鋼の雫-01
俺の部屋には人形がある。別に俺が好みで買った訳ではない。俺に人形を集める趣味は無い。
パートナーマーシナリー。ガーディアンは皆その人形の事をそう呼ぶ。
ガーディアンになった人間には上層部から必ず一体が支給される事になっているらしい。
機械の相棒…か。別に俺はそんな相棒は必要なかった。
俺がガーディアンになった理由には特別な理由がある。ただそれは金や名誉、人助けの為では断じて無い。
珍しい武器だの防具だの、合成だのには興味が無いし、人を助けるヒーロなんて俺のガラじゃない。
正直俺はガーディアンズなんて言う口先だけのヒーローは好きでは無い。
確かにこの仕事は表向きには人を助けたり、SEEDの討伐を行う慈善旅団に見えるかもしれない。
だが実際はそうでもない。
依頼主から取り上げる大量の金。
ガーディアンズ同士の珍しい武器や防具による自慢による嫉妬。
まだまだあるが言っている俺が気分が悪くなるので止める。
だから俺はこの仕事が好きじゃない。
まぁ、これは俺の唯の偏見かもしれんが。
俺は昔から”必要以上に物を望まない事”が自分の最大の取り柄だと思っている。ヒューマンだし。
だから2ヶ月前までは普通に室内の仕事で生活できるだけの金を稼いで、結婚して、普通に死ぬ予定だった。
だけど、俺のその平凡な予定はある1体キャストによって完全に壊された。
だから俺は、キャストが大嫌いだ。
「……」
薄暗い部屋の中、俺は片手にナノトランサーを握りながら動かない人形に目をやった。
彼女…否、人形を彼女呼ばわりする必要性は無い。
人形の名前はステラ。俺のパートナーマーシナリーだ。略称GH410。
俺が新米のガーディアンだった頃から今まで一緒に仕事をしてきた。初めは丸っこい玉だった。
俺はその頃(無論、今もだが)、大が100個付くほどののキャスト嫌いとしてガーディアンズの中では少々有名だった。
だから初めもこの玉にはかなりの抵抗を持っていた。
だが何とか我慢できた。何故ならペットの様な可愛げがあったからだ。
小動物を飼う事が好きな俺は、自我を持つ機械ではあるものの、この玉を何となく憎めなかったのだ。
”薬品を喰らって進化する”と知った時、俺の中ではある種の楽しみが芽生えていた。
そして俺は玉に”ステラ”と言う名前をつけて可愛がった。
赤い玉が青くなり、やがてドラゴンの様な形態になる頃、俺は完全にステラの事を溺愛していた。
機械として見ておらず、ペットとして可愛がっていた。
ガーディアン仲間からも”自我を持つ機械が嫌いなお前が、PMを可愛がるなんて、珍しいな”と、言われた事もあった。
当たり前だ。俺はステラを合成機械や掃除機としてではなくペットとして見ていたからだ。
店売りの武器で満足していた俺はステラに合成や廃棄処分等をさせた事など一度も無い。
とにかく、そうして半年前までは生活していた。嫌な仕事もステラのお陰で何とか乗りこなせてきた。
だが半年前。
俺は、ステラを最終形態に進化させたことを、非常に悔やんだ。
-時間は半年前に遡る-
「ただいま」
ウィーン、と自室の自動ドアが開く音が聞こえると部屋の中にいたPMは入ってきた少年に向かって「おかえりなさい」と答えた。
「よう、ステラ。元気にしていたか?」
「はい、全てのパーツにおいて稼動率は90%を越えており今日も私は……」
と、ステラと言う名前のPMがそこまで言うと青年は(実際はあるわけではないが)ステラの口を押さえてこう言った。
「それ、やめてくれって言っただろ?」
「そうでした、申し訳ありません」
軽く謝罪をするPM。
「まじで勘弁してくれよ。本当にさ、ま、それは置いておいて……」
「はい、どう致しましょうか」
ヌッ、とPMの前に青年は両手一杯に持っていたスターアトマイザーとムーンアトマイザーを差し出した。
「ほれ、喰え。今日分のメシだぞぉ」
「ありがとうございます。………微妙な味」
大量のアトマイザーを目の前に差し出され、ステラはそれを食し始めた。
食後の後に決まって言う皮肉ももう聞きなれた。本当は美味いんだろうな、うん、うん。可愛いなぁ、やっぱ小動物だろ。
…って、ドラゴンも小動物に含まれるのか?まぁ、可愛いからいいか。
「微妙な味って言うけど本当は美味いんだろ?な、どうなんだよ?」
「微妙な味は微妙な味ですよ。それ以上でもそれ以下でもありません…あれ」
「ん、どうした?変なものでも混じってたか?」
「…………いえ」
その青年の言葉に、何故か気まずそうに答えるステラ。
「どうしたんだよ、気になるじゃないか」
「……次のスターアトマイザーを食した後、私のステータスレベルは80へ到達し、最終形態へと成長致します」
「ステータスやらレベルやらはともかく、お前、まだ成長するのか?」
「はい、次で最終形態となります」
「へー、すげぇなぁ。もっとでかくなるのか?」
「どうでしょう。私にも解りません」
「でも次のスターアトマイザーって言ったよな。お前もう、俺のあげたアトマイザー全部食べちゃったじゃないか」
「はい、微妙な味でした」
「いや、そうじゃなくてだな……むぅ、まぁ、いいか。ほれ、これ食べな」
と言い、青年はステラに向かってしまってあったコスモアトマイザーを食べさせた。
「あっ……」
口の中に運ばれたコスモアトマイザーをつい、PMの癖で食べてしまった。
「モグモグ………何か古くないですか、これ?」
「さっき合成したばっかりだろうがよwwww」
そして
LEVEL UP!
と言う声と共に、ドラゴンの形をした外殻がカパッ、っと開き中から小柄な少女が出てきた。
「今まで育ててくれて有り難う御座います。貴方のお陰で無事GH410へと進化することが出来ました」
軽くお辞儀をして、ご主人様の方へ目をやる。
レベルアップしてから軽いお辞儀をしてご主人様の方へ目をやる僅か数秒足らず。
だけど、私は、そこで、恐ろしい形相をしたご主人様を目にしてしまいました。
そして、一言、ご主人様は私に向かってこう言いました。
「……………何?お前?」
と。
私は、これ程、冷たくて、殺人的な視線を放つご主人様を見たことは、今までに一度としてありませんでした。