ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

シンオウ冒険譚 その2

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akakami

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  • のび太 203番道路
手持ち  ヒコザル ♂ LV11

  • 静香  203番道路
手持ち  ペンちゃん(ポッチャマ) ♂ LV12
     ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV13

  • スネ夫 ???
手持ち  エル(ナエトル) ♂ LV8

  • 出木杉 ???
手持ち  ミニリュウ ♂ LV14
     他不明



 ――203番道路――

「ヒコザル、睨みつけろ!」
ヒコザルの鋭い眼光を浴びた敵のビッパに隙が生まれる。
「いまだっ! 引っ掻く!」
強烈な一撃が、見事に炸裂した。
ビッパはもう、立ち上がれそうにもない。

「ちぇ、僕の負けだな」
対戦相手の短パン小僧、トモキが悔しそうに頭を掻いた。
「凄いわのび太さん、これで三連勝じゃない!」
静香の拍手を受け、僕も恥ずかしそうに頭を掻いた。

「へへ、僕なんてまだまだだよ。
ポケモンマスターになるためには、こんなところで立ち止まって何ていられないしね」
調子に乗って、ちょっと見栄をはってみた。
すると、静香は意外な返答をしてきた。

「そういえばのび太さん、ポケモンマスターになりたいって言ってるけど……」
「ん、何?」
「どうやったらポケモンマスターになれるのか、知ってるの?」
静香の顔は、冗談を言っているようには見えなかった。

「ば、馬鹿にしないでよ!
僕だって、それくらいは知ってるさ!」

さすがに、僕だって何も知らずに旅に出たわけじゃない。
幼い頃から、ずっと夢見てきたことなのだ。
ちゃんと、そのぐらいは勉強してきたさ。



―――ポケモンマスター、それは全ての戦うトレーナーたちの頂点だ。
その称号を得るには、厳しい戦いを潜り抜けなければならない……
まずは、シンオウ各地にある8つのジムを回り、ジムリーダーを倒してバッジを手に入れる。
バッジを全て揃えたら、一年に一度開かれるトレーナーフェスティバルに出場できる。
そのフェスティバルで優勝した者だけが、チャンピオンのいるポケモンリーグに挑戦できるのだ。

そして四天王とチャンピオンを倒した時、ついにポケモンマスターの称号が贈られる……

ちなみにポケモンマスターになった者は、新チャンピオンになる権利ももらえる。
だが、それは決して強制されるものではない。
チャンピオンにならずに旅を続ける人もいるし、中にはポケモンマスターになった瞬間引退する人だっているのだ。
……まあ今の僕にはまだ、ポケモンマスターになった後のことは考えられないけど……

以上が、僕がポケモンマスターについて知っている全てだ。

……それにしても、静香ちゃんは僕をそんなことも知らないと思っていたのか。
「ちょっと、ショックだなぁ」
彼女に聞こえないように、こっそりと呟いた。



「あ、そういえば……」
先へ進もうとした僕らを、トモキが呼び止めた。
「最近クロガネゲートに、強いルーキー狩りが出るって噂だぜ。
お前も気をつけろよな、最近じゃあポケモンを取られた奴までいるそうだぜ」

「ルーキー狩り、って何?」
初めて聞く言葉だが、悪い奴だということくらいはわかった。

「旅に出たばかりのトレーナーを狙って経験値稼ぎをする悪質なトレーナーよ。
でも別に違法じゃないから、止めることができないのよね……」
静香が、不安そうな表情を浮かべる。

その顔を見たとき、僕の意志は決まった。

「許せない……」

「え?」

「初心者ばかりを狙い、あげくにはポケモンを取り上げるなんて、絶対に許せない!」
口に出すと、ますます腹が立ってきた。
だから、僕がやることは一つだ。

「僕がそのトレーナーを、倒してみせる!」



 ――クロガネゲート 出口付近――

「う、嘘だろ……」
思わず漏れたその声は、焦りなのか、それとも――
『恐れ』なのか……

「ミニリュウ、止めの竜巻だ」
目の前にいる少年は、顔色一つ変えずに命令を下す。
竜巻で吹き飛ばされた俺のエレキッドは、ピクリとも動かなくなった。

「そ、そんな……
この俺が、ルーキーなんぞに……」
思わず、地面に膝をついてしまった。

そんな俺を見下しつつ、少年は冷めた声で言い放つ。
「この辺りで強いルーキー狩りが出るって評判だったから、どんなのかと予想してたけど……
……どうやら、初心者を狩って満足しているだけの小者だったみたいだね」
「てめぇっ!」
この少年を、思い切り殴りたい。
そんな衝動に駆られたが、結局俺は動くことができなかった。
これ以上何をしても、惨めなだけだと気付いたからだ。

「もう勝負はすんだんだし、さっさと消えてくれない?」
少年にそう言われた俺は、素直に立ち上がって出口の方へ歩いて行った。

「チクショオ!」
道の途中、そう叫びながら壁に拳を叩きつけた。



「す、凄い……」
2人の少年のバトルを見ていた僕は、思わずそう呟いていた。

―――数分前
昨日屈辱的な敗北を喫した僕は、再びクロガネゲートを進んでいた。
昨日はあの敗戦のショックで我を忘れ、クロガネに行きそびれてしまったのだ。

洞窟を進む途中、僕は思わず足を止めた。
昨日僕からポケモンを奪った、あのルーキー狩りの姿が見えたからだ。
僕は岩陰に隠れ、彼がその場を立ち去るのを待つことにした。
取られたポケモンを取り返すこともできない、自分の無力さを呪いながら……

しばらくすると、ルーキー狩りの前を凛々しい少年が通って行った。
ルーキー狩りはさっそく凛々しい少年を呼びとめ、バトルを挑んだ。
凛々しい少年は顔色一つ変えず、素直に挑戦を受け止めた。

そして、さっきのバトル―――

本当に、凄いとしか言いようがなかった。
昨日僕を圧倒したあのルーキー狩りを、凛々しい少年は完璧に叩きのめしたのだ。
見た目は僕と同年代くらいだろうが、その風格は僕より数段上のものだった。

……だから、僕は――

「あの、すみません……」
岩陰から出て、恐る恐る少年に声をかけた。



「なんだい?」
少年はこちらを振り向き、そう尋ねてきた。
「あの、さっきのバトル見ました。
凄かったです!」
先程のバトルの感想を、素直に述べた。
「そう、ありがとう」
そう答えた彼の表情は、とても嬉しそうには見えなかった。

「じゃあ、僕はもう行かせてもらうよ」
少年は、僕との会話をめんどくさがっている。
どうやら、さっさと先に進みたいようだった。
「ま、待ってください!」
場を去ろうとする彼を、慌てて呼び止める。

「僕は、昨日あのルーキー狩りにやられて、ポケモンまで奪われました……」
「へぇ……ポケモンを奪われたトレーナーって、君のことだったのか」
少年の関心が、少しだけこちらに向いたような気がした。
「はい。 でも僕は、奪われたポケモンを取り返すこともできませんでした。
それに引きかえあなたは、いとも簡単にあの男を倒して……
本当に、凄いって思いました。 だから―――」
彼のもとへ一歩近寄り、決意の一言を述べる。

「僕を、あなたの弟子にしてください!」



「断る」
即答だった。
「弟子なんていても、邪魔になるだけだ」
少年の声は、相変わらず冷めている。

「お願いします、僕はどうしても強くならなければいけないんです!」
そう、僕には強くならなければいけない理由がある。
だから、どうしてもこの少年の弟子になりたいのだ。
土下座までして、少年に頼み込んだ。

すると、少年は突然こちらを凝視し始めた。
いままでは、全く興味がなさそうだったのに……

少年はしばらく考え込んだ後、言った。
「いいよ、僕についてくるといい。
僕は出木杉……君は?」

「え、あ……スネ夫です!」

突然の了承に、嬉しさ半分、戸惑い半分の返事がこぼれた。
なぜ彼は突然、考えを変えたのだろうか。
……まあいいか、認めてくれたことに変わりはないんだから。

「よし、じゃあ行こうかスネ夫」
「はい、出木杉さん!」

少年――出木杉が光り差すクロガネゲートの出口へと歩いて行く。
彼の背中にもまた、眩しいほどの光が差している。
僕はその背中を、ただひたすら追い続けた。




          現在の状況

  • のび太 203番道路
手持ち  ヒコザル ♂ LV11

  • 静香  203番道路
手持ち  ペンちゃん(ポッチャマ) ♂ LV14
     ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV14

  • スネ夫 クロガネシティ
手持ち  エル(ナエトル) ♂ LV10

  • 出木杉 クロガネシティ
手持ち  ミニリュウ ♂ LV16
     他不明



 ――203番道路――

「ハァ、ハァ……静香ちゃん、そろそろ休まない?」
コトブキシティを出発してから、数時間が経った。
そろそろ、僕の疲労も限界に近づいてきた。
情けないと思いつつも、静香に休息を懇願する。
「しっかりしてよ。
もうすぐコトブキゲートに着くから、それまでがんばりましょう?」
静香は、僕と違ってまだまだ元気そうだ。
……ここは男として、もっとがんばらなきゃな。
そんな決意を固め、再び歩き始める。

そして――
「見えてきたわ、あれがコトブキゲートよ!」
静香が指差す先に、コトブキへの道となる洞窟の姿が見える。
「それじゃあ、そろそろ一休みしましょうか」
洞窟を見た彼女が、ようやく休憩を促す。
洞窟の入り口が、だんだん天国への門のように見えてきた。

洞窟近くの草むらに、風呂敷を広げて食事を取る。
人間には静香が作った弁当、ポケモンたちには木の実とポケモンフーズ。
少し早い、夕食の始まりである。



「おいしい、おいしすぎるよ静香ちゃん!」
弁当のおにぎりや卵焼きをほおばりつつ、その味を褒め称える。
今自分は、世界一幸せかもしれない……
弁当を眺めながら、そう思った。

ふと、ふいに近くの草むらが揺れた。
「野生のポケモンかしら?」
慌てて、戦闘体勢を整える僕たち。
そこに飛び込んできたのは、星模様の尻尾を持つ青い獣……
ここへ来る途中に一度見かけた、コリンクというポケモンだ。
コリンクは僕たちの正面に立つと、その体に電気を溜め始め――

そして、いきなり倒れた。

……………………

「病気でも、持ってるのかしら?」
静香が傷薬を吹きかけてみても、コリンクはちっとも元気になる兆しを見せない。
何か苦しそうに呟いているが、人間の僕たちには何を言っているのかさっぱりだ。
「うーん、一体どうすれば……」
僕と静香は、揃って頭を抱える。
苦しそうなこのコリンクを、助けてあげたかった。
でも、どうすればいいのか分からない。
ここから一番近いクロガネシティのポケモンセンターには、急いでも2・3時間はかかる。
それまでに、死んでしまう可能性もあるのだ……



僕たちはしばらく、どうすればいいのか悩んでいた。
するといきなり、ヒコザルがコリンクに食べ物を与え始めた。
「ちょっとヒコザル、勝手にそんなことしたら……」
僕が止めようとしても、ヒコザルはなおもコリンクに食べ物を与える。

――すると突然、コリンクが起き上がった。
コリンクは先程までの醜態が嘘だったかのように、元気に動き回っている。
「もしかして、お腹が空いてただけなのかしら?」
静香が、呆れたように呟く。
そして僕たちは、同時に溜息をついた。
先程まで慌てふためいていたのが、なんだか馬鹿らしかったから。

「しかし、よく食べるなあ……」
僕たちが用意した食べ物を、コリンクはどんどん胃袋の中に吸い込んでいく。
特にモモンの実がお気に入りのようで、そればかり食べていた。
「もう、モモンの実が無くなっちゃうじゃない。
代わりに、こっちの方を食べてよ」
静香はそう言って、チーゴの実を差し出す。
コリンクはチーゴの実を口の中に含むと、直後に顔を歪める。
そして、すぐさま静香の手の上に吐き出した。
どうやら、この実は好みに反していたらしい。
コリンクは再び、顔をモモンの実へと近づけていた。
「もう、好き嫌いはいけないわよ!」
静香は頭にきたのか、モモンの実を取り上げた。

すると、コリンクはいきなり大声で泣き始めてしまった。

「あ、ご、ごめんなさい……」
静香は慌てて、再びモモンの実を差し出す。
コリンクは瞬く間に笑顔を浮かべ、モモンの実を食い尽くした。



腹がいっぱいになったコリンクは、すやすやと心地よく眠っている。
僕と静香ちゃんは、その寝顔を満足そうに見ていた。
「ねえ、のび太さん……」
突然、静香が話しかけてきた。
僕は「何?」と尋ねてみる。
「このコリンクのことなんだけど……」
静香は、神妙な面持ちで話を続ける。
僕は黙って、彼女の話の続きを聞き続けた。

「あのね、この時期のコリンクって、みんな群れで行動するのよ」
静香に言われて、思い出した。
ここに来る途中に見たコリンクは、確かに20匹くらいの集団を作っていたのだ。
でもこのコリンクは、たった一匹で行動している。
「……と、いうことは……」
「そう、たぶんあのコリンクは群れからはぐれたのよ」
寂しそうな声で、彼女は言った。

まだ、このコリンクは幼い。
それなのに群れから、両親からはぐれてしまって一人ぼっちだ。
このわがままで泣き虫なポケモンが、これからたった1匹で生きていけるのだろうか?
そのことを思うと、胸が痛んだ。

そして、ある決意が頭を過ぎる。

「僕が、このコリンクを連れて行くよ」
はっきりと、静香にそう告げた。



「本当にいいの?」
静香が、僕の決意を確かめるように聞く。
先程の彼女とコリンクのやりとりを見る限り、コリンクはなかなか手が焼けるポケモンだ。
そして僕はまだ初心者で、自分のことすらろくに面倒を見切れない。
僕が本当にコリンクの面倒を見切れるのか、静香は心配なのだろう。
だが、考えを変えるつもりはない。

「大丈夫だよ、どうにかしてみせるさ。
それに僕もヒコザルも、手持ちが1匹で寂しかったんだ。
旅は、多いほうが楽しいじゃない」

僕がそう言ってクスリと笑うと、静香もつられて笑った。

ちょうどその時、コリンクが目を覚ました。
食事をしていた時の笑みはどこにいったのか、寂しく怯えているような目をしている。
やはり、1人で寂しいのだろう。 だから――
「なあコリンク、僕と一緒にこないかい?」
僕の誘いに、コリンクはうろたえている。
「ほ、ほら……一緒にきたらモモンの実もたくさん食べさせてやるからさ……」
慌ててそう言うと、コリンクの顔が途端に明るくなる。
そして、僕の脚に擦り寄ってきた。

どうやら、あっさりと一緒に来ることを決めてくれたようだ。



「全く、本当にお前はモモンの実が好きなんだな」
呆れたような、嬉しいような声が漏れる。
ふとその時、とある考えが浮かんだ。
「そうだ! お前のニックネーム、“モモン”にしよう!」

「モモン……ちょっと変わった名前だけど、のび太さんらしくていいと思うわ」
静香が笑う。
僕も笑う。
そして、コリンク――モモンも笑みを浮かべてくれた。

「さて、じゃあ行きましょうか」
静香が弁当などを片付け、出発の支度をする。
「うん、そうだね」
僕もそう言って、立ち上がる。
「じゃあ行こうか。 ヒコザル、モモン」
僕が呼びかけると、二匹とも笑みを返してくれた。

クロガネゲートの入り口は、もうすぐそこだ。
そして、その先にあるクロガネシティも。

僕は歩いて行く、ヒコザルやモモンとともに……



          現在の状況

  • のび太 203番道路
手持ち  ヒコザル ♂ LV12
     コリンク ♂ LV9

  • 静香  203番道路
手持ち  ペンちゃん(ポッチャマ) ♂ LV14
     ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV14

  • スネ夫 クロガネシティ
手持ち  エル(ナエトル) ♂ LV12

  • 出木杉 クロガネシティ
手持ち  ミニリュウ ♂ LV16
     他不明



 ――クロガネジム――

いまジムのフィールドでは、2体のポケモンが向かい合っている。
一方はジムリーダー、ヒョウタのズガイドス。
一方は僕の師匠的な存在である、出木杉のユンゲラー。
「じゃあ、こちらから行かせてもらおうか」
ヒョウタはそう言うと、指を鳴らす。
するとズガイドスは、ユンゲラーに向かって走りながら突っ込んでくる。
相手に突撃した衝撃でダメージを与える技、“突進”だ。

「テレポート」
ユンゲラーは間一髪のところでテレポートを成功させ、攻撃を回避した。
「ズガイドス、もう一度だ!」
ヒョウタの命令を受け、ズガイドスは再びユンゲラーに向かって行く。
ユンゲラーは再びテレポートをして、なんとかそれをかわす。
そんな光景が、この後も3回くらい繰り返された。
その様子を見ているうちに、ふとあることに気付いた。
「ユンゲラーの動きが、だんだん鈍くなってる……」

ユンゲラーのテレポート発動までの時間が、序々に長くなっているのだ。
そのせいで、ズガイドスの突進がだんだん当たりそうになってきた。
……僕のような、駆け出しトレーナーでもそのことに気付いたのだ。
ジムリーダーのヒョウタが、そのことに気付かないはずがない。

彼の口元が、少し綻んでいるように見えた。



「ズガイドス、次は長めに助走をとれ!」
ヒョウタが、活きのいい声で命令する。
ズガイトスは先程より長い助走をとってから、駆け出した。
そのスピードは、いままでより倍くらい速かった。
「やばい、いまのユンゲラーじゃこんなの避けられない!」
思わず、そう叫んでいた。

だがズガイトスが駆け出した時には、すでにユンゲラーの姿は消えていた。
いつのまにかテレポートを決め、ズガイトスの後ろに回りこんでいたのだ。
「まずい! 止まれ、ズガイトス!」
ヒョウタが慌てて叫ぶ。
だがかなりのスピードで走るズガイトスは、すぐには止まれない。
その勢いのまま、ジムの壁に激突してしまった。

「いまだ、念力」
フラフラと立ち上がるズガイトスに、ユンゲラーが背後から追撃を加える。
ズガイトスはあっさりと倒れる、もう立ち上がることはできそうにない。
「あちゃー、うまくしてやられちゃったな」
ヒョウタは頭を掻きながら、ズガイトスを回収する。

ユンゲラーの動きは、鈍ってなどいなかったのだ。
だが出木杉はわざとそう演じさせ、ヒョウタにそう思い込ませたのだ。
そして僕もまた、彼に騙されてしまった。
 見事、としか言いようがない。

―――やはり、この人のもとに弟子入りしたのは正解だったんだ。

ふと、そんなことを考えていた。



 ――クロガネゲート――

ここを歩き始めてから、数十分が経過した。
僕たちはくだらないことをベラベラと喋り合いながら、クロガネへと進んでいる。

「でさー、僕が7歳の時……イテッ!」
ふと、僕の体が何かにぶつかった。
見上げてみると、そこには僕と同い年くらいの少年が立っていた。
「あ、すみません」
少年は僕よりだいぶ体が大きい。
なんとなく怖くなって、慌てて敬語で謝った。
だが、彼の目にはまだ怒りの色が篭っていた。
そして、そのままの調子で叫ぶ。
「おいてめぇ! 謝ってすむと思ってんのか!」

「ホントにすいません、許してください!」
「ふざけんな、誰が許すか!」
何度謝っても、あっさり突き放される。
それどころか少年は、僕の胸ぐらに掴みかかってきた。

「ちょっと待って! のび太さんはきちんと謝ったでしょう。
ぶつかっただけなんだから、許してあげてよ」
静香の静止で、なんとか僕は解放された。
その代わりに、少年は眼光を静香の方に向けている。
静香はその睨みに屈することなく、言い放った。

「この辺りで話題になっているルーキー狩りって、あなたのことね」



「この人が、ルーキー狩りだって!?」
驚きの声を上げた後、よーく少年の姿を見てみる。
10歳くらいの顔つき、大柄な体格、オレンジ色のシャツ。
確かに、短パン小僧のトモキから聞いた情報と一致している。
そう――この男が、あの憎きルーキー狩りなのだ。

「知っているなら話は早い、俺と勝負してもらうぜ!」
同時にボールを構える、静香と少年。
「待って!」
だがその静香を、僕は制する。
困惑する彼女に、僕は言う。

「ルーキー狩りとのバトルは、僕にやらせてほしいんだ」

噂を聞いたときからずっと、彼をこの手で倒したいと思っていた。
その願いが、叶うときがきたのだ。
無謀な挑戦であることは分かっている。
それでも、挑まずにはいられなかった。
「わかった。 がんばってね、のび太さん」
静香は少し考えた後、身を引いた。

「おもしれえじゃねえか、ぶっ殺してるよ!」
僕たちの様子を見ていた少年はそう言い放ち、モンスターボールを放り投げた。
中から出てきたのはエレキッド――だいぶ鍛えられているように見える。
でも、それでも僕は戦わなくちゃいけないんだ。
足を震わせている自分にそう言い聞かせる。
そして、ヒコザルのモンスターボールを放った。



「エレキッド、雷パンチだっ!」
開始早々、少年は攻撃を命令する。
その次の瞬間、エレキッドはすでにヒコザルの正面にきていた。
「まずい! 避けろヒコザル!」
僕がそう命令した時には、エレキッドの渾身の一撃が炸裂していた。
ヒコザルが、2メートルほど吹っ飛ばされる。

「あのエレキッド、凄い……」
思わず、そう呟いていた。
スピードも、パワーも、今まで戦ってきた敵とは段違いだったのだ。
たった一発で、ここまで実力の差を示されるとは……

「のび太さん、やっぱり無茶よ!」
後ろで、静香のそんな声が聞こえる。

『そうか、そうだよな。
僕なんかが、このルーキー狩りに勝てるわけがなかったんだ』

僕が諦めかけたその時、後ろで声がした。
振り返ると、ヒコザルがエレキッドに向かって咆哮していた。
そして、何か訴えかけるような目でこちらを見てくる。

そうか、ヒコザルはまだ戦う気なんだ。
……それなのに、トレーナーが逃げてどうするんだ。
僕は、戦わなくちゃいけないんだっ!

まだ足は震えているけれど、僕は戦う決意を固めた。



          現在の状況

  • のび太 クロガネゲート
手持ち  ヒコザル ♂ LV12
     モモン(コリンク) ♂ LV9

  • 静香  クロガネゲート
手持ち  ペンちゃん(ポッチャマ) ♂ LV15
     ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV14

  • スネ夫 クロガネシティ
手持ち  エル(ナエトル) ♂ LV12

  • 出木杉 クロガネシティ
手持ち  ミニリュウ ♂ LV16
     ユンゲラー ♂ LV17
     他不明



「雷パンチだ!」
再び響き渡る、少年の声。
またエレキッドが、拳に雷を纏って襲いかかってきた。
正面からの対決では勝てない、ならば……
「後ろに回りこめ、ヒコザル!」
ヒコザルは素早い動きで、エレキッドの背後を取ろうとする。
だがそれよりも更に早く、エレキッドがヒコザルの背後に立った。
「そんな、ヒコザルがスピードで負けるなんて!」
思わず、そう漏らしてしまった。

振り下ろされる、エレキッドの拳。
だがヒコザルは、それを間一髪のところでかわした。
「やった!」
そう叫んだ矢先、もう一方の拳が迫っていた。
「甘いんだよ!」
少年の声と共に、迫り来る二つ目の拳。
避けられないと直感したヒコザルは、両手でそれを受け止める。
それでもヒコザルは、またまた吹っ飛ばされてしまった。

防御しても、吹き飛ばされるほどのパワーを持った雷パンチ。
あのパンチがある限り、正面から真っ向勝負を挑むのは無謀すぎる。
……でも、スピードで敵の裏を取ることもできない。
いままでは、ヒコザルは持ち前の身軽さとスピードで戦ってきた。
なのに、今回はそれすらも敵に劣っている。

『一体、僕はどう戦えばいいんだ……』



「おらおらぁ! 逃げてばっかりじゃ話にならないぞ!」
少年の怒声と共に、何度も繰り出されるエレキッドの雷パンチ。
ヒコザルは、戸惑いつつ必死でそれを避ける。
だが、スピードのある雷パンチをいつまでも避けられるわけがない。

雷パンチが、ヒコザルの頭をかすめる。
バランスを崩し、転倒するヒコザル。
そこに、もう一撃雷パンチが迫る。
「危ない!」
ヒコザルは後ろ向きに転がり、なんとかその一撃をかわした。

「よし、いいぞヒコザ……」
開いた口を、思わず閉じてしまった。
立ち上がったヒコザルの顔には、かなり疲労の色が見える。
これ以上、雷パンチを避け続けるのは不可能だ。
……このままでは、負ける。

何か、この状況を抜け出すための何かを見つけ出さなければならない……

改めて、頭の中でヒコザルの能力を整理する。
技は基本的な技だけ、特に期待することはできない。
なら長所……ヒコザルの長所はスピードと身軽さ。
スピードは、エレキッドには叶わない。
ならば身軽さ、ヒコザルの体重はエレキッドよりだいぶ軽いはずだ。
身軽さをいかして、何か……勝つ方法を……

その時ふと、ある方法が頭に浮かんだ。



「ん、何ニヤけてんだ?
まあいい。 雷パンチッ!」
またまた、雷パンチが迫る。
その刹那、僕は叫ぶ。
「ヒコザル、飛べぇぇ!」

決して高くはないこの洞窟の限界の高さまで、ヒコザルは飛び上がる。
「火の粉だ!」
そしてその状況から、地上のエレキッドに向けて火の粉を放つ。
そんなヒコザルに、エレキッドは抵抗するわけでもなくただ逃げ惑う。
その姿を見て、僕は確信の笑みを浮かべる。

――敵のエレキッドは、先程から雷パンチばかりを試用している。
それは、あのエレキッドが物理攻撃に特化しているという証拠。
さらに僕のヒコザルは、身軽さゆえの驚異的な跳躍力を兼ね備えている。
……それなら、エレキッドの攻撃が届かないところで攻撃をすればいい。
それが、僕の作戦だった。

「クソッ、こざかしい真似しやがって!
……なら、降りてきたところに雷パンチだ!」
苛立つ少年の一言に、僕はまた笑みを重ねる。
「残念ながら、そうはさせないよ」
勝ち誇ったように、そう宣言する。
そして、上方を見上げる。

そこには、壁に掴まって炎を吐き続けるヒコザルの姿があった。



「クソッ、降りて来い!」
少年がギャーギャーとわめき続けている。
だが僕は全く気にせず、火の粉を命令し続ける。
ヒコザルは壁に掴まったままで、全く落ちる気配をみせない。
そんな姿を見て、旅に出る前ヒコザルと遊んでいた時のことを思い出した。

―――あの時のヒコザルは、本当に凄かった。
どんなに大きな木も、どんなに険しい岩壁も、楽々と登って行った。
そんな記憶が、まさかいま役に立つなんて……
思わず、笑みがこぼれた。

「降りてきて戦え、この野郎!」
少年は、いまだにわめき散らしている。
エレキッドの顔がだんだん苦しそうになってきたのを見て、焦りだしたのだろう。
イラついた声で、こう叫んでくる。
「正々堂々戦え、卑怯だぞ!」

“卑怯”
なぜかその言葉が、やけに胸に響いた。

「卑怯なんかじゃないさ、これも戦略の一部だよ」
そう言い切れる自信はあった。
……あったはずなのに、何故か言うのを少し躊躇ってしまった。



―――昔憧れていた者たちは、皆真っ向から立ち向かって行った。
初めてテレビで見たチャンピオンは、華麗な技で観客を魅了した。
テレビアニメの主人公は、豪快な技で悪役を蹴散らしていった。
それに比べて、今自分がやっていることはどうなのだろうか。
とても、真っ向勝負と呼べるものではないのかもしれない。
……でも、僕が勝つにはこうするしかないんだ。
 こうするしか……

「おい、降りてきやがれ! この卑怯者!」
少年は、しつこく叫んでくる。
それにしても、なんでこんな奴に卑怯者呼ばわりされなきゃならないのだろうか。
初心者を狙って経験値を稼ぎ、挙句の果てには他人のポケモンを取り上げた。
『卑怯者は、お前の方だろう』 
そう、心の中で何度も毒づいた。
だんだん胸の奥が、ムカムカしてきた。

よく見ればエレキッドは、もうフラフラで倒れそうだった。
これならもう、一撃加えるだけで勝てそうだ。
「降りてこい」少年はまだそう叫んでいる。
僕は、薄ら笑いを浮かべて言う。

「ああいいさ、直接攻撃で決着をつけてやるよ」

どうせもう勝ちは決まってるんだ、お前の望む形で倒してやる。
「ヒコザル、引っ掻くだ!」
半ばやけになって、そう命令した。

「挑発に乗っちゃだめよ、のび太さん!」
静香の声が聞こえてきた。
だが僕もヒコザルも、もう止まることはできない。

敵対する少年の顔には、笑みが戻っていた。



「雷パンチで迎え撃てっ!」
響き渡る、少年の声。

「敵より先に、引っ掻くを叩き込めぇ!」
僕も負けじと、大声をはり上げる。

爪をむき出しにしながら、空中から落下するヒコザル。
それを迎え撃たんと、拳を構えるエレキッド。

二匹の距離が、だんだんと縮まって行く。
3メートル、2メートル、1メートル―――
そして、激突の時が来る。

僕と少年、2人の声が同時に重なる。

   「「行けええええええぇぇぇ!!」」

その瞬間、僕は思わず目を閉じてしまった。
そして次に目を開けたとき、僕が見たものは……


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