蝕影宮


ヴァイ:
誰かいるぜ?

前方に、何やら見覚えのある巨大な
シルエットがあった。奇妙なマントを
羽織り、その下には剥き出しの、鎧の
ような筋肉を晒した巨漢である。顔に
は奇怪な極彩色のペイントを施し、
どこから見ても完全無欠な馬鹿ぶりを
演出している。

カイ:
ダイではないか

ダイ:
おっ、これはこれは皆さん。しばらく
でしたね

それは鬼道衆のひとりで、負の魔力を
取り戻したところで遁走して以来、
姿をくらませていた筋肉質の吸血鬼
ダイであった。

ヴァイ:
お前、どうやってここに来たんだ?

ダイ:
どうって、私は光が苦手ですからぁ、
雪原を掘って潜ろうとしたワケですよ。
そしたら、底が抜けてここまで落ちて
きたんですな

D・S:
ほほー、さすがはバンパイア。あの
高さ……深さか? あれだけ落ちても
ピンピンしてやがる

D・S:
ちょうどいーや。ここんトコ俺たちゃ
人手不足でな、オメーみたいな奴でも
欲しかったのよ。大人しく力を貸しな

ダイ:
なーにを抜かします? 誰が言いなり
になどなるものですか

D・S:
ふーん。ところでオメエ、どうして
俺たちがここにいるのか判ってんのか?

ダイ:
ほほ? そう言えばどうやってあの
樹海を抜けたのです? 私は満月の力
を借りてコウモリさんになり、飛んで
ここまで辿り着けましたが……

ダイ:
まさかあの妖魔どもを倒したのですか?
あの凶悪なヤツらを?

D・S:
そおだ。楽勝だったぜぇ。ヤツらから
まとめて魔力を搾り取ってやってな。
あいつら、腐った黒い肉塊になってよ、
滅びやがったぜ。ククク……

D・S:
同じ手が、オマエにも使えるかもなあ
……ふふはははは

ダイ:
ひ、ひぃー! な、何だかその邪悪さ、
私の中で警報が鳴ってますよぉぉ!
逆らったらヤバいって……昔、ヒドい
目に遭わされたよーな気も……

D・S:
で、どーするよ、オメエ?

ダイ:
わ、判りましたぁ! 私だってこの
世界からオサラバしたいですからね。
ちょっと私の高貴さとは釣り合いが
悪いですが、協力するとしましょう

カイ:
相変わらず、口が減らん男だなぁ

シーン:
ダイ……お願いだからあなたの力を
貸して! 魔戦将軍たちが離反して、
わたしたちは今、戦力不足なのよ

カイ:
お前のその不死身ぶりは、氷獄塔に
向かう俺たちの大きな助けになる。
鬼道衆のよしみで、頼む!

ダイ:
んっんんんー? 人間以上の存在で
ある高貴な私に助けを求めたくなる
気持ち、痛いほどワカりますよおぉ!
でもね、ダァメですぅ

ヴァイ:
どーしてだよ!

ダイ:
だってあの塔に行こうって言うので
しょう? 私は吸血鬼ですからね、
外の光に当たると肌がヒリヒリ痛いの
ですよ。だからダァメ

D・S:
そのぐれえガマンしろってんだ。誰の
お陰でその姿に戻れたと思ってやがる

ダイ:
断固イヤですね。大体、あなたがたが
どーなろうと私の知ったこっちゃあり
ません。わっはっはーだ!

QUESTION:
ダイを呪文で服従させるか?
やっちまおう
やめとこう

D・S:
ほーお。そっちがそういう態度なら、
俺ももう容赦しねえぜ。前はあんまり
酷いってんで使わなかった呪文だが、
今回は勘弁ならねー

D・S:
キー・オーブス・プラタ・ロー
蝙蝠の羽根より来たれ 夜魔の王
我が爪に宿り 契約の効力となれ

以前手に入れた蝙蝠のミイラから剥ぎ
取った皮膜が、D・Sの指先で炎と
なり、次いで青い爪となって不気味に
蠢き始める。

ダイ:
は!? な、何をするのです!?

D・S:
コイツはとびっきり邪悪な呪いでな。
このD・S様をナメた野郎にピッタリ
の魔法だぜ――

D・S:
オラぁ! 青爪邪核呪詛!!

D・Sの指が突き出され、ダイの顔に
青い爪が食い込んだ。

ダイ:
ぎゃああ――何コレ!? はああっ!?
もしかして裏切ったりすると……

D・S:
ご明察。テメエが何か良からぬコトを
考えただけで、その爪は青から紫、
そして赤へと変色していく。もし
それが真紅に染まったなら――

D・S:
テメエの五体はバラバラに引き裂か
れて、醜い無力なヒキガエルになる。
クックック……たとえ吸血鬼でも、
そうなっちまえばオシマイだぜぇ

ダイ:
ウッキャアァ――! ゴメ、ゴメン
なさいぃぃ! もうウソつきません!
だからヤメてぇぇぇ!

D・S:
ダーメ

ダイ:
ウギャアアアア――ッ!

呪いの爪はダイの体内深くにめり込み、
その呪詛の効力を振りまきながら左の
人差し指へと移動、爪と同化した。

ヴァイ:
うっひー、ムゴいぜ

D・S:
ククク……これでオメエは俺の忠実な
下僕だ。逆らおうなんて思ったら――

ダイ:
考えません! 考えません! ワーン!
そう言えば昔もこんな目に遭わされた
ような気が……

ヴァイ:
ムッカつくヤロウだなあ

ダイ:
はっはーん。嫌われ者で結構ですね。
それでは私はこれにて。さらなる魔力
を求めて、今、美しき私の旅は再開
するぅ! ボンボヤージ!

マントを翻し、筋肉の塊はドタドタと宮
殿を後にした。

イダ:
性格も悪ければ外見も筋肉ダルマ……
存在自体が美への冒涜ですね

シーン:
どうしてあんなに性格がねじ曲がった
のかしら……?

カイ:
アイツは昔からだ、昔から! 吸血鬼
になる前も、なよなよした鬼道衆の
恥部のよーな奴だった!

シーン:
そこまで言わなくても……。
でも、確かにいいトコなかったわよね

ヴァイ:
女ふたり集まると、キッツイなあ










幽かな震動が続き、止まった。
蝕影宮は正しい座標へと移動した。

D・S:
これで宮殿は全部動かしたんじゃ
ねえかな

シェラ:
ああ。波動の歪みが完全に消えた……。
遺跡が描く天球の配置が正しい位置に
戻ったのだろう。外に出てみよう



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最終更新:2020年10月31日 21:22