っていたのは、丸く巻かれた
1メートルほどの長さのケーブルで
あった。両端には何かに接続する針の
ような端子が付いていたが、使い道を
推し量れるものではなかった。

ヴァイ:
何だ? このコードみたいなのは?

サイクス:
この端子――生体部品のようにも
見えるな。だが、何に使うケーブル
なのかはハッキリしない

その時、背後から足早に近づいてくる
靴音が聴こえた。

ロス:
……この辺りがクサいわねっと……
ああっ! 先を越されてるじゃない!
思ったより素早いわね、アナタたち。
あれからずいぶん腕を上げた?

ヴァイ:
へへ。それなりにな

ロス:
あっ! それってシナプスケーブル!
ここにホントにあるなんて、アタシの
勘ってスッゴイわあ――

ロス:
ね! そのケーブルもらっていいわよ
ね? 他の人には多分役に立たない
――と言うより使いようがない品物
だからさ

D・S:
オメエが探してたのはコレなのか。
いーぜ。約束だし、俺たちに必要な
ものでもねえからな。それにしても、
おかしなモノ欲しがるな

ロス:
アタシにとってはスゴく役に立つのよ、
このシナプスケーブルは。ただ、
これ単体じゃどうしようもないんだ
ケド――

ロス:
賭けはアタシの負けねー。ここは潔く、
ソッチの目的にも付き合わせてもらい
ましょ

カイ:
げ……オカマが仲間に

ロス:
オカマじゃないってば。みやびな
言葉遣いなのよコレは。ちなみに、
アンタのは野卑、お下品っつーのよ

カイ:
何だとぉ! 俺のどこが野卑だ!

シーン:
……カイ、もうちょっと女らしく
いきましょう










そこはこの城の、玉座らしき場所で
あった。薄暗い広間には妖魔の姿は
見えなかったが、幽かに異質な気配が
漂っているように思える。

ダイ:
ヤツはいつもこの玉座で魔物の報告
を受けたり、貧弱だった私を、それは
もーウレシそーに小突き回したりして
いたのですよ

ダイ:
しかし留守のようですねぇ。いや、
誠に残念です! せっかく復讐の機会
に恵まれたと言うのにねえ! さあ、
早くこの城から出ましょうってば!

D・S:
留守じゃあねえようだぜ

ダイ:
え? ひ、ヒイイィィィ――

一行の気配を察したのか、あるいは
彼らの観察を終えたのか――広間を
囲む鉄柵の向こうから、床に滲み
出した大量の水が重力を無視して玉座
へと集まり、そこに水のフィールドを
形成する。

さして深さのないはずのフィールド
から、あたかもそこが数メートルの
水深があるかの如く、直立した巨大な
妖魔が迫り上がってきた。

シーン:
こ、コイツよ! 私を捕まえて、
水妖の湖の化け物に食べさせようと
した妖魔は!

テウターテス:
その娘がいるということは、俺の
ペットを殺したうえ、上幻の湖の水を
干上がらせ、この城の姿を露にした
不届き者どもは貴様らだな――

テウターテス:
吸血鬼も魔力を取り戻しおったか。
ふん。すぐにまた魔力を吸い出して
くれるわ。魔雷妃にくれてやれば、
精神制御もより安定するだろう――

D・S:
テメエが三男神の長兄とやらか

テウターテス:
いかにも。俺の名はテウターテス。
貴様らの生涯で最後の記憶に刻まれる
名だ――その殺害者としてな

テウターテス:
水底に沈め、そのもがき苦しむ様を
堪能した後で魂を刈り取ってくれる!

テウターテス:
ぬう……。三姉妹めが敗走の恥辱を
減ずるべく過大に評したと思っていた
が、これほどとは……ここで決着を
つけるのは危険に過ぎる

テウターテス:
さすがと言っておこう。D・Sよ!
だが、貴様は決して樹海を出ることは
できぬ! もう二度と遭うこともある
まいよ。迷い死ね! ハハハ――

水の妖魔テウターテスは床に溜まった
厚みのない水に没し、次いでその水が
石床の継ぎ目に染み込んで消えた。

だが、傷を受けて水への親和力が弱ま
っていたのか、妖魔とともに液状化
しなかった物体がそこに残されていた。

D・S:
暴凶の三男神か――今ので仕留め
きれねえとは厄介だぜ……

D・S:
鍵を落としていきやがった……ただの
鍵じゃねーな。開錠のための魔力が
宿ってやがら

カイ:
……俺とシーンが落ち合う予定だった
高台のそばに、森の外周へと続く門が
あったな。そこの鍵ではないのか?

ラン:
聖域の森と呼ばれているところだ。
俺も入ることを禁じられていたため、
何があるのかは判らんが――

D・S:
ますます匂うじゃねえか。だが、
オメエの持ってた鍵でまずは龍樹に
行ってみようぜ

D・S:
その可能性が高いな。だが、そっちに
向かう前に馬頭石像の森を片づけねえ
とな。ランのことがあるしよ

シーン:
ありがとう……D・S

カイ:
ラン……思い出してくれ、俺たちの
絆を――










その宝箱はすでに開けられた形跡が
あり、中には一枚の紙切れが入って
いた。顎の割れた男の似顔絵が描かれ、
メッセージが添えられている。

ここのお宝は頂いたわよーん。また
会いましょうねー。ちゃお

D・S:
ロスの奴に先を越されちまったか。
すばしっこいヤロウだぜ

ヴァイ:
何が“ちゃお”だか……それにしても、
どんなものが入ってたのかな?



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最終更新:2020年10月31日 21:17