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ワタリ その3 - (2008/03/15 (土) 21:56:55) のソース

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目の前には戦闘不能状態のヒコザルが倒れている。 
手持ちのビッパ、ナエトルは戦える状態ではないので仕方がなくポッチャマで戦 
ったのだが、相性を関係なしに見てもその実力は圧倒的だった。 
「お前強いなァ。俺のヒコザルじゃ全く歯が立たなかったよ。」 
彼がそう言うとのび太は照れながら右手を差し出した。 
「ありがとう、君のヒコザルだって強かったよ。 
僕の名前はのび太。君は?」 
のび太の右手にもう1つの手が重なる。 
「俺はコウジ。よろしくな!」 


それから僕はトレーナーズスクールを案内してもらった。 
そこには何人もの人が勉強しており、活気づいていた。 
塾長にタイプの相性の事や性格によるステータスの変わり方を教えてもらっている間に日が暮れかかっていた。 
「あ、もうこんな時間か!そろそろ行かなくちゃ。今日はありがとうコウジ。」 
「ああ、また勝負しようぜ。」 
塾長にも礼を言い、建物を飛び出して噴水の前へ向かった。 
外は朝とは違い雨雲が広がっていた。 
その場に着くと既にヒカリが待ちくたびれた様子で座り込んでいた。 
「遅~い。何してたのォ?」 
「ゴメン。ちょっと勉強してたんだ。」 
ヒカリはのび太が勉強していた事が信じられなかったが、今にも雨が降りそうだったので早足でポケモンセンターへ向かった。 

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どうやらヒカリが先にチェックインしていたらしく、僕はビッパとナエトルを受付に預けて自分の部屋へ向かった。 
と言っても自分の部屋、謙ヒカリの部屋だ。 
「ゴメンのび太!部屋一つしか借りられなかったんだァ。その代わりにホラ!」 
ヒカリは青い腕時計を手渡した。 
「これポケッチって言うの。とっても便利なんだから!」 
のび太はポケッチしげしげと眺めた後、腕にはめ、窓際にある椅子に腰掛けた。 
「そういえばのび太の友達の事あまり聞いてないよね。教えてよ!」 


それから約1時間。 
外はどしゃぶりになりながらも、のび太は目をキラキラさせながらずっとみんな 
の話をしていた。 
「でさ、ジャイアンって奴がいつも僕をいじめてくるんだよ。オレンジ色の服を着ていてね…。」 
ヒカリがのび太の話を遮ぎり、窓に向かって指を指した。 

「あんな感じの色?」 

ヒカリの指の指す方向には体格のいい子供が傘もささずに雨の中フラフラ歩いていた。 

「ジャイアン…?」 

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「ジャイアン!」 
のび太はそう叫ぶと部屋を出て走って行った。 
「またァ~?」 
ヒカリは溜め息を付きながらも、のび太の後を追った。 

間違いない!昼間に見た人もやっぱりジャイアンだ!今度は見失わないぞ! 

入り口の自動ドアが開き外に出る。 
靴に水が染みるがそんなことどうでもいい。 
「ジャイアン!」 
のび太はジャイアンの肩を掴んだ。 
だが彼は無反応で、ただ立っているだけだった。 
「ジャイアン…?」 
のび太は前に回り込み彼の顔を覗く。 
目の焦点が合っていなく足元もフラフラだ。何を言っても反応を示さない。 
「ジャイアン!僕だよ!のび太だ!」 
のび太が自分の名前を叫ぶと彼の身体がブルッと震えた。 
「のび…太…。のび太…?のび太…!ハハハ…ハ!」 
ジャイアンがいきなりおかしな様子で笑い始めた。 
「のび太!ギッタ…ん…ギッタ…にして…やる…。」 
そう言うとジャイアンはのび太に殴りかかって来た。 
しかしその攻撃はあまりにもひ弱なものだった。 
のび太の薄い胸板の上でかろうじて音をたてる程度の威力。 
笑いながらひたすらのび太を殴りつけるジャイアン。 
「ジャイアン…。」 
「ハハ…ハ。どうだ…のび…太。思い…知ったか…。」 
のび太の目から漫画の様な量の涙が溢れてきた。あんなに…力強かったジャイアンが…こんな…こんな…! 
嘘だ…!きっとこれは夢だ…! 
だが激しく打ち付ける雨がのび太の思考を冷静にさせた。 

「ジャイアンはもう…壊れている…。」 

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「のび太…。たけし君は…?」 
ヒカリがのび太を心配そうな目で見る。 
「ジャイアンは病院で精密検査を受けてる。 
悪いけど…一人にしてくれないか。」 
そう呟くとのび太はセンターの屋上へとゆっくり足を進めた。 
びしょ濡れの状態で屋上への階段を登る。 
階段を1段1段登るたびに水の染み込んだ靴が小さく叫び声を上げた。 

ザ―――……。 

激しい雨がのび太の足元に叩き付けられる。 
服も水を吸いすぎて重たくなっている。 
のび太は青いポケッチで時間を確認し手すりに寄り掛かった。 
ボーっとするのび太の頭の中で忘れたくても忘れられない言葉がこだまする。 


『お前の物は俺のもの、俺の物は俺のもの』 


『のび太のくせに生意気だ!』 


『おお心の友よ~。』 


まどろみかけた彼の目には灰色の雨雲で覆われた空しか映る物はなかった。 

決して…鮮かなオレンジ色など映る事はなかった…。 

----

朝日がのび太の身体を包み込む。もうすっかり雨は止んだようだ。 
屋上にいたはずなのに何故かベッドの上にいた。 
びしょ濡れの服は既に洗濯してあって干されている。 
今は白のシャツにスウェットをはいていた。 
隣のベッドにヒカリの姿は見えなかった。 
ドアに目をやると、ちょうど良くドアノブが回った。 
「おはよう、のび太。よく眠れた?」 
ヒカリが満面の笑みで部屋に入って来た。 
「ジャイアン…は?」 
「…意識はまだ戻ってないみたい。でもあの時のび太が見つけなければ命の保障はできなかたって。」 
ヒカリの話が終わるとのび太は再び布団に潜りこんだ。 
その瞬間聞き覚えのあるうるさい声が部屋を圧迫した。 
「のび太!何してんだ!早く起きろォ!」 
「コウジ!」 
コウジがのび太の布団をはぎ取る。 
ヒカリが彼の名前を叫んだ事から見てコウジを知っているのだろう。 
「ちょっとヒカリ。席外してくれないか?」 
のび太の真上に乗っているコウジは言った。 
しぶしぶ部屋から出て行くヒカリをしっかり見送った後のび太の胸ぐらを掴みコウジは叫んだ。 

「てめぇ…なにヒカリに心配させてんだよ…!」 

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「まさかのび太がヒカリの知り合いだったとはな…。」 
コウジが胸ぐらを掴みながら続ける。 
「お前…ヒカリが心配してやってんのにその態度はなんだ?ああ!?」 
のび太はコウジの手を払い再び布団に潜りこんだ。 
「もう…どうでもいいよ…。」 
気弱になっているのび太の態度を見てコウジの怒りが爆発した。 
「どうでもいい!?お前ヒカリの記憶取り戻すって誓ったんじゃねえのかよ!? 
自分にちょっと嫌なことがあったからってもう諦めんのか?」 
「ヒカリにこの気持ちはわかんないよ…。」 
その言葉を聞いたからかコウジはあきれたようにドアノブに手をかけた。 


「ああ、ヒカリにはわかんねぇだろうな。 
何しろ友達との記憶が一切ないんだもんなァ。 
悲しみたくても悲しめないんだもんなァ。 
いいか…ヒカリはなァ…お前の何倍も絶えてるんだよ!そんな事もわかんねぇのか。 
少しでもお前をライバルと思った俺が恥ずかしいぜ!」 


そう言うとコウジはドアを力一杯閉め、去って行った。 


「ヒカリは僕の何倍も絶えている…か。」 

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ヒカリはポケモンセンターのロビーでうろたえていた。 
「何すればいいんだろ…。」 
朝食は食べ終えたし、のび太はコウジと何やら話しているし…。 
何もすることのないヒカリはとりあえずテレビを見て時間を潰すことにした。 

『次のニュースです。 
昨夜、ズイタウンの育て屋が何者かによって破壊される事件が起きました。 
警察はハクタイの森半焼事件と手口が類似している事から、同一犯として捜査を進めています。 
また育て屋の老夫婦が行方不明になっており…。』 

「ヒカリ。」 

名前を呼ばれ後ろを振り向くとのび太が立っていた。 
「コウジと話は終わったの?」 
「うん。さあ行こうか。」 
「もう大丈夫なの?のび太。」 
ヒカリが目を丸くする。 
「ああ。ヒカリに励まされたからね。」 
首を傾げるヒカリ。 
私何かしたっけなァ? 
ま、何はともあれ出発のために荷物整理しなきゃね! 
そう呟くとヒカリは嬉しそうに部屋へ走って行った。 
ヒカリが完全に立ち去ったのを確認したのび太はこう言った。 

「ここを出る前に…もう1回勝負だ!コウジ!」 

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「チッ、ばれてたか。流石は俺のライバルだな。」 
コウジはポケモンセンターから出てボールを構え、空中に放った。 
「行け、ヒコザル!」 
全身が炎に包まれたポケモン、ヒコザルがボールから飛び出した。 
「コウジ。一つ謝らなければいけないことがある。 
あのポッチャマは僕のじゃない。ヒカリのだ。」 
「ヒカリの!?ヒカリ、あんなに強くなったのか…。」 
コウジの話を遮って、のび太は続ける。 
「でも僕はヒカリのポッチャマに負けないぐらいのポケモンが…相棒がいる…! 
行くぞ!ビッパ!」 

太陽の下、二人はお互いのパートナーと供に戦っている。 

朝だというのにその日の太陽はのび太の白いシャツをオレンジ色に染めていた――― 

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203番道路

「クロガネシティ!?
止めた方がいいよ。悪いことは言わない。すぐに引き返しなよ。」
あっけにとられるのび太とヒカリ。
颯爽とその場から立ち去ろうとする短パン小僧、トモキのTシャツの裾を掴んだ。
「行かない方がいいってなんで!?僕はバッジを貰いに行くんだ。理由を教えて!」
「離せよ。少し年上だからって調子にのるなよ。
クロガネシティ…。あんな終わっちまった所…クソッ!」
そう言うとトモキは腕を振りはらい走ってコトブキシティの方へ走って行った。

「終わっちまった所…ね」

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「ヒカリ、終わっちまった所ってどういう意味か分かる?」
ヒカリはのび太の問いにゆっくりと顔を縦に動かした。
「私聞いた事ある…。
数年前に炭鉱から全く石炭が出なくなって…、町の人々は職を失い、他の町に引っ越した。
町の人達は次々と引っ越して僅か1週間で町の人口は10%にも満たなくなった…。
今は全盛期の頃とは見る影もないみたい…。」

なるほど…
それで終わっちまった所って事か…

しかし一つ疑問が生まれた。

何故トモキはクロガネシティに行くことを反対したのだろう…?
彼と何か関係があるのだろうか?
いくら考えても答えが出る訳でもないので考える事を中断し、行動に移した。
「とりあえずバッジを手に入れたらさっさと出て行こう。
「うん…それが一番いいと思う…。
何か嫌な予感がするから…。」
気のせいかヒカリの顔がいつもよりも青白く見えた。

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クロガネシティ

のび太達は真っ暗なクロガネゲートを出、目的の町に着いた。
「ここが…クロガネシティ…。」
建物という建物が全て錆び付いており、人っこ一人いない。
まるでゴーストタウンだ。
「のび太…早く行こう…。なんかここ怖いよ…。」
やっぱり変だ。
ヒカリはこんな弱音は吐かない。
一体どうしたんだ!?

「おや、珍しいね。観光…な訳ないよね。」

ヘルメットに作業服を着ている長髪の若い男がツルハシを持って話しかけてきた。
のび太は少し戸惑いながら答えた。
「あ、あのう…僕、ジムに挑戦しにきたんですけど…」
「へえ…ジムね…。道分かる?教えてあげようか。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
その男は作業服に汚れをほろうと背中を見せて歩き出した。
「良かったね、ヒカリ。
早くこの町から出られそうだよ。」
「…うん……。」

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ジムに行く道の途中で色々な物を見た。
折れたツルハシ、地面に転がっている持ち主のいないヘルメット、壊れている機械、そして乞食や浮浪者…。

「酷いもんだろ?
昔はこんなんじゃなかったんだけどなぁ…。」
長髪の男がふと呟いた。
「なんで…アナタはここに残っているんですか?
まだ若いし、違う仕事もたくさんあるのに…。」
「僕はここで生まれてここで育った。
他のみんなは出て行ってしまったけど、僕のふるさとはこの町だ。他のどこでもない。
だから石炭が出るまで堀続ける。
石炭が出たらきっとみんな帰って来てくれるはずだ。
昔みたいに笑いながら暮らせる様になりたいから…。」

ふるさと…か。
僕はまだそんな自覚はないけど、大人になって町を出て行くことになったら、きっと懐かしく感じるんだろうなァ…。
そんな事を考えている内にジムの目の前に着いた。
僕はお礼を言おうとしたが、彼の行動に口をあんぐりと開けていた。
なんと勝手にジムの中に入り、奥のジムリーダーが座る椅子に寛いでいるのだ。

「それともう一つ。
僕がクロガネジムのジムリーダー、ヒョウタだからだ!」

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「な、なんで!?相性はいいはずなのに…!」
「のび太くん。
ポケモンバトルは相性だけで決まるような甘いものじゃないんだよ。
いいかい?僕のズガイドスは君のナエトルより『すばやさ』が高かった。
だから先制攻撃ができたんだ。」

『すばやさ』…か
くそォー…
ズガイドスは攻撃力が高いはずだ。
だからナエトルが一発で…
でももう僕の手持ちは一匹しかいない。
頼むぞ…!!

「いけ!ビッパ!」
「何度やっても同じことだよ?
僕のズガイドスは攻撃とすばやさが高いんだ。
また一発で倒してやる!」

ズガイドスがヒョウタに頭突きを命じられ、ビッパのとぼけっ面に自慢の頭を突
っ込ませた。

「一発だ…あっけないね、のび太君?」
「ビッパ!体当たり!」
「な…!?」

ビッパは勝ち誇ったズガイドスの顎に思い切り体をぶつけた。

----

「な、何故倒れない!?」

ヒョウタは驚きの表情を隠せないようだ。

「ヒョウタさん。僕のビッパは特別でね?
異常なほど打たれ強いんですよ。」

ビッパからの不意打ちを食らったズガイドス。
その目はビッパを鋭く捕らえていた。

「チッ…だが、体当たりはノーマルタイプの技だ!
このまま続けても僕の圧倒的有利には変わりない!!
ズガイドス!もう一度頭突きだ!」
「ビッパ!体当たり!」

----

クロガネジム内は30分ほど土煙に覆われた。
その中心で戦っている二つの影、ビッパにズガイドス。
その姿にただ見とれている少年がいた。
彼の名前はトモキ。
自分を倒したのび太がヒョウタに負けるのを笑いに行く予定だった。
だが

「のび太のヤツ…強いじゃないか…」
意外にものび太はトモキの憧れであるヒョウタと互角に戦っているのだ。
「あッ…少しずつだけど…
ビッパが押されてる…!?」


「のび太君…このまま続けても僕の勝ちは変わらないよ?
さあ…どうする?」

確かにそうだ。
いくら打たれ強いといってもズガイドスの頭突きを何発も食らってたらいつかは倒れてしまう。
反撃の体当たりは相性的にいまひとつ…どうすればいい!?
のび太が必死に考えていると、ビッパの足元がふらついた。
しまった!
もう限界か…

「よしとどめだ!ズガイドス!頭突き!」

----

一瞬の隙。
それが命取りになる。
ズガイドスの頭は確実に獲物を捕らえ、大きく鼻を鳴らした。

「僕の勝ちだよ…のび太く…!?」

ヒョウタの目線にのび太の姿はなく、その代わり下方で腹を押さえてのたうち回
ってる姿があった。

「まさか…ビッパをかばう為に自ら…!?」

そう。
ズガイドスの頭突きはビッパをかばったのび太の腹に直撃したのだ。

「ゲフッ…ビッパァ………
大丈夫…かい…?
君は…僕が守るから…ね?」

「なんてバカな事を…!
ズガイドス!戻れ!早く病院に行かないと…」

ボールから発する一直線の光がズガイドスに向けられる。
だがズガイドスはその光を避け、ビッパを前に戦闘態勢を崩さなかった。
「な…!ズガイドス…?」
突然黄色い光がビッパの体を覆い輝き始めた。
「まさか…」

「よくもこの俺様を痛ぶってくれたなあ…コラァ…
慰謝料は高くつくぜ?」

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「ん…僕の気のせいかな…」

トモキは目をこすりもう一度よくジム内を覗いた。
ビーダルがヤンキー座りをして、ズガイドスをにらみ付けている。
確かビッパが黄色い光に包まれた後にあのビーダルが出てきたはずだ。

「まさか…進化した…!?」


「ビッパ…?」
「よォのび太ァ…
身をかばってまで助けてくれてありがとよ。
それでこそ親友だぜ。
さあて…今は目の前にいる敵さんをどうにかしないとなァ…!?」

----

ビーダルは立ち上がり、にらみ付けてるズガイドスをにらみかえした。

「この俺様にガン付けで勝てるとでも思ったか?ああー!?」
「ちょっと待て…」

ヒョウタがビーダルを制した。

「なんでビーダルが喋ってるんだよ!?」
「ビーダルが…人の言葉を…?」

そう呟いた瞬間のび太のまぶたは閉じた。

「そりゃお前…あれだろホラ…
……な?お前空気読めよ。
んなことよりもよォー…
てめえのせいでのび太が気絶しちまったじゃねえか。
そっこーでシメてやるからとっととかかってこいや!」

「フフ…
人語を話すビーダルか…
面白い!いくぞ!ズガイドス!!」

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「上等だコラ!!
シンオウの鬼爆と呼ばれた俺様の体当たりをくらいやがれ!!」
「ズガイドス!!
今までで一番最高の頭突きをお見舞いしてやれ!!」

足で地面を蹴り、もはや突進ともいえるスピードで突っ込んだ。
進化してもそんなにすぐには能力面は変わらないはず…
だとしたら、頭突きで倒せるはずだ!

「ククク…かかったな…」

ズドンという鈍い音と共にズガイドスが地に伏していた。

----

「何!?」
「ヒャハハハ!!
あらかじめ俺様が水鉄砲で溝を作っといたのよ!
勢いにのったてめえはコケちまうって寸法よォ。
おっと俺様のバトルフェイズだ…
勿論体当たりなんてしねえぜ?
さっきのはてめえを突っ込ませる為の嘘!
進化して覚えた技、使わせてもらうぜえ…
食らえや、水鉄砲!!」

大量の水がズガイドスの全身に降り注いだ。

「そうか…さっき体当たりと宣言したのはポケモン自身…
トレーナーの命令ではないから、自分の意思で変更できる。
さらに体当たりを宣言することで新しく覚えた水鉄砲の存在を隠し、罠をしかけ、一気に勝負にでた…」

「参ったな…
僕の負けだよ、ビーダル」

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「ホラ、約束のバッチだ。
受け取ってくれ。
久しぶりに楽しいバトルができたよ。」

「ふーん…
これがバッチか。
高く売れそうにもないなこりゃ。
てかのび太いつまでのびてんだ。
さっさと起きな。」

ビーダルはのび太の首根っこを掴み無理矢理立たせた。
そして口から少し水を発し顔にかける。
するとのび太のまぶたが少しずつ開きだした。

「………あれ…
ビーダル…それバッチかい…?
そうか…僕…勝ったんだね…
ビーダル…君は強い…なあ………」

そう呟くと再び深い眠りに落ちてしまった。
ズガイドスの1発はそう深くはなかったのだが精神的なダメージが大きかったようだ。


----

「チッ…だらしねぇ。
早いとこコトブキのポケセン行ってコイツ寝かさないとな。ここのポケセンは設備が悪すぎる。
おい、そこの嬢ちゃん。
なにガタガタ震えてんだ。早く行くぞ。」

ヒカリは微かに頷いて
だがしかし下を向いたまま
これから起きる何かを悟ったかのように
顔をこわばらせ
ゆっくり歩き出した


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気絶したのび太を背負ったビーダルはクロガネジムの扉を開く。
扉をくぐろうとした時、ヒョウタがビーダルを呼び止めた。

「ビーダル。
のび太君に『済まない』と伝えてくれないか。」

「あんたは悪くねぇよ。
勝手に飛び出したコイツが悪い。」

「頼む。」

やれやれといった表情で了解し、そのまま扉を閉めた。

「順調な滑り出しとはいかないが…
まぁバッチも手に入ったことだし良しとするか。」


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203番道路

「う…うう…」

うめき声をあげたのび太。

「お、起きたかのび太。
コトブキシティまであと少しだからもうちょっと寝ててもいいぞ。」

「ありがとうビーダル。
でも僕歩くよ。
君だって疲れているだろう?」

「ん…まぁな…
でも無理はすんなよ。
あ、そうだ。ヒョウタがすまな…」

ビーダルがそう言いかけた時、強烈な爆音と粉塵が彼らを襲った。
爆発があった方向は今通った道の先。
つまりクロガネシティだ。
クロガネゲートをはさんでいるのでよく見えないがもの凄い量の煙が立っている。

「いやああぁぁぁぁぁ!!」

ヒカリの叫び声が煙に包まれた空に響き渡った。

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叫び終わるとヒカリは気を失い倒れてしまった。

「マジかよ…」

どす黒い煙から人の焼けた臭いがする。
人だけじゃない。
微かにだがポケモンの焼けた臭いもする。
炎はさらに勢いを増しクロガネシティ全体を包み込んだ。
黒い煙、真っ赤な炎から小さな何かが飛んできた。

焼け焦げたモンスターボールだ。
そのボールはのび太の足元に転がっていった。

「そのボールはヒョウタの遺物だ。」

炎のなかから黒のリザードンに乗り、黒の衣装に体を包んだ若い男が姿を現す。
そしてのび太を指差し話し始めた。

「美しいだろう?
これが哀れな人間を浄化する炎だ。
まるでカトリック教理の煉獄がここにあるみたいだね。」

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のび太は無言でモンスターボールを開いた。
ボールから姿を現したのはズガイドス。
ズガイドスは体をこわばらせ脅えていた。

「お前がヒョウタさんを…
クロガネシティを燃やしたのか。」

のび太が黒服の男に問う。

「ああ。
俺も彼には注意したんだがどうにも頑固でね。
しかたなく炭になってもらったよ。」

ビーダルは察知した。

「ヒョウタの野郎…
すまないってこういうことかよ…」

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