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しずかのフィールドには無傷のダークルギアとトゲキッス。
そして出木杉のフィールドには瀕死のカメックスとメガニウム。

おそらくしずかはダークルギアの範囲攻撃ダークストームでカメックスを葬るついでにメガニウムにダメージを与え、トゲキッスが止めを刺してくるだろう。
『いや、トゲキッスは神速を使うだろうから攻撃順は逆か……』
だが、逆だったところでこちらが遅いのは変わらない。

『これが、最後だ』

出木杉は意を決して片膝をついた。
「敗北する覚悟はできたようね……」
しずかがゆっくりと右手を上げる。
「行くぞ、しずかちゃん!」
出木杉は気合を振り絞るかのように立ち上がった。

『これでおしまいね』
しずかの行動は出木杉が予測したものと同じ、神速→ダークストームである。
「トゲキッス、しんそく……!」
命令を出した瞬間トゲキッスがメガニウムの体力を削ろうと神速を放つが、メガニウムの周囲に輝く粉が目測を誤らせる。
「くっ、ひかりのこなね!」
「そう、そしてこのターンの僕の強運は約束されている」
そう口にする出木杉を睨み返すしずか。
「まさか、しあわせトランプを……」



出木杉が握っていたのはのび太に渡したしあわせトランプだ。

『そう、そういうことなの!』

恐らく足元に置いて、使うタイミングを調節していたのだろう。
事ある毎に片膝をついていたのはそのためだったのだ。
手元から離れたしあわせトランプは、どんなに離れていても所有者に戻ってくるのだが、若干のタイムラグがある。
そこまで計算された巧みな戦術だったのだ。

「アクアジェットっ!」
カメックスのアクアジェットがトゲキッスに炸裂し、かなりのダメージを与える。
しずかのダークルギアのダークストームが出木杉のポケモン達を襲うが、カメックスは倒せても体力に余裕のあるメガニウムは倒せない。
「ちっ、残ったみたいね……」
「しずか、はっぱカッターだ!」
しずかと名付けられたメガニウムから木の葉の刃が放たれ、トゲキッスとルギアにダメージを与える。
その一撃がトドメとなり、トゲキッスは地に落ちた。

「見事な戦術、さすがに秀才と言われているだけのことはある……」
戦力的に劣るポケモン達でここまで善戦したのだ、憎き相手とはいえ感心する行為だ。
だが、もう出木杉に勝ち目はない。
しかし出木杉の顔は全てをやりきった達成感が感じとれた。



戦力差は決定的。
そしてしずかにはもうひとつ勝利を確信できる理由があった。

出木杉のしあわせトランプの使い方である。

「大切に使っているようだけど、後何枚残っているのかしら?」
おそらくトランプの残り枚数は一桁だろう。
枚数があればトランプを常時持っていればいいのだから。

出木杉がトランプケースからカードを取り出す。

「!!」

出木杉の手はジョーカーを掲げていた。
「これが最後だ。だがしずかちゃん、君の手駒はしっかりと削らせてもらったよ……」
そう言い終えた瞬間、出木杉の足元の足場に亀裂が入る。
しあわせトランプの最後の効果、今までの幸運に匹敵する不幸が降りかかったのだ。
「あとは頼んだよ、のび太くん……」
そう出木杉が口にした瞬間、足場がガラガラと崩れ落ちる。
そして出木杉は奈落の底へと姿を消していった。

そして、退場した出木杉と入れ替わるようにして奥から現れたのは……

「のび太くん!!」

傷つき倒れている全員が叫んだ先には、決意の目を輝かせたのび太が立っていた。



瓦礫と化した回廊、そして倒れている仲間達。
のび太としずかは、仲間達の安否を確認していく。

「ジャイアン……」
「ようやく来たか、心の友……」
ジャイアンは崩れた石壁にもたれながら親指を突き出す。

「スネ夫……」
「僕がいなくても……なんとかしろよ……」
そう言って、スネ夫は気を失った。

「ドラえもん……」
ダイゴに支え起こされたドラえもんは、激痛をこらえながら心配をかけまいと笑う。
「ボクは、大丈夫だ……しずかちゃんを……もうひとりのしずかちゃんを止めるんだ」
そう言われたのび太は、傍らのしずかに無言で頷くと横を向く。

そこには、野比しずかが立っていた。

「のび太さん」
「しずか、ちゃん……」

懐かしいものを見るような目で、しずかはのび太を見ている。
その顔は当時にいつも見せていた優柔不断な少年のものではなく、決意を秘めた男の顔だった。
『いい顔になったわね、のび太さん……』

しずかの目的はこれで果たされたともいえる。
出来杉は改心の色を見せ、のび太はこの旅で大きく成長したはずだ。

だがこうなってしまった以上、もう戻るべき道はない。
これまでの行為はのび太達に許してはもらえないだろうから……



だが、野比しずかは感傷に浸るわけにはいかない。
なぜなら、この計画における最後の障害を取り除かなければならないからだ。


それはドラえもん。


ドラえもんがいる限り、この計画は達成されないのだ。
もししずかが敗北したならば、ドラえもんはドラミの四次元ポケットを回収してこの悲しい冒険の記憶を全て消してしまうだろう。

だがそれでは意味がない。

のび太にも出木杉にもある程度の記憶を残留させなければいけないのだ。
それにはこの戦いで勝利し、こちらが先にドラえもんの記憶を消去するしかない。
『私がここにいる連中を全て打ち倒し、ドラミの道具で自分の都合のいいように記憶を部分的に消去する』
表舞台に出ざるをえなくなったしずか達の第2のプランである。

だが、ドラミは先ほどの落盤で出木杉と共に深淵に消えた。
ここからは自分ひとりで事を成し遂げなければいけない……

「君は出木杉に戦力を削られ、もう戦う力がないはずだ。降参してくれよ……」
そう言うのび太を、野比しずかは冷ややかに見返す。
「どうやら出木杉さんと二人で示し合わせたようだけど……無駄だったわね」
しずかは含み笑いを浮かべながら懐から何かを取り出す。



「のび太さんなら、これが何か分かるわね?」
しずかの手に握られた物に、のび太よりドラえもんが先に反応した。
「それは、とりよせバッグ…!!」
「そう、ドラミさんから借りていたの。これさえ使えば……」
しずかがそのバッグの中に手を入れる。

最初に取り出されたのはモンスターボール。
「戦闘不能になったポケモンの変わりや……」

続いて小瓶が取り出される。
「ほら、回復アイテムも」

最後に取り出されたのは、チェック柄の布きれ。
「下に落ちたドラミさんの四次元ポケットも簡単に回収できるのよ。まあ私じゃ望みのひみつ道具を出せないんだけど」

つまり、先ほどの出木杉の戦い全てが無駄だったということなのだ。

『以前ののび太さんなら、ここで簡単に心が折れるんでしょうけど……』
しずかの視線の先にいるのび太はとりよせバッグの存在に動揺は見せたものの、目からは希望の光は消えていない。
『強く、なったわね』
未来の夫の成長に心を揺らしながらも、今やるべき事を忘れてはいない。

「これで私が降参する理由はなくなったわね」



のび太が口を開く。
「やっぱり、戦わなくちゃいけないんだね」

野比しずかが返す。
「ええ、そうよ」

しずかの意思は変わらないようだ。
例え未来のしずかとはいえ、自分の想い人と戦うのは気が重い。

『だが、僕は負けるわけにはいかない』

のび太はゆっくりと両手を左右のポケットに入れ、モンスターボールを出す。

「ダブルバトルで、勝負だっ!」

しずかもとりよせバッグから2つのボールを取り出す。
「わかったわ、6VS6のダブルバトル。これがこの世界最後のポケモンバトルよ」

未来のしずかとのび太の間に緊張感が満ちていく。
その空気を察し、源しずかはのび太から離れた。
「お願いのび太さん、わたしを止めて……」
それはしずかだけでなく、ジャイアン、スネ夫、そしてドラえもんの願いでもある。
ドラえもんは何もできない自分に歯噛みしながら、力の限り叫んだ。

「がんばれ、のび太くんっっ!!」

その声を合図に、皆の希望を背負った少年と、全てを敵にした孤独な少女が同時にモンスターボールを放り投げた……