磁力吹雪の谷
氷獄塔を支える二つの山への登山口と
なるこの谷間には、並び立つ山肌から
吹き下ろす風が複雑な渦を生み出し、
途絶えることのない雪嵐が猛り狂って
いた。オーロラの影響なのか、左右の
山へと続く登り坂は奇怪な発光を繰り
返す吹雪にすっぽりと覆われている。
ヨシュア:
氷獄塔に行くには、ここからどっちか
の山を登るしかないようだが……
D・S:
ひでえ吹雪だな。それにあの妙な光、
気にいらねえぜ
ヴァイ:
あっ! また来たぜ!
荒れ狂う吹雪を裂いて、眼前に亜空間
へと続く亀裂が出現した。そこから、
手慣れた様子でサイクスが飛び出して
くる。
サイクス:
また、とは何だ。私だって命懸けなん
だぞ……ハクション! しかもこんな
寒い場所に、ハ、ハ、クシュン!
ヴァイ:
おー悪りワリ。あの猟犬の化け物に
まだ追われてるんだ?
サイクス:
奴め……成長の度合いが激しくなって
きている。実体化に対する追跡に無駄
がなくなってきた。今も、凄まじい
勢いで真っ直ぐここに向かっている
サイクス:
時間がないのはいつものことだが……
知り得た情報を伝えておこう。まず
この二つの山は、どちらも現在登攀
できる状況にはない
サイクス:
実際に登ってみれば判ることだが、
上空を覆う魔のオーロラが電磁場を
狂わせ、この山の全域に途轍もない
電磁嵐を張り巡らせている
サイクス:
この影響を取り除かない限り、山を
登り氷獄塔に到達するのは不可能だ。
先にオーロラを発生させる原因を究明
しなければ――!
サイクス:
予想より早くお迎えが来たようだ!
諸君、それではこれで失礼する! ハ、
クシュ!
追跡者の気配が高まる中、サイクスは
口元を押さえてくしゃみをこらえ、
頭から異次元の窓に飛び込んでいった。
閉じる寸前の裂け目から、口惜しげな
猟犬の咆哮が漏れ聞こえ、遠ざかって
ゆく――。
D・S:
今回は前にも増して余裕がねえな――。
あの化け物の“気”もどんどん増大
してきてやがる。早くカタをつけねえ
とヤバいぜ、サイクスよ……
サイクス:
――あれは電磁嵐だぞ。迂闊に踏み
込めば命も危うい。あんなものが山を
覆っていては、とても登攀して氷獄塔
まで行き着くことはできまい
D・S:
電磁嵐だとぉ?
サイクス:
ああ。恐らくは天空を覆う極光が、
このふたつの山の電磁場を狂わせて
いるのだろう。ただのオーロラでは
ないと思っていたが、やはり……
D・S:
――気象制御か?
サイクス:
そう考えて間違いあるまい。発生源を
究明し、この影響を取り除かなくては
先には進めないぞ――
登山口を包む吹雪の内側は無数の閃光
が乱舞し、強大な電磁波がやり取り
されていると知れる。それ以上先に
進むことはできなかった。
アンガス:
……ガガガ、ピピーッ、プシュー!
ヴァイ:
おわっ! 普段は物静かなアンガスが!
D・S:
電磁波の影響を受けてやがるのか?
しょうがねえ、ここから離れるぜ!
ヨシュア:
電磁波とやらの影響をもろに受けて
いるようだ! 早く立ち去ろう!
アンガス:
ラ、ジオ、ガガーッ!
サイクス:
いくら強力な電磁嵐でも、この距離で
……はっ! まさか、あなたは――?
アンガス:
ガッ……ガガッ(シーッ!)
極光が消え、その影響で惹き起こされ
ていた電磁波異常は完全に治まって
いた。だが、右の山への登山口は今も
激しい地吹雪に見舞われ、険しい山道
を登ることはできそうにない。
ヴァイ:
右の山には登れそうにねえなあ
ヨシュア:
罠の可能性はないのか?
ラン:
どちらの山にも仕掛けは施されて
いなかったと思う。左の山を進んだ
ところで問題はあるまい
D・S:
吹雪が止むのを待つつもりもねえ。
早いトコ左の山を登って氷獄塔に
向かおうじゃねえか
極光が消え、その影響で惹き起こされ
ていた電磁波異常は完全に治まって
いた。だが、左の山への登山口は雪崩
に塞がれ、大規模な除雪を行わなけれ
ば登れそうにない。
ヴァイ:
あの雪崩、右を登らせるための
罠だったりして……
ラン:
いや、あれは自然に起こったものだと
思うが……この山には罠らしい仕掛け
は施されていないはずだ
D・S:
けっ、雪崩なんざカンケーねえ!
いっそ俺様の呪文で融かしちまうか
ヨシュア:
そんなことをしたら、余計雪崩を誘発
してしまうぞ! ここは右の山を登る
しかあるまい――
D・S:
仕方ねえな
登山口は今も激しい地吹雪に見舞われ、
険しい山道を登ることはできそうにない
登山口は雪崩に塞がれ、大規模な除雪
を行わなければ登れそうにない。
最終更新:2020年10月31日 21:20