風穴洞
洞窟はすぐに上向きのきつい勾配と
なった。通路には常に空気が流れ、
遠くから風の鳴る音が反響しながら
聞こえてくる。
D・S:
こりゃあ、断崖の上まで続いてる
かも知れねえな
ヴァイ:
ってコトは、鬼哭関の向こう側に
出られるかも!
D・S:
喜ぶのは早いが、可能性は高いぜ。
奥まで行ってみよう
登りの傾斜が長く続いた後、洞窟が
二手に分かれる分岐点に到達した。
どちらの通路も、彼方から微かな
外気の匂いがする。
ヴァイ:
どっちに進んだもんかな
遠くから激しい水音が聞こえてくる。
膨大な水量が、ごうごうと流れ落ちる
音であった。
ヴァイ:
ま、まさか水攻めか!?
D・S:
だとしてもここで待ってるワケにゃ
いかねえな。こっちの通路を避けるか、
それとも一息に進んじまうかだ
ボル:
もう一方の道も上りでござるから、
そちらを進めば水を注入されても
平気でござるよ
イングヴェイ:
ただ、水攻めの罠だとすれば、
そのように考えること自体が罠かも
知れん
ボル:
うむむ……難しいところでござるな
このプール状の窪みには、地熱が
伝わってきているようであった。
底が腐葉土のように柔らかいのは、
微かな熱が有機物の腐敗進行を活発に
しているためであろう。小さな生物に
とっては、餌も豊富な過ごしやすい
環境が作り出されていた。
と、柔らかな土の中を何かが動いた。
ぬめりを持った触手めいたものが、
地面の下を高速で泳ぎ回る。
ヴァイ:
げげっ! この窪み、何かいるぜ
D・S:
なるほど。餌になる生き物が足を
踏み入れると、嗅ぎつけて土の中から
出てきやがるのか
ヴァイ:
ふーん……って、どうしてこんな
窪みを歩かなきゃならねーんだよ!
D・S:
基本だろ! 基本!
力尽きたのか、その蟲のような生物は
ピクリとも動かなくなった。と、見る
間に体表から湯気が立ち上り始める。
やがて、大量の水分を急速に放出した
蟲は拳ほどの大きさにまで干涸らび、
サナギのようになって地面に転がった。
D・S:
……仮死状態になりやがったのか
ヴァイ:
ヘンな蟲だなぁ
サイクス:
外敵に喰われないための知恵だろう。
それにしてもこんな習性を持つ蟲は
極めて珍しい
D・S:
ヴァイ、拾っとけ
ヴァイ:
ええーっ!? もしかして喰うの?
D・S:
水で戻せば……ってバカ言うな!
この生命力に興味があるんだよ
ヴァイ:
自分で拾えばいいのに……荷物の中で
生き返っても知らねえぞ
洞窟を抜ける風音は、前にも増して
激しくなってきた。まるで風に宿る
精霊が、激しく嘆き悶えているかに。
出口は近い。そう思えた。
ヴァイ:
ここは……あっ、湖に向かう洞窟の
ところじゃねえか! こんな場所に
通じてたのか
D・S:
好都合と言えば好都合だぜ。地龍は
最後に、谷に沿って関を破壊するって
言ってやがった。ここから湖に出りゃ、
龍の暴走に巻き込まれねえですむ――
D・S:
待てよ……鬼哭関にはザックの奴が
いたな。アイツがまだバカみたいに
扉を守ってやがったら、関門ごと
吹き飛ばされちまうか――
足下から、地龍のエネルギー増大に
よると思われる震動が伝わってきた。
龍の解放の時は刻一刻と迫っている。
ヴァイ:
アイツ、悪いヤツじゃなかったぜ!
助けにいこうぜ、D・S!
ロス:
今から鬼哭関まで戻るっての?
間に合わなかったらアタシたちまで
巻き込まれるわよ!
D・S:
関までは辿り着けるかも知れねえが、
恐らくそこから避難する時間はねえ
D・S:
よほどのアホウじゃない限り、これ
だけの地鳴りがすりゃあ、あんな門の
前から逃げると思うんだが――
QUESTION:
ザックを助けに向かうか?
行こう
危険すぎる
D・S:
もう時間がねえ。ザックの勘と運を
祈るしかねえ!
ヴァイ:
ザック……生意気な奴だけど、無事
でいろよ――
D・S:
チッ……見捨てるワケにもいかねえ!
全速力で鬼哭関に向かうぜ!
ヴァイ:
そうこなくっちゃ!
ボル:
お供するでござるよ!
ロス:
あーあー、しゃあないわね。ここで
オサラバしてもいーんだけど、それも
美意識に反するしねえ。つき合うわ
最終更新:2020年10月31日 21:08