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    #3 「スネ夫」

某日、午前9時30分……
ニビシティ郊外にある小さなバトル場に、ドラーズ一行は姿を現した。

「いやー、見事に誰もいないなー!」
ジャイアンが言うとおり、会場には選手と大会関係者数人以外は誰もいなかった。
まあ、この場にいる者以外はここで試合が行われていることすら知らないのだ。
観客が1人もいないのも納得できる。

やがて10時を迎えると、選手たちが会場の中央に集められた。
だが普通の開会式と違って、大会長挨拶や選手宣誓なんてものはない。
審判長から試合のルールが説明される……といっても審判員は1人しかいないのだが。

「この大会予選は5チームによるリーグ戦です
内、上位2チームが本選に出場することができます
試合は一試合ごとに各チーム選手を1人選出し、代表者のポケモンバトルで勝敗を決します
ただし、4試合全て別の選手を選ばなければなりません
続いて、試合のルールについて説明します
ルールは3対3の勝ち抜き戦です、使用する3体はバトル前に決めなければいけません
ただし、ポケモンの交代は認められておりません! 以上で説明を終わります」
審判が淡々とした口調でルールを告げた。

「チーム戦かと思ったら、一対一のポケモンバトル? そんな試合方法初めて聞いたよ」
のび太が驚いた顔で言う。
「そうだなぁ…… とりあえず、最初の試合に誰を出すか決めないと行けねぇ!
うーん……やっぱり、俺かな?」

「ジャイアン、悪いけど第一試合……僕に任せてくれないか?」
皆が驚いて発言者、スネ夫の方を見た。



「……別に俺はいいけど、静香ちゃんはどうだ?」
「私は構わない、リーダーののび太さんはどう?」
「僕もいいよ、じゃあ第一試合の選手はスネ夫で行こう!」
3人が驚きを隠せない様子で言った。

「ありがとう、志願したからには必ず勝ってみせるよ」
スネ夫が笑顔で言う。

そして、ついに予選第一試合が始まる時間がやって来た。
「それでは、『ドラーズ』対『ラブ・インセクト』の試合を開始します
スネ夫、オサム両選手はステージに上がってください!」
審判の合図で、スネ夫とその対戦相手である虫取り少年のオサムがフィールドに入る。
対戦相手『ラブ・インセクト』はトキワの森にいる虫取り少年たちが結成したチーム。
虫タイプの強力な使い手、決して油断できる相手ではない。

『必ず、必ず勝つんだ!』

スネ夫が決意を固め、ボールを取り出した。

一方、観客席ではチームメイトの3人がスネ夫の様子を見守っている。
「それにしても珍しいよな、スネ夫が自ら一試合目に出たいというなんて」
ジャイアンが先程から抱いていた疑問をぶつける。
他の2人も首を縦に振って同意する。

スネ夫はどちらかといえば、面倒ごとを避けて通ろうとするタイプだ。
スクール時代も簡単な道ばかりを選択し、良い点でも悪い点でも目立とうとしなかった。
今回の大会だって、野比家の事情がなければ出ようとは思わなかっただろう。
今日も、普段の彼ならプレッシャーが少ない二試合目あたりを選ぶはずだった。
だがそんな彼が、一番プレッシャーがかかる一試合目を自ら志願した。
のび太たち3人には、それが不思議でならなかったのだ。



オサムの一匹目はヘラクロス、対するスネ夫はクロバットだ。

「いきなりクロバットだと? 飛ばしてるなーあいつ!」
観客席のジャイアンが少々驚いた様子で言う
一緒に修行してきた彼らは、クロバットがスネ夫の切り札であることを知っている。
そして今回彼はその切り札をトップバッターとして使ってきた。
スネ夫には切り札を最後までとっておく傾向があったので、これまた以外である。

審判の合図で、両者がポケモンに命令をする。
「クロバット、影分身だ!」
「ヘラクロス、ストーンエッジ!」
回避率を上げたクロバットに、もともと命中率の低いストーンエッジは当たらなかった。
この後同じような光景が2、3回繰り広げられる

普通、この場合は影分身より催眠術を使った方が安全だと考えられる。
いや、スネ夫のクロバットは燕返しを覚えているのでそれを使えば一撃で倒せたはずだ。
だが彼は下手すれば一撃で倒される危険性がある影分身を使った。
周囲の人間には愚行に見えたかもしれない、だが彼にはちゃんとした考え方があった。

スネ夫がブツブツと呟く。
「向こうのヘラクロスは状態異常にかかっていないので、根性型ではない
とすると堪える→起死回生の型か拘り、スカーフ型のどちらかのはず
敵は当たる見込みのないストーンエッジを何度も繰り返しているのでおそらく後者……
光の粉と影分身によって回避率を上げたクロバットにこの先ストーンエッジが当たる事はない
ならば今のうちに、影分身をつめるだけ積ませてもらおう……」

スネ夫はこのバトルの始めから敵の技構成や持ち物を予測し、影分身積みが最良の選択だと判断したのだ。
彼はいわゆる、理論派のトレーナーである……相手の手の内を予測し、常にどの選択が一番よいかを一手、二手先まで予測して選ぶ。
だがこの戦闘方法はトレーナーの精神力をかなり削り取っていく、最後まで集中力を持続させるのは極めて困難だ。
彼が何故こんな道を選んだのか、観客席の仲間には理解できなかった。



影分身を命令しつつ、スネ夫はふと過去のことを思い出していた。

―――スネ夫が12歳、スクール5年生のときだった。
5年生からは月に一度くらい、クラスメイトと簡単なポケモンバトルをする。
スネ夫も相棒ミズゴロウとともにバトルに望んだが、彼は一度も勝つことが出来なかった。
負けるたびに彼は言う。
「まあ、僕あんまりポケモンのレベル上げしてないから仕方ないか……」
口ではこういうもの、実は毎日コラッタやポッポ相手にミズゴロウを鍛えていたのだ。
誰よりも努力している自信はあった、でも勝てなかった……
彼は12歳にして悟った、自分にはポケモンバトルの才能が無いことに。

そして彼はハイスクール入学時、バトル科には入らなかった。
『僕もバトル科に入りたい、そして強いポケモントレーナーになりたい!』
……でも、自分には才能が無い、だから自分は上を目指してはいけない。
彼はそう思い続けてバトルへの願望を避け続けてきたのだ。

そんな彼に訪れた転機が、今回の大会だった。
ドラーズ結成後、彼は1人悩んでいた。
「今からでも遅くない、“やっぱり僕には無理だ”そういった方がいいんじゃないか」と。
そして、結局それを言い出せぬまま合宿を向かえてしまった。
合宿で先生と一対一で話すとき、思い切って彼に相談してみた。
先生ならきっと、素晴らしい答えを出してくれるかもしれない、と思ったのだ。
先生は言った。

「骨川、これは君が立派なトレーナーになるために与えられた試練なんだ
たしかに君にはバトルの才能がないかもしれん……
だが私は知っている、君がだれよりも戦術について一生懸命勉強してきたことを
君が地道に学び続けたその知識は、必ず君だけの頼もしい武器となるはずだ
だからあきらめるな! 才能がないなら努力でカバーすればいいじゃないか!」

この言葉は、スネ夫の中の何かを確実に変えた。



―――そして今、スネ夫のクロバットは影分身を限界まで積み終えていた。
さっそく攻撃に転じ、燕返しでヘラクロスを一蹴する。
さらに次に出てきたスピアーもクロバットに攻撃を当てることが出来ないまま倒された。
最後のカイロスも確実に倒し、スネ夫は一度も攻撃を受けずにバトルに勝利した。

ジャイアンの一際大きい歓喜の叫びが聞こえる。
他の参加チームもその戦いぶりを拍手で称える。
相手チームの選手や、対戦相手であるオサムも拍手を送っていた。
その中で感極まったスネ夫は思わずガッツポーズを取り、
「よっしゃあああ!」
と彼らしくもない口調で叫んでしまった。

―――そうだ、自分にはいままで必死に叩き込んできたこの知識がある。
この頭脳は、才能にも負けない立派な武器なのだ。
先生に言われてからずっと、自分の力を試してみたかった。
先生に勝利したときに味わった快感を、もう一度味わいたかった。
だから一試合目を希望した、一刻も早く戦いたかったのだ。
そして自分の力は見事に通用した。
念願のトレーナー戦での勝利を挙げることができた。

勝利の後にこみ上げてきた快感は、先生に勝ったときのものを遥かに凌駕していた。

今回の勝利で、まだ自分はトレーナーを目指せるという自身がついた。
やっぱり自分はトレーナーになりたい、自分の気持ちに嘘はつけない!
だからこの大会で自分の力がどこまで通用するか、試してみたいと思う。

会場を去る前に、もう一度小さくガッツポーズを取る。

もっと勝利の快感を味わってみたいと、スネ夫の心はすでに次の戦いを欲していた。
次の戦いに思いを馳せながら、彼は仲間の待つ観客席へと戻っていった。



    #4 「ジャイアン」

スネ夫が見事な勝利を収めた一方で、ジャイアンはイラつきを隠せないようだった。
「次の試合は俺様が行くぜ、文句はないよな?」
仲間の3人が神速の速さで首を振る。
「あ~もう! 俺様の試合はまだか!」
どうやらスネ夫のバトルを見せられて、自分も早くやりたいとウズウズしているようだ。

ここの試合会場は2つあって、参加チームは5チーム。
つまり、1チームだけ試合が出来ないチームが出来てしまうのだ。
今ドラーズはまさにその1チームと化している。

「A会場の第二試合が終了しました 
続いて第三試合、『ドラーズ』対『ウォーターボーイズ』の試合を開始します
剛田武、ケンイチ両選手はステージへ上がってください」
アナウンスが流れると、ジャイアンが待ってましたと立ち上がる。

「よし、じゃあ行ってくるぜ! 5秒で終わらせてやるよ!」
ジャイアンが間違いなく不可能な目標を掲げ、バトルステージへ向かった。

今回の対戦相手『ウォーターボーイズ』、日本語に訳すると『水の少年』だろうか。
『水の少年』と聞くと爽やかで神秘的な情景が浮かんでくる、しかし彼らは違った。
対戦相手のケンイチは頭につけたキャップとゴーグル、そして海水パンツ以外は何も着ていない。
彼の仲間の3人も同じである。
この世界では彼らのような人物を、『海パン野郎』と呼ぶ。
『ウォーターボーイズ』は、海パン野郎4人によって結成されたチームだった。
一歩間違えればただの変質者の集まりである。

「海パン野郎なんて変態、俺の相手じゃねぇ!」
ジャイアンはそう言い、意気揚々とステージへ向かった。



ジャイアンはジュカイン、ケンイチはパルシェンを出した。

「よし、相性じゃあこっちが勝ってる! 
リーフブレードで沈めてやれ!」
ジュカインがパルシェンに強烈な一撃を当てるが、ケンイチは笑っている。
「僕のパルシェンの最大の自慢は防御力だよ
そんな攻撃、パルシェンには通用しないのさ!
今度はこっちの番だ、冷凍ビーム!」
パルシェンの冷凍ビームはジュカインの体力をかなり削った。

「交代は出来ない……さあ、どうするのかな?」
ニヤニヤと笑うケンイチに対し、ジャイアンは意外な一言を放つ。

「ジュカイン、リーフブレードだ!」
またもやリーフブレードを指示したジャイアンをケンイチは嘲笑う。
「……な、こいつ馬鹿か!リーフブレードは効かないと言っただろう?」
「それはどうかな?」
ジャイアンがニヤつくと同時に、リーフブレードによってパルシェンは倒された。

「あ、ありえない!
いくら効果抜群とはいえ、ジュカインの攻撃力とパルシェンの防御力からすればこんなことが起こるはずが無い!
一体お前は、どんな手を使ったんだ!」
今起こったことが信じられない様子のケンイチに、ジャイアンは言う。
「種も仕掛けもない、あるのは“実力の差”だけだぜ!」

「相変わらずだなあ、ジャイアンは……」
観客席のスネ夫が苦笑した。



―――ジャイアンは理論派のスネ夫とは正反対の人間である。
つまり彼は肉体派、言い換えるなら“何も考えていない”のだ。
彼の辞書に『戦術』などという言葉はない、ただ4つある中で一番効きそうな技を選択するだけだ。
こんな小学生、いや幼稚園児レベルの単純な戦い方をしても、ジャイアンは負けることが無い。
もちろん、それにはちゃんと理由がある。

ジャイアンには戦術を理解する力が全く無かった。
決してバトルの才能が無いわけではないのだが、戦術を駆使できなければそれは意味がない。
そんなジャイアンに、天はある才能を授けた。
ジャイアンには、『ポケモン育成』に関してずば抜けた才能があったのだ。

ジャイアンはとにかく、ポケモンのレベル上げをするのがうまかった。
普通のトレーナーが一週間で5レベル上げるとすれば、ジャイアンは全く同じ条件で10レベル上げることができる。
現にドラーズのなかでも、ジャイアンの手持ちは他の3人の手持ちよりも10レベルくらい上をいっている。

戦術が使えないジャイアンが選んだ道、それは圧倒的なレベル差で押して、押して、押しまくることだった。
手持ちポケモンも扱いやすく、パワーがあるポケモンで固めている。

ジャイアンはただ強力な技を命じるだけでいい、後は強力ポケモンが圧倒的な強さでねじ伏せてくれるのだから。
いくら戦術に長けている人間でも、圧倒的な戦力差を覆すことはできない。
だからジャイアンは強かった、スクールでもハイスクールでも負けなしだった……

自分とは正反対、適当に命令しても勝てるジャイアン。
スネ夫は、そんな彼を恨んだり妬んだりはしない。
彼の単純かつ豪快なその姿を見ると、ただただ呆れかえることしか出来なかった。



自慢のパルシェンをいとも簡単に倒された……
いまだそのショックから立ち直れないケンイチは、次にルンパッパを出した。
「草タイプがあるこいつならリーフブレードを二発耐えられる
一発目を耐えて冷凍ビームだ!」
ケンイチの予想通り、ジュカインはリーフブレードを使ってきた。
これを耐えたルンパッパの冷凍ビームでジュカインは倒れた。

「まずいなー、もう弱点をつけるポケモンを選んでないや……
仕方ない、こいつを出すか……」
ジャイアンがそう言いながら出したのはボーマンダ、彼の切り札である。
「ボーマンダ、ドラゴンダイブだ!」
ボーマンダのドラゴンダイブは、ルンパッパを一撃でしとめた。

「……いくら何でも、こいつなら一発くらい耐えれるはずだ
ホエルオー、頼んだぞ!」
ケンイチは最後の砦、ホエルオーを繰り出した。
その巨体がバトルフィールドを覆い尽くす。
「ボーマンダ、ドラゴンダイブ!」
再び使われたドラゴンダイブは、ホエルオーの驚異的な体力でさえも一撃で削り取ってしまった。
ケンイチはガックリした様子でうな垂れていた。

「俺のボーマンダの攻撃力を甘く見んなよ! 拘りハチマキまで持たせてるんだからな」
ジャイアンが落ち込むケンイチに告げる。

「勝者、『ドラーズ』剛田武選手!」
審判から勝利の宣告を受けたジャイアンは、満足気な表情を浮かべてステージから出て行った。

観客席に戻る途中、彼はふと思った。
『こんな戦い方で、いつまで勝ち続けることが出来るんだろうか……』
―――この不安が現実になり、自分を苦しめることなどこの時の彼にはまだ分からなかった。



       #5 「再開」

「で、次の相手はどこ?」
勝利を収めて満足気な表情をしているジャイアンが問い、静香が答えた
「次の相手はチーム・コトブキっていうところよ
二試合ともB会場でやってたからどんなチームかはわからないけど、向こうもここまで2勝してるみたいね
この試合に勝てれば、予選突破はほぼ決まりといっていいわ!」

「この大事な一戦……やっぱりここはリーダーのお前が出るべきだな!」
ジャイアンはそう言いながらのび太の背中を叩く。
「え~、僕がぁ?」
のび太が嫌そうな表情を浮かべて言う。
「私ものび太さんがいいと思うわ」「僕も同じく」
などと残りの2人もこれに賛成し、次の試合の出場選手はのび太に決まった。

「それではA会場第4試合、『ドラーズ』対『チーム・コトブキ』の試合を始めます
野比のび太、結城英才両選手はステージに上がってください」

ステージに現れた『チーム・コトブキ』の選手、彼を見たのび太は驚きを隠せない。
それは観客席にいる仲間の3人も同じようだ。

最後に見た6年前からは髪が伸び、だいぶ姿が変わっていた。
でもその知的で凛々しい顔は、今でもかつての面影を残していた。
のび太が思わず、彼の名を口に出す。

「間違いない……君は……出木杉、だよね?」

出木杉と呼ばれた少年は言う。

「まさかこんな形で再開するとは思わなかったよ、野比君……」



6年前自分たちの前から姿を消した少年、出木杉英才。
彼が今再び自分たちの前に現れた、対戦相手として……
その事実にのび太たちは驚きを隠せない。

「出木杉、君には聞きたいことが山ほどあるよ……
どうして君は突然いなくなっちゃたんだい? なんでこの大会に出てるの? 名字が結城ってどういうこと?」
のび太が疑問をぶちまける。

「野比君、今は試合中だよ
喋ってる暇があったら、早くポケモンを出すことだね」
出木杉は冷静にそう言い、ボールからゲンガーを出す。
「どうやら、答えを聞くに君を倒す必要がありそうだね
ギャラドス、頼んだよ!」
のび太は7年来の付き合いの相棒、ギャラドスを繰り出した。

「ゲンガー、10万ボルト!」
先手を取ったゲンガーは、一撃でギャラドスを倒してしまった。
「ギャラドスが一発でやられるなんて……次はフシギバナだ!」
のび太はつづいてフシギバナを繰り出した。
「ゲンガー、サイコキネシス!」
またまた先手を取ったゲンガーに、フシギバナも一撃でやられてしまった。

「おいおい、あのゲンガー強いぞ……」
「つ、強いなんてレベルじゃない! 強すぎるよ!」
この様子を見ていた仲間の3人がざわめく。
彼らはのび太のポケモンが十分に育てられていることを知っている。
だから、そのポケモンたちが一撃で倒されたことに衝撃を受けているのだ。

「このまま、このまま終わってたまるか!」
のび太が祈るように最後のポケモン、ルカリオを繰り出した。



ルカリオには気合の襷を持たせている、絶対に一撃でやられることは無い。
向こうの攻撃に耐えたら悪の波動でゲンガーを倒し、残りの二体を起死回生で倒す……
「まだ、勝算は残されている!」
のび太が呟く、彼はまだ勝負を捨ててはいなかったのだ。

いつまでたっても、ゲンガーが攻撃をしてくる様子はない。
「攻撃しないのかい? なら、こちらからいかせてもらうよ!
ルカリオ、悪の波動だ!」
ルカリオの手から放たれた波動がゲンガーを襲う。
攻撃が当たる寸前、ゲンガーは微かに微笑んだ。

そして次の瞬間、悪の波動がゲンガーを直撃した。
効果抜群の強力な一撃を受けたゲンガーが立ち上がることは無かった。

「よし、まずは1匹だ!」
のび太がガッツポーズを取って笑う。
だが、なぜかゲンガーを倒された出木杉も笑っていた…… そして彼は言う。
「野比君、喜んでいる暇があったらルカリオを見てみなよ」
出木杉に言われてルカリオを見たのび太は驚いた。
全く攻撃を受けていないはずのルカリオが、倒れて動かなくなっているのだ。
「ゲンガーの“道連れ”だよ」
驚くのび太に出木杉が答えを告げてあげた。

「勝者、『チーム・コトブキ』結城英才選手!」
審判が出木杉の勝利、すなわちのび太の敗北を宣告する。
ガックリと膝をつくのび太を見ようともせず、出木杉はステージから立ち去っていく。

「ちょっと待ってよ出木杉! 聞きたいことがある!」
自分を呼び止めるのび太に、出木杉は表情一つ変えずに言った。

「野比君、僕はもう君たちのしっている出木杉英才じゃないんだ……」



ゲンガー1匹に3タテされた……
そのショックを背負ったのび太は、顔を下げたままステージを後にした。

一方見事に勝利を収めた出木杉には、3人の子供が集まってきていた。
カールで金髪の少年、赤と金という派手色をした髪の少年、ニット帽にマフラーというあったかそうな服装の少女の3人だ。
年齢は皆出木杉と同じくらい……おそらく彼と同じ『チーム・コトブキ』の選手だろう。
笑顔で自分を祝福する彼らに対し、出木杉も笑顔を返す。
だが、その笑顔を見たスネ夫たち3人は違和感を感じる。

まるで彼の笑顔は本心からきたのではなく、作られたものであるような気がしたのだ。

しばらくして、物凄く暗い雰囲気と共にのび太が戻って来た。
「みんな、ごめん……」
俯いたままそう言い、のび太は黙りこむ。
長く重い沈黙が流れ、場が静まりかえる。

突然、ジャイアンが言った。
「のび太、顔を上げろよ」
だが、のび太は依然として俯いて黙り込んでいる。
そんなのび太の態度を見たジャイアンが、声を荒げた。

「しっかりしろよのび太!
この大会で優勝して、お前の家を救いたいんだろ! そのためにみんな頑張ってるんだろ!
それなのに、お前がそんな調子でどうするんだよ!
そうやってグズグズしてるようじゃあ何も救えない、何も守れないんだよ!」

ジャイアンが殴りかかると思ったスネ夫が慌てて止めに入ろうとする。
だが彼の拳は解かれたままだった。
そしてジャイアンは小さく漏らした。

「……だから……だから顔を上げてくれよ、のび太」



ジャイアンの思いが伝わったのか、のび太はようやくゆっくりと顔を上げる。
その目には泣き腫らした後があったが、3人ともそれに触れようとはしない。

―――そこには仲間としての、微かな思いやり見え隠れしていた。

「とりあえず、ここまでの様子をおさらいしておこうよ」
スネ夫の提案に賛成し、4人はこれまでの試合の様子を確認する。

現在A・B会場ともに第4試合を終え、残るは後一試合となっていた。
ここまでの結果、一位は全勝の『チーム・コトブキ』。
唯一4試合全てを終え、すでに予選一位突破を決めていた。
そして逆に予選敗退が決まってしまったのは0勝3敗の『ウォーターボーイズ』と、同じ成績の「ラブ・インセクト」だ。
そしてまだ本選出場の可能性を残しているのは『ドラーズ』と『ヤマブキ格闘道場』。
どちらも二勝一敗の二位である。

次の試合、A会場は四位と五位の最下位決定戦。
そしてB会場は二位の2チーム同士の戦い、勝った方が本選への切符を手にすることが出来る大事な一戦だ。
両チームの代表選手には、かなりのプレッシャーがかかることだろう。

「あ~、僕が負けてなければこんなことにはならなかったのに……
みんな、本当にごめん!」
現状がいかに大変かを知り、改めてのび太が詫びをいれる。
そんな彼に言葉をかけたのは、次の大事な試合を控えた静香だった。

「のび太さん、もう謝らなくていいわ
大丈夫、私が“必ず”勝ってみせるから……」

静香はそう言い、優しく微笑んだ。