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使い手 その3 - (2007/09/02 (日) 00:07:16) のソース

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「はぁ……はぁ……」
のび太はトレーナーズスクールに着いた。
校門からは屋上が見えない。
彼が上を見上げると、薄い雲のかかった満月が目に映った。

―――のび太は暗い通路を駆け抜け、階段を蹴っていく。
いつもの彼なら暗い所が苦手で、足が竦んでしまうところだが、今は違った。
ドラえもんを助けたい……その一心で進んでいる彼は、恐怖など疾うに吹き飛ばしていた。
それも、彼のドラえもんに対する思いゆえなのだろう……

彼が最後の段を踏んだ時、扉が僅かに開いていた。
その隙間から、柔らかな月光が差し込んでくる。
(この先に、ドラえもんとドラえもんを誘拐した奴が……!)
のび太は決意して、扉の取っ手を回す。
光が溢れてきて、のび太は前方の人影に目を凝らした。


「結構はやかったね、のび太」
その少年は、モンスターボールを弄びながらのび太の方を一瞥した。
その横には、気絶したドラえもんの姿。
のび太は一瞬、何が何だかわからなくなっていた。
「どうしたの、のび太? 僕がドラえもんを誘拐した張本人だよ」
想像だに出来ない状況を前に硬直するのび太を見て、少年―――ミツルが微笑んだ。

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「ミツル? な、何ふざけてるのさ」
「ふざけてなんかいないよ」
目の前の現実を信じたくないのび太に、ミツルは冷たく言い放つ。
それを聞いたのび太は声すら出せなかった。
「どうしたんだよ、のび太
僕がドラえもんを誘拐した……それだけのことさ
さぁ、早くしないと連れてっちゃうよ?」
ミツルが、悪びれもなくそう言った。

のび太の目から、一粒の涙が零れ落ちる。
意味がわからない。
なんで、なんでミツルがドラえもんを誘拐したんだ?
ミツルと僕は、紛れもない友達だったじゃないか。
一緒に下校したり、仲良く話したり。
そんなミツルが……なんで?
この数週間、ミツルと過ごした記憶の断片が頭の中に現れては消えていく。
治癒の授業で初めて喋って、そこから仲良くなって、思い返せばつい最近の事。
でも、今ののび太はそんな日々が物凄く遠いものに感じていた…………


「ミツル」
一歩踏み出し、のび太が口を開く。
その精悍な顔つきは、さっきまでの迷いや戸惑いといったものを微塵も感じさせない。
のび太は涙を拭いて、覚悟を決めた。
「やるしか、ないようだね」

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「じゃあ始めようか。そこにある籠の中に3つのモンスターボールが入っている
それを使って僕のポケモンを倒せばドラえもんは返してやるよ
ただし倒せれば、だけどね……いけっ、サーナイト!」
ミツルがボールを投げ、サーナイトが出てくる。
「これはスクールのポケモンじゃない。正真証明僕のポケモンさ」
得意気に笑うミツル。
のび太はそれを見て、1個目のボールを放った。
そこから出てきたのは、コイル。

「それじゃあバトルスタートだ! サーナイト、コイルにきあいだまを放て!」
サーナイトが物凄い威力のきあいだまを撃つ。
しかし、コイルはそれを何とか耐えきった。
「な、コイルが耐え切れるはずが……」
「このコイル、きあいのタスキを持っていたんだ! コイル、電磁波を!」
きあいのタスキによって致死量のダメージを持ち応えたコイル。
攻撃を終えたサーナイトに電磁波が炸裂する。
(ん、待てよ……? スクールのポケモンってアイテムなんか持っていたっけ……?)
何かが引っかかって思考するのび太だが、不意にミツルの声がする。
「麻痺してもコイルよりは速いよ。きあいだまでフィニッシュだ!」
再び放たれたきあいだまは、残されたコイルの体力を奪った……

「くそっ。戻れコイル……次はこれだっ!」
コイルを戻し、次のボールを投げるのび太。
ガス状のポケモン、ゴースが現れた。

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「ゴース……厄介な奴が出てきたね」
「こいつなら、例えレベル差があっても麻痺したサーナイトに先制できるよ」
少し優勢を装って言い放つのび太。
しかし、頭の中はかなり混乱していた。
(どうすればいい? ここからどうすればあのサーナイトに……
催眠術は麻痺状態の相手には通じないし、みちづれは覚えていない……
レベルが低いポケモンだから当然か……なら、あれしかない)
「ゴース、シャドーボールだ!」
のび太のゴースが怪しく笑いながら黒い球体を作り出し、それをサーナイトに撃つ。
レベル差があっても、その特殊攻撃能力の高さでそこそこのダメージを負わせることが出来たようだ。

「やった! いいぞゴース」
僅かな勝率を感じ、喜ぶのび太。
しかし、それもすぐになくなってしまう。
「小癪な……サイコキネシスで吹っ飛ばせ」
サーナイトがゴースにサイコキネシスを放つ。
それをまともに受けたゴースは、一撃で瀕死状態になってしまった……
「そ、そんな……ゴースまで」
ガックリと膝をつくのび太。
さっきのきあいだまといい、サイコキネシスといい、やはりレベルが違いすぎる。
(こんなのに勝てるわけない……)
頭の中では半ば諦め状態になっているのび太。
しかし、ドラえもんに対する強い思いが彼の手を最後のモンスターボールに触れさせた。
「勝率が少しでもある限り……僕は戦う! いけ、最後のモンスターボール!」
ボールから出てきたポケモンは、体の周りにバチバチと電光を弾けさせる。
のび太最後のポケモン―――ピカチュウがサーナイトと対峙した。

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