ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

挑戦者 その13

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ラクレとリアは祭りから離れ、とある岩山に着く。
「……おい!いったい何なんだよ!?」
リアはそう叫ぶとラクレの手から逃れる。
「レースに出てよ」
そうラクレが言うと、リアは眉を吊り上げた。
「だから、僕はもう諦めたって」
「リアって昔からポケモンが好きだったよね」
ラクレはリアの言葉に割り込んで話し出す。
リアは首を傾げながら頷く。
「だったら諦めないでレースに出なさいよ。
 ずっとレースに参加するのを楽しみにしていたじゃない」
するとリアは慌てだした。
「な、何でそれを知ってるんだ?」
「わかるわよ。ずっとそばにいたんだもの」
ラクレは小さくそう言った。

「なぁ、これ見ていて楽しいか?」
ハヤトは岩陰からユリに聞く。
岩のものまねをしているユリから返事は無い。
「……おい。ユリ。
 等間隔に穴が開いた岩なんてないぞ?」
「うるさいなぁ。穴が無きゃ前見えないし音もきこえないし息もできないの!」
傍目から見れば岩がしゃべっているようだ。
もちろんそれはくぐもったユリの声だったが。

「……なぁラクレ。まだ間に合うかな」
リアは〔監視されているなどと露知らず〕話を続けた。
ラクレははっきりと頷いた。
「もうすぐみんな来るわ。ここがレースの始まる岩山だから」



時がたつにつれ、空の雲が分厚くなっていった。
人々の祭りの騒ぎが一層大きくなる。
レース参加者も岩山に集まってきた。
おそらく他の岩山や塔の下でも、準備が始まっているのだろう。
その騒ぎに乗じて、ハヤトとユリは岩陰から姿を現す。
暫くすると二人のもとにリアが駆けてきた。
「僕、レースに参加することに決めました!」
リアは明るく伝えてきた。
「そう!それはよかったわね!」
何事も無かったかのように明るく激励するユリ。
ハヤトはその姿に、何か得体の知れない恐怖を感じるのであった。

雲は厚みを増していく。
一般人もレース開始の場所に集まってきた。
そんな中、レースの関係者が大きな檻を持ってくる。
「「レース参加者のみなさん!
  まもなくレーススタートです。ここに集まってください!」」
関係者はメガホンで叫ぶ。
参加者200余名は指示通り、集まってきた。
「「これより、レースを開始します」」
観客たちも、レース参加者たちも途端に盛り上がる。
その声が冷め遣らぬうちに、檻の扉が開けられる。
レース開始を告げる号砲。
それと共に檻から大量の飛行ポケモンが飛び出してきた。



「ようは、この中からポケモンを捕まえろってことだな!」
ハヤトはそう言うと他人と共にポケモンの群れに飛び込んだ。
ユリもそれに続く。
飛行ポケモンたちは次々と捕らえられ、何羽かは既にレースに飛び出していた。
ふとハヤトの目にリアの姿が飛び込んでくる。
どうやらポケモンを捕まえることに四苦八苦しているようだ。
ラクレが遠くから心配そうにそれを見ていた。
エアームドやオニドリルたちが、無情にもリアを掠めて飛んでいく。
もうそろそろ出発しなければならない時なのに。
ん!?――と、ハヤトの視点は切り替わる。
突然ハヤトの目の前にスバメが飛び出してくる。
ハヤトは急いで手を伸ばし、スバメを捕まえてメールを縛った。
スバメが大人しくなり、ハヤトは思わず「よし」と声を出す。
すぐにマイクとカメラも取り付け、マトマの実をくわえさせる。
「スバメ、まずは北の岩山に向かうんだ!」
ハヤトはスバメに伝わるマイクにそう指示を出す。
ポケモンたちの姿は町の大型モニターでも見える。
だが、トレーナーたちには当然見えない。
なので大概のトレーナーはレース関係者からスクーターをもらっていた。
スクーターを起動すると、ハヤトは僅かだが宙に浮く。
やがてスクーターはスバメを追って走り出した。



「お、おぉ、速えぇ!!」
ハヤトは風に吹き付けられながら感激していた。
スバメはハヤトより少し前を飛んでいる。
速いが、その姿ははっきり見受けられた。
暫くすると先頭のトレーナーたちとポケモンが見えてくる。
ハヤトはハッと気づいて、マイクからスバメに指示を出す。
「スバメ、でんこうせっかで攻撃しろ!」
するとハヤトの思った通り、スバメは一瞬高速で動いて目の前の相手を叩き落す。
降ってきたポケモンで、トレーナーたちは慌ててしまい、スクーターが転落する。
潰れたマトマの実が飛び散り、凄惨な光景のように思わせた。
「やっぱり、攻撃できるんだな」
転倒した参加者たちを追い越しながらハヤトは笑っていた。
風がヒュウヒュウ鳴り、体にぶつかってくる。
それでもスクーターは動じない。
それどころか、しなやかに当たる風が心地いいくらい。
地形はあまり変化しなかったが、だんだんと北に近づいている。
「!!あれだ!」
ハヤトは気づいた。
目の前に輪が立っている。
あれを通っていくのだろう。
「スバメ!輪をくぐれ!」
スバメの小さい体は、輪を悠々とくぐりぬける。
ハヤトはその後を追っていく。

「はぁ、はぁ、やっと捕らえた」
リアは息を切らし、それでもにやりと笑う。
「リア!頑張って!」
ラクレの応援がリアの耳に飛び込んでくる。
「あぁ……行ってくるぜ!!」
すっかり豹変した声色だけを残し、リアは駆けていく。



ハヤトは東の輪も通り抜け、南へ向かっている。
スバメが通り抜ける岩陰。
ねむりにつく飛行ポケモンを追い越し、スクーターが駆けていく。
おいぬいたポケモンはその音で目を覚ましキョロキョロしていた。
「だいぶ慣れてきたな!」
ハヤトは確かな感覚を掴んでいた。
だが
突然後方から何かが飛んでくる。
今までのポケモンより数段上の速さで。
ハヤトはそれがまっすぐスバメに向かっていることに気づく。
「避けろ!スバメ!」
叫びはスバメに届いた。
翼を傾け、それを避けるスバメ。
だが風圧がスバメの体の安定を奪う。
「スバメ!」
ハヤトが声を張り上げる。
スバメはなんとかもちなおし、飛行を続けた。
「へぇ、よく耐えたじゃないか」
突然背後から声を掛けられ、ハヤトは振り返る。
「お、お前は……リア!?」
リアがハヤトの背後にぴったりとついてきていた。
口端を吊り上げて、にやりと笑っている。
「ムクホーク!とっしん!」
リアの声と同時に、さきほどスバメに突っ込んできたポケモン、ムクホークが再びスバメを襲う。
スバメは急旋回して攻撃を回避する。



岩の一つがムクホークの攻撃により粉砕される。
「ムクホーク、もう一度だ!」
「おいリア!どうしたんだ!?
 ……なんか性格変わってないか?」
ハヤトはリアを落ち着かせるように話しかける。
「……くく、何も変わっちゃいないぜ。
 僕はポケモンを操ってるときはいつもこんな感じだからなぁ!!」
リアが狂ったように笑い、声が岩によって不気味に反響する。
ハヤトは呆然としながら、リアの目を見てハッとする。
のろのろと、大人しかったときとは違う。
びみょうに……しかしはっきりと見える狂気の色。
ただの勢いとかとは違う本気の目だ。
「スバメぇ!急げ!こいつやばいぞ!」
ハヤトは危機を感じて指示を出す。
丁度目の前にトレーナーたちがいた。
シュッという音と共に、スバメとハヤトは翔けていく。
ずらずらと並んでいたトレーナーたちを次々と抜いて。
からっ風のように瞬間的に。
「な、何だ今のは?」「人か?」「速いぞ!」
トレーナーたちは急にどよどよと慌てだす。
そうしているうちにスバメが輪をくぐる。
「よし、これであとは西へ戻ってマトマの実を」
ハヤトはグッと手を握り、ふと後ろを振り返る。
リアがトレーナーたちの前に来た。
「くそ、先を越されちまった」「こうなったらお前を止めてやる!」「覚悟しな!」
「ふきとばし!」
ムクホークが風を巻き上げ、トレーナーたちはほこりのように舞い散った。
ぼろ雑巾のようにのたれるトレーナーたち。
ハヤトは身の危険を感じ、疾走を始めた。



「スバメ!速く速く!」
ハヤトは急かした。
スバメは翼で空を切り裂き、翔けていく。
マトマの実が潰れないように最大速で飛んでいる。
おそらく相当辛いのだろう。
スバメはそんな顔をしていた。
「こうそくいどう!」
「!!来るぞ!」
後ろからの声に反応してハヤトは叫ぶ。
刹那、ムクホークが現れた。
まるで矢のような速さで。
「よけろぉ!」
ハヤトの声が響く。
スバメは間一髪ムクホークのつばさでうつを避ける。
でも、つばさは岩を次々と破壊していった。
きつい一撃。恐らく食らえばひとたまりも無いだろう。
スバメのような小さいポケモンには特に。
ギラギラとした目つきで、ムクホークが舞い上がる。
「よくよけたなぁ!」
リアがハヤトに話しかける。
「ふん。これでも飛行タイプのジムリーダーなんでな!」
ハヤトはそういうとスピードを上げる。
スバメもそれに呼応していく。
「ムクホーク、かげぶんしんだぁ!!」
リアが大声で命令する。



西の岩山――
優勝候補であるナギがチルタリスの口からマトマの実を取り、監視員に渡す。
監視員はそれを確認すると、フッと笑顔になる。
「合格です。塔へ行くことを許可します」
「ありがとう」
ナギはそう礼を言うと、塔へ向かう。
そのすぐ後だった。
西の岩山のそばで爆発音がする。
ジリジリと、粉塵を巻き上げながら何かが近づいてくる。
やたらと大きな音がきこえてくる。
いやに激しく、力強く、やかましい音が。
あらあらしく空気をかきあげながら。
「ん?」
監視員が思わず声を出す。
唸り声を上げながら近づいてくるのは、
ハヤトとスバメ、リアとムクホーク。
二人と二羽は監視員の前に強引に止まる。
「「はい!」」
二人は同時にマトマの実を出す。
監視員は唖然としながらも、確認を始める。
「は、はい。合格です。塔へ」
監視員の話が終わらないうちに、二人二羽は塔へ向かう。
「きょ、許可を……」
監視員はポツンと取り残された。



「あ!」
ハヤトは塔を上っていくチルタリスに気づいた。
ナギのチルタリスだ。
「くそ!もっと速くだ!スバメ!」
ハヤトは歯噛みした。
そう、いくらリアに勝っても、ナギに勝たなければ意味は無い。
スバメと、リアのムクホークはほぼ同一線上に飛んでいる。
そして、塔の下に三鳥の石像が見えてきた。
「スバメ!石像につっつけ!!」
「ムクホーク!面倒だ、嘴で砕け!!」
二人の狂気的なトレーナーが、ポケモンと呼応する。
スバメ、ムクホークはここにきてさらにスピードを増す。
そしてついに――
怒涛の粉塵と爆音と共に、石像が砕け散る。
観客たちに衝撃が走った。
「うわ、あいつらぶっこわしたぞ!!」「どんな威力でぶつかってんだ!?」
「スバメぇ、気にするな。うえだぁ!!」
「ムクホーク、お前も上にのぼれぇ!!」
二羽のポケモンは瓦礫の中から飛び出し、急速に翔けのぼる。
「よし、あとはあのチルタリスを抜けば――」
ハヤトはふと気づいてしまった。
スクーターじゃ塔は上れないことを。
「しまったあぁぁ!!」
ハヤトは急いでスクーターを止めようとするが、ギュッとリアに握られる。
「……ここまで来たんだ。逃げんじゃねえぞおぉぉ!!」
「やめろおぉぉおぉ!!」
「……馬鹿ねぇ」
ナギはスクーターを監視員に預けながら、目の前の突撃事故を見届けていた。



爆発的な風と共に塵芥が舞う。
ガラガラと、音が聞こえてくる。
観客たちは青ざめて上を見上げる。
「お、おいあれみろ!!」「塔が……町のシンボルが!」「倒れてくるぞぉ!!」
塔は急激に傾き、のぼっていたチルタリス、スバメとムクホークを叩き落とす。
「あ!」
ナギは口を開け、急いでチルタリスのもとに駆け寄る。
塔は傾くことを終えたが、その頂上にある輪は慣性により……

「合格です。塔へいくことを許可します」
監視員がそう言うと、ユリは歓喜の声を上げる。
「さ、速くいくわよ!ホーホー!」
ユリのメールを足に巻いたホーホーが頷くと、一人と一羽は飛び出して
「あれ?」
ユリが呆然として上を見上げる。
空から輪が飛んできたのだ。
輪はまっすぐホーホーのもとへ飛んでいき、すっぽりとホーホーをくぐらせる。
いや、ホーホーが輪をくぐってしまったのだ。
観客たちが一瞬静まり返る。
徐々に、状況が飲み込めたように、観客たちの声が大きくなり、そして
「「ゴォォー――ル!!」」
「へ?」
ユリがぽかんとしている間、観客たちの喚声は大きくなる。



「はい、これがバッジ」
ナギは表彰の場で、ユリにバッジを渡した。
「まさか負けるとは思わなかったわ」
ナギは参ったという顔をする。
「で、でもホントに運がいいだけで」
「運も実力のうちよ。
 それに、ハヤトがいなきゃこうはならなかったわよ」
ナギはそういうと去っていった。
三鳥祭が終わった。
ユリは傾いた塔のもとへ行く。
「よ、ようユリ」
ハヤトがフラフラとしながら立っていた。
「……どうだ?俺のアシストは?」
ユリは思わず噴出す。
「よかったよ!」

数日、ハヤトは療養していた。
リアやラクレも見舞いに来ることがあった。
リアはどうやらレースのことを何も覚えてないとか。
豹変していたときとはまるで違う穏やかな表情でそう言っていた。
やがて、ハヤトの治療が終わり、旅立ちの時が来た。
「ところでユリ」
ハヤトは旅路を行きながら聞く。
「どうしてそのホーホーを連れて行くことにしたんだ?」
「だって、あんなことが起きたのよ!きっといい運気がまわってくるに違いないわよ」
そう決め付けるユリの肩で、夜行性のホーホーはすやすやと眠りについていた。



スネ夫の目の前で、ソルロックとルナトーンが轟沈する。
確実に強くなった自分のポケモンによって、スネ夫は満足げに笑う。

スネ夫は町に着くと、ジムに入った。
相手はフウとラン。
出してきたのはゲームと同じく、ソルロック、ルナトーン。
そして、スネ夫はたった今、勝利したところだ。

「あ!」
勝利したスネ夫に更なる吉報が訪れる。
ポチエナの体が光に満ちたのだ。
その体はより大柄に――
進化が終わる。
「やった!ポチエナがグラエナに進化した!」
スネ夫は歓喜の声をあげ、グラエナに抱きついた。
グラエナの唸りは、どこか嬉しそうに聞こえた。
暫くしてフウとランが歩み寄ってくる。
「随分と楽しそうですね」
と、ランが微笑みかけてきた。
「いいバトルができたよ!ほら、これがバッジ」
と言いながら、フウがバッジを手渡す。
スネ夫はそれを受け取ると、グラエナを収めて意気揚々とジムを後にする。
(宿舎に戻ったらお祝いしてやろう!
 新しい仲間が増えたんだから)
スネ夫の嬉しそうな笑顔は、夕焼けで明るく照らされる。



日も暮れた頃――
しずかはジムの扉を開ける。
ジムの照明が、リーダーの姿を照らし出した。
「ようこそ。わたしのジムへ」
ライトの先にはジムリーダーのミカンがいた。
しずかは軽く頭を下げ、すぐに話し出す。
「用意はいいわ。早くジム戦を」
「待ってください」
ミカンは静かに、しかし鋭く短い言葉でしずかを制す。
「しずかさん。話は聞いています」
そう言うと、ミカンは一通のメールを取り出す。
「!それは」
しずかは息を呑み、警戒意識を高める。
ミカンの手にあるのは、メカニカルメール。
「ええ。鋼同盟からのメールです」
ミカンはだんだんしずかに歩み寄ってきた。
「そして、わたしも」
あと一、二歩でしずかに届く位置で、ミカンは足を 止める。
「鋼同盟幹部の一人、『切紅』です」
しずかは身構えてきいていた。



「『鋭羽』から連絡はありました。
 あなたと、ジャイアンと言う人が加盟を断ったことを」
(鋭羽……確かハヤトの同盟での名前……)
「確かに、あたしは加盟をことわったわ。でも」
しずかは奇妙に気持ちを高揚させていた。
「……あたしが心変わりしていたら、どうする?」
途端に、ミカンが不審そうな顔になる。
「心変わり……では、同盟に入ると」
「ええ」
実際しずかは同盟に入ることを決めていた。
「あたしは友達と一緒にある人物を追っているの。
 あなたたちの同盟に加われば、きっとその人物に会える」
「なぜそう思うんです?」
ミカンの質問は鋭く響いたが、しずかは動じない。
「なぜなら、その人物はあなたたちがいつも相手にしている組織と仲間だから」
ミカンはしばらく考えているようだった。
しずかにはその時間がいやに長く感じられた。
やがて
「……いいでしょう。ただし
 あなたに鋼同盟に加盟できるだけの実力があればの話です!」
そうミカンは言うと、定位置に向かう。
しずかは状況を飲み込み、自分の定位置に立った。



「わたしの使用するポケモンは一体」
ミカンはそう告げてきた。
「なめられたものね」
しずかも強気で反抗する。
どことなく、ミカンが笑った気がした。
しかしすぐに厳格な声が返ってくる。
「そのかわり、本気でいかせてもらいます」
ミカンがボールを構える。
しずかも手にボールを持つ。
二つのボールが宙を舞い、ポケモンを繰り出す。

しずかのポケモンは、優美な二股の尾を閃かせる。
フスリの実験室でたまたまゲットしたポケモン。
妖艶なエーフィの姿が、しずかの目に映る。
その反対側でミカンのポケモンが薄い羽を広げる。
体温調節のための羽を畳むと、真紅の鎧が煌びやかに輝く。
雄々しいハッサムの気合が聞こえた。
「エーフィ!スピードスター!」
「ハッサム!メタルクロー!」
高速の流星とハッサムの鋼がぶつかり合う。
粉砕の衝撃が辺りに広まった。



粉塵の中、飛び出してきたのはハッサムだ。
「エーフィ、よけて!」
しずかの声のもと、足を踏み切りエーフィは左後ろへ。
ハッサムの右手が空を切る。
するとハッサムは右手を床につけ、そして――
右手が地面を弾いてハッサムは半回転し、エーフィを向く。
その上では力の入った右手が
「エーフィ!でんこうせっ――」
しずかの言葉が終わらない内に、メタルクローはエーフィを叩きつける。
横様にエーフィは吹き飛ばされた。
(ただのメタルクローなのに、何て威力なの!?)
「エーフィ!」
エーフィは何とか持ち直し、立ち上がった。
だがその目の前にハッサムが詰め寄る。
(速い)「エーフィ、でんこうせっか!」
ハッサムの攻撃はエーフィの体を掠めるが、外れた。
(ハッサムなのに、動きが速い。
 さっきの攻撃力から考えても、相手のほうが格上。
 そして、気になることはもう一つ……)
「ねえあなた!」
しずかはミカンに声を掛ける。
「どうしてポケモンに何も命令しないの?」
そう、ミカンはハッサムを出してから一度も命令をしていない。
それでもハッサムはエーフィを追い詰めてきたのだ。
「……本当に信頼しあえてたら、命令なんて要らないものですよ」
ミカンはもっともらしくそう言う。
しずかはその口調が気に食わなかった。



(落ち着いて……落ち着いて考えるの)
しずかはエーフィとハッサムの攻防に目を配りながら思考を巡らせる。
(本当の信頼……いえ、そんなものじゃない。
 そう仮定しておくのなら考えられることは一つ。
 あらかじめハッサムに何かを命令しておくこと。
 そしてその命令は短く、明確なもので、その上多くの相手に通用できなければ)
「エーフィ!ねんりき!」
ハッサムの振りかぶった手がピタっと止まる。
「そのまま飛ばして!」
ねんりきにより、ハッサムは反発されるように地面に叩きつけられる。
だが、ハッサムは立ち上がった。
再びメタルクローがエーフィを襲う。
(メタルクロー……そうだ!
 さっきからメタルクローしか攻撃技を使っていない!)
エーフィがメタルクローを避けると、しずかはそのまま走り回るよう指示した。
(メタルクローだけを使うように最初から指示していたならば……いったいどうして?
 メタルクロー、ハッサム……そうか!)
「エーフィ!すなかけよ!」
エーフィは左足を軸にして急旋回し、砂を飛ばす。
ハッサムは目に砂をを当てられ、メタルクローが外れる。
「エーフィ!回り込んで!」
砂を落としきったハッサムはキョロキョロとあたりを見回す。
「ハッサム!後ろよ!」
ミカンが叫んだ時にはもう遅かった。
「エーフィ、じこあんじ!」



ミカンはハッとした。
「気づいたの」
エーフィはハッサムに掛かっていた補助効果を受け継いだ。
その時、ハッサムは慌ててメタルクローを振る。
だけどそれは、エーフィにはもう遅すぎた。
「サイケこうせん!」
瞬間、ハッサムの後ろに回り込んだエーフィの力で、ハッサムは宙に浮く。
「上に叩き上げて!」
ハッサムの体は急速に上昇し、天井へ突撃する。
「スピードスター!」
地から上る流星群がハッサムへ突撃する。
爆発的な音と共に天井が凄まじい勢いで破壊される。
「……確かめたいことがあるわ」
しずかはミカンに話しかける。
「何?」
ミカンは不快そうな声色で言葉を返した。
「あなたのハッサムの特性は『テクニシャン』ね。
 メタルクローしか使ってこなかったのはそのため。
 『テクニシャン』のハッサムなら、一番威力の高い攻撃はメタルクローだったはず」
「……それで?それがどうしたの」
「あなたは試合前にあらかじめ命令しておいたのよ。
 ハッサムに、『メタルクローで攻撃しろ。距離が離れたらこうそくいどう』ってね。
 あたしの見ていた限りでは、ハッサムはこの二つの技しか使わなかったわ」
その時、ハッサムが急降下して、地面に叩きつけられた。



ハッサムの衝突音の後、ミカンがハッサムをしまう。
既にハッサムは瀕死だったからだ。
「成る程、じこあんじでハッサムの上がった能力をエーフィに刷り込ませた。
 エーフィのすばやさにハッサムが勝てるわけも無い」
ミカンはまっすぐにしずかを見つめた。
「素晴らしい洞察力です」
しずかはあまり表情を変えず、質問する。
「じゃあ、勝てたんだから約束は守ってくれるわよね?」
ミカンは暫く沈黙していたが、次第にしずかに歩み寄る。
「合格です」
途端に、しずかの顔が和らぐ。
「ありがとう」
しずかはエーフィを収めながら言う。
「ただ、一つだけお願いがあります」
ミカンは一言そう言うと、しずかにつめより……



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