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ルビー その10」(2007/03/18 (日) 14:45:12) の最新版変更点

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[[前へ>ルビー その9]] 空は淡い赤に染められていて、おぼろげな夕日が町を照らす。 それと同時に、熱いバトルにも一時の休息が訪れた―― 「勝者、のび太選手!」 高らかに勝利宣言をする審判。 こののび太の試合で、第2回戦全ての試合が終わった。 「やった……」 夕日に染まるのび太の顔。 この時点で、のび太達全員の2回戦突破が確定したのだ。 ドーム控え室。 明日の3回戦に備え、のび太達はここで睡眠をとることにした。 因みに、大多数のトレーナーはここに泊まる。 「ともあれ、これで全員が2回戦を突破したワケだね」 モンスターボールを回しながら言う出木杉。 「なあに、全員がここまで来ることは想定内さ。本当の戦いは4回戦……ベスト16からだよ」 当然だろ、と言わんばかりのスネ夫。 だが、彼の顔にはどこか安心したような笑顔がこぼれていた。 ---- 翌朝。 のび太が起きた頃には、既に3回戦は始まっていた。 「ふぁーあ……あれ、みんなは?」 辺りを見回すと、誰も居ない。 残っているのはトレーナーの荷物だけだ。 「まさかもう始まってるんじゃ……いかなきゃ!」 ドーム観客席。 「はぁはぁ……。おーい、スネ夫!」 息を切らしながらスネ夫の所へ走っていくのび太。 闘技場を見ると、丁度ジャイアンが勝利を納めていたところだった。 「何とか勝ったか……。でも、ジャイアンが3回戦から苦戦を強いられるとは思ってもみなかったな」 一人呟くスネ夫。 どうやら、ジャイアンはかなりの苦戦を強いられたようだ。 「後はのび太と出木杉だけだよ。出木杉は大丈夫だろうけど……お前は大丈夫か?」 皮肉っぽく言うスネ夫。 カッとなったのび太は、つい大声を出してしまう。 「心配されなくても大丈夫だよ!僕は強くなったんだ!」 そう言うと、のび太は観客席の階段を降りていった。 ---- そして時は過ぎ、ついにのび太の番が来る。 既に出木杉が楽々勝利を納めたこともあり、のび太は焦っていた。 『どうしよう……僕だけ勝てなかったら……』 胃袋が破裂するような不安を抱え、のび太は闘技場に出ていった。 「では、のび太選手対マサル選手……はじめ!」 「いけ、メタグロス!」 「ニューラ!」 のび太はメタグロス。相手はニューラ。 相性では圧倒的に有利だった。 「メタグロス、コメットパンチ!」 それから戦いは続き、既に日は西に傾いていた。 相手のポケモンは残り一体のマタドガス。 対して、のび太はダーテングとアブソルの二体が残っている。 『ここでダーテングに大爆発をさせれば、僕の勝ち。だけど……』 ドーム観客席。 「のび太はなんで大爆発をしないんだ?したら勝てるのに」 よくわからない、という表情をするスネ夫。 確かに、しない理由が見つからない。 一同は次ののび太の指示を待った。 ---- 人差し指を立て、ダーテングに指示をだすのび太。 「ダーテング、じんつうりきだ!」 「はぁ?」 観客席では、全員が驚きの声をあげていた。 そして、舞台は闘技場に戻る。 「マタドガス、ヘドロ爆弾!」 ギリギリ生き残ったマタドガスの反撃。 ダーテングは倒れ、のび太は次のポケモンを出す。 「いけ、アブソル!」 ドーム控え室。 皆が待つ中、やっと勝負を終えたのび太が帰ってきた。 「はあ、危なかったよ……。あそこで攻撃が急所に当たらなかったら負けてたかも」 安堵の息をもらすのび太。 だが、スネ夫の反応は厳しかった。 「何が『負けてたかも』だよ!のび太、いくらお前でもわかっているだろ……あそこで大爆発を使えば勝っていたんだ!」 スネ夫の怒声を浴び、うつむくのび太。 「だって……」 すると、その場を沈めようとしずかが間に入る。 「いいじゃないの。結果的に勝ったんだし。私はわかるわ。のび太さんはダーテングが可愛そうだから、大爆発をさせなかったのよね」 しずかが言うと、のび太はゆっくりと頷いた。 ---- 「いいかのび太!この大会は負けたら終わりなんだ!そんな悠長なことは……」 怒鳴るスネ夫。 だが、言葉は途中で止まった。 バタン! というドアの音と共に、のび太が控え室を飛び出したからだ。 「もうやめて、スネ夫さん。のび太さんが可愛そうよ……」 しずかがなだめるが、スネ夫は折れない。 「この大会に負けるってことは、この世界が崩壊するってことだ。それだけじゃない。ドラえもんだって取り戻せない!」 そう言われると、反論できないしずかは黙ってしまう。 次に口を挟んだのは出木杉だった。 「過程はどうあれ野比君は勝った。今回はこれぐらいにしないか?それよりも、全員がベスト16に入れたことを喜ぼうよ」 もっともだ。 辺りに沈黙が訪れた……。 トクサネシティ。 部屋を飛び出したのび太は、宿に戻っていた。 「はぁ……」 窓越しに海を眺めるのび太。 『確かに、スネ夫の言う通りだ……。負けちゃ何にもならないじゃないか』 あの試合の時だって、のび太はそう考えていた。 だが、頭でわかっていても口が動かなかった。 『やっぱり、やるしかないのか……』 のび太は夜まで考え込んでいた。 ---- チャンピオン・リーグが開催されて早3日。 この日の朝、この大会は誰も予想しない急展開を迎えることになる。 「来ない……」 誰ともなしに呟くスネ夫。 来ないというのは、スネ夫の対戦相手。 いや、それだけではない。 のび太の対戦相手も、しずかの対戦相手も……ここにいる皆の対戦相手が来ていないのだ。 そして、既に開始時間から1時間が経過していた。 「1時間待っても来ない、ということは……ここにいる皆さんの不戦勝、ということですかね……」 戸惑いを隠しきれない司会者。 だが、大会進行をする上で掟に逆らってはならない。 こうして、準々決勝出場者――ベスト8が決まった。 準々決勝 第1試合 のび太VSしずか 第2試合 スネ夫VSジャイアン 第3試合 出木杉VSミツル 第4試合 ダイゴVSリン ---- ドーム控え室。 「不戦勝、か。何か納得できないなぁ」 神妙な顔をして呟く出木杉。 確かに、会場に来た全員の相手が不戦勝だなんてありえない。 だが、のび太達の思いはそこではなく、次の対戦にあった。 「僕の相手はしずかちゃんか……」 のび太がため息をつく。 「俺はスネ夫だな」 ジャイアンが言った。 そう、5人の内出木杉以外は、皆対戦相手として戦うことになる。 つまり、同士討ちを余儀なくされるということだ。 「皆が勝ち進めば、いずれはこうなった。仕方ないよ……」 何とか雰囲気を戻そうとするスネ夫だったが、彼自身も戸惑いを感じていた。 「僕、とりあえずトクサネシティに戻るよ」 部屋を出るのび太。 それに続き、他のメンバーも一人、また一人と部屋を後にした。 いよいよ明日に迫った準々決勝。 空を覆う暗雲は、まるでのび太達の心を映しているかのようだった。 ---- トクサネシティの宿。 のび太は部屋の隅に座っていた。 『僕は明日しずかちゃんと戦う……いやだな……』 のび太の対戦相手はしずか。 友達と戦うのは、まだのび太には酷のようだ。 トントン。 不意に、扉を叩く音がする。 「はーい……」 扉を開けるのび太。 すると、そこには対戦相手のしずかがいた。 「こんにちは、のび太さん」 それからのび太としずかは一言も話さず、ただ下を向いていた。 まるで、初めてデートをした時の恋人のように。 「ねえ、のび太さん」 長い沈黙が過ぎ、切り出したのはしずかだった。 「明日の試合……お互い悔いのないように全力で戦いましょう」 すると、のび太は口を小さく開けて言った。 「……嫌だ。僕……しずかちゃんと戦いたくない」 ---- のび太の発言に、しずかは戸惑った。 「え?どういうこと?」 優しく問いかけるしずかだったが、のび太は構わず怒鳴った。 「だから、僕はしずかちゃんとは戦いたくないんだよ!」 その瞬間、しずかの手のひらがのび太の頬を引っ叩いた。 その迫力に押され、黙りこくってしまうのび太。 「のび太さんが何を考えてるかはわからないけど……のび太さんは勝ちたくないの?ドラちゃんを助けたくないの?」 必死で諭そうとするしずか。 のび太は赤くなった頬をさすりながら首を横に振った。 「じゃあ、私に勝たないとダメでしょ!勝ってドラちゃんを助けなさいよ!」 今までの長い付き合いの中で見たことのない、しずかの顔。 のび太はコクリと頷いた。 トクサネシティ砂浜。 「波の音が綺麗ね……のび太さん」 「う、うん」 二人は体を寄せ合い、水平線に沈む夕焼けを見ていた。 「明日は……全力で戦いましょうね」 のび太の顔をしっかり見つめるしずか。 「うん。お互い悔いの無いように」 のび太もしずかの顔をしっかり見つめた。 すると、しずかはゆっくり立ち上がる。 「私、負けないからね!」 しずかは砂浜の向こうの方へ走っていき、のび太に手を振りながら言った。 のび太も手を振り返して、笑顔で答えた。 「ああ、僕だって負けないさ!」 ---- かたやジャイアンとスネ夫。 二人はトクサネシティのポケモンセンターに居た。 「いよいよ明日だな、スネ夫」 懐のモンスターボールを確かめ、呼びかけるジャイアン。 「そうだね、ジャイアン」 それに答えるスネ夫。 二人の雰囲気はいつもと違い、その表情は固くなっていた。 「ジャイアン。明日の試合、僕は負けないよ。絶対に」 切り出すスネ夫。 「何言ってんだよ。勝つのはこの俺様だ」 返答するジャイアン。 だが……やはりいつもの二人の姿は見えない。 そこにいる二人は親友としての二人ではなく、対戦相手としての二人。 今まで一緒に戦ってきた仲間としての二人ではなく、倒さなければならない敵としての二人。 「僕は戻るよ、ジャイアン。明日に備えないと」 「おう。それじゃあ俺も戻るぜ、スネ夫」 親友の絆をも断ち切ってしまう過酷な戦い、チャンピオン・リーグ。 それは運命なのか、はたまた偶然なのか。 神は少年少女達に過酷な試練を与えた―― ---- 翌朝。 様々な思いが交錯する中、ついに開始された準々決勝。 最初の試合はのび太VSしずか。 早くも、ここでどちらかが落ちることになるのだ。 「ワー!ワー!ワー!ワー!」 会場全域に響く観客の声。 準々決勝ともなると、その盛り上がり様は物凄かった。 そして、ついに選手がコールされる。 「準々決勝第1試合、のび太選手としずか選手……。今すぐ闘技場に出てください」 アナウンスの声が響くと、闘技場の両サイドに煙が充満する。 右サイドから出てきたのはのび太。 『もう迷わない。ドラえもんを助けるために、僕は勝つ!』 左サイドはしずかだ。 『私だって負けたくない。ここまで来たんですもの』 固まった二人の決意。 それは、その表情にも表れているほどだ。 そして、ついに二人が定位置につく。 審判は高らかに試合開始の旗をあげた。 「では、準々決勝第1試合、はじめ!」 ---- 「いけ、アブソル!」 「いきなさい、プクリン!」 のび太はアブソル。しずかはプクリン。 先に動いたのはのび太だった。 「剣の舞だ!」 相手を困惑させるような不思議な動きを見せ、攻撃力をあげるアブソル。 対して、しずかは不安げな表情を見せていた。 『いきなり剣の舞……。ただでさえ攻撃力の高いアブソルなのに、これは危ないわね』 危険を察したしずかは、早急にアブソルを倒すことにした。 「プクリン、かわらわり!」 プクリンの手刀を受け、痛がるアブソル。 だが、のび太も負けじと応戦する。 「一発で決めてくれ!アブソル、破壊光線!」 アブソルからキラキラした光線が放出される。 剣の舞をしたこともあって、その威力はかなりのものだった。 「プクリン!」 鈍い音を立てて、プクリンが沈む―― ---- しずかのプクリンを一撃で倒したアブソル。 だが、その健闘も虚しく、次に出てきたキレイハナの攻撃で力尽きた。 「頼んだよ、ペリッパー」 のび太が次に選んだのはペリッパー。 草タイプのキレイハナを相手にするには妥当な判断だろう。 『この大会ではポケモンを入れ替えれない……。どうしましょう』 焦るしずか。 その間にも、ペリッパーの攻撃はキレイハナにヒットしている。 「トドメだ!」 のび太の指示により、三撃目がキレイハナを襲った。 「戻りなさい、キレイハナ」 「キリンリキ!」 次に出てきたのはキリンリキ。 そして、キリンリキが放った十万ボルトでペリッパーが沈む。 『キリンリキ……となると、悪タイプの攻撃が必要になるな』 「いけ、ダーテング!」 ---- のび太のエース、ダーテングの力はかなりのものだった。 得意の悪技でキリンリキを倒し、その次のキュウコンとも互角の戦いをしていた。 「キュウコン、火炎放射!」 二度目の火炎放射を受け、倒れそうになるダーテング。 のび太は迷っていた。 『ここで大爆発をすれば、キュウコンは倒せる。だけど……』 そこまで考えたとき、のび太はスネ夫の言葉を思い出した。 そして、それにしずかの言葉も重なる。 『……僕は負けられない!負けられないんだ!その為には……ダーテング、ごめんね』 「大爆発!」 苦渋の選択の末に、のび太がとった行動は大爆発だった。 ドーム観客席。 「やった!やったぞのび太!」 歓声をあげるスネ夫。 彼としても、のび太が考えを変えてくれた事が嬉しかった。 「しずかちゃんは残り二匹。野比君は残り三匹。まさか、野比君がここまでしずかちゃんを追い詰めるとはね」 神妙な顔をして呟く出木杉。 正直なところ、出木杉はのび太がしずかに勝てるとは思っていなかった。 だが、今の自分はしずかと互角以上に渡り合っているのび太を目の当たりにしている。 『野比君……。ひょっとしたら、君は僕を超えるかもしれないな』 ---- まだまだ続く熱いバトル。 大爆発によってリセットされた戦場に、再び兵士が出陣する。 「ベトベトン!」 「いきなさい、チルタリス!」 のび太のポケモンはベトベトン。 チャンピオン・リーグの準備期間中に育てたものだ。 「ベトベトン……厄介ね。チルタリス、地震!」 激しい揺れを起こし、ベトベトンを襲うチルタリス。 効果抜群の攻撃を受け、ベトベトンはかなりのダメージを負った。 「ヘドロ爆弾だ!」 繰り出される巨大なヘドロの塊。 だが、それはチルタリスの体力の半分も奪えなかった。 「ドラゴンタイプのポテンシャルを舐めてもらったら困るわね。トドメの地震!」 二発目を食らい、さすがのベトベトンも虚しく倒れる。 「お疲れ、ベトベトン」 『残りはハリテヤマとメタグロス。一撃で倒すためにも、ここはメタグロスでいくか』 「出ろ、メタグロス!」 空高くボールを放り投げるのび太。 出てきたのは、今までに何度もピンチを救ってきたのび太の切り札――メタグロス。 ---- メタグロスの威容に、しずかは不安を感じていた。 『このメタグロス、かなり強い。チルタリスでなるだけ多くのダメージを与えないと!』 「チルタリス、地震!」 「コメットパンチだ!」 地震攻撃がメタグロスを襲うも、メタグロスは怯まずチルタリスに攻撃する。 フルパワーでぶつけられる豪腕を前に、チルタリスは無残に崩れ落ちた。 「戻りなさい、チルタリス」 チルタリスを戻し、一息をつくしずか。 「のび太さん……。まさか、あなた相手に私が最後の一匹まで追い詰められるなんて、思ってもいなかったわ」 しずかは最後のボールを構える。 「でも、この子は一筋縄じゃいかないわよ。いきなさい!」 最後のボールを放つしずか。 そこから出てきたのは―― 見るものを魅了する曲線を描いたボディ。 太陽の光を反射して煌びやかに光る鱗。 会場全体がその美しさに見とれたそのポケモンは――ミロカロス。 ---- ついにその姿を現したしずかの切り札、ミロカロス。 その美しさは、言葉では言い表せないほどだった。 『す、凄い!なんて綺麗なんだろう……。って、見とれてる場合じゃない!』 ミロカロスの容姿に見とれながらも、のび太は指示を降す。 「メタグロス、ヘドロ爆弾!」 「ミロカロス、波乗り」 素早さに勝るミロカロスが先に攻撃を放つ。 そして、ギリギリ生き残ったメタグロスの攻撃が繰り出される。 「もう一度よ」 凄まじい耐久力でそれを耐えたミロカロスは、二発目の波乗りでメタグロスを降した。 「このミロカロスは私のとっておき。強さだけじゃなく、美しさも限界まで上げたわ」 メタグロスを倒したことにより、自信を取り戻したしずか。 圧倒的な力は、敵を倒すだけでなくトレーナーの自信をも蘇らせる。 そして、相手のトレーナーに多大なプレッシャーを与える。 『やばい。残りはハリテヤマ一匹。僕は勝てるのか?』 窮地に立ち、焦るのび太。 頭の中がパニックになりながらも、のび太は最後のボールを放つ。 「いけ、ハリテヤマ!」 ---- お互いに残りポケモンは後一匹。 もう、後は無かった。 「ミロカロス、波乗り!」 「ハリテヤマ、かわらわりだ!」 繰り出される両者の攻撃。 襲いかかる波を受けながら、ハリテヤマは手刀を振り下ろす。 だが、受けたダメージはハリテヤマの方が圧倒的に大きかった。 「もう一度よ、ミロカロス」 「こっちだって!」 再び、さっきと同じ光景が繰り返される。 これにより、ハリテヤマの体力は後一発の波乗りの射程範囲内に入った。 しかし、対するミロカロスは半分ほど体力が残っている。 「のび太さん。この勝負、私がもらったわね」 ドーム観客席。 「なあ、のび太が負けるのか?」 不安そうな顔で聞くジャイアン。 それにスネ夫が答えた。 「このままいけば……多分そうなるね。やっぱりのび太は……」 「いや、まだ決まってないよ」 スネ夫の言葉の途中に出木杉が割り込んだ。 「ポケモンバトルは何が起こるかわからない。勝負は最後までわからないさ」 3人はただただ戦況を見つめていた。 ---- 「次の攻撃で私の勝ちね」 勝ち誇ったように言い放つしずか。 対して、のび太には対抗する術はなかった。 『ミロカロスの波乗りでハリテヤマは確実に倒れる……。僕の負けだ』 そして、ついに波乗りの指示が出される。 「これで終わりよ。ミロカロス、波乗り!」 『終わった……終わったんだ』 波乗りで倒れているであろうハリテヤマを見ず、天を仰ぐのび太。 だが、勝利の女神はのび太に微笑んだ―― 「え?どういうこと?」 のび太の耳に入るしずかの声。 のび太は目の前の状況を見つめた。 「これは……!ハリテヤマが倒れてない!」 「な、なんで……」 驚愕するしずか。 そんな時、しずかの顔に日差しが当たる。 「これは……太陽の光ね。まさか……」 しずかは何かを気付いたようだ。 「この太陽がにほんばれの状態を作り出して……波乗りの威力を弱めたっていうの?」 確かに、ドームの真上では太陽がギラギラと輝いていた。 「よく耐えたね、ハリテヤマ。そして……僕の勝ちだよ、しずかちゃん」 「え?」 さっきまでとは一変、自信ありげに言うのび太。 すると、突然ハリテヤマが輝き出した。 それは太陽よりも眩しく、夜空に浮かぶ星よりも輝いていた―― ---- 「こ、これは何?」 しずかはさっきから驚きの連続だった。 そして、そんなしずかを嘲笑うかのようにのび太が言い放つ。 「僕はハリテヤマにチイラの実を持たせていた。これでハリテヤマの攻撃力があがる」 「で、でも!それだけじゃミロカロスは倒せないわ!」 確かにそうだ。 ミロカロスの体力はまだ半分ほど残っている。 いくらハリテヤマの攻撃力にチイラの実が重なったとて、一撃では倒せないだろう。 だが、のび太の次の言葉はしずかの予想を裏切った。 「甘いよ、しずかちゃん。ハリテヤマ、起死回生だ!」 起死回生……自分がダメージを負っていれば負っているほど相手へのダメージが大きくなる技だ。 体力が残り僅かのハリテヤマが繰り出すその威力は――計り知れない。 しずかは負けを悟った。 「いっけええええええええ!」 繰り出される渾身の一撃。 それをまともに食らい、ついにミロカロスが崩れた。 「や……やったああああああ!」 歓喜の叫びをあげるのび太。 しずかはミロカロスをボールに戻し、力無く跪いた。 「勝者、のび太!」 ---- のび太に負けたショックからか、小走りで闘技場を出るしずか。 『私、負けたの……?』 それに気付いたのび太はしずかの後を追った。 ドーム控え室。 「しずかちゃーん!」 荒い息をつきながら、しずかの方へと走ってくるのび太。 「……」 しずかはどう対応すればいいのかわからず、黙りこくってしまう。 すると、のび太が手を差し出した。 「ありがとう、しずかちゃん。お陰でいいバトルができたよ」 だが、しずかは手を出さなかった。 「私ね、最初はのび太さんに負けるとは思ってなかったの。でも――」 「いや、いいよ」 のび太は全てを察したような表情で止めた。 「もしあの時、日差しが強くなかったら僕は負けていた。僕の運が良かっただけだ。しずかちゃん、君は強いよ」 友達としてではなく、対戦相手としてのしずかに賞賛の言葉を送るのび太。 「ありがとう、のび太さん……」 しずかはゆっくりと右手を挙げ、のび太の手を握った。 ---- ドーム闘技場。 ここでは、既にジャイアン対スネ夫の試合が始まっていた。 「出ろ、カイリキー!」 「いけ、エアームド!」 ジャイアンはカイリキー、スネ夫はエアームドだ。 ドーム観客席。 出木杉が二人の試合を見守っている中、のび太としずかが走ってきた。 「おーい、出木杉!試合の状況はどうなんだい?」 「遅くなってごめんなさい、出木杉さん」 二人の様子を見て、安堵の息をもらす出木杉。 『試合が終わっても、何も問題はなかったみたいだな』 舞台は闘技場に戻る。 「エアームド、つばめがえし」 3撃目を食らい、倒れるカイリキー。 「いけ、レアコイル!」 ジャイアンが次に繰り出したのはレアコイルだった。 ---- 『レアコイル……ダメージが通らないし毒は効かない。これはやばいな』 レアコイルは鋼タイプ。 スネ夫の十八番、毒毒戦法は通じないし、かといってエアームドではダメージも通らない。 『なら、影分身を積んでからまきびしだ!』 「影分身!」 エアームドはさっきのカイリキー戦で2回影分身をしていて、これで3回積んだことになる。 『これで敵の攻撃はそう当たらない。後はゆっくりまきびしをやらせてもらうさ』 だが、スネ夫の策は脆く崩れ落ちることになる。 「レアコイル、電撃波!」 ジャイアンがレアコイルに指示したのは雷でも十万ボルトでもなく、電撃波。 攻撃が必ず当たるという便利な技だ。 一撃の下に倒れるエアームドを見ながら、スネ夫は驚いていた。 「へへっ!スネ夫、俺だって伊達にお前と長い付き合いしてるワケじゃないんだ!おまえの考えぐらいすぐにわかるぜ!」 そう、このレアコイルは、ジャイアンが対スネ夫に特化させたポケモンだったのだ。 『ジャイアン……。まさか君がここまでとはね。どうやら油断は禁物のようだ』 スネ夫はエアームドを戻し、次のモンスターボールを放った。 ---- ドーム観客席。 「凄いわね、武さん……」 賞賛するしずか。 それに出木杉も頷く。 『まさか、武君がここまで成長していたとはね……』 ここにいる3人も、闘技場にいるスネ夫までもがジャイアンの成長ぶりに感心していた。 舞台は闘技場へ。 「いけ、ナマズン!」 スネ夫の次のポケモンはナマズン。 チャンピオン・リーグ準備期間に育てたものである。 『ナマズンは弱点が少ないから、殆どの相手と互角に戦える。ラグラージは手に入らなかったが、コイツでも十分だ』 ナマズンは弱点が少なく、技が豊富。 誰と対戦するかわからないこの大会において、まさにうってつけのポケモンだった。 「レアコイル、金属音」 「ナマズン、地震だ!」 特殊防御を下げられるナマズンだったが、そのまま渾身の地震攻撃を食らわせる。 当然、レアコイルは一撃で沈んだ。 ---- 「サメハダー、波乗り!」 レアコイルを倒したナマズンであったが、続くサメハダーの攻撃で倒れてしまう。 『さっきの金属音が痛かったな……次はどれでいこうか……』 「出ろ、ライボルト」 スネ夫が繰り出したのは、電気タイプのライボルト。 当然といえば当然だ。 「十万ボルト」 効果抜群の一撃を食らい、サメハダーは倒れた。 ドーム観客席。 「お互い一歩も引かないね……。これは面白い戦いになりそうだ」 闘技場を見つめる出木杉。 「ジャイアンは残り3匹。スネ夫は4匹。スネ夫の方が少し有利だね」 のび太が言った。 舞台は闘技場へ。 「ボスゴドラ、地震だ!」 ボスゴドラの地震攻撃であっけなく倒れるライボルト。 双方一歩も引かず、一進一退の攻防を繰り返していた。 ---- 戦いはまだまだ続く。 「ジュカイン、地震だ!」 スネ夫はジュカインを出し、地震攻撃でボスゴドラを降した。 『僕はこんな所で負けたくない……負けるわけにはいかないんだ』 数日前―― スネ夫は宿の一部屋で寝転んでいた。 そして、今までのことを思い返す。 『……僕はしずかちゃんに負けてジャイアンにも負けて、マグマ団になって……』 だが、頭に浮かんでくるのは屈辱的な思い出ばかり。 『しかも、僕はマツブサを倒せなかった。出木杉にも勝てなかった。結局……僕は何も出来なかった!』 「うわあああああああああ!」 仰向けの状態で、頭を抱えながら暴れるスネ夫。 「はぁ……はぁ……」 そんな時、スネ夫は外に出木杉の姿を見た。 「出木杉……!」 スネ夫はモンスターボールを持ち、大急ぎで宿の階段を駆け下りる。 そして、出木杉と対峙する。 「何だい?骨川君」 荒い息をつくスネ夫に対し、平然と話す出木杉。 スネ夫は出木杉にモンスターボールをつきつけ、言った。 「勝負だ、出木杉!」 ---- 出木杉に勝負を挑むスネ夫。 彼としても、このチャンピオン・リーグ準備期間に自信をつけたい所だった。 しかし、現実はそう甘くなかった。 「そんな……僕が……負けた?」 何も言わず、逃げるように走っていくスネ夫。 暫く走っている内に、彼は砂浜についた。 『もう夜か……早いな』 辺りは既に暗くなっていて、綺麗な三日月が夜空を彩っていた。 「なんで……なんで!なんで!なんで!」 拳をひたすら砂浜に叩きつけるスネ夫。 その目からは涙がこぼれていた。 暫くして拳を叩きつけるのを止め、海を眺めるスネ夫。 そして、彼は決心する。 『僕は、もうこれ以上負けたくない』 この世界に来たときから、他の皆に対して優越感を抱いていたスネ夫。 そんな彼にとって、これ以上負けるのは自らのプライドが許さなかった。 『相手が誰であろうと僕は勝つ。チャンピオン・リーグで今までの雪辱を晴らしてやる!』 「うおおおおおおおおおっ!」 燦然と輝く星空に向かって、思いっきり吠えるスネ夫。 彼の瞳には、負けたくないという強い闘志が宿っていた。 ---- 舞台は闘技場へ。 『だから……だから、僕はもう負けられないんだ!』 続くジャイアンのバシャーモに致命傷を与え、倒れるジュカイン。 それを見て、スネ夫は安堵した。 『バシャーモの体力は残り僅か。実質相手の残りポケモンは一匹。勝てる!』 「いけ、ユレイドル!」 スネ夫の予想通り、ユレイドルはスカイアッパーで傷を負いながらもバシャーモを倒す。 対して、ジャイアンは焦っていた。 『やべえ……。俺の残りポケモンは後一匹。コイツだけで勝てるのか』 少し躊躇しながらも、ジャイアンは最後のボールを放つ。 出てきたのは、がっしりとした青いボディに身を包み、巨大な翼を動かす竜。 それこそがジャイアンの切り札、ボーマンダだ。 ドーム観客席。 「ついに武君の切り札が出たか……。でも、骨川君の優勢は変わってないね」 「どうして?」 戦況を説明する出木杉にのび太が聞く。 「ユレイドルなら、残り体力が半分ぐらいとはいえ一発は耐える。それだけで骨川君にはかなりのアドバンテージだ」 出木杉の解説を聞き、のび太がなるほど!といった素振りを見せる。 「じゃあ、スネ夫がかなり有利なんだね」 3人は闘技場に目を移した。 ---- 「ボーマンダ、かわらわりだ!」 ボーマンダに攻撃の指示が降される。 だが、スネ夫のユレイドルはそれを耐えた。 「ユレイドルの耐久力なら、これぐらい耐えれるさ」 余裕の表情で言い放つスネ夫。 そして、ユレイドルに指示を与えた。 「ユレイドル、毒毒!」 猛毒を浴びるボーマンダ。 だが、次のかわらわりでユレイドルを倒した。 「さあ、最後のポケモンを出せ!スネ夫!」 ジャイアンの声を聞き、言われなくてもわかってるよ!と言わんばかりにスネ夫は最後のボールを放つ。 「いけ、フライゴン!」 出てきたのはボーマンダと同じ竜の血族、フライゴンだった。 ドーム観客席。 「ついにラストバトルね……。どっちが勝つのかしら」 「能力的にはボーマンダ。だが、おそらく骨川君には策がある。まだわからないな」 じっくりと戦況を見つめるしずかと出木杉。 ジャイアンかスネ夫、天はどちらに味方するのか―― ---- 対峙する二体の竜。 先に動いたのは、スネ夫のフライゴンだった。 「フライゴン、空を飛ぶ!」 ビュンと飛翔し、空高く舞い上がるフライゴン。 それにより、ボーマンダのドラゴンクローは空を切ってしまう。 『このままターン数を稼ぎ、毒と空を飛ぶの蓄積ダメージで倒してやる』 攻撃が外れたことにより、ジャイアンはイライラしていた。 『このままじゃ、毒のダメージもあって次第にガタがくる……やべえな』 そして、フライゴンの攻撃が綺麗にヒットする。 「くそ!ドラゴンクローだ!」 繰り出される反撃のドラゴンクロー。 今度はヒットするが、倒すまでには至らない。 しかも、それだけではなかった。 「フライゴンの傷が癒えている……」 そう、スネ夫はフライゴンに食べ残しを持たせていたのだ。 『このフライゴンは長期戦に特化させた。そう簡単には倒せないよ』 二発目のドラゴンクローが来るも、スネ夫はまもるでそれを無効化する。 依然、スネ夫優勢のまま戦いは最終局面を迎えた。 空を飛ぶ、まもる、食べ残しを駆使してボーマンダの攻撃を防ぐスネ夫。 もう勝利は目の前だというのに、彼はうかない顔をしていた。 『僕は……これでいいのか?これで……』 何も出来ないボーマンダと、拳を握りながら下を向くジャイアン。 それを見ている内に、スネ夫は次第に自分の戦い方に罪悪感を感じていた。 「フライゴン、空を飛ぶ」 こうしている内にも毒はボーマンダの体力を奪っている。 『ジャイアン……』 『僕とジャイアンは昔からの親友だった。 たまに虐められることもあったが、それでも絆は切れなかった。 この世界に来てからも、そうだった。 天気研究所の時だって、ジャイアンは悪に染まる僕のために一生懸命戦ってくれた。 それにマツブサの時だって、ジャイアンは僕を助けてくれた。 そして、僕は今、そんなジャイアンを汚いやり方で倒そうとしている。 本当に……これでいいのか?僕は……僕は!』 スネ夫はどうしていいかわからなかった。 だが、考えている間にもボーマンダの体力は減っていく。 『くそ!僕はどうすればいいんだ……』 ---- だが、時間はスネ夫に猶予を与えない。 「ドラゴンクロー!」 その時は、既にボーマンダの爪がフライゴンに迫っていて―― 「フライゴン!」 フライゴンはかなりのダメージを負った。 もう、後一発も耐えられないだろう。 しかし、それと同時にボーマンダの体力も限界に達していた。 『次の攻撃を防げば僕の勝ち。だけど……』 依然、苦しむスネ夫。 ジャイアンはそれを悟ったのか、今がチャンスと見て最後の指示を降した。 「ボーマンダ、ドラゴンクロー!」 刻一刻と、決断のときは迫ってくる。 風を切り、襲いかかってくるボーマンダ。 その時、スネ夫の頭の中である言葉が鳴り響いた。 『僕はもう……誰にも負けない!』 『そうだ。僕はもう、誰にも負けない。負けたくない』 出木杉に負けた日に誓ったことだった。 そして、スネ夫も最後の指示を降す。 「フライゴン、まもる!」 スネ夫が苦悩の末に選んだ道は、自らの勝利だった。 そこに辿り着く過程が汚い戦法であっても、それが友情を壊すものであっても、彼はその道を選ぶ。 自らの誇りにかけて―― ---- 「勝者、スネ夫!」 審判が高らかに勝利宣言をする。 それと同時に、会場からは大歓声があがった。 だが、肝心の両者は顔をうつむけながら闘技場を出ていった。 ドーム控え室。 そこでは、ジャイアンとスネ夫が別々の席に座っていた。 当然ながら、長い沈黙が続く。 「あのさ、スネ夫」 沈黙を破ったのは、ジャイアンだ。 ジャイアンにしては妙に他人行儀だが、スネ夫は何故か違和感を感じなかった。 そして、ジャイアンが口を開く。 「いいバトルだったぜ、スネ夫!準決勝、俺の分まで頑張ってくれ!」 スネ夫は戸惑った。 「なんで?なんでそうしていられるんだい?僕があんな汚い手を使ったのに……」 すると、ジャイアンは『そんなことか』と言わんばかりの表情をする。 「確かにあの時はムカついたけどよ、それも一つの作戦じゃねえか。 それに、お前は俺より強い。強い奴が駒を進めるのは当然だろ!」 そう言ってジャイアンがスネ夫の顔を見ると、その目には涙が溜まっていた。 「泣くなよ、スネ夫。お前は勝ったんだぜ?」 その言葉を聞くと、スネ夫は涙を拭き取って聞いた。 「ジャイアン……僕達、友達だよね?」 そして、それを聞いたジャイアンは大きく頷き、言った。 「当たり前じゃねえか!俺達はずっとずっと、友達だぜ!」 [[次へ>ルビー その11]] ----

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