邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ ヒノモト伝承 百鬼夜行蟲毒討伐譚

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ヒノモト伝承

ヒノモト伝承とは、ヒノモトに古くから伝わる神話及び伝承である。
事の起りを大まかに書いた元本に「百鬼夜行蟲毒討伐譚」があり、それに付随してサイドストーリーのような外伝がいくつも出版されている。
外伝の半数は作家のフィクションであり、逆にいえばもう半分は実際の妖怪たちの事件を描いた事実の物語である。
元本である蟲毒討伐譚は事実に基づいているとされ、烏丸家に保管されているが、大衆向けにおもしろおかしく脚色された小説、漫画が巷に出回っている。

大衆向け複製本の一例


今は昔、鬼角山のふもとの村、鬼角村の神社に、案山子という名の巫女が居りました。
案山子は大層強い神通力を持ち、その辺りの妖怪たちが束になっても決して負けることはありませんでした。

案山子は見た目美しく、器量良く、その名は遠く離れた諸々の国にまで知れ渡って居りました。
それでいて、そのことを自慢たらしく話したりはせず、庄屋の息子の求婚も「私には勿体ない」と断ってしまいました。
案山子はいつも人のことを先に考える娘で、自分のことなど二の次でした。
先の求婚を断ったのも、妖怪たちを治める巫女としての役割を重んじての事でした。

東に人食い鬼が出たとあれば、案山子は雨の中を駆けて向かいました。
西に狐が出たとあれば、案山子は山を越えてでもその脚を伸ばしました。
どれほど辛く苦しい時にも、案山子は必ず助けに来てくれたので、人々は案山子を神の御使いだと持て囃して居りました。

しかし、妖とは病のようなもので、退治されればされるほどに、より強くなって再び人々を襲いました。
案山子の手も段々と回らなくなっていき、人々は困り果ててしまいました。

ある時、村の大人たちは案山子を鬼角山の頂上へ呼び出しました。
案山子は朝廷の頼みの妖怪退治を終えたばかりで疲れて居ましたが、妖が暴れていると聞いてその呼び出しに応じました。

山の頂上には注連縄で結界が敷かれており、旅の祈祷師がなんとか結界の中に妖を封じたが倒すことが出来ない。
たった一匹だけなので、案山子に倒してもらいたいとのことでした。
案山子は入り口で教えられたとおり、結界の中心へと脚を進めていきました。

中心へたどり着いて、案山子は自分の目を疑いました。
結界の中にはおびただしい数の妖がひしめいており、案山子を待ち伏せていました。
それも、その妖達は過去に案山子が退治した者ばかりでした。

聞けば、妖達は案山子への仕返しをさせてさえくれれば、もう二度と村を襲わないと村人たちを誑かしたというのです。
一匹二匹ならたとえ疲れていても遅れはとらない案山子ですが、無数の妖達を前に成すすべなくやられてしまいました。

案山子は妖達に身を裂かれ、四肢を引きちぎられ、腸を貪られている間、ずっと悲しい気持ちで一杯でした。
悲しくて、悔しくて、情けなくて、普段決して辛い顔を見せぬ案山子が、その時は赤子のように泣き叫び続けました。



村の者たちが案山子を置き去りにし、山を居りきった時、先頭を歩いていた男が叫び声をあげました。
なんと、男の前には置き去りにしたはずの案山子が虚ろな目を剥いて立っておりました。

案山子は村の者たちを一睨みすると、大きな黒い雲のような姿に化けました。
村の者たちは逃げ惑うまもなく、その雲に呑まれて消えてしまいました。


それから、国中に黒い雲の妖の話が広まりました。
東でも西でも雲に襲われた者は後を絶たず、その話は帝の耳にさえ及びました。

数多の祈祷師、陰陽師達が雲に立ち向かいましたが、全く歯が立ちませんでした。
帝は日々増え続ける犠牲に頭を悩ませて居りました。

ある日、帝の前に黒い装束を着た、奇妙な男が訪ねてきました。
帝がその男に不思議な興味を感じて話を聞くと、男は自らを妖の王、空亡だと名乗りました。

空亡はさらに続けました。
あの雲はただの妖では有りませぬ。妖が妖を食らい、さらにその妖を妖が食らい、八百万の妖が呪いの力を色濃くして行って生まれた怪物、蟲毒でございます。
お耳の良い帝様の事でございますから、案山子の話はご存知で居りましょう。
あれは案山子の無念の思いが妖たちを呑みこんで、ぶくぶくと膨らんで出来た蟲毒の雲にございます。
到底人の手に負える者ではございませぬ。ここはひとつ、我ら妖怪にお任せ下され。

帝は妖の話を真に受けることに躊躇いましたが、どの道他の手立てはありません。
渋々と目の前の男の話を受けることにしました。

空亡は帝に三つの条件を提示しました。
一つに、帝の持つ禁術で大きな結界を作りだし、そこに蟲毒を封ずるので、それを地獄と呼んで封印すること。
二つに、案山子の一族の者に地獄の鍵を持たせ、未来永劫守らせること。
三つに、もし蟲毒を封ずることができたら、夜の間だけで良い、我ら妖怪が自由に過ごせる場を設けること。

帝がすべての条件に応ずると、空亡の鶴の一声で、妖たちが都に集まり出しました。
蟲毒は強大な化け物、とても空亡一人の力では倒せません。
家々の行燈の炎が照らす夜の街道を、妖怪の群れが徒党を組んで闊歩し、空は熱い黒雲に覆われ、海は高波がうなりをあげ、人々は世界の終わりを思いました。
その数たるや、とても百鬼夜行などという言葉では足りぬほどの大軍隊でした。

空亡率いる百鬼と蟲毒との戦いは、三日三晩に及びました。
激しい争いの末に、空某は手下の八咫烏に命じ、蟲毒を結界の中へ追いやることに成功しました。
すぐさま祈祷師たちが結界を閉じ、蟲毒はそのまま地中深くへ封じられる事となりました。

空亡は、いずれ蟲毒は再び蘇り、人々に復讐を始めるだろうと帝に教えました。
しかしその時は自分も再び蘇り、人々を守るため百鬼を集めるだろうから、決して妖達をむやみに討伐しないことを約束させました。

帝は約束通り、ヒノモトの夜を妖たちのため明け渡すこととしました。
その日を境に、ヒノモトの夜は妖怪たちの国、ツキカゲと呼ばれるようになったのです。