ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

セカンド その10

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akakami

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ジュピターが手元にある一つのボールを手に取る。
「一つ、聞いていいかしら」
「……?」
唐突に切り出され、ドラえもんの表情が少し緩む。
ジュピターは一呼吸置き、言った。
「あなたは、何の為に戦っているの?」
その言葉には、ジュピターの複雑な思いが込められていた。

それは数時間前の事――
「じゃあ、それぞれ配置について」
出木杉の指示を受け、三人の幹部は山頂から去る。
目的は、ここに来た邪魔者を排除する事。
山頂には、出木杉ただ一人が残る事となった。

三人の幹部は元来た道を戻る。
少し歩いたところで、サターンが言った。
「私はここで待機のようだ。二人は下へ」
少しの間三人は沈黙し、やがてジュピターが切り出す。
「……ねえ、サターン。さっき下っ端から連絡が来たでしょ?
後から来る筈のボスが倒されていた、って」
「ああ。やったのは恐らくデキスギだな。アイツならやりかねない」
「……じゃあ、どうしてアイツの指示に従うの?ボスはアイツに倒されたのよ?」
ジュピターが突っかかり、緊迫した空気が流れる。



「私は……私は、それでも構わない」
サターンが結論を出す。
「……そう。アンタ、昔からそうだったもんね」
マーズが表情を緩ませて言い、ジュピターを連れてその場を去る。
一人取り残されたサターンは、誰ともなしに呟いた。
「……私だって、どうすればいいか分からないんだ……」
洞窟内に、寂しげなサターンの声が木霊する。

一方、マーズとジュピターは更に下へ降りていた。
「私の配置場所はここね」
ジュピターがそう言い、マーズと向き合う。
「ジュピター、アンタはやりたくないんだろ?」
「ええ、当然」
「それじゃあさ、やらなくてもいいんじゃない?」
「え?」
少しの間、場が静まる。

「……とりあえず、ここでお別れね」
ジュピターが寂しそうに告げる。
「やだ、そんな事言わないでよ。もう会えなくなるみたいじゃない」
「……そうね、また会えるわよね」
そのジュピターの言葉が終わらない内に、目に少し涙を溜めたマーズが去っていった。
どこか不安げなジュピターをそこに残して。



舞台は戻る。
「僕達は、出木杉を連れ戻さなきゃならないんだ。
その為には、まず僕はお前を倒さなくちゃならない」
「……そう」
ドラえもんの強気な発言に対し、ジュピターがあっけなく返事をする。

(……まぁ、そんなところだろうと思っていたわ。
この青狸も……スネ夫もデキスギを倒し、連れ戻したがっている。
そして、私は――この戦いで決めるわ!)

ジュピターが決心し、ムウマージを繰り出す。
ムウマージは先程のステルスロックによりダメージを受けるが、それもほんの少し。
決意を固めたジュピターの顔に、先程までの迷いは見当たらなかった。
「おにび!」
先手を取ったムウマージのおにびがウソッキーにヒットする。
その直後にドラえもんが岩なだれを命令するも、おにびのせいで威力は減っていた。

(……くそ、このままじゃやばい)
モタモタしている間にも、ムウマージは瞑想によって特殊能力を上げている。
「くそ!岩なだれで倒せ!」
やけになって命令するドラえもん。
だが、苦し紛れの岩なだれがムウマージに当たる事は無かった。



「あら、運にも見放されたのかしら?」
ジュピターがクスクスと笑う。
しかし、岩なだれが外れたのは単にドラえもんの運が悪かったから、という理由だけではない。
(ムウマージには光の粉を持たせている。今の命中率はそれが原因ね。
でも、あの狸さんはそれに気付いていない)

苦い顔をして歯噛みするドラえもんを見て、ジュピターは薄ら笑いを浮かべる。
ドラえもんを心理的に追い詰め、焦らせるのがジュピターの目論見。
そして、それは今物の見事に成功している。
「そろそろ決めるわ!ムウマージ、エナジーボール!」
ムウマージの作り出した緑色の玉が、ウソッキーにぶち当たる。
効果抜群のそれを受け、ウソッキーは鈍い音を立ててその場に倒れた。
「あと三匹、ね」

ドラえもんの頭の中で、絶え間無く思考が巡っている。
(僕の残りは手負いのムクホークと全快状態のムウマージ、バリヤードか……。
ムクホークはダメージを受けているし、バリヤードは弱点の攻撃を受けるし……)
「いけっ!」
ドラえもんのかけ声と共に、赤いボールが空高く放たれた。



「あら、あなたもムウマージなの」
ジュピターは口元を押さえながらドラえもんのムウマージを見る。
その表情は、どこかドラえもんの行動を嘲笑しているようにも見えた。
「決めろ、シャドーボールッ!」
先手を取ったのはドラえもんのムウマージ。
必殺のシャドーボールを繰り出すが、それに当たったのはムウマージではない。
攻撃を受けたのは、交代で出てきたマニューラだった。

「マニューラ……まさか」
「そのまさか、よ」
最早交代すら無駄だと悟ったドラえもんが、力無く肩を落とす。
次の瞬間には、ドラえもんの予想通りに追い討ちが決まっていた。
「ふふ、これで後にひk……」
「まだだ!」
ドラえもんに一喝され、ジュピターがたじろぐ。
見ると。ムウマージはまだ倒れていなかった。
「気合のタスキね……」

「どんなもんだい!いけムウマージ!」
「今度こそ仕留めなさい……追い討ち!」
鋭い鉤爪を不気味に光らせたマニューラの影が、ムウマージを覆った。



その瞬間、ジュピターは目を疑った。
瀕死になっていたのはムウマージだけではない。
ジュピターのマニューラも、同様に体力を失っていた。
「みちづれが決まった!」
ドラえもんが堪らずガッツポーズを取る。

――――――――――

テンガン山頂上付近、洞窟内。
ここでは、ジャイアンとサターンが対峙していた。
「まさか、またお前とやる事になるとはな」
モンスターボールを取り出し、サターンが言う。
それを聞いたジャイアンは、過去の敗北をもろともせずにフッと笑みを浮かべた。
「へっ、あの時の借りを返せるなんて嬉しいぜ」
「……私を甘く見るなよ」
サターンがボールを放ち、フーディンが現れる。
「でも、俺は強いぜ」
ジャイアンも自信ありげに言った後、ボールを投げる。
轟く咆哮を伴い、ギャラドスがその威容を露にした。
「フン……それはこのバトルで分かる事だ」
「へへ、それもそうだな」
ジャイアンがニッと笑う。
それと同時に、サターンのフーディンが動いた。



「サイコキネシス!」
強力な念波がギャラドスを襲う。
「そんなんじゃ倒れねえ!ギャラドス、りゅうのまいだ!」
ギャラドスが体を捻り、能力を上げる。
それを見たサターンは、少し驚いた。
(前の戦いから分析すると、コイツは力技だけで押し込むタイプ……。
なのに、積み技を使ってくるとは)

「アクアテール!」
二発目のサイコキネシスを耐えたギャラドスが、その尾でフーディンを瀕死にさせる。
「くっ……先手を取られたか」
サターンが舌打ちをしながら次のボールを放つ。
嫌らしい笑みを浮かべながら、ドクロッグが現れた。
(ふふ、お前の考えは手に取るように分かる……。
ギャラドスの攻撃、効果抜群の地震でドクロッグを降す筈……)

サターンには、ジャイアンの次の行動が手に取るように分かっていた。
「ギャラドス、地震!」
「かかった!」
ギャラドスの地震が発動する前に、ドクロッグの重い一撃が長大な体を捕えた。
「不意打ち、成功……」
サターンが小声で呟くと同時に、ギャラドスが倒れる。
唖然とするジャイアンの目の前で。



「畜生!不意打ちか……」
ジャイアンが唇を噛み、悔しがる。
そしてそんなジャイアンを嘲笑うかのように、サターンが言い放った。
「ふふ、私には単純なお前の行動など手に取るように分かるぞ」
「俺の……行動……手に取るように……分かる?」
ジャイアンは少し頭が混乱しているようだ。

(くそ、何言ってやがるコイツ……。
俺の考えが分かるってことは、先を読まれてるってことか?
なんかこういうのって、胸糞わりいぜ……)
ジャイアンは暫く考えたが、観念してマスキッパを繰り出す。
いくら考えてみても、所詮ジャイアン。
この状況を打破する奇策など、考えつくはずも無かった。

「ドクロッグ、どくづきだ!」
「マスキッパ、つるぎのまい!」
両者の技が繰り出される。
マスキッパはどくづきを何とか耐え、剣の舞を舞った。
(何を今更……どうせマスキッパは次の攻撃で倒されるというのにな)
サターンは頭の中で、素早く的確に状況を分析する。
「この勝負、貰ったぞ……」



サターンが勝利を確信し、薄っすらと笑みを浮かべる。
しかし、その余裕は次のジャイアンの一言によって打ち砕かれる事になるのだ。
「カムラの実、発動しやがれ!」
マスキッパが口をもごもごと動かす。
カムラの実によって、マスキッパの素早さが上がったのだ。
「……だが!私のドクロッグは倒せないぞ」
「俺が倒せるといったら倒せるんだ!」
ジャイアンが啖呵を切り、マスキッパがドクロッグの方へ向かっていく。

(なんだ、コイツの自信は……。
ここでマスキッパが使う技といったら、主力技のパワーウィップぐらい。
なのに、何故?……いや、まさか……ッ!)
サターンが急に閃く。
そしてその閃きは、見事に的中した。
「マスキッパ、ギガインパクトだあああぁぁっ!」
「……しまった!」
凄まじい衝突音と共に、砂煙が発生する。
視界が晴れたジャイアンの目には、気絶しているドクロッグの姿があった。
「いよっしゃあああ!」
歓喜するジャイアン。
それと裏腹に、サターンは歯噛みしながらドクロッグをボールに戻した。
(危惧すべきはコイツの常識離れした戦略か……。
これでは私の読みが通じない。どうすれば……)



再びテンガン山中腹、雪原内。

「これがあたしの最後のポケモン……いけ、ブーバーン!」
「ブーバーン……ですって?」
静香が目を見開いて驚く。
今までのラフレシアといいチャーレムといい、本来マーズが使ってくるはずのないポケモンだった。
(この世界の異変に伴って生じたもの、なのかしら)

「パチリス、でんじは!」
素早さに勝るパチリスが、ブーバーンに電磁波を放つ。
ロズレイドのエナジーボールも、しっかりチャーレムの体力を奪い切った。
「麻痺なんて関係無いわ!ロズレイドに火炎放射!」
後が無くなったマーズは、必死の思いで火炎放射を命じる。
主人の思いが届いたのか、麻痺をもろともせずに放った攻撃は、一撃でロズレイドの体力を奪った。
「これでお互い、あと一匹……!」
マーズが搾り出すように言った。

(こっちはパチリス、相手はブーバーン……圧倒的に不利ね。
やっぱり、でんじはの麻痺発生率に賭けたのが悪かったかしら。
でも、あれが今私が尽くせる最善の策だったのには違いない)

静香は、ポケモンバトルにおいて運に頼る戦い方を嫌っていた。
相手に反撃の隙を与えず、確実に勝利を掴み取る……それが静香のプレースタイルだった。
そんな彼女が運に頼る戦い方を選んだということは、彼女が追い詰められている事に他ならない。



「まずはいかりのまえば!」
パチリスがいかりのまえばによって、ブーバーンの体力を半分に減らす。
静香がさっき、ロズレイドでブーバーンを狙わなかったのはこの為だ。
(次のブーバーンの攻撃……お願い、外れて!)
静香が手を合わせ、願う。

「これで決めな!ブーバーン、火炎放射!」
マーズが声を張り上げる。
だが、ブーバーンは動かなかった。
「……くそ!!」
「やったわ!」
即座に、パチリスの十万ボルトがブーバーンを襲う。
それを受けたブーバーンは、後一撃というところまで削られた。
「私が……負ける?」
マーズが虚ろな目で、目の前のブーバーンを見つめる。
そんなマーズを、静香がちらりと見やる。
「ブーバーンの次の攻撃が外れたら……私の勝ちよ」

風が、両者の間を吹き抜けていく。
それが、このバトル最後の一手の合図だったのだ。
「……あたしは信じるわ!ブーバーン、オーバーヒート!!」
マーズの力強い声色に駆りたてられたブーバーンが、最後の攻撃を放とうと試みる。
怯えるような目つきのパチリスに、しっかり狙いを定めて。



ブーバーンのオーバーヒートは、見事にパチリスを捉えた。
麻痺など、最初から無かったかのような強力な攻撃。
「よくわったわ、ブーバーン!」
マーズが勝利を確信し、喜びの表情を見せる。
放たれたオーバーヒートはパチリスに直撃し、その体力を完全に奪い切ったかのように見えた。
だが、やがて見えてくる光景は、マーズの想像を完全に覆すものだった。

「残念だったわね。私の勝ちよ」
不意に、マーズの耳に静香の声が入ってくる。
その気に食わない発言に、マーズも負けじと言い返した。
「ま、負け惜しみよ!ブーバーンのオーバーヒートを食らって立てるはずがない!」
「普通なら、そうね」
静香に即答され、マーズは目を凝らす。
すると、ようやく見えてきた。
静香の言葉の理由――きあいのタスキを持ったパチリスの姿が。

「もう一度言うわ。負け惜しみなんかじゃない……私の勝ちよ」

パチリスから十万ボルトが放たれる。
その一撃はブーバーンの残り少ない体力を奪い切り、静香に勝利を掴み取らせた。
マーズがその場に倒れ、静香はようやく安堵の溜息をつく。
「私も早く山頂に向かわなくちゃ。
私が着くまで無事でいてね、のび太さん……」
静香はパチリスを戻し、そそくさと歩き出す。
その目は、のび太と出木杉が居るであろうテンガン山山頂をしっかりと見据えていた。



再びテンガン山頂上付近、雪原内。

「お互いあと二匹、ね……」
ジュピターが苦い表情のまま、ボールを投げる。
繰り出されたのは、先程のムウマージだった。
「こっちはバリヤードだ!」

(バリヤードのとくぼうなら、こっちの攻撃は耐えてくる……。
相手にはもう一匹いるし、ここは)
「ムウマージ、めいそう!」
ジュピターの指示により、ムウマージがめいそうを行う。
「バリヤード、サイコキネシス!」
バリヤードの攻撃がムウマージを襲うも、めいそうのお陰でダメージはさほどではない。
その後、このような光景が三回続いた。

ジュピターは考える。
(そろそろ良いわね……次のサイコキネシスを耐えて、シャドーボールで一撃……)
ジュピターの頭の中には、既に次のターンの光景が浮かんでいた。
めいそうを積みまくったムウマージが、シャドーボール一撃でバリヤードを倒す光景。
しかし、それは次のドラえもんの一言によって崩れ去る事になる。
当然、そんな事は今のジュピターが知る由も無いのだが……。

ドラえもんは一瞬笑みを浮かべ、言った。
「僕はこの瞬間を待っていたんだ!バリヤード、ガードスワップ!」



「なんですって!?」
ジュピターが驚きの声を上げる。
必殺の一撃になるはずだったシャドーボールも、かなりダメージが軽減された。
「効かないよ。続いてパワースワップだ!」
二回目のスワップ技を発動させるドラえもん。
バリヤードは今、瞑想四回分の特殊能力を得ているのだ。

「シャドーボールで体力を減らして!」
「効くもんか!サイコキネシス!」
半ばヤケになって命令するジュピターだが、バリヤードにはあまり効いていない。
ムウマージは一撃の下に降された。

「……これが最後……ユキメノコ!」
ジュピターがユキメノコを繰り出し、遠い目でテンガン山山頂を見上げる。
「技の指示はしないわ……さあ、トドメを刺して」
「え?」
「もういいわ。どうせ負ける勝負だし」
ドラえもんが少し戸惑う。
だが、やがてその表情に迷いは見えなくなった。

「わかった。バリヤード、サイコキネシス……」



儚く積もる雪のように、ユキメノコが哀れに散る。
それと同時に、ジュピターもその場に倒れた。
「さあ、行きなさい。あなたは仲間を助けたいんでしょ」
ジュピターが暗い空を見上げ、ドラえもんに言う。
「……うん。それじゃあ」
ドラえもんは回れ右をして、てくてくと歩いていく。
(僕がのび太君と出木杉君を助けないと。みんなで元の世界に……)

――――――――――

ドラえもんが去った後、ジュピターは寝転びながら空を見上げていた。
雪はまだ降り続いている。
「結局、あの狸さんが正しかったのかしら」
大の字になっているジュピターが、寂しげにそう漏らす。
(負けて後悔はしてないわ……私の選んだ道だし)

やがて、バトルの疲労がジュピターの体中にどっと押し寄せてくる。
ジュピターは本能が欲するまま、ゆっくりと眠りについた。

雪は未だ降り止んでいない。
しとしとと儚げに降る雪は、ジュピターの身体を優しく包んでいった。



再びテンガン山頂上付近、洞窟内。

「ならば次はお前だ!ドータクン!」
サターンの放ったボールから、ドータクンが現れた。
「くっ、マスキッパはさっきの反動で動けない……」
「ならば散れ!じんつうりき!」
ドータクンの放ったじんつうりきが、もはや風前の灯となったマスキッパの体力を削り取った。
「戻れマスキッパ……」

「これでお互い後二匹……まさかお前がここまで私に食らいついてくるとは思わなかったが」
「何か勘違いしてねぇか?食らいついて最後には勝つんだよ!いけ、ラムパルド」
ジャイアンが次に繰り出したのはラムパルドだ。
「ラムパルド……まさか!」
サターンがジャイアンの策に勘付く。
それを見たジャイアンは、嫌らしい笑みを浮かべて言った。
「ぶっとばせラムパルド!地震だあッ!」
ラムパルドが咆哮を上げ、辺りに大きな揺れを齎す。
それは特性「かたやぶり」により、ドータクンにも効果があった。

――辺りの揺れが治まると、不気味なほどの静寂。
その静寂を赤い光が切り裂いて、ドータクンがボールに回収された。
「……まさか、この私がここまで追い詰められるとはな」
サターンがボールを投げる。
「これが私の最後のポケモン……出でよ、ポリゴンZ!」



ポリゴンZとラムパルドが対峙する。
先に動いたのは、素早さに勝るポリゴンZだった。
「十万ボルト!」
瞬間、ラムパルドを襲う電撃。
ラムパルドはそれをすんでのところで耐えた。
「今度はこっちの番だぜ!もろはのずつき!」
攻撃が決まった瞬間、その場全体に物凄い衝撃が走る。
それが、もろはのずつきの威力を物語っていた――

やがて、砂煙が消えていく。
目を凝らしたジャイアンは、あの一撃を受けても倒れないポリゴンZの姿を見た。
「きあいのタスキだ……ポリゴンZ、十万ボルトで蹴散らせ!」
「しまった!」
ついにラムパルドが崩れ落ちる。
ジャイアンは瀕死のラムパルドをボールに戻し、最後のボールを放った。
「俺もこれで最後かよ……いけ、ドンカラス!」
ジャイアンはニッと笑う。
何故なら、彼の頭の中ではすでに次のターンの光景が映し出されていたからだ。
(ドンカラスのふいうちで、俺の勝ちだ……)
もうすぐ、もうすぐで自分の勝ち。
早く勝利を掴み取りたい……その一心で、ジャイアンは指示を出した。
「ドンカラス、不意打ち!」



勝利を確信し、ジャイアンの顔に笑みがこぼれる。
だが、サターンの戦略はジャイアンの上をいっていた。
「お前の考えはわかる……こうすれば不意打ちも出来まい」
サターンのポリゴンZが悪巧みをする。
相手が攻撃技以外の技を使えば失敗する――これにより、不意打ちは不発となったのだ。
(ここからは読み合い……一手間違えればそこで終わる。
私の読みでは、あいつは次に――)
サターンは考えを巡らせる。
対して、ジャイアンも無い頭を振り絞って必死に考えていた。が……

「ああもう!考えても仕方ねえ!いけドンカラス!」
ジャイアンが痺れを切らし、ドンカラスが動く。
それと同時に、サターンも俯けていた顔を上げた。

「ドンカラス……」「ポリゴンZ……」

「つじぎり!」「わるだくみ!」



――サターンは仰向けになり、洞窟の天井を見上げていた。
頭の中で、さっきのジャイアンの言葉が反芻される。

「じゃあな!楽しいバトルだったぜ!」……

ジャイアンが勝ち、去り際に言った言葉。
何故か、その言葉は何度も何度もサターンの頭の中で反芻されていた。
「バトルが楽しい、か……」

今までギンガ団に入っていたから、わからなかった。
ギンガ団に尽くすあまり、そんな感情はいつの間にか消え去っていたのだ。
(最後の攻防……私が負けたのは偶然じゃなくて必然だったのか……。
恐らくマーズとジュピターも今頃……)

やがて、サターンの意識は飛んでいく。
天井から滴り落ちた水滴が、眠りに落ちたサターンの頬を伝っていった。


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