天守閣


そこは、砦の最上部であった。天を
覆うものは何もなく、極限にまで成長
した破界門が頭上で不吉に渦を描いて
いる。

吹き曝しであったが、門の影響か風は
なく、ただ押し潰されそうに高まった
気圧が鼓膜を低く震わせた。

中央に、鬼忍将はいた。腕を組み、
D・Sたちの到着を独り待ち続けて
いたようであった。

鬼忍将:
あの時始末をつけなかったツケが、
よもやこのような局面で訪れようとは
な。運命とは、皮肉なものよ――

呟き、そして突然鬼忍将は動いた。
右手を前にかざし、“気”を放射する。
シーラをさらわれた際に全員が身体の
自由を奪われた、あの金縛りの術で
ある。

だが、今度は前回とは勝手が違った。
反応してD・Sが張った“気”の
シールドが、その場の全員を颶風の
如きエネルギーから守ったのである。

D・S:
ククク……あの時と一緒にされちゃ
困るぜ。借りをまとめて返しにきて
やったんだからなあ

鬼忍将:
ならばそのクリスタルの霊力を奪い
返してくれよう。そして破界門を完全
とし、我らは異世界の新たな王となる
のだ!

D・S:
我ら――?

鬼忍将:
ゆくぞ、D・S!

鬼忍将の貌を覆う鬼面の中心から、
細かな亀裂が放射状に走る。刹那、
面は粉々に砕け散り、消滅した。

仮面の下から現れた貌に、その場の
誰もが言葉を失っていた。

それもまた、鬼の貌であった。鬼気に
取り憑かれ、鬼相と化した男の貌――。
鬼を象った面よりも、それはなおさら
悪鬼に近く見えた。

D・Sは、その男に見覚えがあった。
岩洞のひとつで見せられた白昼夢の
中で、対峙していたのがこの巨漢の
忍者であった。あの時鮮血を滴らせて
いた右目の横の傷も、男の鬼相には
確かに刻まれている。

だが、それ以前に、D・Sはその男を
知っていた。貌が露になった瞬間に、
封が切れたように男の名が脳裏に
蘇ったのである。恐らくは被っていた
鬼面が、男の名前自体を封印する
呪力を帯びていたのだろう。
男の名は、ガラと言った。

D・S:
テメエ、ガラ! ガラじゃねえか!

シーラ:
ガラ……そう、ニンジャマスター・
ガラですわ! でも、あの貌は……

ボル:
凄まじいまでの鬼気に憑かれているで
ござる! それがしの背負っていた
業罪など、比較にならぬほどの――

ガラは答えなかった。否、D・Sたち
の呼びかけは、耳に届いてすらいない
のであろう。獣のような殺気を放ち、
ガラは再び襲いかかろうと身構える。
この状態では、その命を絶たれるまで
ガラが闘い続けることは明らかだった。

その時、D・Sに呼びかける声がした。

ジン:
“D・S! ムラサメを奴に渡せ!”

D・S:
ジンか? ムラサメをガラにだと?
何とかに刃物って言葉知らねーのかよ?
今のアイツにこんなもの渡したら、
殺してくれってなもんだぜ

ジン:
“オレが何とかする。しなくちゃなら
ないんだ。ムラサメの宿命に負けた者
として……そしてガラの友として!
頼む、信じてくれ!”

D・S:
……! まさかオメエ、亡霊になる
前はムラサメを使ってたのか? あの
幻影の記憶は……判った。ジン!
ここはオメエに預けるぜ

D・Sはムラサメ・ブレードを、今や
飛びかかる寸前にあったガラに投げ
つけた。宙にある妖刀から、ジンは
最後にD・Sを振り返った。

ジン:
“D・S、アンタはオレとガラのこと、
もう判っているだろ? 後でアイツに
伝えてやってくれ。それと、ヨーコ
にもよろしくな……成仏できるよ”

D・S:
ジン、オマエ――

ジン:
“さらば、だ”

飛来したムラサメをひっ掴んだガラは
一瞬動きを止め、そして喜悦の表情を
浮かべて白刃を抜き払った。殺戮への
狂喜が、鬼相をさらに醜く歪める。

ガラ:
ヒヒ……殺す。殺す。コロス!

ガラはD・Sの記憶にある構えをとる。
それは白昼夢の中で、己――恐らくは
記憶の主であるジンがとった秘剣の
構えであった。

ガラ:
死ね! 慶雲鬼忍剣!

ジン:
“ムラサメよ! 力を貸せ! オレの
魂を糧に、所有者に仇なす邪悪を
討て!”

ジンが命じた瞬間、ムラサメの柄が
奇妙に伸びたように見えた。そこから
幾つかの突起が飛び出し、噴き出す
細かな稲妻がガラの肉体を包む。
そしてそれは瞬時に逆流し、刀の
所有者から凄まじい勢いで生命力を
吸い出していく。

ガラ:
うおおっ!? バカな! 体中の力が
抜ける!? 魂が吸い尽くされる――

絶叫を残し、ニンジャマスター・ガラ
の巨体はその場にくずおれた。

その耳から、奇怪な形状をした蟲が
這い出してきた。ガラに寄生していた
そのちっぽけな生き物は、ムラサメに
生命力を吸われる宿主の肉体から、
いぶり出されたように逃げ去ろうと
する。

と、この最上層に潜んでいたのか、
霊子炉から逃げたあの影が寄生蟲に
素早く走り寄ってきた。影は瞬時に
融け、小さな蟲の体に入り込んでいく。
それに呼応し、蟲は急速に、巨大な姿
へと膨張・変形していく。

D・S:
こいつが鬼忍将……ガラに取り憑い
ていいように操ってたヤツか

それは、気の遠くなるほどの歳月を
経て醜悪な巨体に成長した甲虫の亡霊
のように見えた。陽炎の如くに虚ろに
揺らめくその姿は、この怪物が完全な
実体ではなく、アストラルボディ――
即ち霊的肉体をこの次元に現出せしめ
ていることを示している。

老いたる武将を思わせる醜貌から、
独眼を烈火の如く滾らせ、虚ろなる
軍神は怒号を発した。

鏖帝:
あとわずかであったものを!

鏖帝:
この地で築き上げた我が砦を元の世界
に送り出せれば、我は今の屈辱的な
地位に甘んずることなく昔日の勢力を
取り戻せるものを――

鏖帝:
よもやガラの肉体を追われ、貴様ら
如きの前にこの姿を見せることになろ
うとはな。人間風情が、よくも大神
たるこのワシに楯突いたものよ――

鏖帝:
かくなるうえはこの鏖帝の神罰、
とくとその身で味わうが良いわ!
その上で今一度、シーラ、オマエを
霊子炉に塗り込めてくれよう!

D・S:
オウデイ? けっ、神罰たあ大きく
出やがったじゃねえか。テメエが俺を
この世界に放り込みやがった張本人か?
ご丁寧に記憶まで消しやがって

D・S:
しかも、俺の頭の弱い舎弟に取り憑い
て好き勝手しやがったな。狂った神の
亡霊なんぞに容赦はしねえぞ。霊子の
塵に分解して永遠に葬ってやるぜ!

鏖帝:
ぐううう、おのれ!

鏖帝:
こうなっては砦は諦め、この身だけ
でも破界門よりかの次元へ帰還せねば
……彼奴らに嘲笑されようとも、
ここで消滅するわけにはゆかぬ――

D・S:
逃がすかよ! テメエの大事な門と
一緒に、二度と迷い出ねえように消滅
させてやるぜ! とっておきの呪文を
お見舞いしてなあ!

D・S:
おおおお! 六つのクリスタルよ!
我が鍵となりて力の封印を開け!

D・Sの叫びに呼応し、天守閣直下の
岩洞で正六角形を描く六つの水晶が
弾け、あらゆる物質を透過して天に
屹立する光の柱と化した。

鏖帝:
な、何を――!?

D・S:
テメエが造った魔法陣を利用させて
もらうぜ。今の俺の魔力じゃあ扱い
きれねえ呪文も、ここまでお膳立て
されてりゃ簡単に発動するぜえ――

D・S:
カイザード・アルザード・キ・スク
ハンセ・グロス・シルク!!

鏖帝:
ひ……それは、その呪文はあ――!!

D・S:
ククク……もう六つまで魔界の門は
開いてるんだぜ。俺はあと一押しする
だけでいい

D・S:
灰燼と化せ!! 冥界の賢者!!
七つの鍵をもて開け地獄の門!!

D・S:
七鍵守護神!!

詠唱の完了とともに、六つの光柱で
描かれた魔法陣の中心から、天空に
渦を巻く破界門に向けて、凄まじい
破壊エネルギーが垂直に迸った。
それは自走砦の中心を貫き、そして
破界門に逃走しようとしていたため
軸線上にあった鏖帝の巨体をも包み
込む。

鏖帝:
ぎいいやあああ――ッ! 馬鹿なッ!
このワシが……神の黄昏すら生き延び
たワシが、たかが人間風情に――

魔界の門を開放して導き出された破壊
エネルギーは、鏖帝のアストラルボディ
すらも容赦なく分解していく。

鏖帝:
ワシは乗せられていたのか……?
おのれ、おのれ、おのれ――

断末魔の呪詛を残し、鏖帝は意識ごと
蒸発してその存在を喪失した。

圧倒的な七鍵守護神のエネルギーは
なおも天に昇り、破界門の中心に注ぎ
込まれる。渦は規則的な回転を失い、
もはや次元の門としての機能を停止
したようであった。

D・S:
ハッハッハーッ! ちょろい!
このD・S様の手にかかれば、どんな
化け物もイチコロだぜ!

イングヴェイ:
しかしD・S、今の呪文はこの砦の
真下から発動したようだが、ここは
無事ですむのか?

その問いと同時に、足下で何かが砕け
る、重く、鈍い音が響いた。膨大な
破壊エネルギーは寄岩砦の基底部を
砕き、天守閣にも致命的な損傷を与え
ていた。破砕音を皮切りに、激しい
震動が始まった。爆発音が幾重にも
天守閣内部から轟き、七鍵守護神の
飛び出した穴から炎が噴出する。

ヴァイ:
おいおいおいおい! ヤバいんじゃ
ねーのか!?

D・S:
ちょいとヤリ過ぎたかな?

ヴァイ:
バカ! 考えなしっ! これだから
アンタは……

ヨルグ:
崩れるぞ!

D・S:
……と、愚かな舎弟も拾っといて
やらねーとな

破砕音が立て続けに響き、砦の内部
から一際激しい爆発が起こる。基部の
岩洞が連鎖的に崩壊を始め、激しい
火災に自走砦も各所に蓄積された補助
エネルギーが誘爆を開始した。
やがて、天守閣から凄まじい爆炎が
噴き上がるとともに、自走砦は四散し、
巨大な岩塊は原型を留めぬほどに崩れ
落ちていった。

ヴァイ:
う……ここは、天国か? ずいぶん
冷たいトコだなあ

D・S:
バーカ。テメエが天国なんかにいく
かってんだ。生きてるよ

ヴァイ:
D・S……! ここは!?

そこは湖の上だった。
排出されて海への流れとなった水が、
大峡谷からいつしか逆流して、再び
カルデラ盆地は湖となっていた。
浮力のある砦の建材にしがみつき、
半ば身体を水没させてヴァイは目覚め
たのだった。幸い、あの剣呑な魚の類
は戻ってはおらぬようであった。

仲間の全員が、怪我ひとつなくこの場
を漂っていた。湖面は霧で覆われ、
辺りはもう夜であるらしかった。

D・S:
とっさに張った俺様の結界のお陰よ。
あのクリスタルの魔力がまだ残って
いたからな。感謝しろよ

ヴァイ:
寄岩砦が崩壊したのもアンタのお陰
だろーが!

D・S:
細かいことをうだうだと……

ヨルグ:
で、これからどうする? この霧では、
どちらが岸なのかも――

ボル:
む? あの光は何でござろう?

霧の彼方から、幽かな灯りが闇を裂い
てゆらゆらと一行に近づきつつあった。
接近するにつれ、それは船の舳先に
灯された燈火であることが判った。
風もない中、船は滑るように、湖水を
切る音だけを立ててD・Sたちの
傍らに到着し、停船した。

D・S:
こりゃあ……海辺にあった竜船じゃ
ねえか

ヴァイ:
水の勢いで、峡谷が海まで繋がっち
まったのか?

ボル:
それにしても、まるで我々を拾いに
きたようでござるな

D・S:
ふん……ありがたく乗せてもらおうじゃ
ねえか。もう竜牙兵も残っちゃいねえ
はずだしな

一行が乗り込むと、船は再び、音も
なく霧の奥へと進み始めた。しかし、
竜船内にはただのひとりも、船を操る
者の姿はなかった。

やがて船は、鬼哭関跡とは反対の位置
にある外輪山の裂け目へと侵入して
いった。竜船が通れる程度の幅しか
ない水路で、左右は聳え立つ崖が空
まで覆うように挟んでいる。竜船は
なおも速度を上げ、この隠された水路
を矢のように進んでいく。

ガラ:
うう……ジン? ジンなのか……

D・S:
ようやく目を覚ましやがったか。
筋肉ゴリラのバカ舎弟めが

ガラ:
D・S……? うっ……そうか、
オレはあの鏖帝とやらに――そして
ジンがオレを救って……ジン!

D・S:
アイツは消えちまったよ。あの秘剣
――慶雲鬼忍剣を使ったオマエを救い、
取り憑いた鏖帝を追い出すために
霊エネルギーを使い果たしたんだ――

ガラとジンは同じ師のもとで忍者の
修行を続けたライバルであり、心を
許し合える友でもあった。力に秀でた
ガラに対し、ジンの技は天賦の冴えを
持っていた。将来のマスターを嘱望
され、ふたりは互いに競い、その
技量を高めていった。

師より、後継の証として秘伝の名刀
ムラサメを託されたのはジンであった。
だが、それが優劣の差によるものでは
ないことをジンは知っていた。ガラの
肉体が生み出す力は、ジンの技術とは
違い後の世に伝えられるものではない。
それはあくまでガラ個人の強さであり、
決して真似のできぬ力であった。

ムラサメの継承を、ガラは心から祝福
した。だが、ジンの心にこの時、針先
で突いた点の如き小さなわだかまりが
生じていた。

自分はガラに勝てないのではないか?
師はそれを哀れみ、ムラサメを自分に
託したのではないか?
この小さな疑いの点が、後にどす黒い
雲となってジンの生涯を覆い尽くす
ことになる。

互いに名声を得たジンとガラは、ある
戦で敵対する領主に雇われることと
なった。敵味方双方に抱えられる例は、
忍者にはそう珍しいことではなく、
通常、諜報・暗殺を旨とする忍び同士
が戦う可能性もなかった。しかしこの
戦は誰も予想し得ぬほどにこじれて
激戦を極め、遂に戦場でふたりは相対
した。

ガラは退こうとした。だが、ジンの中
に膨れた黒雲がそれを許さなかった。
師の名にかけて任務の遂行を迫り、
ふたりは初めて真剣に刃を交えた。

ある意味で、ジンの考えは正しかった。
技ではガラを凌ぎながらも、ガラの
秘めた力は確実にジンを圧し始めた。
しかもそうして渡り合いながら、ガラ
の力の底はまだまだ隠されているのが
判る。

ジンは勝ちたかった。自分の力がガラ
に劣ると認めたなら、自己を喪失して
しまいそうだった。だが、持てる技の
引き出しを全てひっくり返しても、
それでもそこにガラが立っているで
あろうことは確信としてあった。

その時、ムラサメが囁きかけてきた
ように思えた。真の力を使え、と。
決して使ってはならぬ秘剣として伝授
された、魔性の必殺剣を用いよと――。

そして、ジンは慶雲鬼忍剣を使った。
未熟なる使用者の魂を吸い尽くし、
剣気の刃として敵を討つ秘剣を――。
しかし、結末は皮肉であった。ガラは
この一撃に耐え、ジンは伝承通り妖刀
に精気を吸われて事切れたのである。

これより後、ジンの形見のムラサメを
手に、ニンジャマスターとして数多の
闘いに臨んだガラは、数え切れぬほど
の敵の命をその手で絶ってきた。だが、
いたずらに人を殺め、命を弄んだこと
はなかった。それがガラの流儀であり、
他者の命を奪うことに対するルールで
あった。

しかし、飄然たるガラも、ジンの死は
重くその心の底にのしかかっていた。
鏖帝はこれを利用し、この世界に放り
出されて空白であったガラの意識に
侵入してジンの死のトラウマを括った。
それを引き金に、その手にかけた無数
の死者がガラの意識に蘇り、苛んだ。
鬼気に取り憑かれ、結果ガラは鏖帝の
思いのままに操られる鬼忍将と化した。

ジンにとって、それは苦痛であった。
己の死は、全てジン自身の責である。
ガラを殺すつもりで放った秘剣により、
自ら命を落としたのだ。ガラが責任を
感じるいわれはない。全ては、心技体
ともに未熟であった己の猜疑、嫉妬が
原因であったのだから。

故に、ジンは霊としての存在を賭して
ガラを救った。それが、死した後も
自分を思い続けてくれた親友に対し、
果たさねばならぬ最後の務めであった。

ガラ:
……D・S、それにオメエら、ずい
ぶんと迷惑をかけちまったみてえだな。
特にお姫様、操られてたとは言え、
アンタには非道い真似しちまった

シーラ:
いいえ。ガラ、あなたこそ苦しかった
でしょうに……

D・S:
苦しむって柄か? この脳まで筋肉の
ゴリラヤロウが。俺様の舎弟として
生涯を終えるべき輩が、テメエの人生
に思い悩むなんざ百億年はええ!

ガラ:
だ、誰がオメエの舎弟だこのヤロウ!
記憶はもうひとつハッキリしねえが、
オメエのコトを思い出そうとすると
どーもムカムカしやがんぜ!

D・S:
おー、そーそー。そーじゃねーと
テメエらしくねーや。俺の記憶じゃ、
ガラって奴はしおらしく謝ったり思い
悩んだりするタイプじゃねえぜ?

ガラ:
オメエ……そうか。そうだよな。
D・Sって野郎も、そーゆームカつく
男だったぜ。くくく、間違いねーや、
はははははは……

水路は長く、霧はさらに濃く立ちこめ
て、いつしか時間がどれほど経過した
のかも判らなくなっていた。ある者は
眠り、ある者は己の記憶の糸を手繰る
ように思索に耽り、これまでの冒険の
疲れを癒していた。

ガラ:
……なあD・S、考えたんだが、よ

D・S:
何だ?

ガラ:
ヨーコ……お嬢ちゃんのコトも気に
なるし、このまま一緒に行きてえのは
やまやまなんだがよ。どうにも俺の
力は回復しきってねえようだ

ガラ:
このままじゃ力になるどころか、足手
まといにもなりかねねえ。しばらく
独りで勘を取り戻す時間をくれ

D・S:
テメエはいつも俺様の足を引っ張って
るだろーが……その目は、マジか?

ガラ:
ああ。まだムラサメを使うことも
できやしねえ。まして慶雲鬼忍剣の
発動は自殺行為だろう。どうしても
修行の時間が要る

ガラ:
オレがいねえと心細いかも知れねえが、

D・S:
抜かしやがれ。いーぜ。行って来い。
ジンだってそれを望んでるだろ。ひ弱
なオメエがムラサメを使えるように
ってな

ガラ:
……必ず力を取り戻してくるぜ。
それまで無事でいろよ

言い残し、ガラは静かに舷側に立つと、
一瞬に崖へと跳躍した。最後にちらと
見えた表情には固い決意が刻まれ、
これからガラが行おうとしている修行
が生易しいものではないことを示して
いた。

ガラが呼んだのか、一陣の風が甲板を
駆けた。しかし再び視界は霧に包まれ、
いつしかD・Sも、深い眠りへと落ち
込んでいった――。



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最終更新:2020年10月31日 21:12