第一章 第二章 第三章 第四章 黒斑洞黒の館気洞溶解雨の湿地デュアディナムトンネルランゲルハンス島スーゼミの神殿血路癌臓宮癌臓宮中枢部ダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミー 第五章 クリア後

黒斑洞


目覚めた時、そこは見知らぬ地底の
空洞であった。

奇妙な洞窟だった。周囲と、天までも
覆う岩壁は、動植物の細胞が長い歳月
を経て化石となり、結晶化したかの
如き生物的な紋様を描いている。空洞
を吹き抜ける風の音は定期的に強まり、
巨大な生き物の呼吸を思わせる。

そして、その場にはD・Sの他、数人
の姿しかなかった。他の仲間たちは
虹の中でバラバラに引き離されて
しまったようであった。

シーラ:
ここは……?

ガラ:
おっかしな場所に飛ばされちまったな。
空に連れてかれたと思ったら虹に放り
込まれ、目が覚めたら地の底かよ

ネイ:
あの虹が、この地底世界への入口に
なっていたのか……それにしても、
他の連中はどこに――?

ガラ:
戦えるのは俺とオメエ、それにD・S
の三人だけかよ。まさかシーラのお姫
さんに戦わせるワケにゃいかねーしな。
せめてもうひとりいりゃあなぁ……

アンガス:
……(にいっ)

ガラ:
わ! 何だ、オメエもいたのかい!?
それにしても喋らない奴だよなぁ。
オレよりデカい図体してやがんのに、
全然目立たないね

アンガス:
……

ガラ:
調子狂うなぁ、もー

ネイ:
ねえダーシュ……ダーシュ?
どうしたのダーシュ!?

シーラ:
D・S!?

D・S:
ぐうう……がはっ!

D・Sの体内に耐え難い、異様な痛み
が生じていた。内臓を抉られるような、
その再生能力では軽減できぬ激痛――
それは心臓を直接締め付け、また呼吸
をする度に、肺に焼けた空気を流し
込まれたような痛みが疾る。病にかか
ることのなかったD・Sにとって、
初めて体験する奇怪な症状であった。

D・S:
この俺様が病気だと――バカな!
ぐうっ! 喋ると肺に響きやがる……

ネイ:
ダーシュの身体に異状だなんて……
私と暮らした百年もの間、こんな症状
で苦しむことなんて一度たりともなか
ったのに――ダーシュ、しっかりして!

D・Sはその肉体を細胞レベルで制御
し、一時的に痛覚を遮断することが
できる。腕を失っても、再生の間痛み
を抑えれば問題はなかったが、その
疾患が心肺機能に及ぶとなると話は
別であった。

痛覚は即ち心臓と肺からの危険信号で
あり、それを無視し続けたところで、
治癒がなされなければ生命を維持でき
なくなる――現在、D・Sは極めて
危険な状態にあった。

ガラ:
オイ、お嬢ちゃんの玉も何だか様子が
オカシイぜ!

ヨーコ球の表面が輝く銀色から、艶の
ないくすんだ灰色へと変化していた。
浮遊する様子にも生気がなく、ガラの
掌の上で幽かに震えている。ここには
ないヨーコの本体にも、何らかの異状
が顕れているに相違なかった。

D・S:
ヨーコさんもだと……クソッ!
こうしちゃいられねえ――

ネイ:
ダーシュとあの娘が一緒に苦しみ始め
た……まさか! 以前魂を分け合った
ことで、ふたりの容態がリンクして
いるのか? だとしたら、これは……

ネイ:
呪術的に惹き起こされた疾病なのか?
でも、ダーシュに呪いをかける方法
なんて……

D・S:
呪詛か……考えられねえことじゃねえ。
何しろ、俺の記憶を一時的にせよ消す
ような奴らだからな……ぐうう、痛み
が止まらねえ――

D・S:
だが、ひとつだけハッキリしたぜ……
痛みが治まるのを待っていてもしょう
がねえってことがな。早いとこ原因を
潰さねえと、ヨーコさんも危ねえ……

ガラ:
けどよ、その状態じゃロクに戦えねえ
んじゃねーか? ツいてねーぜ、こん
な時に、みんなはぐれちまうなんてよ
――?

その時、ガラはD・Sの背に、細い
髪の毛のような鋼糸が結わえられて
いるのを見つけた。

ガラ:
コイツは……妖斬糸?

マカパイン:
D・S、ここか!

その糸を辿り、マカパインが洞窟の
奥から姿を現した。虹に飲まれる寸前、
引き離される危険を感じたマカパイン
は咄嗟に糸を繰り出し、D・Sのいる
場所への道標としたのだった。

迅速に現況を把握したマカパインは、
即座に戦闘の準備を整え始めた。

マカパイン:
D・Sの戦闘力が下がった分、我々で
カバーする他あるまい。この空洞には
得体の知れぬ魔物がウヨウヨいる。
生半可な戦力では突破できまい――

マカパイン:
一刻も早く他の連中と合流し、D・S
の呪いを解く方法を見つけだそう

ガラ:
マカパイン……オメエ、ずいぶんいー
奴になったじゃねーか

マカパイン:
フ……元鬼忍将殿が何を言う

ガラ:
オメェ、それは言いっこなし!  あん
時ダマしたのはオレが悪かったよ!

マカパイン:
いいのだ。私もほとんど記憶を取り
戻している……元の世界で、かつて
私がD・Sに破れた時、オマエには
大きな借りを作っているしな

マカパイン:
それは、この世界でのD・Sも同じ
……借りは返せる時に返しておかねば、
いつの日か雪辱を果たす折、妖斬糸も
冴えぬというものだ

ガラ:
へへっ。意地張りやがって……もう
昔の復讐なんざ考えてねークセによ。
ま、おっかねー妖縛士ってコトで、
そーゆーコトにしとくかい

注意してみると、洞窟の内壁の至る
ところに、黒いカビのような物体が
こびりついている。それは肉腫の
ようであり、ゆっくりと蠕動して
いるように感じられた。

ガラ:
うへえ……気色悪りぃな、コレ

ネイ:
生き物なのか……? 変異した細胞
の集合体のように見えるな

マカパイン:
この黒いカビなら、私が目覚めた場所
にはもっと多くはびこっていたな。
洞窟を奥に進むほど、大量に繁殖して
いるようだった

ガラ:
ゾッとしないね

D・S:
そ……ソッチを目指して進め……妙に
肺が疼きやがる。呪詛の源と、関係
あるかも知れねえ――










ロス:
はぁーい!
思ったより早く合流できたわね

マカパイン:
ロスか! この状況でお前と出会える
とは、何と言う幸運だ!

ロス:
あら、あら? D・Sが、らしからぬ
様子じゃないの。一体どうしたのよ?

ロスもマカパインと同じく、ひとりで
この洞窟に放り出されたようであった。
他の仲間の消息は、ようとして
知れなかった。

ロス:
――少しでも仲間を見つけ出したい
トコね。探してるお宝さえ手に入れば、
アタシももっと役立てるんだけど……

ガラ:
どーやら全員、てんでバラバラに分散
しちまってるようだな。合流し損なう
と、先々ツラそーだぜ?

ネイ:
うむ。探索はでき得る限り慎重に、
しかし迅速に進まねばなるまい










洞窟の行き止まりに、奇怪な建造物が
見て取れた。黒い肉腫で覆われたかの
如き、漆黒の外面の巨大な洋館――
いや、むしろ砦と呼ぶに相応しい、
堅固な構えの館である。

黒い館はこの洞窟を塞ぐように建てら
れていた。恐らくはその背後に道が
続いており、館は関所としての役割を
果たしているようであった。

ガラ:
いかにも敵さんの棲処って館だぜ。
どーするよ? D・S

D・S:
決まっ、てんだろが……ヨーコさんを
助けるにゃ進むしかねー。邪魔する奴
は全て薙ぎ倒し、ブチ殺す!

ガラ:
おー。それだけ元気がありゃ、まだ
しばらくは安心か。お嬢ちゃんの玉も
回復の法力が低下してっかんな、気力
で支えらんねーとヤベえぜ

ネイ:
ダーシュは私が守るの! あの娘の
回復呪文なんてあてにしなくていーの!

ガラ:
はぁぁ……玉に妬いてどーするよ。
D・Sのコトになるとホント、ガキ
みてーだよな、オメーわ

ネイ:
だって……うるさいっ、ガラのバカッ!
大男! デリカシー欠如! いくわよっ



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年10月31日 21:25