~9日27日~
「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・!」
一人の少年が息を弾ませ颯爽と町内を駆け抜ける
赤の他人が見れば陸上でもしているかと思うだろう
……しかし、この少年のゴールは自分の家の2階だった

「ドォラえぼ~ん!だすけてぇ!」
部屋に入るなり鼻水と涙を噴水のように噴出する少年
「窓から見てたけどのび太くん、ずいぶん足が速くなったね」
その少年を「またか」というような目でみつめているのは猫型ロボット、ドラえもん
「で、今度はなんだい?ジャイアンに虐められた?しずかちゃんに嫌われた?それとも――」
「これだよこれ!」
そう言ってドラえもんに一つの本を押し付ける
「・・・そういうことか」
ドラえもんが目を付けたのはその本、『コロコロ』のポケモン最新情報というぺ―ジだった
「世の中は不受理だよ、こんなに純粋な子供に少しのご褒美も与えてくれないなんて――」
……面倒なのでのび太の演説は割合しよう
「つまり、ポケモンダイアモンド&パールを買いたいけどお金がない、だから道具で何とかして欲しいと・・・」
「流石ドラえもん!話が分かる!」
さっきまでの涙が嘘のように笑顔になるのび太・・・本当に嘘かもしれない
しかしドラえもんの言葉は厳しかった
「駄目」



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「ああもう、なんでまた泣き出すんだ!」
話は再びふりだしに戻っていた
「ドラえもん頼むよ~!一生のお願いだから!」
「あのねぇのび太くん、僕は君に欲しいものを買ってあげるために来たわけじゃないんだ」
至極真っ当な事を言うドラえもん
しかしそんな理論は駄目人間代表ののび太には通じない
「だって、明日が発売日だよ?もしポケモンが買えなかったら僕は負け組みだ~!二―トまっしぐらだ~!」
「別にポケモン買えないくらいで・・・」
「いいや、これはとても重要だよドラえもん!」
もう呆れきっているドラえもんの言葉を遮りさらに言うのび太
「もしポケモンを買えなかったらみんなの話題に付いて行けなくなる、劣等感を感じた僕は学校を休みがちに――」
――やはり面倒なので割合しよう

「あ~もういい、わかったわかった」
のび太の演説が10分を過ぎた頃、ついにドラえもんが根を上げた
「やったぁ!ありがとうドラえもんソフト代はいつか必ず・・・」
しかしその青狸の返答は意外なものだった
「のび太くん、みんなを連れてきなよ僕は準備をしてるから」
「えっ、どういう意味?」
しかしのび太が聞き返した時にはもうドラえもんは机の引き出しに入っていた。



30分後、のび太の部屋には4人の客がいた
「なんだよ急に呼び出して!これから野球に行くところだったのによ!」
そう言っている大柄な少年はジャイアン、典型的なガキ大将だ
「そうだぞ、のび太。面白くなかったらすぐ帰るからな!」
ジャイアンに便乗している彼はスネ夫、狐のような性格の持ち主だ
「のび太さん、ポケモンとか言ってたけど・・・一体何をするの?」
この紅一点のオニャノコはしずか、のび太の未来の婚約者だったりする
「あと1時間後塾があるんだけど・・・面白いことをやるって聞いたからさ」
そして端正な顔立ちのこの少年は出木杉、なぜか苗字でしか呼ばれない

「よし、全員揃ったね・・・じゃあ後はドラえもんを待つだけ――」
その言葉を待っていたかのようにドラえもんが引き出しから出てきた
「みんなお待たせ!いや、交渉に少し時間がかかって」
誰もドラえもんの話を聞いていない、なぜなら全員その青狸が持っているゲーム機のようなものに注目していたからだ
「ドラえもん、その機械は何だ?」
ジャイアンが興味津々の表情で聞く
「ふふふ・・・よくぞ聞いてくれました」
不適な笑みを浮かべるドラえもん
「なんとこれは・・・2130年発売のゲーム機、「WII360」なのだぁ!」
何かが混ざったようなゲーム名だがそこは気にしないでおこう



「すごい、未来のゲーム機なんて夢みたいだ!」
出木杉が感嘆の声を上げる
「ねぇドラえもん、そんなゲーム機買うお金どこにあったの?」
「のび太くん、僕はこう見えても人脈は広いんだ」
……カッコイイことを言ってるように見えるが要は借りてきたという事だろう
「ドラえもん、それでどんなゲームをするんだい?」
スネオが聞く
「ああ、そういえば説明してなかったか・・・これだよ」
そういってドラえもんがみんなに見せたのは・・・
「ポケモンじゃねぇか!」
そう、今この場にいる全員が一番欲しいゲーム、ポケモンダイヤモンド&パールだ
「やったぁ、ダイパだぁ!」
のび太が歓声を上げる
「驚くのはまだ早い・・・このゲーム機はそのソフトの世界に入って遊べるんだ」

――沈黙

「そ、それって・・・本当にポケモンと旅ができるってこと?」
のび太が恐る恐る言う
「そういうことだね」
そのドラえもんの一言で全員がワッと騒ぎ出した
「すげぇぜ!」
「やった、流石ドラえもん!」
「本物のピカチュウを早く触りたいわ!」
「ゲームの世界に人が入れるなんて・・・未来の技術はすごいな」
「ドラえもん、早く行こうよ!」



「まぁ落ち着きなよ、ちょっと設定を確認するから・・・」
ドラえもんがルールを言っていく
  • チャンピオンに誰かがなった時点で終了
  • ゲームの中での1日は現実世界の1秒
  • ゲーム内でした怪我は現実世界に帰れば治る
  • 他プレイヤーといっしょに行動することは可能
「ルールはこのくらいで良いかな・・・それじゃ起動を――」
「ちょっと待った」
そう言ったのは出木杉だ
「ん?どうしたんだい出木杉」
「ゲームはフェアな条件でやるべきだろ?だからドラえもんのそれは卑怯だと思うんだ」
出木杉が指差したのは・・・四次元ポケットだ
「僕がポケットなんて使うわけ無いじゃ――」
「いや、あるね」
今度はスネ夫が遮る
「ドラえもんはともかくのび太が道具をせがむかもしれないじゃないか」
「確かに、それに鼠ポケモンが出てきたらドラえもんだって使うかもしれないぜ」
「この!ドラえもんはともかく僕が道具をせがむわけが・・・」
自分だけ弁解する所がなんとものび太らしい
「はぁ・・・もう分かったよ、みんなの言う事も分かったし」
結局はマジックセメントでポケットをくっつける、ということで解決した
「では、改めて・・・起動!」


こうして6人の旅が始まった



ここはマサゴタウン
うみにつながる すなのまち

「うおおおおおおおお!これがポケモンの世界か!」
「見て、あそこにいるのってムックルじゃないかしら!?」
「すごい!本物だ!本物だ!」
実際ポケモンの世界の人から見たら奇妙な発言だろう
しかしそんな事も考えず一行は騒いでいた

それを見て満足そうに微笑んでいるのはドラえもん
(やっぱりこのゲームにして正解だったな・・・)
最初はゲームをのび太に無料でやらせるのは気が進まなかったがこれなら別だ。
旅をさせるのは教育上悪くないし、のび太の運動不足解消にもなる
(それにみんなと協力することで道徳の心も身につくし目標を目指す競争心も・・・)
のび太の本当の親はドラえもんなのかもしれない

「ドラえもん、一つ聞きたいんだけど」
騒いでいるジャイアン達の方から離れてきた出木杉が尋ねる
「なんだい出木杉?」
「いや、最初の町が何故マサゴタウンなのか聞きたかったんだ・・・ゲームはワカバタウンが最初だからね」
流石秀才、目の付け所が違う
「う~ん、このゲーム機はプレイヤーが遊びやすくする為に設定を少し変更したりするからね・・・だけどキャラとかは忠実だよ」
「成る程・・・ありがとう、ドラえもん」
納得したように言う出木杉
そのとき、少女の声が聞こえた
「ドラちゃ~ん!スネ夫さん達はもう研究所に行っちゃったわよ」
「ん、そういえばポケモンを貰わないとね・・・行こうか出木杉」
そう言ってしずかの方へ走り出したドラえもんと出木杉
しかし・・・この時ドラえもん一行はある過ちを犯していたことに気付かなかった



~ナナカマド研究所~
「お、おいスネ夫。お前が話しかけろよ」
「い、いやここはジャイアンが第一声を・・・」
研究所の入り口でしどろもどろしているジャイアンとスネ夫
その理由は・・・研究所の奥の方で背を向けながらなにか作業をしている男だ
作業をしているだけなら良いのだが、その背中から発せられる恐ろしく重い空気に二人は縮こまっているのだ

「ジャ、ジャイアン、一旦出直そうよ。ドラえもんの所へ戻ろう」
「そ、そうだよな・・・あいつはこっちに気付いてないみたいだし」
そう言って出口の方向を向く二人・・・だが
「・・・勝手に入ってきて帰るのは失礼じゃないか?」
低く、重苦しい声が研究所に響いた
「くぁwせdrftgyふじこlp;」
「ママー!助けてええええええええええええええ!」
完全にパニッくってる二人を男は気にもとめず見ている
「・・・ポケモンが欲しいのか?」
男が静かに言う
「あ、いやまぁその・・・はい」
スネ夫が動揺しながらも答える
「・・・なら、さっさと言えば良いだろう・・・さぁ、ポケモンをあげよう」



「・・・へ?」
余りにもあっさりとした言葉に呆然とする二人
だが次第に彼らの顔に笑みがこぼれ始める
「や、やったぜ!遂に俺のポケモンが貰えるんだな!」
「やったねジャイアン!」
さっきの重い雰囲気も忘れて喜ぶ二人・・・と、ここで研究所に新たな来客が現れた
「失礼しま~す」
しずか、出木杉、ドラえもんだ
「・・・君たちもポケモンを貰いに来たのか?」
「はい、ナナカマド博士」
出木杉が礼儀正しく答える
「そうか5人か・・・困ったな、今この研究所には新人用ポケモンが3匹しかいないんだ」
その言葉に騒ぎ出すジャイアン達
……だが一人だけは別の部分に反応していた
「ちょっと待ってください・・・5人?」
ナナカマドの言葉を繰り返すドラえもん
そして・・・研究所をよく見渡してこう叫んだ
「の、ののののび太くんがいない!」



「みんな~!どこにいるんだよ~!ドラえも~ん!」
少年が草むらを掻き分けながら歩き続ける
その少年というのは勿論・・・野比のび太だ
「ムックルをみんなで見てたはずなのに・・・さてはみんな迷子になったんだな」
そう愚痴をこぼしながらみんなを探すのび太
……が、実際はマサゴタウンからどんどん離れていっていることを彼は知らない
「それにしても早くポケモンが欲しいなぁ・・・ジャイアンをバトルで打ち負かしてしずかちゃんに・・・フヒヒ」
どうみても不審人物だがそこには触れないでおこう。
しかし、しばらく歩いているうちに段々彼の暢気さも続かなくなってきた

「さ、流石に歩き続けるのも疲れたな・・・本当にみんなどこに行ったんだろう・・・」
息を切らしその場に座り込むのび太、彼の運動神経の無さはある意味才能だ
「もういっそここで誰かが来るのを待とうかな・・・」
そんな弱音を吐いた直後
――爽やかな風がのび太の体を癒すように流れていった

「この風・・・」
自然の素晴らしさなんて考えたことのない彼でもこの風には人を惹き付ける力があると感じた
彼がゆっくりと風が吹いてきた場所を見ると古びた掲示板を見つけた
『この先、シンジ湖』
「・・・」
暫く悩むような表情を見せるのび太
が、やがてゆっくりと吸い寄せらるかのようにその掲示板の向こうへと歩き始めた・・・



「綺麗だなぁ~!こんな湖初めてだ!」
賞賛の言葉を述べるのび太。
彼が見ているのはシンジ湖、シンオウ地方の3大湖として名高い湖だ。
「なんか不思議な湖だなぁ・・・この世界中の宝石をちりばめたような輝き・・・実にいい」
普段からは考えられない言葉を並べながら湖を覗き込む。
湖の輝きと爽やかな風、温かい日差しがのび太を包み込んでいく。
「うん・・・こんないい天気は・・・昼寝でもしたいな~・・・」
一応口では「したい」と言ってるが彼の体はもう完全に寝る体制に入っている。
「今日も1日晴天なり・・・むにゃむにゃ」
草むらで大の字になっていびきを掻き始めるのび太、もはや当初の目的を忘れている。

――そう、彼はこの世界で草むらに入るという行為がどういう意味かすっかり忘れていたのだ。

「――!」
「な、なんだぁ!?」
不意に鳴り響いた甲高い声に思わず起き上がる。

まだ寝ぼけ眼ののび太が見たものは・・・
「ム、ムックルだ・・・!」
そこにいたのはこの世界に来たときのび太達が飛んでいるのを見ていた椋鳥ポケモン、ムックル。
ただ少し違うのは・・・ムックルが目の前にいて群れで彼を威嚇していることだろう
「・・・助けてドラえも~ん!」
まさしくお約束。



一方、ナナカマド研究所では・・・

「こんな所にいる場合じゃない!すぐにのび太くんを探さないと!」
「そうね・・・野生のポケモンに会ったら大変だわ」
のび太のことを心配して研究所を出ようとするドラえもんとしずか
だが、それを快く思わないのが二人いた。
「おいおい!のび太なんて探してたらいつ旅に出られるんだよ!」
「そうだよ、どうせのび太の事だからその辺で昼寝でもしてるだけさ」
そう言っているのはジャイアンとスネ夫だ。
「二人とも、のび太くんだぞ!今頃間違いなく災難に巻き込まれてるに決まってる!」
ドラえもんが負けじと言い返す。
「んなこと言ったって――」
……と、口論が激化する寸前、あの博士が口を開いた。
「私が口を挟む問題ではないが・・・ポケモンを持ってないのに友だちを探すのは危険だと思うぞ」
その重い声にジャイアンが出かかった声を飲み込む。
「・・・だ、だけどポケモンは3匹しかいないんじゃ・・・」
しずかが恐る恐る尋ねる。
「ポケモンはいる」
ナナカマドが静かに答える
「ただ新人用ポケモンは3匹までだ・・・誰がもらうかは相談して決めるんだな」

――数分後、5人の手の中にはモンスターボールがあった
「こいつが俺のポケモンか・・・」
(ジャイアンに勝てそうに無いのは残念だが・・・まぁいいか)
「やったわ!私この子が一番欲しかったの!」
「良かったね、しずかちゃん」
「さぁみんな!早く手分けしてのび太くんを探そう!」
こうしてのび太以外は全員ポケモンを手に入れたのだった。



そして再び場面はシンジ湖に戻る
「うわあああああああああ!誰か助けてええええええええええ」
なにもかも透き通る湖の周りで鳥と戯れる少年・・・と言えば聞こえはいいが現実は違う。
半べそ掻いた少年が敵意丸出しの鳥の群れに襲われるという何とも情けない状況だった。
「くそ・・・こんな時にポケモンを持ってれば・・・ん?」
不意にのび太が走りながらも何かを閃いたような表情を見せた
(そうだ・・・確かゲームではナナなんたらのバックからポケモンを手に入れるんだ)
とことん低い記憶力を奮い立たせながら走り続ける。
(バックが落ちているのは確か湖で・・・ん?湖?)
その瞬間、彼の記憶が一気に蘇った
「そうだ、そうだよ!この湖、シンジ湖にナナカマド博士のバックが落ちてるんだ!」
そういって興奮しながら自分の足元を見るのび太。
「・・・なんで何もないんだよおおおおおおおおおおおおお!」
現実のあまりの理不尽さにその場でへたり込むのび太。
だが、そんな彼の目の前には・・・

「あははは・・・君たち何の用だい?」
散々のび太に逃げられてイライラしているムックルの群れだった

「・・・はぁ・・・逃げないと・・・」
なんとか震える足を奮い立たせ逃げようとする・・・が
「に、逃げ道が・・・」
のび太がへたり込んでいる隙にムックル達がのび太を囲んでいたのだ
そして背後はシンジ湖・・・まさに絶対絶命の状況だ。



(ゲームの世界でなんでこんなひどい目にあわなきゃいけないんだろう・・・)
ムックル達が徐々に囲いを縮めていく
(こんなことなら大人しくDSが安くなるのを待てば良かった・・・)
――群れの中の1羽がのび太に向かって飛び掛かる
(・・・ジャイアンのパンチほど痛くありませんように!)

――その瞬間、彼は自分がムックルに殺されたのではないかと思った

何も見えない、見えるのは眩い紫の光だけ・・・
だがどこか暖かなその光はのび太にやすらぎを与えてくれた
(これが天国なら悪くないな・・・)
そんな事を漠然と考えていたその時、光は少しずつ薄れていった。

「・・・ん?ここは?」
まるで寝起きのように辺りをキョロキョロ見渡すのび太
最初に見たときと何も変わらない、綺麗なシンジ湖だ
「・・・あ、あれ?そういえばムックルはどこだ?」
自分がさっきまで危機的状況だったことを思い出し慌てるのび太。
だがその慌てっぷりに答えるかのようにムックル達が高音を出しながら上空を飛翔する
「どうやら行ったみたいだ・・・それにしてもあの光は何だ――」
突然のび太が言葉を止めた。
しばらくの沈黙・・・そして

「・・・君は何?」
そう言ったのび太が見ているのは・・・シンジ湖の中心に浮かんでいるピンク色の生き物だった



~219番道路~『マサゴの浜』
マサゴタウンの特徴とも言われるこの浜辺、海の先には珍しいポケモンが生息しているらしい。

「ジャイアン、もうここにはのび太もいないし他の場所を探そうよ」
「いいや、まだだ!この俺様の勘がここにレアアイテムがあると告げているぜ!」
何も無い静かな砂浜を一人で探索しているジャイアン。
そんな滑稽な光景をスネ夫はイライラした表情で見ていた。

(くそっ、ジャイアンの馬鹿さ加減はここでも同じか)
この浜辺は現時点でどう考えてもただの通過点、スネ夫はそう確信していた。
分かりやすく転がっていたのは毒消し一つ、貴重な道具がこんな所に隠されているとは思えない
(おまけにトレーナーさえ一人もいやしない・・・みんながのび太を探してる隙にレベル上げしようと思ったのに!)
自分の計画が潰された事に思わず舌打ちをするスネ夫。
だが――
「ん?スネ夫なんか言ったか?」
ジャイアンが砂浜を漁るのを止めてスネ夫の方を振り返る。
「な、なんにも言ってないよジャイアン!そ、それよりあっちの方が怪しくないかな?」
とっさに遠くにある岩陰を指差す。
ジャイアンがしばらくその指先を訝しげに凝視する。
(ま、まさか適当に言ったのがばれたんじゃ・・・)
だがその心配は杞憂に終わる
「成る程、確かに怪しいな・・・流石、俺様の子分だ!」
そう言ってジャイアンは岩のほうへ猛然と走り出したのだ。

「・・・・・・ふぅ」
その姿が小さくなってきた時、スネ夫が小さくため息をつく
(あぶないあぶない、ここで一番重要な計画を台無しにする所だった)
そう、序盤でのセコいLv上げなんてどうでもいいのだ
「勝つのは僕だ・・・見てろナエトル、僕が馬鹿の扱い方を見せてやるよ」
モンスターボールを握り締めながら呟く彼の眼には卑屈な闘志が浮かんでいた。



~201番道路~

「のび太く~ん!いるなら返事をしろ~!いなくても返事しろ~!」
ドラえもんの独特なだみ声が草むらに響く
「そんな遠くには行っていないと思うけどポケモンも持ってないしな・・・」
元々はのび太の頼みだったとは言え、このゲームを提案したのは自分だ。
今頃ポケモンにボコボコにされているかもしれない、と思うとドラえもんの胸に罪悪感が押し寄せる。
(早く見つけないと・・・待ってろよのび太くん!)

と、ドラえもんが走り出そうとしたその時――

「わっ、何だこいつは!」
突如ドラえもんの目の前に立ち塞がったのは前歯が特徴的なポケモン「ビッパ」だ。
円らな瞳で青狸を興味深げに見つめている

「野生のポケモンか・・・こういう時はこれだ!」
そう言ってドラえもんが投げたのはナナカマドから貰ったモンスターボールだ。

そのボールから出てきたのは・・・
「ラプラス?」
ピンク色の体をしたラプラスのようなポケモン、『カラナクシ』だった。



「こいつ、ラプラスの進化前とかかな・・・。だけどラプラスは青色だし・・・」
目の前のカラナクシに色々な思考をめぐらすドラえもん。
だが、今はそんな事を考えている時間は無い。
「えっと・・・ひとまず君ができる技をあのビッパに使ってくれない?」
目の前のポケモンに命令するドラえもん。

だが、動かない

「ちょ、ちょっと!動いてくれよ!」
慌てて命令し直すがカラナクシは全く動じない。
と、そんなやりとりをしている内にビッパが遂に動き出した。
「まずい!おい、動くんだ!頼むから!」
助走を付けたビッパがカラナクシに飛び掛る――

ドラえもんは一瞬何が起こったのか理解できなかった
「な、何でビッパが・・・」
何故か飛び掛ってきたはずのビッパが逆方向に吹き飛ばされて地面に叩き付けらダウンしているのだ。
そしてカラナクシが自慢げにドラえもんの方を振り向く
「・・・ひょっとして君がやったの?」
恐る恐る聞くドラえもんにカラナクシが首を縦に振る。
「すごいじゃないか!どうやったか知らないけどすごい!」
『カウンター』を使っただけなのだかそんな事も知らずドラえもんはカラナクシを褒め称えている

――と、そこへ一人の少女が近づいてきた
「ドラちゃん、一体何してるの?」
しずかだ。
「あ、しずかちゃん。実はさっきビッパと戦ってて・・・それはどうしたの?」
ドラえもんが目を付けたのはしずかがも持っている小型の機械だ。
「ポケモン図鑑、ナナカマド博士から貰ったのよ!だけどドラちゃんったら直ぐに研究所を出て行くから・・・」
そう、ドラえもんは博士からボールを受け取るなり話も聞かず飛び出して行ったのだ
どうやら図鑑を貰ってないのはドラえもん、そしてのび太だけらしい。
「そうだったのか・・・そうだ、しずかちゃん。ちょっと図鑑貸してくれないかな?」



カラナクシ タイプ・水
みずべに せいそくする。
せいそくちの かんきょうに あわせて からだの かたちが へんかした。

「カラナクシって言うのか・・・これから宜しく、カラナクシ!」
ドラえもんの声に応えるようにカラナクシが鳴き声を出す。
「良かったわね、ドラちゃん。可愛いポケモンが貰え――きゃっ!」
不意にしずかが悲鳴を上げる。
突然、しずかの前にピンク色の影が飛び出してきたのだ。
「野生のポケモンか・・・カラナクシ、もう一回頼むよ!」
「ちょっと待って!ドラちゃん、このポケモン少し普通のポケモンと違うと思わない?」
しずかに言われて改めてドラえもんはそのポケモンをじっくり見た。
ピンク色の頭に薄紫色の体・・・頭に付いている紅の水晶のような物体
そして何よりその小柄な体から威厳のような物をドラえもんは感じた
「確かになんか妙なポケモンだね」
「それにね、この草むらにはムックルとビッパしか出てこないって確かに書いてあったわ!」
しずかが意外と発売前情報を知っているのはともかく本当にこのポケモンは只のポケモンでは無いようだ。
だが、当の本人は子供のように純真な目でしずかと青狸を観察している。
「一体どうすれば・・・そうだ!」
ドラえもんが秘密道具を出すような口調でエムリットの前に突きつけたのは・・・ポケモン図鑑だ。
(これでポケモンの正体が分かるぞ・・・)
だが、次の瞬間。ドラえもんはこのポケモン図鑑が不良品では無いかと疑った

エムリット タイプ・エスパー
かなしみの くるしさと よろこびの とうとさを ひとびとに おしえた。
かんじょうのかみ と よばれている。



「感情の神かなるほど・・・・・・って神だって!?」
「ド、ドラちゃん、『神』って事はこのポケモン、ひょっとして伝説のポケモン?」


それから暫くドラえもんは頭をガンガン両手で殴りつけていた
「僕の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、伝説のポケモンが野生で出てくるなんて有り得るか、設定も碌にできないロボなんて・・・」
「ドラちゃん落ち着いて!ね?」
自分を責めるドラえもんと必死でそれを宥めているしずか。
そしてその二人をクスクス笑いながら浮遊しているエムリットというおかしな光景が完成していた。
「ったくもう、笑わないでくれよ・・・」
エムリットを恨めしそうに見るドラえもん。

その時、少年の弱弱しい声が草むらに響いた
「はぁ・・はぁ・・お~い!どこ行ったんだよ~!」
と、その声に反応するようにエムリットがドラえもん達から離れていった。
「見て、ドラちゃん!」
しずかの指の先では小柄な少年とその影に飛び込んでいくエムリットがいた。
その少年は走り疲れたらしく直ぐその場にへたり込み、その周りをエムリットが楽しそうに旋回している。

「しずかちゃん・・・僕は目の機能も駄目になったボンコツなのかな」
「違うわ、ドラちゃん・・・確かにあれは・・・」
やがて、その少年が二人の方を何気なく見た。
少年は目を見開き、そして大声で言った。
「ドラえも~ん!しずかちゃあ~ん!一体どこ行ってたんだよ~!」
涙をボロボロこぼしながらこっちに向かって来る「伝説ポケモンの使い手」を二人は呆然と迎えることになった。