ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

DPその2 その12

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akakami

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夕刻。
要請を受け、シンオウ地方の地下通路に4人の男女が降り立った。
それも、ほぼ同時に。

ジャイアンが「合図装置4」を使い、彼に向かって他の人が走って行った。
スネ「何のつもりだ?」
のび「どうかしたの?」
しず「アクシデント?」
3人がジャイアンに駆け寄るなり口々に状況の説明を要求する。
ジャイアンはそれを手で制し、どっこいしょとばかりにその場に胡坐をかいた。
ジャ「なんてこたあねえ。ただ……俺達、ゲームの世界に来てから会話が少ないような気がしてな…」
他の者はやや不満の表情を浮かべたが、座った。
しず「そんな事で呼び出したの?」
ジャ「そうだ。」
ジャイアンは怯まなかった。
スネ「僕は君と愉快な対談なんてしたくない。話題なんて無いだろ。」
ジャ「まあそう言うな。ちょっと前の事なんて忘れろ忘れろ。」
スネ夫は顔をしかめ、ジャイアンから十分に離れて座りなおした。
ジャ「えーと…まずは近況報告をしようじゃねえか。」



まずジャイアンはその話題をスネ夫に振った。
スネ「……別に。シンオウ地方を満喫してるさ。」
ジャイアンはスネ夫の嫌味な言い方を極力無視することに決めたらしい。
華麗なスルーをかまして同じ話題をしずかに振った。
しず「私?…私は、ミオシティからあちこちに船旅して、ハクタイシティに行って……」
しずかが一部始終を話し終えると、ダークライを捕まえたことについて一通りの驚きがあった。
しず「のび太さんは?」
のび「僕は――あそこに行って――ここを渡って――それで、ポケモンリーグに来て……」
ポケモンリーグの一言にオーバーとも言える反応があった。
ジャイアンは歓声を上げ、スネ夫は目を見開き、しずかは口を覆う。
のび「え!?でもぼく、挑戦したわけじゃないし、挑戦する勇気も無かったし……」
のび太は想像以上の賞賛に戸惑いながら話し終えた。

のび太の一言で場がかなり盛り上がり、
少しの間4人は楽しく喋り合った。
だが全員のテンションが最高潮に達したとき、ジャイアンが急に地上に戻ってしまった。



呆然とする一同。やがてスネ夫が口を開いた。
スネ「主催者が勝手に抜けるのは良くないけど、僕には好都合だな。あいつとはちょっといざこざがあってね……
それはそうと、提案があるんだ。折角3人になったんだし、バトルしない?」
のび太としずかが顔を見合わせる。
しず「あの…対戦はいいけど、3人でどうやって……?」
しずかが質問する横でのび太が全くそのとおりだ頷いている。
スネ「簡単だ。2人対戦を3回やれば良い。」
のび太が「僕も考えてたよ、それ」と言う一方でしずかは渋い顔だ。
しず「何匹でやるつもり?私は6匹フルで戦えるけどのび太さんは多分ポケモンが足りないわ。
それから回復はどうするの?傷薬が足りなかったりして……」
スネ「一回の戦いで使うのは2匹だけだよ!」
しず「……ふーん。成程、良いかもね…私はやってもいいわ。のび太さんは?」
聞くまでも無い、とスネ夫は思った。
のび太はしずかに気味の悪い笑顔を向けて「えへへ……いいよ」などとほざいている。
別にしずかの意見に同意したからと言って好いてもらえる訳でもないというのにだ。
対戦に出すポケモンを選び終えたスネ夫は二人を見比べ、ぽつりと言った。
スネ「普通に考えてこいつ等が結ばれることなんて誰が考えただろうな……
ドラえもんが上手く立ち回らなきゃタイムマシンで見た未来の結婚式が現実のものになる確率は無いぞ。」



1回戦はのび太VSしずか

のび「相手がしずかちゃんでも容赦しないぞぼくは。レッツゴー!ヒードラン!」
ズシン、と腹に響く音を立てて地面に着地したヒードラン。
予想を遥かに上回る敵の登場でしずかは息を呑む。
のび「ぼくの手持ちで最高に強いポケモンさ。相手が君ともなれば躊躇していられないからね。全力でぶつかるだけだ!」
のび太の台詞が終わるのを待ち、ヒードランも溶岩の弾けるような唸り声を上げる。
ちなみに、彼の脳内ではポケモンの実力が しずか>スネ夫≧のび太 とランク付けされている。
しず「パチリス、弱らせなさい。電磁波」
のび「撃たせるなヒードランッ!!」
地面から無数の火柱が上がり、パチリスを物の見事に戦闘不能にした。
のび「大地の力さ。これを避けることは不可能に近く、そしてその威力は―――」
しず「ルカリオ、ボーンラッシュ。」
金属の割れるような音が響いたかと思うと、ヒードランが映画の主役にもなったポケモンに倒されていた。
しず「電磁波を恐れるのはそのポケモンが地面タイプで無い証拠よ。戦闘中に大声で慌てるのは控えた方がいいと思うわ。」
何てこった、と力が抜けたのび太。
しずかちゃんはあの一瞬でヒードランのタイプを見抜いたのか……強いとは思っていたけど、勝負あったかな……

その後のび太はエテボースを出し、ルカリオを先制のダブルアタックで沈めようとしたが、
威力が足りなかったのかルカリオの防御が高いのか、体力を僅かに残して耐えられてしまい、
のび太にとって初めてお目にかかる技、はっけいで止めを刺されてしまった。



2回戦、スネ夫VSしずか

早くも、しずかはフワンテ、スネ夫はビークインで試合が始まった。
しずかのフワンテの風起こしがビークインに何度も命中し、スネ夫が珍しくそれを我慢している。
しばらくしてビークインが3回目の回復指令をした頃、スネ夫の頭に電球が付いた。
スネ「……ようやく分かったよ。君のポケモンの変な戦略。
毎ターン風起こしと共に回避率が上がっているのが目に見えて分かったけど、
どうやらその原因はフワンテが風を噴き出すときに体をしぼませた事みたいだね。」
しずかは表情を変えずにスネ夫を凝視している。
ある意味では怒った顔より怖い。
スネ「……で、つまり君のフワンテは『風起こし』と『小さくなる』を同時に使ったわけだ!…違う?」
しずかが余りにだんまりを決め込んでいるのでスネ夫は徐々に自信を無くしていったようだ。
しず「大体正解よスネ夫さん。やっぱり流石にやり込んだ人は違う。
ジムリーダーにすらこの技の組み合わせは見破れなかったのに。」
踏ん反り返るスネ夫。
スネ「そうだろ?そしてトリックを見破った所でそのポケモンは終わりだッ!!」
ビークインが引っ込められ、ムクホークが飼い主譲りのリーゼントで威嚇しながらボールから飛び出した。
スネ「行けえ!!燕返し!」
フワンテは避ける事を考える暇も無く切り裂かれた。

その後の戦闘中、しずかの顔は偶然かわざとか前髪の陰になっていた。
ただ、スネ夫はそんな事に気を配る暇は無い。
必死で育てた自分のポケモンがしずかの切り札に次々に滅ぼされているのを目の当たりにしたせいで、
他のことなど考える余裕は無かったのだ。



3回戦、のび太VSスネ夫

両者特に言葉を交わさずポケモンを戦わせていた。
スネ「キルリアマジカルリーフ。」
敗北のスネ夫は三つ目のウミウシなど見る気もしないのだろう。
鼻を摘んで指示を出し、のび太のトリトドンに反撃の余地すらない正確な攻撃を当てて見せた。
のび「スネ夫はやっぱり強いな。だけど僕だっていつも負けてばっかりいられない。エレブー頼んだ!」
一段と強さを増したエレブーがボールから元気良く飛び出した。
のび「10万ボルトォ!!」
耳をつんざく大音響が地下通路にこだまする。
巻き込まれまいと顔を腕に埋めていたのび太はどうだとばかり得意気な表情で顔を上げ、キルリアの倒れた姿を探した。
スネ「10万ボルトみたいな直線的な攻撃はテレポートでかわすのが僕の戦闘の醍醐味。サイコキネシス!」
背後から飛んできた念波でエレブーの体が硬直する。
スネ「そのまま、緩めるなよ…吹き飛ばせ!」
強力な念力で腕と足をあらぬ方向にはためかせながら宙を飛び回るエレブー。着実にHPが削られていく。
のび「電撃波は忘れさせたんだった………えーい!10万ボルト!10万ボルトーーーッ!!」
電撃はキルリアに当たるどころかのび太を撃ち抜いた。
のび「ぅ…ぐあは……」
無様にも仰向けに地面に倒れ、痛みに手足を丸めてうずくまるのび太。
のび「ドラえもん………助け……」



スネ「終わったか。しずかちゃーん!」
スネ夫は試合に出すポケモンのカンニングを防ぐ為離れた場所で待機していたしずかを呼ぶ。
スネ「試合は終わった。もう来てもいいよ。」
しかししずかは来ない。代わりに叫び声が聞こえた。
しず「まだ試合は終わっていないわー!ここからでものび太さんのポケモンの息遣いが聞こえるもの!」
面倒だな、とスネ夫は振り返った。確かにのび太、エレブー共に戦闘不能には陥っていない。
――ただ、どちらも息が上がり、今にも卒倒しそうだ。
スネ「まだ戦うつもりか?しつこいぞ。サイコキネシス。」
再びエレブーを襲う念力。
苦しむエレブー。だがのび太はかえって目が覚めたようだった。
のび「……放電!」
さっき以上のやかましい電撃が広範囲に渡って放出され、キルリアは勿論のび太とスネ夫も電撃の餌食となった。
スネ「が…うがあ……ごごっ……」
のび「……んぐっ…」
辺りの黄色味を帯びた光が消えたとき、キルリアとそのトレーナーはうつ伏せに横たわっていた。
のび「さァ……最後のポケモンを…出せ!!」

スネ夫の最後のポケモンはポッタイシ。勝負はポケモンが出揃った時から決まっていた。
まもなく、あわれにも先制の10万ボルトが直撃したポッタイシがスネ夫のボールに帰っていった。



ゲーム内ということでのび太とスネ夫の電撃のダメージは数分後に消えた。
だが、スネ夫の心の傷は深かった。

しず「最終結果は私が2勝、のび太さんが1勝1敗、スネ夫さんが……2敗になったのよね?」
のび「まさか僕が誰かに勝てるとは思わなかったよ!」
スネ「全くだ。まさか僕がのび太なんかに負けるとは誰も予想してなかっただろうよ!!」
スネ夫はまた他の人と距離を取って座っている。
時折わざとらしい歯軋りや荒々しい鼻息が聞こえる。
しず「のび太さん、そっとしといてあげましょう。」
のび「……そうだね。僕達は離れた場所に行こうか。」
小声で打ち合わせ、こっそりその場を後にしたのび太としずか。

のび太は解散するにはまだ早いと言ってしずかを通路の袋小路に連れ込んだ。
この状況にしずかも若干身の危険を感じずにはいられなかったが、
相手がのび太なら何かしてきても力ずくで振り払えると考え、大人しく従った。
のび「お願いがあるんだ……その、エレブーを何かと交換してくれない?」
事のいきさつはこうだ。
チャンピオンロードでポケモンを育てていたのび太。
手持ちポケモン5匹の中で唯一最終進化系に達していないと言うことでエレブーを重点的に育てていた。
だがいくら育てても進化する気配が無い。のび太はエレキブルを使いたかったのだが、
エレブーからの進化条件が分からない以上やむを得ず進化を諦めた。
しかし、中進化ポケモンはどう足掻いても最終進化ポケモンと能力の差が出る。
トレーナー戦を経てそれに気が付いたのび太はエレブーを手持ちから外し、
その見返りとしてもっと強力なポケモンの獲得を目論んだのだった。



のび「というわけで…何でもいいから(しずかちゃんのポケモンならみんな強いだろうし)エレブーと交換して?」
頭を下げ、そのくせ上目遣いで甘えた顔つきをするのび太。
しずかは少し考え、
しず「いいわ。ルカリオと交換よ。」
承諾した。

ルカリオがしずかを恨むような目で睨み、エレブーが寂しそうな目でのび太を見つめる中、釣り合わない取引が行われた。
のび「おお!来た!よろしくルカリオ!!」
妙にテンションを上げているのび太を尻目にしずかは何やらバッグをごそごそやりはじめている。
しず「あった!エレブー、これを持って。」
しずかはバッグの奥深くに詰め込まれていた黄色い箱型の道具をエレブーの手に押し付けた。
のび太がそれに気付き、好奇心の目つきでちらちらとそれに目を走らせている。
しず「(これでよしと……)のび太さん……本当にごめんなさい!
性格が戦闘向きじゃないからこのエレブー受け取れないわ!!」
しずかは芝居がかった動きでエレブー入りのボールをのび太に差し出した。
のび「ええ~!!そんなあ!ちえっ……結局元通りか……」
本当の主人の下に帰ることが出来てポケモンたちは喜びを隠しきれない。
しずかも独り笑みを浮かべ、のび太が自分の計略に気付かない内に袋小路から出た。

背後からのび太の狂喜する声が壁に反響して不気味に響きながら追ってくる。
しずかの呟きもそれに加わった。
しず「あのエレブー…今となってはエレキブルだけど……野生で性格が意地っ張りなんて事早々あるものじゃないわ。
是が非でも大切に育てなきゃ。ちゃんと捕まえた人によって…ね。」



のび太としずかはスネ夫に背を向けて袋小路に入り込んだ訳だが、
そうすると、袋小路から出たしずかは未だ敗北を嘆くスネ夫の所に戻って来てしまう。
スネ「くそう……のび太の奴…最終進化ばっかり使いやがって………僕だって進化させれば……」
しずかが気付かれないように足音を忍ばせてスネ夫の視界から消えようとすると…
スネ「攻略サイトによれば、♂のキルリアは目覚め石で新ポケモンに進化するって書いてあったけど……
そんな石このただっぴろいシンオウ地方で見つかる訳ないだろ!!ゲーフリめえぇ!!」
しずかの足がぴたりと止まる。
するとスネ夫がしずかに気付いた。
スネ「ああ、しずかちゃんか。……あのさあ、何処かで…その、『瞳のような眩い石』を拾わなかった?」
しずかはまたバッグを漁り、首を振った。
だがその手はまだバッグの中で、キトサンというラベルが張ってあるビンを引っ張り出していた。
更に、口では他愛の無い会話を繰り広げながら、スネ夫に気付かれないよう蓋を開け、
ポケットから出した『瞳のような眩い石』をその中に入れた。
仕上げに後ろ手で蓋を元通り閉めながらスネ夫に最後の言葉を投げかけた。
しず「珍しくてもきっといつか見つかるわ。じゃあスネ夫さんのキルリアの健康を願って乾杯と行きましょう。」
スネ「え?それ……キトサン?くれるの?ありがとう!!」

格好良くその場を立ち去るしずかに進化の音が聞こえてきた。
しず「テンガン山で目覚め石を拾っといて良かったわ。
やっぱり人を喜ばせるのは意外と気持ち良いものね。まあこっちにも収穫はあったけど。」
しずかがまだ新しいモンスターボールを見つめると、ボールの中のフワライドが見つめ返した。



辺りはすっかり闇に包まれる……そんな時刻の少し前。
のび太が地下通路から飛び出して着地したところは、224番道路。特に何も無い道である。
のび「そろそろポケモンリーグに戻らなきゃいけないだろうな……ドラえもんの為じゃないぞ。回復のためだ。」
チャンピオンロードに戻る道すがら、のび太は不機嫌なブツクサ声を所々に落としていた。
補足すると、のび太が腹を立てているのはついドラえもんのことを考えてしまう自分自身だ。

例によって例のごとく、チャンピオンロードでは来るときに気付かなかったトレーナーに声をかけられ、
その都度マンネリ化した戦闘を繰り返しながらのび太はノロノロと城側の出口を目指す。
そんな中どうも戦いという雰囲気とは違う少女が対戦を申し込んできた。

最近ののび太には珍しく、惨敗した。
少女は言う。
マイ「あんた……悩み事があるのが分かる。だから負けた。………良かったら話を聞いてあげてもいいよ。」
何故か、話を聞いてくれることが今ののび太にとってとても嬉しい事に感じられた。
近頃ののび太は一人での決断が多かったからであろう。

それから小1時間、のび太は脳みそを振り絞って彼女に今までの事を話した。
話し下手で聞き下手なのび太だが、この少女は話し下手でも聞き上手だった。
話し終わってまもなく、マイがのび太の気持ちまでも要約して見せた。
マイ「つまり、あんたは……そのドラえもんという人に攻撃して……反省して…それだけで決別したわけ?」
のび「うん……」
自分とこのマイという少女とはドラえもんの姿のイメージがかなり違っているんだろうな。
のび太はそんな事を考えていた。



マイ「じゃあ何であんたは今…ポケモンリーグに行くの?」
のび「え?だってそれは……」
マイ「ドラえもんって人さ…実力の見合わない人と戦わせられて今頃大変だろうね。」
のび「そりゃそうだけど………」
鈍いのび太でなければこの会話の結末がこの時点である程度予想が付く。
マイ「ポケモンの回復なら……あたしがやってあげても良いよ。こう見えても薬、いっぱい持ってる。」
そう言ってマイはのび太のエレキブルのボールを奪い、勝手に回復を始めた。
慌ててのび太はボールを取り返す。
のび「い、いいよ別に!リーグの中のポケセンはただなんだから。わざわざ高額な薬使って回復すること無いよ!」
マイの目元、口元が歪み、今にも笑い出しそうなことにものび太は気付かない。
マイ「今ポケモンリーグに行ったらきっとドラえもんって人がいるよ……あんた達、気まずい関係じゃなかった?」
のび「う……でも…でも、僕だってちゃんとしたところで休みたいし……」
マイ「確実に………鉢合わせすると思うよ。それでもいいの?」
遂に沈黙するのび太。
マイ「………行って来なよ、ポケモンリーグ。そんなに行きたいんだったらさ。」

洞窟から駆け出すのび太の背中にマイが声をかけた。
マイ「慰めてあげなよ。きっとその人、負けて悔しがってる。」



暗闇を突っ切ってのび太は走る。
途中で何かにぶつかったような気がするが何とも無い。
今の彼の興味はドラえもんただ一人。何者も気を逸らせることは出来ない。

チャンピオンロードから出てもその勢いは止まらなかった。
トリトドンの首にしがみついて大滝も少しずつ登り、髪が頭皮に張り付いてオールバックの状態でリーグのドアの前に立つ。
のび「ハア……ハア…やっと来ることが出来た。………踏ん切りがついた。」
もうシグナルビームの件なんてどうでもいい。僕はドラえもんに会いたい、それだけのことだもの。
ドラえもんが許してくれなくてもぼくは気にしない。
いや、これまででドラえもんが僕のしたことを許さないことなんて無かった。
いつもいつも、喧嘩してもいつの間にか普通の関係に戻っていた。そう、普通の関係に……友達に。
今度は許されるんじゃない、僕が謝るんだ!!

城の中は、ポケモンセンターの中は静かだった。
人が沢山いるのに静かだった。そしてその沢山の人はみんなカウンター付近に集まり、額を寄せ合っている。
誰かが僕に気付く。すると皆が一斉にこっちを向く。誰かがこっちに来る。
折角の期待がどんどんしぼんでいく……何でだろう。嫌な予感が、凄く嫌な予感がする。

「失礼ですが、あなたはドラえもんという方をご存知ですか?」
「はい…」
「彼の友達ですか?」
「はい…」
その人は後ろの人たちと目配せした。
「大変……申し訳ございません。ドラえもん様は、当ポケモンリーグの敷地内で行方不明になりました……………」



のび太は詳細を聞く気にもなれなかった。謝罪を受け入れたくも無かった。
ただ回れ右してポケモンリーグから出てとっぷりと暮れた夜に夢遊病者の如く歩き出た。

マイを探したのか、のび太の足は自然とチャンピオンロードへと赴く。
だが気を逸らせてくれるものなど何も無い。のび太の足は止まることなく、再び224番道路に辿り着いた。
ここなら誰も見ていない。そう思うとのび太の目から自然に涙が流れた。
のび「僕が……僕がドラえもんを追い立てたばっかりに……!!」
のび太の心が折れると共に膝も折れた。
地面に突っ伏して自分自身を殴る。拳が擦り剥けてもまだ殴った。
ドラえもんが消えたことの悲しみ、
ほんの少しのことを気にしてドラえもんと決別したことへの悔やみがのび太の拳を止めさせない。
今になって思えば、ドラえもんに伝言を残して勝手に旅立った時もドラえもんの事が頭を離れなかった。
常に追跡されている。なんて妄想もしてドラえもんがずっと付いてきていると思い込もうとした。
小部屋に閉じ込められた時にもその場に居もしないドラえもんを頼っていた。
ついさっきだってスネ夫に負けかけてドラえもんが助けてくれると信じていた。
結局、僕は独りで旅をしていてもドラえもんを求めていたんだ。
それなのに、僕は勝手に一人立ちを決め込んでドラえもんを突き放そうとしてた。
その挙句がこれだ。
ドラえもんはデータ管理されているゲームの中で行方不明。ゲーム側に不備があったとしたら探しようも無い。
のび太は戒めの拳骨を停止させた。
大したパンチ力を持っていない以上これ以上ひっぱたいても意味が無い。
償いの道は唯一つ。ドラえもんと同じ所に行こう。
のび太は覚悟を決めた。



突如邪魔が入った。道の向こうからオーキド博士が息を切らしながら走ってきたのだ。
オーキド「のび太くん!待っておったぞ。手紙を残しておいたのになかなか来ないもんじゃから……」
のび太はハクタイのオーキドの家で見つけた手紙をバッグから掘り出した。くしゃくしゃだ。
オー「224番道路に来て欲しいと書いてあったじゃろう……ともかく、こっちに来てくれ。」
オーキドはのび太を岬の方へ連れて行った。
今までそこに行った事が無いのび太だったが、ドラえもん以外の事に興味は持てない。
岬に着いた。すべすべの白い岩がある。
オー「この石碑を見てくれんか?カントー地方でも同じものが見つかったのでな。君の力を借りたいのじゃ!」
のび太は身じろきもせずオーキドの話を聞いていた。
オー「どうやら石碑に書かれていることを調べてみると、大人のトレーナー入りをしたトレーナーの
ありがとうという思いを刻むらしい。そこで、君の力を借りたいのじゃよ。
たくさんの人やポケモンと出会い、たくさんの経験をしてきたことじゃろう。今の気持ちを素直に言えばいいのじゃ。
さあ!君がありがとうと伝えたい相手は誰じゃ?」
たくさんの人やポケモンと出会ったってのび太が石に刻む名前は変わるわけではなかった。
冒険の途中幾度と無く力を貸してくれた生涯の友人の名前を石に刻んだ。
その人にもう会えないかもしれないと思うとのび太の目からまた涙がこぼれ、石に滴った。
オー「ふむ……君がありがとうと伝えたい相手はドラえもんじゃな。本当に良いのじゃな?」
のび太は涙声でやっと「はい」と言った。


辺りが光に包まれた。



気が付くとのび太は花畑の中に立っていた。オーキドもいる。
「きゅうう ううん」
変なポケモンが近くにいる。のび太が見つめるとそのポケモンはいつの間にか海に伸びていた道に逃げ出した。
オー「なんじゃ今のポケモンは?この石碑と関係あるのか……ふむぅ………
今のポケモンが行った先に何があるのか気になるところじゃのう。」
のび太はやっと気づいた。花が急に咲き乱れたがここはさっきと同じ場所だ。
そして、一時だけドラえもんのことを忘れ、のび太は海われの道に走り出した。

シェイミを追いかけて海われの道を走る、永遠ともいえる時が過ぎ、
のび太は四方八方花畑の『花の薬園』にたたずんでいた。
シェイミはもう逃げていない。花にうずもれてのび太を見上げている。
のび「ドラえもん……シェイミ、君はいったい何を………?」
シェイミは無垢な顔でのび太を見つめるばかりだった。
のび「ありがとう…………か。忘れてた。ドラえもんを追うんじゃない。もっと先に伝えなきゃいけないことだった。」
のび太はまっすぐシェイミを見つめ返した。
のび「まずは君にありがとうを言わなきゃな。思い出させてくれて……ありがとう。」
シェイミはまた「きゅうう ううん」と鳴いただけだった。

のび太はシェイミを抱いて花の楽園から戻った。
岬のところまで戻ると自分が石に削った『ドラえもん』の文字が目に入った。
のび「ドラえもん……これまでありがとう。それに、これからもずっとありがとうって言わせて。すぐに探し出すから。」



ドラ「今誰かが僕を呼ばなかったかな……?」
辺り一面の暗闇。ここは謎の場所だ。
ドラ「何でこんな所に…これもリーグが課した試練なんだろうか?」
ドラえもんは手探りで一歩一歩歩を進める。ビーダルは既にボールの中だ。
何の前触れも無く手が壁に当たった。波乗りで放り出されたゴヨウの部屋の壁だ。
しかしドラえもんにはそれが分からない。何も見えない恐怖と戦いながら壁伝いに蟹歩きするのがやっとだった。
部屋の隅で直角に曲がると、ドラえもんの足に何かが当たった。
何かの毛のような感触だ。ドラえもんはさらに青ざめ、恐怖に耐えかね…
ドラ「ぎゃあああああああああああああ!!!」
無防備にも走り出した。
しかしその音速ダッシュも長くは続かない。女の声に呼び止められ、強制的に止まらせられた。
何か話しているが自分の出す喚き声で聞こえない。
そのうちおじいさんの声も加わり、勝手に足が前に動いた。
ドラ「死にたくなあああああい!!!」
絶叫むなしくドラえもんは何処かに連行された。

のび「ドラえもん待ってろ。今見つけるから……!!」
力強い足取りでのび太は――もう3度目になるが――ポケモンリーグに向かっていた。
が、その足も一瞬で固まった。リーグから出てきた人に目を奪われたのだ。
のび「ドラえもん……………」
ドラ「のび太くん……………」
何も考えず、何も準備していなかったが2人は再会の喜びに抱き合った。
詳しい話は後でいい。ひとまず今はお互いの気持ちが何日か振りに同調したこと、また会えた事の喜びを噛み締めよう。
城の前で抱き合う2人。同性な事を除けばこの上ないロマンチックな情景であった。


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