「使い手 その1」(2007/08/19 (日) 15:49:05) の最新版変更点
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「のび太くん、いい加減起きなよ」
「やだよ、後5分……」
「……のび太くん、今日はトレーナーズスクールの入学式なんだよ」
「ああっ、忘れてた!」
今まで寝ぼけ眼だったのび太が、目を見開いて布団から飛び出し、急いで部屋を出る。
彼が階段をドタドタと駆け下りる音を聞いて、ドラえもんはやれやれとばかりに溜息をついた。
―――今日は、のび太がこれから通うトレーナーズスクールの入学式。
この世界では、子供は小学校を卒業すると、中学校とトレーナーズスクールのどちらかへ行く決まりがある。
どちらへ行くかは子供、あるいは親が決めることで、年度の進学比率に関係なく選べるようになっている。
それで、ポケモンが好きなのび太はトレーナーズスクールを選んだというわけだ。
もちろん、その裏にはただ単に勉強が嫌いだったという別の理由もあるのだが―――
「それじゃあ、いってきまーす」
のび太は大急ぎで食パンを食べ、少し小さめに感じるようになった靴を履く。
時間は押していたが、彼の家から学校までは歩いて10分もかからない。
走れば5分でつくだろう……というところだ。
勢い良く玄関の扉を開け、のび太は外へ飛び出す。
空は快晴、まさに入学式日和といったところなのだろう。
のび太はこれから向かうトレーナーズスクールに思いを馳せ、心を躍らせながら町内を駆け抜けていった。
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「うわー、凄いなぁ」
数分走ってトレーナーズスクールに辿り着いたのび太は、まずその校舎の綺麗さに驚いた。
もっとも、つい最近建てられたものなので当然といえば当然なのだが。
「おーい、のび太ー!」
いきなり懐かしい声がして、のび太は後ろを振り向く。
そこには小学生時代の友人、ジャイアンとスネ夫の姿があった。
「ジャイアン、それにスネ夫! 久しぶり!」
約1ヶ月ぶりの再会とあって、のび太は懐かしさを覚えながら2人の方へ走っていく。
ジャイアンとスネ夫もどこか懐かしさを感じているようで、走ってくるのび太に大きく手を振った。
「やっぱりのび太ならここに来ると思ってたよ
まさかのび太が中学校に入るだなんて、誰も思わないしね」
スネ夫が少し笑いながら嫌味を言う。
「まあ、何はともあれまたこうして3人揃ったことだし、楽しくやろうぜ」
ジャイアンがのび太とスネ夫と肩を組んで笑う。
それからスネ夫が言った。
「あ、もう体育館へ移動じゃない? 行こうよ」
のび太とジャイアンが他の生徒を見ると、確かに体育館へ移動している様子だ。
他の生徒より少し遅れた3人は、少し早足で体育館へ向かう。
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生徒達が全員体育館に移動したら、入学式が始まる。
まず生徒代表が挨拶をして、それから校長先生の長い話が続くのだ。
(もう、話が長いし眠いよ……)
後ろの方で今にも眠ってしまいそうなのび太、隣のジャイアンもお構いなしに大きな欠伸をしている。
やはり、この2人にとってこういう類のものは苦痛なようだ。
―――そうして入学式は無事に終わり、次は各教室へ移動する。
トレーナーズスクールは1つの学年ごとに4つクラスがあるのだが、運良くのび太とスネ夫とジャイアンは同じクラスだった。
教室に入ったところでのび太があっと声を上げる。
「どうしたんだよ、のび太」
ジャイアンが尋ねるも、既にそこからのび太の姿は消えていた。
「おーい、静香ちゃーん!」
のび太が既に着席している静香の方へ駆け寄る。
「あら、のび太さん! 貴方もトレーナーズスクールだったのね……
また、よろしくね」
微笑みながらそう言ってくる静香を見て、のび太の頬が少し紅潮する。
スネ夫とジャイアンも静香の方にきたとき、ちょうど先生が教室に入ってきた。
「では、とりあえず席に着いて」
先生は比較的小柄なものの、その顔には教師という職の何かを感じさせるものがある。
その頃、後ろの席では、小学校の先生みたいなのじゃなくて良かった……と安堵するのび太の姿があった。
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その後、ちょっとした自己紹介などがあり、午後になる前に授業は終わった。
生徒達はようやく緊張が解けたようで、そそくさと教室を出ていく。
ジャイアン、スネ夫、静香の3人が既に帰ったのを確認したのび太は、1人で家に帰っていった。
「あれ? 誰もいないや」
家についたのび太は、家に誰もいないことを確認した。
大方、ドラえもんは猫とデートでママは買い物だろう……そう考え、のび太は階段を駆け上がる。
「なんか暇だなー」
やる事がないのび太はダルそうに呟く。
寝るにしても眠気が来ないし、今あるゲームも全てクリアしてある。
「今は見る番組もないし、外で遊ぶのもなぁ……そうだ!」
何かを思い立ったのび太が突然立ち上がり、大急ぎで家から出る。
彼が向かったのは本屋だ。
―――それから数分後、本屋の中には荒い息をつきながら本を探すのび太の姿があった。
「ポケモントレーナーの本……これだっ!」
のび太は大量の本が並んでいる中から、まるで宝物を見つけ出すかのように一冊の本を取り出す。
もともと、本屋にはマンガ目当てでしかいかないのび太がこのような行動を取るのには訳があった。
(トレーナーズスクールにいくのなら、トレーナーについて学んどかないと)
のび太の目論見は、単純明快。
自分がいずれなるであろう、ポケモントレーナーの事について学ぼうというのだ。
少し自分が知的に思えてきたのび太は、とりあえずページをパラパラと捲った。
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「1ページ目、ポケモントレーナーとは……」
@ポケモントレーナーとは
ポケモントレーナーとは、即ち、ポケモンを持っている人のことを意味します。
もちろん、自分のポケモンでバトルをする人、コンテストに参加する人などたくさん居ますが、
他にも可愛がったり、友達になったりなど道は様々ですが、自分のポケモンを持っている人を総称してポケモントレーナーと言います。
通常、ポケモントレーナーになるのはトレーナーズスクールの卒業生です。
例外もありますが、トレーナーというのは9割がトレーナーズスクールの卒業生なのです。
「へえー……なるほどな。じゃあ次は……このページ」
@ポケモンを戦わせる
ポケモントレーナーには色々な道がありますが、やはり自分のポケモンを戦わせたいと思う人は多いようです。
その中でも8割は、一定の条件を満たして地方のトーナメントやリーグに出場し、優勝することを目的としています。
ちなみに、昨年度のトレーナーズスクール卒業生の9割はこの道を選択しました。
「アニメのポケモンと同じようなもんか……」
そこまで読んで、のび太は本を閉じ、元あった場所へ戻す。
どうやら、ポケモントレーナーというのは彼の考えていたものと大同小異らしい。
彼が外に出て時計を見ると、もう4時過ぎだった。
この町ではよくみかけるポッポが1羽、のび太の家の方角へ飛んでいく。
それを見たのび太の足は、自然と家に向かっていた。
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その翌日。
「それじゃあ、今日から本格的に授業が始まるという事で、各教科の説明をしよう」
先生がそう言い、生徒たちにプリントを配る。
ちなみに、この教科とは普通の学校でいう国語や数学みたいなもので、それがポケモンに関与する事柄に変わるというだけだ。
後ろの席で欠伸をしていたのび太は、とりあえずそれに目を通しておく。
*教科説明*
1、実戦
今までに培った知識を生かし、実際にポケモンバトル行う授業。
尚、ポケモンは学校から借りるポケモンを使用する。
2、戦術
戦闘の際に使う戦術を学ぶ授業。
技の組み合わせ、地形によってどう対応するかなど、様々な戦術が身につく。
当然、ポケモンが覚える技の効果もここで学ぶ。
3、育成
ポケモンの育成の仕方などを習う授業。
それだけでなく、ポケモンとの接し方も学べる。
4、治癒
傷ついたポケモンを回復させる事を目的とする授業。
回復系の道具の使い方や、それがない場合の応急処置など。
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5、地理
各都市の位置関係や都市ごとの重要建築物や有名人物まで、幅広い内容がある。
トレーナーが旅立つ際に必要な知識を叩き込まれる。
6、歴史
ポケモン界の過去の歴史を学ぶ。
伝説のポケモンにまつわる神話など、内容は多くない。
7、生物学
ポケモンの能力、特徴、生息地などをを覚える授業。
この基礎知識がないとポケモンは使えない。
「へえ、全部で7科目かぁ……」
先生が解説している中、のび太が小声でそう漏らす。
手元の時間割を見ると、今日は戦術、歴史、治癒、生物学、そして学食をはさんで地理という日程らしい。
先生が言うには、「実戦はある程度の基礎知識を頭に入れていないと出来ない」らしいので、
どうやらしばらく実戦の授業はないようだ。
「それじゃあ、これで教科の説明は終わりだ。5分休憩の後、戦術の授業だぞー」
そう言い残し、先生は去っていった。
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1時間目、戦術の授業。
スネ夫似の先生が教室に入ってきた。
「えー、皆さん始めまして。それでは今から戦術の授業を始めたいと思います」
そう言うなり、先生は猛スピードで黒板に文字を書いていく。
何やら技の威力、命中率、効果を書いているようだが、いかんせん字が汚すぎる。
後ろの席ののび太はもちろん、ほとんどの生徒には古代文明を彷彿とさせる象形文字の羅列にしか見えなかった。
―――その頃、後ろの席ではのび太が襲いくる睡魔と必死に戦っていた。
意識せずとも勝手に目が閉じ、顔を俯かせてしまうが、また一生懸命に目を開けてノートをとる。
ところが、その状態も長くは続かない。
やがてその意識は夢の世界へ飛んでいってしまい、数分後にはすやすやと寝息を立てるのび太の姿があった。
(のび太の馬鹿……何初っ端から寝てるんだよ)
右手を素早く動かしながらのび太の方を見るスネ夫。
その時、彼は気付いた。
先生がチョークを手にとり、それをのび太目掛けて放ったことに。
「痛っ!」
コチン、と小気味の良い音がして、生徒たちの目がのび太の席に集中する。
恐る恐る目を開けたのび太の前には、怒りの表情で仁王立ちする先生。
その後のび太がどうなったのかは、言うまでもないだろう……
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その後ものび太は悲惨な目に遭っていた。
2時間目の歴史では、誰もが知っているような重要都市を間違えて生徒たちの嘲笑の的となり、
次の治癒ではキズぐすりを塗ろうとしたポケモンにそっぽを向かれたり、
終いには4時間目生物学の授業を行う教室が分からず、10分も遅刻してしまったのだ。
「……初日からこんなの……もう嫌だよ……」
学食を食べながら、涙ながらに話すのび太。
一緒に学食を食べているジャイアンが、
「何弱気になってんだよ! まだ初日だぜ初日」
と言って笑い飛ばすが、のび太の気分は一向に晴れなかった。
―――夕暮れ時、のび太、ジャイアン、スネ夫の3人は帰路についていた。
「のび太、そんなに気にすることねえって!」
「うん……」
ジャイアンがのび太を励まし、当の本人が元気なさそうに返事をする。
「のび太が怒られるなんて、いつもの事じゃないか
もう慣れっこだろ? ははは」
ただでさえ尖っている口を更に尖らせ、トゲトゲしく言うスネ夫。
「スネ夫、それ……僕を馬鹿にしてるのか?」
「してない、してない」
それから少し歩いて、家が近くなったジャイアンとスネ夫は、それぞればいばいを言って別れた。
1人になったのび太は溜息を1つ吐いて、夕日を背にして歩き出す。
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「ただいまー……あれ? ドラえもんが居ないや」
のび太が自分の部屋に入ると、そこにいつもの青いロボットの姿はなかった。
ふと机を見ると、書き置きが残されている。
のび太はそれを手に取った。
「んーなになに?
僕はある用事で22世紀に戻っています……すぐに戻るので心配しないでください……
ドラえもんより……ってことは今22世紀に居るのか……」
書き置きに目を通したのび太は、退屈そうに寝転ぶ。
下から「ご飯出来たわよー」と玉子の声を聞いた彼は、気のない返事をして階段を下りていった。
時を同じくして、22世紀。
「ドラミ、突然呼び出すのにはなにか訳があるんだろうね?」
「ええ、とっても重要なことなの」
ドラミに先導され、ドラえもんはホテルの一室へ向かう。
「それに……のび太さんたちの未来に大きく関わることだから」
部屋に入る前に、ドラミがそう付け加えた。
部屋に入ったドラえもんはその設備に驚く。
「凄いなドラミ……どうしてまた、こんな高級な部屋を?」
「まあ、ね。今回のはのび太さん達だけでなく、この世界全体に関わる可能性もあるから
この部屋なら、外部には絶対漏れないの」
ドラミはそう言うなりポケットからリモコンのようなものを取り出し、モニターに画像を映し出す。
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「これは……まさか」
ドラえもんの顔が、見る見るうちに強張っていく。
その声も、何かに怯えているかのように震えていた。
「つい最近、私が時間を遡っているときに発見したの
このままじゃ、のび太さん達……」
「これは止めないとまずいぞ! ドラミ、今すぐ」
「待って!」
焦るドラえもんをドラミが制止する。
「焦っても仕方ないわ。今から私達が行動を起こすと、未来が大幅に変わってしまう
のび太さんたちだけじゃなくて、この世界全体に関わる可能性もあるんだから
だから私たちは、万が一の事態に備えて準備をするべきだと思うの」
「で、でも……」
心配になって顔を俯かせるドラえもん。
こんな時は、いや、こんな時でなくてもしっかりしているのは妹のドラミの方だった。
「未来は確定している訳じゃないわ……もしかしたら、私たちがやらなくても何とかなるかもしれない
私たちが動く時は、本当に危なくなった時が1番いいはずよ」
それっきり、ドラえもんもドラミも一言も喋らない。
高級ホテルの一室に、僅かな音もしない静かな空間が広がっていた。
「それじゃあ……僕、戻るよ」
ドラえもんが沈黙を破り、部屋を出ていこうとする。
それを見送るドラミは言った。
「お兄ちゃん……のび太さんたちにはいつも通りに振舞ってね。いつも通りに」
「わかってるよ、それぐらい……」
どこか寂しげな2人の声が木霊した。
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「あ、ドラえもん」
のび太が夕飯を食べ終わったころ、ようやくドラえもんが帰ってきた。
「何してたの?」
「あ、いや、別に……ちょっと未来デパートにね」
「へえー、そうなんだ」
そう言うなり、のび太が布団を敷く。
「あれ? 今日は寝るの早いね」
「今日は色々あってさ……疲れたんだよ」
敷いた布団の上に、大の字になって倒れるのび太。
それを見たドラえもんは少し笑い、自身も押し入れの中で寝る準備をした。
「僕ももう寝るよ。のび太くん同様疲れたから」
ドラえもんが部屋の明かりを消し、辺りは暗くなる。
のび太は仰向けになり、目を閉じる。
押入れの中のドラえもんは、なかなか寝つけなかった。
それは多分、不安によるものだと―――彼は気付いている。
しばらくして、のび太のいびきがドラえもんに聞こえてきた。
今の自分とはあまりにも対照的なのび太に、彼は少しだけ安心させられる。
しかし、やがて訪れる未来に目を向けると、そんな感情はすぐにどこかへ行ってしまうのだ。
不安が絶えないまま、いつしかドラえもんの意識は途絶えていった。
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