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ただの金銀のようだ その3」(2007/08/26 (日) 00:41:25) の最新版変更点

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[[前へ>ただの金銀のようだ その2]] 「あぁ、ホンマに助かったわ」 ここはボール職人、ガンテツの家。 一人の老人が作業机でボールを作りながら、のび太たちにそう告げた。 のび太としずかは照れながら首を振る。 「いやぁ、当然のことをしたまでです」 「そうですよ、ガンテツさん。それにお礼にボールを作ってくれるなんて」 ありがとうございます、と二人は頭を下げた。 そう、ヤドンの井戸にて腰部を強打し、 結局のところ一番のお荷物と化したこの老人こそ、他ならぬガンテツだった。 「いやいや、わしにできるのはこれくらいやからな」 あおぼんぐりとみどぼんぐりの二つのぼんぐりが、 たまたまガンテツの家にあったらしく、 ガンテツはそれをお礼にしたい、と申し出たのだ。 「とは言っても、ボール作るには結構な時間がかかるんや。  明日の朝までにはできとると思うが」 「それじゃ、今日はヒワダタウンで休むことになるね」 ガンテツの言葉にのび太は結論を打ち出し、 「その前にジムに挑戦しましょうよ」 そのしずかの提案に首肯し、夕暮れの中、二人はジムへと向かった。 ---- 「嘘だろ……」 ジャイアンは愕然とした表情で呟いた。 「嘘やないわ。これがあんたとウチの実力の差や」 へたり込むジャイアンを見下ろすのはアカネ。 アカネと言えば、金銀プレイヤーならばほぼ必ずここで詰まる、 と言われるほどのコガネシティのジムリーダーだ。 その原因はアカネの手持ちの一匹、ミルタンク。 現にジャイアンもピッピを倒すにまでは至ったのだが、 続くミルタンクとの対戦に嘘のようにボロ負けした。 そこには油断など一かけらもなかった。 「あんたは本当に単純な戦い方やったからなぁ。  ついさっき来たムカつく感じの子供には、  状態異常で攻めまくられて、結局のとこ負けてしもうたんやけど」 アカネは笑いながらジャイアンに話しかけた。 負けた悔しさを別の相手に晴らし、満足そうにしている。 「ちくしょおッ! 覚えてろよ、この貧乳!」 ジャイアンはいかにも子供らしい捨て台詞を残し、ジムを走り去っていった。 「へくしッ!」 スネ夫は盛大なくしゃみをした。 「誰だよ、ぼくの噂をしてるのは」 垂れる鼻水を手で拭いながら、そう呟いた。 今のところ、スネ夫は最も順調に進めている。 ケーシィ、ハネッコ、そしてウパーはとっくに進化し、」 あの四人の中で一番の実力を持っていることは明らかだった。 ゲームセンターの件は記憶から抹消しておいたので無問題だ。 「張り合いがなくてつまんないねぇ」 スネ夫は肩をすくめる。 ものごとがあまりにも自分の見立て通りに進むと、かえって退屈になるものだ。 「なにか面白いことでも起きないかな」 そう洩らしながら、スネ夫は36番道路に向かった。 ---- 「ヤドンたちを救ってくれたことには感謝してるよ。  でも、それとジム戦は話が別だからね」 そう言ったのは、のび太たちとそれほど年の変わらない、 ヒワダタウンのジムリーダー、ツクシ。 しずかはヤドンの井戸での戦闘のおかげで手持ちも強くなり、 ツクシ相手になんなく勝利を治めた。 ナゾノクサ、ホーホー、そしてメリープはそれぞれの進化をした。 しかしのび太は、実のところ幹部としか戦っていない。 さらにその戦いでも、ポケモンを一匹のみ毒状態にしただけなのだ。 苦戦を強いられるであろうことは、本人が一番よく分かっていた。 「行け、トランセル!」 「がんばれ、ヤドン!」 両者はほぼ同時に手持ちを繰り出した。 「ヤドン、水鉄砲!」 「トランセル、固くなる!」 特殊技である水鉄砲に対し、固くなるはほとんど意味をなさない。 トランセルは呆気なく倒れ、続くコクーンも一気に戦闘不能となった。 「やっぱりロケット団を追い払うだけのことはあるね。でも、こいつはどうかな?」 最後にツクシが繰り出したのは、鋭い鎌を持つポケモン。 ---- 「わぁ、ストライクだ! かっこいいなぁ」 のび太は憧れのまなざしでストライクを見る。 ツクシは褒められたのが嬉しいのか、どことなく誇らしげだ。 「こいつはね、かっこいいだけじゃないんだよ。ストライク、連続斬り!」 ストライクはその自慢の鎌で、ヤドンに斬りかかる。 「危なッ……あれ?」 しかし、ヤドンは大してダメージを受けていない。 それにも関わらず、自信満々なツクシの態度にのび太は首を捻る。 「ストライク、また連続斬りだ!」 ストライクはさらにヤドンに斬りつける。 そしてのび太は、あることに気付く。 「あれ、さっきよりダメージが増えてる……?」 のび太に簡単なポケモンの知識、もしくは若干の思考力があれば避けられた事態。 「もう遅いよ。連続斬りはただ斬るだけの技じゃないんだ」 連続斬りはその名の通り、斬れば斬るほど威力が上がっていく技。 ストライクの猛攻撃を浴びたヤドンは、ろくに攻撃もできずに倒れ、 イトマルも糸を一度だけ吐くのみで終わった。 「これで並んだね。いや、ぼくの勝ちかな?」 ツクシは嬉しそうに言った。 ----  ここは34番道路  コガネシティ …… ヒワダタウン  途中ウバメの森 ジャイアンは34番道路の草むらを歩いていた。 アカネに負けたことをきっかけに、新たに手持ちを増やすことにしたのだ。 「悔しいが力負けしちまったし、なんかこう、いい感じのやつ……」 求めるものが曖昧極まりないが、要するにジャイアンは、 アカネをぎゃふんと言わせられるようなポケモンを探していた。 「ん?」 そのとき、草むらががさりと揺れたのを、ジャイアンは見逃さなかった。  ここは36番道路 「そっかぁ……こいつがあったかぁ……」 スネ夫は頭を押さえた。 目の前には変な木。 ここを通るにはゼニガメじょうろが必要であることを思い出したのだが、ふと考える。 「別に水技で行けるかも……」 イベントすっ飛ばしが可能なこの世界、 じょうろがなくても進めるのではないだろうか。 そこまで考え至ったスネ夫はヌオーを繰り出した。 「ヌオー、あの変な木に水鉄砲!」 水がかかった変な木はざわざわ揺れて、正体を現した。 木に擬態するポケモン、ウソッキーだ。 「見た目が木のくせに岩タイプなんて、生意気なやつだ」 スネ夫はウソッキーに対し、情け容赦なく水技を浴びせる。 ほぼ瀕死、というところまで追い詰められたウソッキーを見て、 スネ夫は思い出したように言う。 「一応珍しいし、捕まえとくか」 こうしてウソッキーは、スネ夫の気紛れにより捕らえられてしまった。 ---- 「まだだ、まだ終わっちゃいない」 のび太はゆっくりと最後のポケモン、サンドを繰り出した。 ツクシは鼻で笑う。 「もう終わりだよ。サンドよりぼくのストライクの方が速い……えッ!」 ツクシの確信染みた予想に反し、先に動いたのはサンドだった。 イトマルの置き土産、糸を吐くのおかげだ。 「泥かけだ!」 のび太のサンドがストライクの目に泥を投げ付けた。 「命中率が……」 「泥かけはダメージを与えつつ、命中率も下げる。  つまり攻撃と防御が同時にできる技さ」 なんとなく、ハヤトの真似をしてみた。 そんなぼくに、ツクシは若干イラッときてる。そりゃそうだ。 「た、たかが一発の泥かけじゃ、外す確率はまだ低いよ。  ストライク、連続斬り!」 しかしお約束の展開と言おうか、ストライクの鎌は空しく空を斬った。 「な、なんてラッキーな子なんだ……」 のび太がラッキーボーイなのか、 はたまたツクシがアンラッキーボーイなのか。 とにかくストライクの連続斬りは外れ、 加算された連続斬りのダメージは元に戻ってしまった。 「はぁ……ストライク、連続斬り」 ツクシは完全にやる気をなくしてしまったようだ。 そんなツクシにのび太は叫ぶ。 「トレーナーが諦めたらそこで試合終了だよ!」 そんなことを言いつつ、泥かけを指示し続けるぼく。抜け目ない。 しかし、 「あ、当たったぁ!」 「な、なんだってぇ!」 ストライクの攻撃がサンドにヒットし、二人がそれぞれ叫んだ。 喜ぶツクシ、驚くのび太。 これは一体なんの勝負だよ、と二人の戦いを見ていたジムのトレーナーたちは思った。 ----  コガネシティポケモンジム  リーダー アカネ  ダイナマイトプリティギャル! 「なんや、また来たん?」 アカネはジャイアンを見ながら呆れたように言った。 ジムに再挑戦するトレーナーは別段珍しいわけではない。 アカネが嫌がった理由はただ一つ、 再挑戦すんのはええけどな、今何時やと思ってんねん、ということだった。 「ウチは眠いねん。また明日来いや」 あくびをしながらジムに戻ろうとするアカネに、ジャイアンは言う。 「逃げんのかよ、貧乳!」 本日二回目の本人にとっては不名誉な暴言に、 眠気のせいもあり、アカネはブチ切れた。 「ええわ、そこまで言うんやったら相手したるわ!  ただし、ウチが勝ったらもう二度と来るんやないで!」 あと貧乳やなくて美乳や、と主張するアカネにジャイアンは言葉を続ける。 「あと頼みがあるんだけど」 そしてジャイアンは、中指と人差し指を立て、アカネに見せた。 「ダブルバトルで勝負しやがれ!」 ---- 「ダブルバトルぅ?」 ジャイアンの言葉に怪訝そうにするアカネ。 「まぁ別に構へんけどな。どうせウチの勝ちやし」 余裕しゃくしゃくのアカネにジャイアンはガッツポーズ。 「さっさと始めるで!」 「望むところだ!」 二人は二つずつボールを投げる。 アカネが繰り出したのはいつも通り、ピッピとミルタンク。 対するジャイアンは、 「なんや、さっきと同じやんか」 そう、先ほどと変わらず、ゴーリキーとオニドリルだ。 「まぁええわ。ミルタンク、転がるや!」 ミルタンクがゴーリキー目掛けてその巨体をぶつけにくる。 「ゴーリキー、受け止めろ!」 ジャイアンのゴーリキーも力では負けていない。 二本の腕でミルタンクをしっかりと止める。 「さて、どうするつもりや?」 アカネに対し、ジャイアンは得意気に言う。 「気付いたことがあるんだよ。  転がるの威力は最初の方は大したことねぇ。そして、お前のピッピは弱ぇ」 イライラしたアカネはジャイアンに尋ねる。 「だからなんなん?」 「このミルタンクもゴーリキーなら平気だけど」 ゴーリキーはミルタンクに反対方向の力を加え、 耐え切れなくなったミルタンクは転がっていく。 「お前のピッピは耐えられねぇ!」 「なッ……あかん!」 ミルタンクが転がった先にはアカネのピッピ。 「ピッピ、よけるんや!」 アカネは声を張り上げたが遅く、ピッピは味方のミルタンクに倒されてしまった。 ---- 「セコい真似しくさって……!」 ミルタンクは依然転がり続けている。 「ミルタンク、そのままゴーリキーに突っ込め!」 ミルタンクの転がるの威力は半端なものではなくなっている。 しかし、ゴーリキーに当たる直前に、ミルタンクは動きを止めてしまった。 「なんやねん、一体!」 「お前がピッピに気を取られてるすきに、オニドリルを交代しといたんだよ」 見れば、フィールドにいるのはオニドリルではなく、捕まえたばかりのスリープだった。 ミルタンクの動きの停止は、恐らく金縛りによるものだろう。 転がるを封じられたアカネのミルタンクは、 言わば天の恵みのないトゲキッスのようだった。 もともと相性で有利なゴーリキーは、意外なほどあっさりとミルタンクを倒した。 「どうだ? 今度はおれの勝ちだな!」 声を上げて笑うジャイアン。 すると、 「うぅ……うわあぁん! ひどいよぉ!」 アカネは突如泣き出してしまった。 さすがのジャイアンもこれにはびっくりだ。 「え? え?」 「ひっく、本気で戦うなんてぇ……」 ジム戦を本気で戦うのは至って当然なのだが。 周りのトレーナーたちもざわつきだした。 ジャイアンは取りあえずこの、 「なんか知らないけどおれが悪いみたいな空気」を治めるべく謝り、 理不尽なことにも絶え得る大人へと一歩近付いたのであった。 時刻はすでに真夜中。 「じゃあな。すぐ泣くのは止めろよな、貧乳」 「貧乳ちゃうわ!」 「あぁ、そうだった。微乳だった」 「……違う方の字、思い浮かべとるやろ」 こうして、ジャイアンはアカネとほんの少し仲良くなった。 ----  焼けた塔  謎の大火事で焼けました  危険なので近寄らないでください 「確かここにいるんだよな」 スネ夫は立ち入り禁止の文字など見なかったことにして、 焼けた塔の中を彷徨っていた。 「暗くて見づら……うわぁッ!」 焼けた塔はその名の通り、火事が起きた塔。 あちこちボロボロで床に穴も空いており、しかも足下は見えにくい。 要するに、スネ夫はその穴からおっこちたのだ。 「いったぁ……くそぅ……」 今度は足下がよく見えるように、と、 先ほど新たに捕まえたロコンを繰り出すスネ夫。 明かりのおかげで、スムーズに奥へ進んでいく。 「えぇと……確かこのあた」 ズボッ。 左足に嫌な感触を覚えたスネ夫は、恐る恐るそこを見やる。 スネ夫の足はしっかりと床を踏み抜いていた。 「だから……こんなとこまでリアルに再現するなぁ!」 そう叫びながら、スネ夫は本日二度目の地下への落下を体験した。 ---- 「ほら、完成したで」 ガンテツはのび太としずかに二つのボールを手渡した。 「ルアーボールとフレンドボールや。持ってってええぞ」 のび太としずかはうやうやしく礼をした。 「んん? なんや、そのポケモンは」 「ああ、こいつですか」 のび太は傍らのポケモンを抱き抱え、事も無げに言う。 「もらったタマゴが孵化したんですよ。トゲピーって言うんです」 「ポケモンのタマゴやて!?」 のび太の言葉にガンテツは相当びっくりしたらしい。 あまりの驚きにゴホゴホとむせて、孫に心配されているほどだ。 「大発見やないか! ポケモンがタマゴを産むなんて!」 「えっ? こんなの別にじょうし」 「本当にそうですよね! わたしもびっくりしました!」 空気を読まないのび太のフォローをするしずか。 このポケモン金銀の世界において、 ポケモンのタマゴは初めて発見され、孵化したのだから、 ガンテツにとっては大発見なのだ。 もちろんのび太は、そこまで考え至るほどの思考力を持ち合わせていない。 「ぜひともそのポケモンを、わしの作ったボールに入れてくれ!」 ガンテツにそう頼まれたのび太は、 トゲピーをガンテツからもらったフレンドボールに入れた。 そうしてヒワダタウンを後にした二人だったが、 二つの中から適当に選んだボールが、 トゲピーにとってベストチョイスであることは知らなかった。 ---- 「なんでぼくがこんな目に……」 スネ夫は煤塗れになったズボンをはたく。 「ったく……あッ!」 スネ夫の視線の先には三匹の美しいポケモン。 スネ夫の目的はそのポケモンたちだった。 ゲームのイベントではこの三匹には逃げられてしまうのだが、 すきを付けば捕獲できるかもしれない。 「できるならスイクン、少なくともライコウは捕まえてやる!」 たまには唯一神のことも思い出してあげてください。 スネ夫は三匹に、本人にしてみれば二匹に近付こうとした。 すると、 「うっわぁ!」 気付かれたらしく、スイクンの冷凍ビームがスネ夫を襲う。 直撃はしなかったものの、床が凍り付いてしまった。 そうこうしているうちに、 三匹のポケモンたちはそれぞれバラバラに走り去っていった。 「やっぱりダメなのかぁ……」 はぁ、とスネ夫は溜め息を吐いた。 「うん、あれ? ……アーッ!」 さらに不運なことに、 スネ夫の足は氷によって床とくっつけられてしまっていた。 ---- ここはラジオ塔 「えぇと、はい!」 「残念! ボンゴレじゃないんですよ」 のび太はラジオ塔のクイズに大苦戦していた。 すべてのクイズに正解すると、ポケギアのラジオカードがもらえるのだ。 しかし、非常に残念ながらのび太は賢くない。 いや、賢くないどころの話ではない。 「はい!」 「残念! 死ね死ね光線じゃないんですよ」 受付のお姉さんは全身から「もう帰れオーラ」を出しているのだが、 のび太はそれには気付けない。 「あれ、のび太くん!」 そんなのび太に一人の青年が話しかけた。 「あぁ、ヒワダタウンのお兄さん!」 どうせ誰も覚えてないだろうから、ぼくが説明しましょう。 この人はヤドン誘拐事件を見て見ぬ振りしていた、 ヒワダタウンのチキンなお兄さんです。 「のび太くん、何はともあれ、ヤドンたちを助けてくれてどうもありがとう」 青年は頭を下げ、のび太はいえいえ、と首を振る。 ---- 「ところで、お兄さんはなんでここに?」 「あぁ、ボクはここで働いてるんだよ。実家がヒワダタウンなんだ。  きみらと会ったあとにすぐこっちに来たんだよ」 ふんふん、と青年の話を聞いていたのび太の脳裏に、 「いいこと」が思い浮かんだ。 「すいません、いきなりですけど、ラジオカードくれませんか?」 青年は少し驚いたような顔をし、すぐにいつもの笑顔に戻った。 「……友だちの分かい? まぁ別に構わないけど」 のび太はさらに指を二本出す。 「二つ、もらえませんか?」 よく分からない、といったような顔をしながらも、 お兄さんはラジオカードをくれました。 なんと優しい人でしょう。 クイズが解けないんです、なんて言ってたまるもんですか。 「ありがとう、お兄さん。じゃあこれで!」 のび太はラジオカードをもらうや否や、さっさと塔を出て行った。 「……」 青年はそんなのび太の後ろ姿をただただ見つめていた。 ----  憩いの広場  自然公園 「おれに似合いのポケモンやーい!」 ジャイアンは自然公園にいた。 そこで開催されている虫捕り大会に参加しているのだ。 以前も同じようなことを言いながらポケモンを探していたが、 結局、捕まえたのはかっこいいとは程遠いポケモンだった。 「今度こそ強くてかっこいい奴を……」 気合いの入れすぎに加えて、独り言が異様に多いため、 他の参加者たちはジャイアンから避けるように移動している。 「取りあえずポケモン出しとくか……」 ジャイアンがボールに手を掛けたそのとき、背後の茂みが揺れた。 そこから飛び出してきたのは二本の角。 「う、おおおぉぉッ!」 間一髪でそれを避けるジャイアン。 息を切らしながら目の前のポケモンを見つめる。 「お前は……確かカルロス!」 名称を思いっきり間違っているジャイアン。 周りにツッコんでくれる人はいない。 ---- 「でかいし、強そうだ……よし、お前を捕まえて優勝してやる!」 高らかに宣言した瞬間、ジャイアンは頭が真っ白になった。 「……て、手持ちがねぇッ!」 さっきの衝撃で手持ちを落としてしまったらしい。 ジャイアンはない脳みそを必死で絞り、打開策を練る。 ……考えろ、考えるんだ剛田武。 落ち着いて状況を整理するんだ。 手持ちは落とした。空きのボールはある。周りに人はいない。 だが、しかし!……しかし、うーん……。 すると、ジャイアンの視界の端に紫色が映った。 「……えぇい、ままよ!」 ジャイアンはボールを投げ付けた。 カイロスではなく、そばの草むらの紫色のポケモンに。 「ッしゃあ! 行け、コンパン!」 そして、捕まえたばかりのコンパンを繰り出し、 目の前のカイロスに攻撃を仕掛けた。 ----
[[前へ>ただの金銀のようだ その2]] 「あぁ、ホンマに助かったわ」 ここはボール職人、ガンテツの家。 一人の老人が作業机でボールを作りながら、のび太たちにそう告げた。 のび太としずかは照れながら首を振る。 「いやぁ、当然のことをしたまでです」 「そうですよ、ガンテツさん。それにお礼にボールを作ってくれるなんて」 ありがとうございます、と二人は頭を下げた。 そう、ヤドンの井戸にて腰部を強打し、 結局のところ一番のお荷物と化したこの老人こそ、他ならぬガンテツだった。 「いやいや、わしにできるのはこれくらいやからな」 あおぼんぐりとみどぼんぐりの二つのぼんぐりが、 たまたまガンテツの家にあったらしく、 ガンテツはそれをお礼にしたい、と申し出たのだ。 「とは言っても、ボール作るには結構な時間がかかるんや。  明日の朝までにはできとると思うが」 「それじゃ、今日はヒワダタウンで休むことになるね」 ガンテツの言葉にのび太は結論を打ち出し、 「その前にジムに挑戦しましょうよ」 そのしずかの提案に首肯し、夕暮れの中、二人はジムへと向かった。 ---- 「嘘だろ……」 ジャイアンは愕然とした表情で呟いた。 「嘘やないわ。これがあんたとウチの実力の差や」 へたり込むジャイアンを見下ろすのはアカネ。 アカネと言えば、金銀プレイヤーならばほぼ必ずここで詰まる、 と言われるほどのコガネシティのジムリーダーだ。 その原因はアカネの手持ちの一匹、ミルタンク。 現にジャイアンもピッピを倒すにまでは至ったのだが、 続くミルタンクとの対戦に嘘のようにボロ負けした。 そこには油断など一かけらもなかった。 「あんたは本当に単純な戦い方やったからなぁ。  ついさっき来たムカつく感じの子供には、  状態異常で攻めまくられて、結局のとこ負けてしもうたんやけど」 アカネは笑いながらジャイアンに話しかけた。 負けた悔しさを別の相手に晴らし、満足そうにしている。 「ちくしょおッ! 覚えてろよ、この貧乳!」 ジャイアンはいかにも子供らしい捨て台詞を残し、ジムを走り去っていった。 「へくしッ!」 スネ夫は盛大なくしゃみをした。 「誰だよ、ぼくの噂をしてるのは」 垂れる鼻水を手で拭いながら、そう呟いた。 今のところ、スネ夫は最も順調に進めている。 ケーシィ、ハネッコ、そしてウパーはとっくに進化し、」 あの四人の中で一番の実力を持っていることは明らかだった。 ゲームセンターの件は記憶から抹消しておいたので無問題だ。 「張り合いがなくてつまんないねぇ」 スネ夫は肩をすくめる。 ものごとがあまりにも自分の見立て通りに進むと、かえって退屈になるものだ。 「なにか面白いことでも起きないかな」 そう洩らしながら、スネ夫は36番道路に向かった。 ---- 「ヤドンたちを救ってくれたことには感謝してるよ。  でも、それとジム戦は話が別だからね」 そう言ったのは、のび太たちとそれほど年の変わらない、 ヒワダタウンのジムリーダー、ツクシ。 しずかはヤドンの井戸での戦闘のおかげで手持ちも強くなり、 ツクシ相手になんなく勝利を治めた。 ナゾノクサ、ホーホー、そしてメリープはそれぞれの進化をした。 しかしのび太は、実のところ幹部としか戦っていない。 さらにその戦いでも、ポケモンを一匹のみ毒状態にしただけなのだ。 苦戦を強いられるであろうことは、本人が一番よく分かっていた。 「行け、トランセル!」 「がんばれ、ヤドン!」 両者はほぼ同時に手持ちを繰り出した。 「ヤドン、水鉄砲!」 「トランセル、固くなる!」 特殊技である水鉄砲に対し、固くなるはほとんど意味をなさない。 トランセルは呆気なく倒れ、続くコクーンも一気に戦闘不能となった。 「やっぱりロケット団を追い払うだけのことはあるね。でも、こいつはどうかな?」 最後にツクシが繰り出したのは、鋭い鎌を持つポケモン。 ---- 「わぁ、ストライクだ! かっこいいなぁ」 のび太は憧れのまなざしでストライクを見る。 ツクシは褒められたのが嬉しいのか、どことなく誇らしげだ。 「こいつはね、かっこいいだけじゃないんだよ。ストライク、連続斬り!」 ストライクはその自慢の鎌で、ヤドンに斬りかかる。 「危なッ……あれ?」 しかし、ヤドンは大してダメージを受けていない。 それにも関わらず、自信満々なツクシの態度にのび太は首を捻る。 「ストライク、また連続斬りだ!」 ストライクはさらにヤドンに斬りつける。 そしてのび太は、あることに気付く。 「あれ、さっきよりダメージが増えてる……?」 のび太に簡単なポケモンの知識、もしくは若干の思考力があれば避けられた事態。 「もう遅いよ。連続斬りはただ斬るだけの技じゃないんだ」 連続斬りはその名の通り、斬れば斬るほど威力が上がっていく技。 ストライクの猛攻撃を浴びたヤドンは、ろくに攻撃もできずに倒れ、 イトマルも糸を一度だけ吐くのみで終わった。 「これで並んだね。いや、ぼくの勝ちかな?」 ツクシは嬉しそうに言った。 ----  ここは34番道路  コガネシティ …… ヒワダタウン  途中ウバメの森 ジャイアンは34番道路の草むらを歩いていた。 アカネに負けたことをきっかけに、新たに手持ちを増やすことにしたのだ。 「悔しいが力負けしちまったし、なんかこう、いい感じのやつ……」 求めるものが曖昧極まりないが、要するにジャイアンは、 アカネをぎゃふんと言わせられるようなポケモンを探していた。 「ん?」 そのとき、草むらががさりと揺れたのを、ジャイアンは見逃さなかった。  ここは36番道路 「そっかぁ……こいつがあったかぁ……」 スネ夫は頭を押さえた。 目の前には変な木。 ここを通るにはゼニガメじょうろが必要であることを思い出したのだが、ふと考える。 「別に水技で行けるかも……」 イベントすっ飛ばしが可能なこの世界、 じょうろがなくても進めるのではないだろうか。 そこまで考え至ったスネ夫はヌオーを繰り出した。 「ヌオー、あの変な木に水鉄砲!」 水がかかった変な木はざわざわ揺れて、正体を現した。 木に擬態するポケモン、ウソッキーだ。 「見た目が木のくせに岩タイプなんて、生意気なやつだ」 スネ夫はウソッキーに対し、情け容赦なく水技を浴びせる。 ほぼ瀕死、というところまで追い詰められたウソッキーを見て、 スネ夫は思い出したように言う。 「一応珍しいし、捕まえとくか」 こうしてウソッキーは、スネ夫の気紛れにより捕らえられてしまった。 ---- 「まだだ、まだ終わっちゃいない」 のび太はゆっくりと最後のポケモン、サンドを繰り出した。 ツクシは鼻で笑う。 「もう終わりだよ。サンドよりぼくのストライクの方が速い……えッ!」 ツクシの確信染みた予想に反し、先に動いたのはサンドだった。 イトマルの置き土産、糸を吐くのおかげだ。 「泥かけだ!」 のび太のサンドがストライクの目に泥を投げ付けた。 「命中率が……」 「泥かけはダメージを与えつつ、命中率も下げる。  つまり攻撃と防御が同時にできる技さ」 なんとなく、ハヤトの真似をしてみた。 そんなぼくに、ツクシは若干イラッときてる。そりゃそうだ。 「た、たかが一発の泥かけじゃ、外す確率はまだ低いよ。  ストライク、連続斬り!」 しかしお約束の展開と言おうか、ストライクの鎌は空しく空を斬った。 「な、なんてラッキーな子なんだ……」 のび太がラッキーボーイなのか、 はたまたツクシがアンラッキーボーイなのか。 とにかくストライクの連続斬りは外れ、 加算された連続斬りのダメージは元に戻ってしまった。 「はぁ……ストライク、連続斬り」 ツクシは完全にやる気をなくしてしまったようだ。 そんなツクシにのび太は叫ぶ。 「トレーナーが諦めたらそこで試合終了だよ!」 そんなことを言いつつ、泥かけを指示し続けるぼく。抜け目ない。 しかし、 「あ、当たったぁ!」 「な、なんだってぇ!」 ストライクの攻撃がサンドにヒットし、二人がそれぞれ叫んだ。 喜ぶツクシ、驚くのび太。 これは一体なんの勝負だよ、と二人の戦いを見ていたジムのトレーナーたちは思った。 ----  コガネシティポケモンジム  リーダー アカネ  ダイナマイトプリティギャル! 「なんや、また来たん?」 アカネはジャイアンを見ながら呆れたように言った。 ジムに再挑戦するトレーナーは別段珍しいわけではない。 アカネが嫌がった理由はただ一つ、 再挑戦すんのはええけどな、今何時やと思ってんねん、ということだった。 「ウチは眠いねん。また明日来いや」 あくびをしながらジムに戻ろうとするアカネに、ジャイアンは言う。 「逃げんのかよ、貧乳!」 本日二回目の本人にとっては不名誉な暴言に、 眠気のせいもあり、アカネはブチ切れた。 「ええわ、そこまで言うんやったら相手したるわ!  ただし、ウチが勝ったらもう二度と来るんやないで!」 あと貧乳やなくて美乳や、と主張するアカネにジャイアンは言葉を続ける。 「あと頼みがあるんだけど」 そしてジャイアンは、中指と人差し指を立て、アカネに見せた。 「ダブルバトルで勝負しやがれ!」 ---- 「ダブルバトルぅ?」 ジャイアンの言葉に怪訝そうにするアカネ。 「まぁ別に構へんけどな。どうせウチの勝ちやし」 余裕しゃくしゃくのアカネにジャイアンはガッツポーズ。 「さっさと始めるで!」 「望むところだ!」 二人は二つずつボールを投げる。 アカネが繰り出したのはいつも通り、ピッピとミルタンク。 対するジャイアンは、 「なんや、さっきと同じやんか」 そう、先ほどと変わらず、ゴーリキーとオニドリルだ。 「まぁええわ。ミルタンク、転がるや!」 ミルタンクがゴーリキー目掛けてその巨体をぶつけにくる。 「ゴーリキー、受け止めろ!」 ジャイアンのゴーリキーも力では負けていない。 二本の腕でミルタンクをしっかりと止める。 「さて、どうするつもりや?」 アカネに対し、ジャイアンは得意気に言う。 「気付いたことがあるんだよ。  転がるの威力は最初の方は大したことねぇ。そして、お前のピッピは弱ぇ」 イライラしたアカネはジャイアンに尋ねる。 「だからなんなん?」 「このミルタンクもゴーリキーなら平気だけど」 ゴーリキーはミルタンクに反対方向の力を加え、 耐え切れなくなったミルタンクは転がっていく。 「お前のピッピは耐えられねぇ!」 「なッ……あかん!」 ミルタンクが転がった先にはアカネのピッピ。 「ピッピ、よけるんや!」 アカネは声を張り上げたが遅く、ピッピは味方のミルタンクに倒されてしまった。 ---- 「セコい真似しくさって……!」 ミルタンクは依然転がり続けている。 「ミルタンク、そのままゴーリキーに突っ込め!」 ミルタンクの転がるの威力は半端なものではなくなっている。 しかし、ゴーリキーに当たる直前に、ミルタンクは動きを止めてしまった。 「なんやねん、一体!」 「お前がピッピに気を取られてるすきに、オニドリルを交代しといたんだよ」 見れば、フィールドにいるのはオニドリルではなく、捕まえたばかりのスリープだった。 ミルタンクの動きの停止は、恐らく金縛りによるものだろう。 転がるを封じられたアカネのミルタンクは、 言わば天の恵みのないトゲキッスのようだった。 もともと相性で有利なゴーリキーは、意外なほどあっさりとミルタンクを倒した。 「どうだ? 今度はおれの勝ちだな!」 声を上げて笑うジャイアン。 すると、 「うぅ……うわあぁん! ひどいよぉ!」 アカネは突如泣き出してしまった。 さすがのジャイアンもこれにはびっくりだ。 「え? え?」 「ひっく、本気で戦うなんてぇ……」 ジム戦を本気で戦うのは至って当然なのだが。 周りのトレーナーたちもざわつきだした。 ジャイアンは取りあえずこの、 「なんか知らないけどおれが悪いみたいな空気」を治めるべく謝り、 理不尽なことにも絶え得る大人へと一歩近付いたのであった。 時刻はすでに真夜中。 「じゃあな。すぐ泣くのは止めろよな、貧乳」 「貧乳ちゃうわ!」 「あぁ、そうだった。微乳だった」 「……違う方の字、思い浮かべとるやろ」 こうして、ジャイアンはアカネとほんの少し仲良くなった。 ----  焼けた塔  謎の大火事で焼けました  危険なので近寄らないでください 「確かここにいるんだよな」 スネ夫は立ち入り禁止の文字など見なかったことにして、 焼けた塔の中を彷徨っていた。 「暗くて見づら……うわぁッ!」 焼けた塔はその名の通り、火事が起きた塔。 あちこちボロボロで床に穴も空いており、しかも足下は見えにくい。 要するに、スネ夫はその穴からおっこちたのだ。 「いったぁ……くそぅ……」 今度は足下がよく見えるように、と、 先ほど新たに捕まえたロコンを繰り出すスネ夫。 明かりのおかげで、スムーズに奥へ進んでいく。 「えぇと……確かこのあた」 ズボッ。 左足に嫌な感触を覚えたスネ夫は、恐る恐るそこを見やる。 スネ夫の足はしっかりと床を踏み抜いていた。 「だから……こんなとこまでリアルに再現するなぁ!」 そう叫びながら、スネ夫は本日二度目の地下への落下を体験した。 ---- 「ほら、完成したで」 ガンテツはのび太としずかに二つのボールを手渡した。 「ルアーボールとフレンドボールや。持ってってええぞ」 のび太としずかはうやうやしく礼をした。 「んん? なんや、そのポケモンは」 「ああ、こいつですか」 のび太は傍らのポケモンを抱き抱え、事も無げに言う。 「もらったタマゴが孵化したんですよ。トゲピーって言うんです」 「ポケモンのタマゴやて!?」 のび太の言葉にガンテツは相当びっくりしたらしい。 あまりの驚きにゴホゴホとむせて、孫に心配されているほどだ。 「大発見やないか! ポケモンがタマゴを産むなんて!」 「えっ? こんなの別にじょうし」 「本当にそうですよね! わたしもびっくりしました!」 空気を読まないのび太のフォローをするしずか。 このポケモン金銀の世界において、 ポケモンのタマゴは初めて発見され、孵化したのだから、 ガンテツにとっては大発見なのだ。 もちろんのび太は、そこまで考え至るほどの思考力を持ち合わせていない。 「ぜひともそのポケモンを、わしの作ったボールに入れてくれ!」 ガンテツにそう頼まれたのび太は、 トゲピーをガンテツからもらったフレンドボールに入れた。 そうしてヒワダタウンを後にした二人だったが、 二つの中から適当に選んだボールが、 トゲピーにとってベストチョイスであることは知らなかった。 ---- 「なんでぼくがこんな目に……」 スネ夫は煤塗れになったズボンをはたく。 「ったく……あッ!」 スネ夫の視線の先には三匹の美しいポケモン。 スネ夫の目的はそのポケモンたちだった。 ゲームのイベントではこの三匹には逃げられてしまうのだが、 すきを付けば捕獲できるかもしれない。 「できるならスイクン、少なくともライコウは捕まえてやる!」 たまには唯一神のことも思い出してあげてください。 スネ夫は三匹に、本人にしてみれば二匹に近付こうとした。 すると、 「うっわぁ!」 気付かれたらしく、スイクンの冷凍ビームがスネ夫を襲う。 直撃はしなかったものの、床が凍り付いてしまった。 そうこうしているうちに、 三匹のポケモンたちはそれぞれバラバラに走り去っていった。 「やっぱりダメなのかぁ……」 はぁ、とスネ夫は溜め息を吐いた。 「うん、あれ? ……アーッ!」 さらに不運なことに、 スネ夫の足は氷によって床とくっつけられてしまっていた。 ---- ここはラジオ塔 「えぇと、はい!」 「残念! ボンゴレじゃないんですよ」 のび太はラジオ塔のクイズに大苦戦していた。 すべてのクイズに正解すると、ポケギアのラジオカードがもらえるのだ。 しかし、非常に残念ながらのび太は賢くない。 いや、賢くないどころの話ではない。 「はい!」 「残念! 死ね死ね光線じゃないんですよ」 受付のお姉さんは全身から「もう帰れオーラ」を出しているのだが、 のび太はそれには気付けない。 「あれ、のび太くん!」 そんなのび太に一人の青年が話しかけた。 「あぁ、ヒワダタウンのお兄さん!」 どうせ誰も覚えてないだろうから、ぼくが説明しましょう。 この人はヤドン誘拐事件を見て見ぬ振りしていた、 ヒワダタウンのチキンなお兄さんです。 「のび太くん、何はともあれ、ヤドンたちを助けてくれてどうもありがとう」 青年は頭を下げ、のび太はいえいえ、と首を振る。 ---- 「ところで、お兄さんはなんでここに?」 「あぁ、ボクはここで働いてるんだよ。実家がヒワダタウンなんだ。  きみらと会ったあとにすぐこっちに来たんだよ」 ふんふん、と青年の話を聞いていたのび太の脳裏に、 「いいこと」が思い浮かんだ。 「すいません、いきなりですけど、ラジオカードくれませんか?」 青年は少し驚いたような顔をし、すぐにいつもの笑顔に戻った。 「……友だちの分かい? まぁ別に構わないけど」 のび太はさらに指を二本出す。 「二つ、もらえませんか?」 よく分からない、といったような顔をしながらも、 お兄さんはラジオカードをくれました。 なんと優しい人でしょう。 クイズが解けないんです、なんて言ってたまるもんですか。 「ありがとう、お兄さん。じゃあこれで!」 のび太はラジオカードをもらうや否や、さっさと塔を出て行った。 「……」 青年はそんなのび太の後ろ姿をただただ見つめていた。 ----  憩いの広場  自然公園 「おれに似合いのポケモンやーい!」 ジャイアンは自然公園にいた。 そこで開催されている虫捕り大会に参加しているのだ。 以前も同じようなことを言いながらポケモンを探していたが、 結局、捕まえたのはかっこいいとは程遠いポケモンだった。 「今度こそ強くてかっこいい奴を……」 気合いの入れすぎに加えて、独り言が異様に多いため、 他の参加者たちはジャイアンから避けるように移動している。 「取りあえずポケモン出しとくか……」 ジャイアンがボールに手を掛けたそのとき、背後の茂みが揺れた。 そこから飛び出してきたのは二本の角。 「う、おおおぉぉッ!」 間一髪でそれを避けるジャイアン。 息を切らしながら目の前のポケモンを見つめる。 「お前は……確かカルロス!」 名称を思いっきり間違っているジャイアン。 周りにツッコんでくれる人はいない。 ---- 「でかいし、強そうだ……よし、お前を捕まえて優勝してやる!」 高らかに宣言した瞬間、ジャイアンは頭が真っ白になった。 「……て、手持ちがねぇッ!」 さっきの衝撃で手持ちを落としてしまったらしい。 ジャイアンはない脳みそを必死で絞り、打開策を練る。 ……考えろ、考えるんだ剛田武。 落ち着いて状況を整理するんだ。 手持ちは落とした。空きのボールはある。周りに人はいない。 だが、しかし!……しかし、うーん……。 すると、ジャイアンの視界の端に紫色が映った。 「……えぇい、ままよ!」 ジャイアンはボールを投げ付けた。 カイロスではなく、そばの草むらの紫色のポケモンに。 「ッしゃあ! 行け、コンパン!」 そして、捕まえたばかりのコンパンを繰り出し、 目の前のカイロスに攻撃を仕掛けた。 ---- 「あら、のび太さん。お帰りなさい」 「ただいま、しずちゃん」 あぁ、今の会話ちょっと新婚っぽいなぁうふふ。 「どうしたの、ニヤニヤして」 しずかは怪訝そうに、のび太のしまりのない笑みを見ている。 ここはコガネシティのポケモンセンター。 町に着いた二人は、まず自由行動の時間を取り、 待ち合わせの場所をここに決めていたのだ。 「あッ、いや、なんでもないよ……」 それよりほら、とのび太が差し出したのは、先ほどのラジオカード。 「もらってきたんだ」 「あら、ありがとう」 しずかは受け取ったカードを自分のポケギアにセットした。 そして遠慮がちに言う。 「……わたしはなんにもないの。ごめんなさいね」 別にいいんだよ、とのび太は手を振る。 「ところでそのポケモンは?」 しずかの座っているソファの側に、 茶色と白のふわふわの毛を持つポケモンが、ちょこんと座っている。 ---- 「迷子の子がいたから、いっしょに家族を探してあげたの。  そしたらお礼にって。イーブイって言うのよ」 しずかはイーブイを抱き抱え、頭をなでた。 イーブイは気持ちよさそうに目を細めている。 「へぇ、かわいいね」 のび太もイーブイに触れようとしたが、 「わッ、いたッ!」 手の甲を引っかかれてしまった。 このイーブイ、なんというかのび太に対する敵意丸出しだ。 「イーブイ、引っかいちゃダメよ」 しずかが叱ると、イーブイはこくん、と可愛らしく頷いたが、 のび太を一瞥すると、ふん、とそっぽを向いた。 「……」 あぁ、こんな野良猫が昔いたなぁ。 女には腹を出して甘えるくせに、男には威嚇しまくる猫。 ぼくもさんざん引っかかれたっけ。 「……この猫かぶりが」 のび太はいやな記憶とシンクロした言葉をぼそりと呟いた。 「あら、何か言った?」 「……いや、なーんにも! それよりさぁ、そろそろコガネジムに行かない?」 のび太のその提案に、しずかは賛成した。 そして後に判明したが、このイーブイはやはりオスだったらしい。 ---- 「ふざけんなよ! いらねぇよ、太陽の石なんて!」 「そ、そんなこと言われても……」 ジャイアンは虫採り大会の主催者の胸ぐらをつかんでいる。 あの後、ジャイアンはコンパンの状態異常技で攻め、 見事にカイロスを捕まえた。 あまりのうれしさに、落とした手持ちポケモンの存在を忘れていたのは内緒だ。 そしてまた、見事に虫採り大会で優勝を飾った。 ここまではよかった。 しかしジャイアンは、その優勝賞品の太陽の石が気に入らないのだ。 「そ、その石はとっても珍しいんだけど……」 「おれには使い道がねぇんだよ!」 ジャイアンの手持ちには、太陽の石を使えるポケモンはいない。 ふつうのゲームならば、ポケモン図鑑を完成させるのに、 進化の石は必要不可欠だろうが、 あいにく、この旅の目的は図鑑完成ではないのだ。 「ッたく、しゃあねぇなぁ……」 ジャイアンは諦めたように手を放した。 「わ、分かってくれたんだね……」 安堵の溜め息を洩らす主催者。 ところがジャイアンは、にこにこしながら右手を前に出している。 「賞金」 「……はぁ?」 「賞金よこせばもらってやるよ」 さすがジャイアン、めちゃくちゃである。 「そ、そんな……」 「別におれはいいんだぜ?……この会場を地獄絵図にしたってな」 その言葉に、主催者と参加者たちの、 血の気が引く音が聞こえた気がした。 ---- 「いやぁ、楽勝楽勝!」 そうしてジャイアンは主催者から、 福沢諭吉を何枚かもらうことに成功したのだった。 ついでに参加者からも、樋口一葉や野口英世をもらった。 あくまで「もらった」のであって、 決して「奪った」わけではない、そうである。 どうやらジャイアンは、一度全財産を失ったくせに、 まだ懲りていないらしい。 「お前のおかげだぜ、カルロス!」 結局のところ、ジャイアンは誰にもこの間違いを訂正されなかった。 おそらくわざとだろう。 罪には罰が与えられる。 ジャイアンはしばらくの間、恥をかき続けることになるのだった。 [[次へ>ただの金銀のようだ その4]] ----

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