(1) 基本的概念
PFI(Private Finance Initiative)は、民間部門とのパートナーシップを活用することにより、公共部門が金銭的効率性(バリュー・フォー・マネー(Value for Money:VFM))の向上を達成するためのひとつのメカニズムであるといわれる。
これにより公共部門は、従来型の資産(道路、橋、建物など)を所有し、住民が求める行政サービスを運営、提供していた「サービスの提供者」から、実際にサービスを提供する民間部門との契約に基づき、長期にわたりサービスを「購入」する「サービスの購入者」へとその役割を大きく変化させることになる。
これに対して、PPP(Public Private Partnership) とは、公共サービスの提供に民間が参画する手法を幅広く捉えた概念である。民間の資本と専門的知識、活力を利用して、行政サービスの質の向上やスリム化を目指すものであり、公共部門と民間部門の緩やかなパートナーシップから、官民のジョイント・ベンチャー、公共サービスの民間企業への外部委託、行政財産の商業利用、民営化までをも含む概念である(PFIの手法もPPPの概念に包含されている)。PPPの概念は、1997年のブレア労働党政権発足後に発表された政策報告書「地方自治の近代化―住民との交流の中で(Modern Local Government – In Touch With the People)」の中で提示された。この概念のもとで、単に公共部門のスリム化のためだけではなく、官民の適切な役割分担のもとで、公共サービスに民間部門の手法を導入するという公共部門と民間部門の協働関係により重点を置くものとしてPFIの再評価が行われた。
(2) PFIの類型
一般に、事業に対する公共部門の関わり方により、PFIは大きく以下の3つの類型に分類される。しかしいずれも民間部門が設計、建設、資金調達そして運営を行い、行政部門が求めるサービスを提供するという基本原則は同じである。
(a)公共サービス提供型(Service Sold to the Public Sector)
民間部門が提供する公共サービスを公共部門が購入する。PFIの典型的タイプで、民間部門は契約当事者の公共部門から支払われる利用料により、事業費を賄う。一方、公共部門はある一定の質が確保されたサービスを購入する。3つの類型の中では、最も公共部門の関与の度合いが深い。(例:病院、刑務所、道路。)
なお、この場合、PFIによる支払いは単一利用料(unitary service payment又はunitary charge)という形で、契約期間全般にわたり定期的に公共部門から民間部門に支払われる。利用料は、契約の中で定められた指数によって増減することもある。また、実際の支払いについてはサービス提供後から始められ、その支払額についても「利用可能性」や「パフォーマンス」などを減額要素としてポイント化し、決定される。
(b) 独立採算プロジェクト型(Financially Free-Standing Projects)
公共部門からではなく、施設利用者から直接利用料を徴収し、事業を実施する手法。公共部門の関与の範囲は、基本的に事業計画の策定や許認可の供与、付随する法的手続に限定される。(例:有料道路、有料橋、博物館)
(c) ジョイント・ベンチャー型(Joint Ventures)
民間部門と公共部門の共同出資により事業を実施するが、全般的な運営については民間部門が行う。比較的大規模事業において、最終利用者からの利用料では賄いきれない社会的便益部分を公共部門からの出資金や補助金で賄う。公的部門からの投入金額が多すぎるとVFMが得られず、少なすぎると民間部門の参画が得られないリスクが存在するため、補助金等の金額の決め方に工夫を要する。(例:鉄道、トラム)
(3) 金銭的効率性(Value for Money:VFM)
最も単純にVFMを達成するということは、「支出に対して得られる価値を最大化する」ことであり、ここでは、経済性(Economy)、能率性(Efficiency)、有効性・効果(Effectiveness)という要素(3E)が重要となる。
PFIにより事業を実施する場合には、公共部門が同じ内容の事業を自ら実施するよりもVFMを達成することが求められるため、事業実施前に、PFIの手法やそのVFMについて検討をしなければならない。その場合には、「事業を行わない場合」や「最低レベルの事業を行う場合」などとも比較検討する。
(4) リスク移転
事業を実施する上で問題となるリスクを誰が負担するのかは英国においても大変重要な問題の一つと認識されており、このことを契約で明確にしておく必要がある。PFIは、VFMの実現のためには「公共部門、民間部門を問わず、最も安価にリスクを管理できる部門にリスクが割り当てられるべきである」という原則に立って行われるべきであるが、VFMを最大にするリスク移転の組み合わせは、事業タイプや契約により異なってくる。
ただし、PFIの趣旨から、一般的には設計、建設、資金調達そして運営に関するリスクは民間部門に移転しなければならないといえる。
(5) PFI関係諸機関
(a) 政府調達庁(Office of Government Commerce: OGC) 及びパートナーシップUK(Partnerships UK: PUK)
政府調達庁は政府の調達機能の近代化とVFMの改善を目的にした広範囲にわたる計画や事業を担当する政策部門として、首相府や財務省等にあった様々な関係機関の機能を吸収する形で2000年4月に設置された。パートナーシップUKは財務省と民間のジョイント・ベンチャーであり、公的部門に対する単なるアドバイザーではなく、事業運営の実際面に責任を持って関与する事業部門である。なお、この2組織は「ベイツ・レビュー」に基づき設置された「財務省タスクフォース(特別対策委員会)」(1997年9月設置、2000年10月解散)の業務の大部分を引き継いだものである。
(b) ローカル・パートナーシップ (Local Partnerships)
政府調達庁が主に中央省庁におけるPFI事業推進体制を強化するための機関であるのに対し、地方自治体でのPFIやPPPの推進を目的とした機関が「ローカル・パートナーシップ」である。
同機関は、地方自治体協議会とパートナーシップUKの共同出資で2009年8月に設立された機関であり、これまで地方自治体協議会内に設置されていた「4Ps (Public Private Partnerships Programme )」が有していた地方自治体支援の機能を引き継ぎつつ、パートナーシップUKの有する専門的なノウハウを取り込んだものである。イングランドとウェールズの各地方自治体がPFI事業を実施するに当たり、地方自治体に対して法的、財政的、技術的支援を行うほか、事業実施に先立ち事業の採算性等に関する事前評価も実施している。また、地方自治体職員と地方議員に対してPFI事業に関する専門のトレーニングを行っている。
(c) 事業評価グループ(Project Review Group:PRG)
イングランドの地方自治体のPFI事業承認のために、財務省内に設置された機関である。同グループでは、補助金申請を行っている地方自治体のPFI事業について、商業的可能性に力点を置いて審査し、問題がなければ承認する。財務省が議長役を務め、当該事業の所管官庁の職員及びローカル・パートナーシップも会合に出席する。この会合は年間を通して定期的に開催され、サポートを必要とする事業について検討が行われる。