火星宮
宮殿の内部は、奇妙に息苦しい波動に
満たされていた。可聴域外を不協和音
が流れているような、調律の狂った
音波――そんな波動が、エーテルを
通じて全身を幽かに震わせている。
D・S:
何かがおかしい――そんな感じだぜ
シェラ:
自然の均衡が狂っている……地表で
オーロラに感じたものに似ているな
幽かな震動が続き、止まった。
火星宮は正しい座標へと移動した。
そこには巨大なレバーを始めとする、
原始的な操作盤が据え付けられていた。
ヴァイ:
アンタ、操作できんの?
D・S:
ふん。目ぇつぶっててもできらあ。
天才様に不可能はないのだ
D・Sは安全装置らしきものを外し、
淀みない手つきで次々とレバーを
倒していく。操作した経験があるかの
如き、流れるような手際であった。
ヨルグ:
ほう。凄いな、D・S
D・S:
ハッハッハーッ! 超絶美形は何でも
できる! それがこの世の普遍の法則
なのだ……にしても、俺どうして判る
んだろ? 思ってたより複雑なのにな
最後のレバーが倒され、短い沈黙が
流れた。と、宮殿の基部らしき辺り
から低い振動音が響き、やがて微震が
足下から這い上ってきた。
ヴァイ:
壊しちまったんじゃねーの?
D・S:
いや、ちゃんとメカニズムが作動して
いる音だぜ。俺様に失敗はない!
ガコン! という重い響きを立てて、
しばらく続いた振動は止まった。
ボル:
止まったようでござるな
D・S:
何か起きたとも……ん?
シェラ:
判るか、D・S? 宮殿に満ちていた
違和感が消えている……狂いが調律
されたような……
ヨルグ:
外に出てみよう
最終更新:2020年10月31日 21:22