ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

トキワ英雄伝説 その8

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akakami

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 #15 「死の宣告」

午前9時、選手たちはコロシアム中央に集められた。
昨日までここを細かく区切っていた壁は消え、会場は再び初日のときの広さを取り戻している。
彼らがここに集められたのは他でもない、決勝トーナメントの説明を受けるためである。
初日、ここには256のチームがいたのだが、いまはたったの16チームまで減ったしまった。
有名なトレーナーや出木杉たち、5thことジャイ子や廊下で遭遇した白いローブの人物の姿も見える。

しばらくして、開会式のときと同じように2人の人物が上の広場に現れる。
Mr.ゼロと、開会式で司会をしていた者……相変わらずどちらも顔は見ることができない。
さっそく司会の者が口を忙しそうに動かし、説明を始める。
一方で、Mr.ゼロは椅子に座ったまま全く動かない、不気味なことこの上なしだ。

司会の男が決勝トーナメントのルールを発表し終えた。
大きく変わったところは、手持ちポケモンの数だ。
ダブルバトルは1人につき手持ち3体、合計6体6の勝負となった。
シングル一戦目は3体3のまま、特に変わりはない。
そして大将戦は、6体6のフルバトルとなった。
その他、バトルの内容などについてのルールには特に変更はない。

司会の人物がルールを告げ終わったその時だった。
いままでずっと椅子に座っていたMr.ゼロが突然立ち上がり、司会からマイクを受け取る。
いったいこれから、どんな言葉を発するのだろうか?
場が静まり返り、全員の視線がMr.ゼロに注がれる。
注目を受け続けるMr.ゼロは、変声機による不気味な声で言った。
『諸君らに、見せたいものがある』   



見せたいもの? いったい何なんだ? と、選手たちがざわめき始める。
それをかき消すかのように、会場の巨大スクリーンにある映像が映される。

映像に映されていた場所は、どこかの広く薄暗い部屋だった。
ここへくる時に乗った船の部屋の2倍くらいの大きさだった。
……そしてそこには、800人くらいの人間がいた。

「まだ気付かないのか……ならこうすればどうかな?」
Mr.ゼロがそう言うと、映っている人間の顔がはっきりと見えるくらい映像がズームされた。
「え! あ、あれは……」
のび太が驚きの声を上げた。
昨日自分たちに負けた、カントー四天王やキッサキ同盟軍の姿が見えたのだ。

そこに映っていたのは、この大会で敗れた選手たちだったのだ……

「おい、どういうことだ! 負けた選手は帰ったんじゃなかったのか!」
ジャイアンが上のほうにいるMr.ゼロに叫びかける。
それをきっかけに、他の選手たちの何人かが思い思いの言葉を叫ぶ。
だがMr.ゼロがマイクを口に近づけだすと、その声は一瞬にして止んだ。
そしてMr.ゼロは、何事もなかったかのように言った。

『試合に負けた選手が乗るワープ床、あれがこの部屋に通じていた。
この部屋はコロシアムの地下にある……彼らは大会が終わるまで、この部屋から出ることはできない。
つまり彼らは……“人質”というわけだ』
選手たちが再びざわめき始める前に、Mr.ゼロは話を続けた。

『もし諸君らのうちのどこかのチームが優勝すれば、彼らを解放するし、4億円も渡す。
……ただし、我々のチームが優勝した場合には
“この大会の参加者は全員、死ぬ”』

―――それは、あまりにも突然な死の宣告だった。



「ふざけんな、なんで俺たちが殺されなきゃならねえんだ!」 
「説明しろ!」 
「そこから降りて来い!」
様々な罵声を背に、Mr.ゼロはその場を去っていった。

残された選手たちは動揺を隠せない。
(自分が負けたら、あの地下室の輪に加わることになる。
もしMr.ゼロのチームが優勝すれば、ここにいる参加者は1人残らず消されてしまう。)
頭では理解できているのに、先程聞いた話が信じられない。
当然だ、人はそう易々と死を受け入れることはできないのだから。

もし明日突然「死ね」と言われて、それを受け入れることができる人間がいるのだろうか?
それを受け入れろというのは、あまりに酷な話である。
死を恐れ、現実を信じようとしない選手たちが混乱し始める。

だが上の広場に1人残された司会者は、そんな様子を全く気にせず言った。
『では、決勝トーナメントの組み合わせを発表します』
それと同時に、スクリーンに映るものが地下室の映像からトーナメント表に切り替わる。
組み合わせは、以下の通りだ。



ジョウトジムリーダーズ――┓
             ┣―――┓
   チーム・コトブキ――┛   ┃
                 ┣――――┓
       キングス――┓   ┃   ┃
             ┣―――┛   ┃
       ドラーズ――┛       ┃
  ┣―――――┓
       爆走同盟――┓ ┃ ┃
             ┣―――┓ ┃ ┃
     ナナシマ連合――┛   ┃ ┃ ┃
                  ┣――――┛ ┃
   セキチク忍者軍団――┓   ┃ ┃
             ┣―――┛ ┃
フロンティアブレーンズ――┛ ┃
┣━
     レジスタンス――┓ ┃
              ┣―――┓ ┃
     ポケモン救助隊――┛   ┃ ┃
                  ┣――――┓ ┃
   カナズミスクール――┓   ┃ ┃ ┃
              ┣―――┛ ┃ ┃
      クイーンズ――┛ ┃ ┃
┣―――――┛
  ホウエン四天王連合――┓ ┃
              ┣―――┓ ┃
シンオウジムリーダーズ――┛   ┃ ┃
                 ┣――――┛
 ポケモン大好きクラブ――┓   ┃
             ┣―――┛
     ジョーカーズ――┛



トーナメント表が映るのを確認すると、司会者はその場を去っていった。

残された選手たちの混乱はしばらく続いたが、徐々に落ち着きを取り戻し始めた。
トーナメント表のうち、『キングス』『クイーンズ』『ジョーカーズ』の3チームはMr.ゼロのチームだ。
その3チームと戦うことになった選手たちに緊張が走る。
自分たちが勝たなければ、自分や他の選手たちの命が……
そんなプレッシャーが、彼らを襲ってくるのだ。
勿論それは、『キングス』と初戦で当たることになったドラーズの面々も例外ではない。

「私たち、絶対に勝たなきゃいけないわね……」
静香が不安そうに呟く、3人からの返答は帰ってこない。
……しばらくして、しびれを切らしたジャイアンが動き出した。
「あ、ジャイアン! どこに行く気なの?」
のび太が問うと、ジャイアンは背を向けて言った。
「いまから相手の『キングス』ってやつらのとこに行って、問い詰めてやるんだ!
“なんでお前らのリーダーは、こんなことをするのか”ってなあ!」
その声には怒りがこもっていた。
慌てて引き止めようとする仲間を無視し、ジャイアンは敵の元へ向かう。

「ねえジャイアン! 落ち着いて……」
ジャイアンを追いかけて行ったのび太の言葉は途中で途切れた。
そこに対戦相手を目の前にして、ガックリと膝をついているジャイアンの姿があったのからだ。
ジャイアンの目の前にいる対戦相手、『キングス』の選手の1人の肩に“5”の文字が見える。
5……5th、ジャイ子のことだ。
次の対戦相手は、ジャイ子のチームだったのだ。
いまから当たる相手は、自分たちを死に追いやろうとしている悪のチーム。
そして、ジャイアンの大切な妹が属するチーム……

「うわああああああ!」
ジャイアンが獣のように雄たけびを上げた。



 決勝トーナメント出場チーム紹介
       (ランクは高い順にS、A、B、C、D)

№1 ジョウトジムリーダーズ   ランクA
リーダー   シジマ 
  • ジョウト地方のジムリーダーであるハヤト、アカネ、シジマ、ミカンの4人で結成されたチーム。
どの選手もジムリーダーをしているだけあってかなりの実力者である。

№2 チーム・コトブキ      ランクA
 リーダー   結城英才
  • シンオウ地方、コトブキシティのトレーナーズハイスクールの同級生4人で結成されたチーム。
無名のトレーナー集団ながら、個々の実力は物凄く高く、圧倒的な実力で予選を勝ち抜いた。
特にリーダーである結城英才の実力は飛びぬけている。将来に期待がもてるチームだ。

№3 キングス          ランクS
 リーダー   5th
  • Mr.ゼロのチーム、実力は4チーム中2番目。
非常に残酷なバトルを演じ、実力もかなり高い。
四天王に匹敵する、とまで言われているほどだ。

№4 ドラーズ          ランクB
 リーダー   野比のび太
  • トキワシティのトレーナーズスクールの同級生4人で結成されたチーム。
ブロック戦の最初の方の戦いぶりを見る限りはたいしたチームには見えない。
だがしかし、ブロック戦決勝で優勝候補のカントー四天王連合を倒すという快挙を成し遂げた。
試合ごとに選手の調子にバラつきがあり、安定感はないがその分実力もまだまだ未知数だ。
決勝トーナメントでも並み居る競合を倒し、この大会のダークホースとなれるのか? 目が離せないチームである。



№5 爆走同盟          ランクC
 リーダー   ゴウゾウ
  • カントー全土を恐怖に陥れている(自称)暴走族たちによって結成されたチーム。
普段はタマムシシティ近くのサイクリングロードで活動(通行者を睨みつけるだけ)している。
しかしたまに、ナナシマなど他の場所で暴れ回ることもある。
おもに毒タイプや悪タイプを使うのを得意としている。

№6 ナナシマ連合        ランクB
 リーダー   キワメ
  • 人がいなくなり、寂しくなってしまったナナシマにもう一度活気を与えるために出場した。
2の島で技を教えているキワメ婆さんを始めとする島中の実力者をかき集めただけあって、なかなか強いチームである。
なんといっても、大会にかける熱意は参加チームの中でもトップクラスだ。

№7 セキチク忍者軍団      ランクB
 リーダー   キョウ
  • セキチクジムのジムリーダー、キョウとその娘アンズにジムの門下生2人で結成されたチーム。
毒タイプの使い手のプロフェッショナルだけあって、毒毒などの嫌がらせ技を使うのに長けている。
Bランクといっても、AとBの間くらいの実力をもっている。

№8 フロンティアブレーンズ   ランクS
 リーダー   ウコン
  • フロンティアブレーンの4人、ヒース、ダツラ、ウコン、リラで結成されたチーム。
フロンティアブレーンの実力は、四天王にも匹敵すると言われている。
四天王と違って使うタイプも固定されていないので、間違いなく今大会の優勝候補の1人だと言えるだろう。



№9 レジスタンス        ランク?
 リーダー   フォルテ
  • Mr.ゼロたちの黒いローブとは反対に、全員が白いローブに身を包んでいる。
予選では自分たちの実力を隠すような試合をし、実力は未知数である。
チーム名の『レジスタンス』とは日本語で『抵抗』という意味を持っている。
彼らはいったい何に抵抗していると言うのだろうか?
そしてリーダーのフォルテという人物は、何故ドラーズの前に姿を現したのだろうか?
謎だらけの得体の知れないチームである。

№10 ポケモン救助隊       ランクD
リーダー   マモル
  • 傷ついたポケモンや危険な状態にあるポケモンを助けることを仕事としている者たちによって結成されたチーム。
今回は、4億円で救助予算費を増やすために参加している。
手持ちのポケモンは、過去に自分たちが助けたポケモンを育成したものである。
バトルはあまり専門ではないので、勝ち進むのは厳しいと思われる。
ちなみに彼らは、道具でポケモンをキャプチャするポケモンレンジャーとは別物である。

№11 カナズミスクール      ランクC
 リーダー   ツツジ
  • 平均年齢は大会最年少、カナズミトレーナーズスクールの講師と生徒によつチームだ。
リーダーのツツジはジムリーダーもしているだけあってかなりの実力者なのだが、他の選手たちはまだ10代前半の幼い子供だ。
今回の大会も、日頃学んだ知識をどれくらい生かせるかをためそうとして参加しただけである。
リーダーツツジがどれくらいチームを引っ張れるのか、このチームは彼女しだいである。

№12 クイーンズ         ランクA
 リーダー   9th
  • Mr.ゼロのチーム、実力は4チーム中3番目
ジョーカーズやキングスにはかなり劣っているが、1人1人がジムリーダークラスの実力を保持している。



№13 ホウエン四天王連合     ランクS
 リーダー   ダイゴ
  • ホウエン地方の四天王のうちカゲツを除く3人、そしてチャンピオンのダイゴで構成された優勝候補の一角。
今回はダイゴが長年のライバル、ワタルと決着をつけたいがために参加。
ワタルが敗れたのでその願いは叶わなくなったが、いまは純粋に優勝を目指している。

№14 シンオウジムリーダーズ   ランクA
 リーダー   マキシ
  • シンオウ地方のジムリーダーであるヒョウタ、ナタネ、スモモ、マキシの4人で結成されたチーム。
ジョウトジムリーダーズと同じく、全員がジムリーダーなので個々の実力は高い。
初戦の相手がホウエン四天王でなければ、かなり期待をすることができただろう……

№15 ポケモン大好きクラブ    ランクD
 リーダー   ポケモン大好きクラブ会長
  • ポケモンを愛し、ポケモンを生きがいとするポケモン大好きクラブのチーム。
普段はポケモンを傷つけたくないのでバトルをしないのだが、今回は『ポケモン愛』の精神を広めるために参加した。
実力はかなり低い、正直ここまで勝ち進めたのは奇跡といっていいだろう。
ちなみに、リーダーである会長の本名は不明である。

№16 ジョーカーズ        ランクS
 リーダー   1st
  • Mr.ゼロが放つ最強の刺客。
ブロック戦は、ポケモンを1体も倒されないという圧倒的な力で勝ち進んだ。
まだまだその実力は底が知れない、優勝候補の一角だと断言できるチームだ。



  #16 「挫折と成長」

試合は1時からというアナウンスが入り、選手たちは無言で部屋へ帰っていく。
ドラーズの4人も無言で部屋へ向かう、時刻はこの時10時半。
部屋に入ってしばらくすると、沈黙に耐え切れなくなったのび太が話を始める。
話題は勿論、今日開会式でMr.ゼロが言ったあのことだ。

「僕たち、本当に死んじゃうのかな……」
スネ夫が暗い顔で呟くと、静香が励ますように言う。
「大丈夫よ! だって決勝トーナメントにはフロンティアブレーンや四天王がいるのよ。
いくらMr.ゼロの部下が凄くても、彼らならきっと倒してくれるわ!」
意外にも楽天的な静香の発言に、のび太も「そうだよ」と同意するタイミングを少し遅らせてしまった。
静香ものび太も本心はスネ夫と同じ、怖いのだ。
でも仲間に心配をかけさせないため、そしてなにより死を信じたくないという自分の心が強気な発言をさせているのだ。
そしてこういうとき、だれよりも強気かつ大胆な発言をする男、ジャイアン。
彼はいま3人の会話に加わらず、黙って部屋の端っこに座り込んでいた。

「ねえ、ジャイアンのことだけど……」
「いまは、そっととしておいてあげた方がいいんじゃないかしら?」
3人がジャイアンに聞こえないくらいの大きさの声では話し、心配そうな目で彼を見る。
そんな3人の思いなど知らないジャイアンは、依然として部屋の隅から動かない。



ジャイアンはいま、とてつもなく大きな壁と戦っていた。
その壁は屈辱、不安、悲しみ、恐怖といった様々な負の感情を呼び起こす。
ジャイアンはそれにのみこまれ、いままでにない苦しみを味わっていた。
それは、人生初の挫折だった……

ジャイアンは小さい頃から腕にものを言わせ、どんなことも思うとおりにしてきた。
小さな悩みや不安があっても大して気にとめない、一晩寝たら忘れてしまう。
ときには障害が襲ってくることもあったが、持ち前の力強さで強引にねじ伏せてきた。
そうやってジャイアンは、挫折というものを味わずにいままで生きてきた。
『俺は何でもできる、俺は無敵なんだ』そう思い込んでさえいた。
でもそれは、所詮ただの思い込みに過ぎなかったのだ……

かつて自分より圧倒的に弱かったドラーズの仲間たちは、この大会中にかなり成長した。
才能はないけれど、持ち前の戦略を極めて順調に勝利を重ねるスネ夫。
トラウマを克服し、本来の実力を発揮し始めた静香。
そして秘められた才能を徐々に見せはじめ、ついにはあのワタルに勝利したのび太。
   それにくらべて自分はどうだろうか?
つい最近の戦いの記憶が甦る。
運に助けられて勝ったけれども、実力では完全に負けていたスズナ戦。
パートナーであるスネ夫の足を引っ張り、完全なる負けを喫したカンナ・シバ戦。
   そしてようやく気付いた。
いまチームで一番弱いのは自分であるということ、自分が足手まといになっているということに……

自分がチームの足手まといだという屈辱。
ついに見えてきた限界への不安。
そして大切な妹と戦うという悲しみと、恐怖。
それらがジャイアンの心に重くのしかかり、彼を苦しみへと陥れていった。



時刻は午前11時を迎えた。
戦いのときが刻一刻と近づいてくるのを感じ、ジャイアンの体が強張っていく。
ジャイ子とは絶対に戦いたくない、戦うのが怖い…… 
そんな思いが、ジャイアンにプライドを捨てさせた。
ジャイアンは仲間のもとに近づき、弱々しく告げた。

「なあみんな。 今日の試合、俺をジャイ子と当たらない場所にして欲しいんだ……」
その発言を聞いた3人は耳を疑った。
ジャイアンは当然、ジャイ子と戦うと思っていた。
俺が勝ってあいつの目を覚ましてやる! と勇ましく言うと思っていた。
だからいまの発言が信じられない、のび太が理由を問う。
すると返ってきたのは、信じられないほど弱気な返答だった。

「いまの俺はこのチームで一番弱い、足手まといなんだ。
だから俺なんかが、敵の大将であるジャイ子には勝てるはずがねえ。
……それに俺、あいつとやるのが……その……“怖いんだ”
いまのあいつは恐ろしい程残酷で、冷たくて、俺の知ってるあいつじゃないみたいだ。
大体なんで俺があいつと戦わなきゃいけないんだよ! あいつは俺の妹なんだぞ!
俺は絶対にあいつとは戦わな……」
―――言葉はそこで途切れた。

のび太の拳が、ジャイアンの右頬にクリーンヒットしたのだ。

スネ夫と静香は耳だけでなく、目も疑った。
のび太がだれかを殴るところを見たのははじめてだった……いや、のび太が人を殴ったこと自体がはじめてかもしれない。

ジャイアンは怒らない、ただ今起こったことが信じられないよいう顔を浮かべている。
自分のものより一回りも二回りも小さいのび太の拳は、いままで味わったどんな痛みよりも激しく胸に突き刺さった。



「……何……するんだよ」
ジャイアンがようやく口を開いたが、その言葉は弱々しいものだった。
「君が情けなさすぎてムカついたから殴ったんだよ、ジャイアン……」
のび太が馬鹿にするような口調で言った。
この言葉でようやく怒りが解き放たれ、ジャイアンが憤怒の表情を浮かべて立ち上がる。
だがのび太は怯むことなく続けた。
「殴るのかい? だったら殴ってみなよ?
いくら殴ったところで何も変わりはしない、君がいつまでも弱虫で臆病者の情けない男だってこともね」
のび太に罵倒されたジャイアンは、意外にもその拳をおろした。

「そうだよな……俺はただの弱虫で、臆病者の情けない男なんだよな。
やっぱりそんな俺には、妹1人救うこともできな……」
鈍い音が響き、ジャイアンの言葉が再び途切れた。
のび太の2度目の攻撃を、スネ夫と静香はただ立ち尽くしてみていた。


のび太が再び口を開いた。
「ジャイアン……以前君に言われた言葉をそのまま返すよ。
『君がそうやってグズグズしてるようじゃあ何も救えない、何も守れないんだよ!』」
今度は先程までの冷酷な口調とは違い、声を荒げていった。
ジャイアンは心に何か感じる物があったのか、その言葉に納得したような顔を浮かべる。

「そうだ、俺が勇気を出してジャイ子と戦わなければいけないんだ。
だって……だってあいつを救えるのは世界でただ1人、この俺だけなんだから……」

その言葉を聞いたのび太は、満足気な笑みを浮かべた。



ジャイアンはその後突然、座り込んで頭を下げた。
彼の土下座を、3人は生まれて始めて見た。
ジャイアンはその姿勢のまま3人に言う。
「頼む! 俺に戦術を叩き込んでくれ!
いまならまだ間に合うかもしれない! ジャイ子を救えるかもしれないんだ!」
ジャイアンの覚悟を目の当たりにしたのび太は、手を差し伸べながら彼に顔を上げるよう諭した。

いまのままではチームの足手まとい、ジャイ子に勝つことは絶対にできない。
力でねじ伏せることに限界を感じたジャイアンが選んだ道は、自分を変えることだった。
力だけで勝てないというのなら、戦略を加えて勝てばいい。
妹を救うため、ジャイアンはプライドを捨て、全てを変える決心をしたのだ。 

仲間の3人はそんな彼の考えを受け入れ、昼食を食べる暇も惜しまず彼を指導した。
ジャイアンは必死でそれを頭に叩き込み。
そしていよいよ時間は1時、決勝トーナメント開始の時を迎えた。
第一試合の『ジョウトジムリーダーズ』と「チーム・コトブキ」の試合が始まったというアナウンスが流れる。
つづく第二試合は、自分たちドラーズの試合だ。
試合の準備をしている最中、ジャイアンがのび太に告げる。
「さっきは殴ってくれて……その……ありがとな。
おかげで、ようやく目が覚めたぜ」
のび太は照れくさそうな顔を浮かべて一言、
「なあに、仲間として当然のことをしたまでだよ」と言った。
それを聞いたジャイアンは笑みを浮かべ、のび太の頭を軽く小突いた。
その顔に数時間前の苦悩の色はない、変わりにかつての自信に満ち溢れた表情があった。

―――人は挫折を乗り越えて、初めて大きく成長することができる。
仲間という強大な力のおかげそれを乗り越えたジャイアンも、きっと大きく成長したのだろう。
現に彼の顔は、心なしか前より少し頼もしく見えるのだから。



 #17 「伝説」

第一試合、『ジョウトジムリーダーズ』と『チーム・コトブキ』の試合は終盤を迎えていた。
一試合目のダブルバトルは『チーム・コトブキ』が勝利し、2試合目もコトブキ側が優勢で進んでいる。
ジムリーダーズ、シジマが最後の1匹ニョロボンを出す。
それを対戦相手、結城英才のスターミーが10万ボルト一発でしとめた。
「勝者、『チーム・コトブキ』結城英才選手!
よってこの試合、『チーム・コトブキ』の勝ち!」
審判がコロシアムに響き渡るような大声で叫び、観覧席から拍手が沸く。
ジムリーダーズに2連勝という快挙を成し遂げた出木杉たちを讃えているのだ。

「出木杉のチーム、勝ったみたいだね」
入場を待っていたドラーズのスネ夫が言った。
「この試合に勝ったら、出木杉さんたちと戦うのね」
静香がゴクリと息を呑む。
「出木杉たちと戦うためにも、ジャイ子を救うためにも、この試合絶対に勝とうね!」
のび太がみんなを勇気づけるように言う。
「よし……みんな、行くぞ!」
ジャイアンの掛け声で、4人は広いコロシアムへと歩みだした。

試合会場に近づくに連れて、どんどん4人の緊張は増していく。
決勝トーナメントの説明時にここの広さは十分理解していたはずだったのに、この巨大な会場で試合をするとなるとやっぱり萎縮してしまった。
それに観覧席にいる全選手が、悪と戦う4人に拍手と声援を送ってくる。
彼らの期待に答えなければならないというプレッシャーが、4人の緊張を高めていく。
だがコロシアム中央のバトルフィールドに到着すると、その緊張は消えていく。
4人の頭にはもう、目の前にいる敵を倒すことしか頭になかったからだ。



最初のタッグバトル、ドラーズ側はのび太と静香のペアだ。
四天王を倒したこの2人で、まず確実に一勝を挙げようという作戦である。
相手は7thと8th、キングスの中では下の2人だ。
この試合は絶対に勝たなければいけない、のび太と静香は心に強く念じる。

早速審判が試合開始を告げ、選手たちがポケモンを出す。
のび太はギャラドス、静香はブラッキー、7thはドードリオ、8thはヘルガーだ。
一番早いドードリオがギャラドスにドリルくちばしで攻撃するが、威嚇で攻撃力を下げられているのでダメージはあまりない。
次はヘルガーがブラッキーに火炎放射をしたが、特防の高いブラッキーにはあまり通用しない。
対してギャラドスはアクアテール一撃でヘルガーを倒し、ブラッキーは妖しい光でドードリオを混乱させた。
今回はのび太が攻撃役となり、静香はそのサポートを努める作戦だ。

ヘルガーを倒された8thは次にドクロッグを出した。
2ターン目、また先手を取ったドードリオは混乱で自分を攻撃してしまう。
ギャラドスはそんなドードリオをストーンエッジでしとめた。
続いてドクロッグはブラッキーに瓦割り、効果抜群だったがブラッキーは持ちこたえた。
お返しと言わんばかりにブラッキーはドクロッグに妖しい光を放つ、しかしこれは失敗してしまった。

7thの二匹目にレントラーを選ぶ、それを見たのび太が静香に目で合図する。
静香は黙って頷き、ブラッキーにまもるを命じる。
そしてのび太はニヤリと微笑み、ギャラドスに地震を指示する。
敵の2体はどちらも地面タイプが弱点、一撃でやられてしまった。
「よし、完全にこっちのペースだ!」
嬉しそうに言うスネ夫を見て、7thと8thは不気味な笑みを浮かべた。
そして彼らは、最後のポケモンを繰り出す。

「え……そ、そんな……」
口をポカンと開けて驚くのび太、おそらくいまこの試合を見ている全ての人間が同じような顔をしていることだろう。
現れたポケモンは神々しいオーラを放ち、見るもの全てを圧倒する。
―――その名はホウオウとルギア、ジョウト地方に古くから言い伝えられている伝説のポケモンだ。



「で、伝説のポケモン……ホウオウにルギア……」
誰も姿を見たことがないポケモンが、今目の前にいる。
あまりにも突然の出来事に、のび太と静香は感動にも似た驚きを隠せない。
そしてホウオウは10万ボルトでギャラドスを、ルギアはエアロブラストでブラッキーを葬り去った。
驚異的な伝説のポケモンの力に、のび太と静香は絶望する。

その後ものび太たちのポケモンは、伝説の2体を倒すことはできなかった。
のび太たちの攻撃は敵の驚異的な耐久力には通じない、その上溜まったダメージも自己再生で回復されてしまう。
切り札のカイリューとトゲキッスを持ってしても伝説のポケモンには敵わなかった。
結局のび太たちはホウオウとルギアを倒せないまま、手持ちのポケモンを全滅させられてしまった。
「勝者、『キングス』7th・8thペア!」
審判の言葉とともに、観覧席のところどころから溜息が漏れた。

「ごめん、まさか伝説のポケモンが出てくるなんて……」
のび太と静香が何度も頭を下げる、それに対してスネ夫は「気にするな」と言う。
口ではそう言うが、正直スネ夫はかなり焦っていた。
キングスに勝つためには、絶対に自分が勝たなければならない。
それも相手は、さっきのび太たちを倒したあの2人よりも強いのだ。
小心者のスネ夫は脚をガクガク震わせ、心臓をバクバクさせながらフィールドに立つ。
そして、スネ夫と6thの戦いが始まる……



スネ夫の一匹目はマルマイン、対する6thはガラガラだ。
先手を取ったマルマインは雨乞いで天候を変える。
対するガラガラは地震で攻撃する、マルマインは気合の襷で何とか持ちこたえた。
「マルマインの役目はもう終わった……大爆発だ!」
マルマインの体が眩しく光、直後激しい衝撃がフィールドを襲う。
衝撃が収まった時には、どちらのポケモンも瀕死状態となっていた。

続いて6thはバクオングを、スネ夫はオムスターを出す。
オムスターがハイドロポンプを放ち、バクオングはそれをまもるで回避する。
次のターン、先手を取ったオムスターがハイドロポンプ一撃でバクオングをしとめた。
「なるほど……オムスターを雨で強化させるためにマルマインを犠牲にしたのか」
観覧席のどこかから感心するような声が聞こえる。
オムスターは、天候が雨のときに始めてその真価を発揮するポケモンである。
弱点の鈍足は特性、すいすいでカバーされ、必殺技ハイドロポンプは雨とタイプ一致でかなり強化される。
その威力はなんと通常の2,25、効果抜群よりも上である。
特攻が高いオムスターがこれを使えば、効果抜群ではない敵が一撃で倒れるのもおかしなことではない。

6thの最後の一匹はムウマージだ。
敵はムウマージにまもるを命じてハイドロポンプを防ぐ。
そして2ターン目、敵は2ターン連続でまもるを使うという暴挙に出た。
まもるは運よく成功し、ハイドロポンプは再び失敗した。
「敵は防戦一方、大丈夫そうだね」
などと余裕そうな表情を浮かべるのび太とは正反対に、スネ夫は苦い表情を浮かべる。
「チッ。 やられたか……」
スネ夫が呟くと同時に、辺りに降り注いでいた雨が突然止んだ。
雨乞いの効果は5ターン、敵はまもるで時間を稼いで雨が止むのを待っていたのだ。
雨が止んだらオムスターはただの鈍足ポケモン、ムウマージの10万ボルト一発で倒されてしまった。
最後の一匹まで追い詰められたスネ夫は、祈るようにして最後のモンスターボールを投げた。



「え? こんなので大丈夫なのかよ……」
スネ夫のポケモンが場に現れた瞬間、ジャイアンは思わず不安を声に出してしまった。
スネ夫の最後の1匹はワタッコ、この緊迫した状況に似つかぬ可愛らしい笑みを浮かべている。
「まあ、まかせてよ」とスネ夫は後ろを向いて微笑みかけた。

素早さが唯一の先手であるワタッコは眠り粉を使い、ムウマージを眠らせた。
ちなみに、眠り粉の命中率は広角レンズによって上昇している。
そして敵が眠っている間に宿木の種を植え付け、さらに身代わりを出しておく。
後はギガドレインで攻撃し続け、敵が起きたら眠り粉。
そして敵が寝ている間に身代わりを作り直し、再びギガドレインを再開……というパターンを繰り返す。
気がつけばスネ夫のワタッコはほぼ無傷の状態のまま、宿り木とギガドレインでムウマージの体力をかなり削っていた。
「やるな……地味だけど確実に敵を追い詰めてる……」
観覧席から再び感心する声がする。
その後も眠り粉は確実に命中し、いつのまにか体力が無くなったムウマージは倒れた。
「勝者、『ドラーズ』骨川スネ夫選手!」
審判が宣言すると、観覧席から沢山の拍手がスネ夫に浴びせられる。

『なんだかそこまででもなかったな……あれが本当にホウオウやルギアを持つやつらより上なのか?』
なんて疑問もあるが、いまはとにかくこの勝利を味わっておこう。
そう決めたスネ夫は会場からの拍手に満足気な笑みを返し、フィールドを去る。
「ジャイアン、後は頼んだよ」
スネ夫がジャイアンの耳元で囁いた。

いよいよ自分が、ジャイ子と戦う時がやってきたのか……
ジャイアンは自分の胸が高鳴るのを確かに感じた。
数日前の自分なら勝てなかっただろう……でも、新たに生まれ変わったいまなら……
いまならきっとジャイ子に勝てる! ジャイ子を救える!
ジャイアンは自分にそう言い聞かせ、フィールドに足を踏み入れる。
向こう側では漆黒のローブを身にまとったジャイ子が、堂々とフィールドに君臨していた。


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