6.
ご主人様のお友達のみなさんに捕らえられた“初心者狩り”は、
数分後に到着したガーディアンズ本部の屈強なお兄さんたちに連行されてゆきました。
ご主人様とヒューマンの少女、そして私はその場でしばらく事情聴取を受けて……あれ?
その後、どうなったんだっけ――。
「――う、ん?」
目を開けると、眩しくも見慣れた光がセンサーに飛び込んできました。
マイルームの電灯です。
ゆっくり上半身を起こすと、今いる場所がご主人様のベッドの上だとわかりました。
どうやら私はいつからか、ここで眠っていたみたいです。
体内時計が指す時間は24時近く。あれからおよそ6時間が経ったことになります。
「気がついた?」
ルームグッズの置かれた隣のスペースから、ご主人様が顔を覗かせました。
「あ、ご主人さ、ま"っ!?」
私はベッドから飛び立とうとして、思いっきり床に転げ落ちました。
――そうだ。もう私の背中に羽根はついていないのでした。
「だ、大丈夫か? まだ寝てたほうがいいんじゃ……」
「うぅ、大丈夫です。今のはちょっとした事故っていうか……
あの、私いつから寝てたんですか?」
「ああ……本部に連れてかれたのは覚えてるか? そのあと、事情聴取が始まってすぐだな。
いきなり頭から煙出して倒れるから、俺もびっくりしたよ」
ご主人様はそう言って、私をひょいと抱き上げてくれました。
「……あ」
いわゆる『お姫様だっこ』の姿勢です。
「進化したての身体でいきなりあれだけ派手に戦ったから、いろいろ負荷がかかって、
熱暴走が起こったんじゃないかって話だけど……どっか痛むとことか、ないか?」
ご主人様の腕の温もり。
あんなことがあったけれど――ちゃんと元気に帰ってくることができたんですね。
私も、あなたも。
「そ、そうなんですか。えと、もう平気ですっ、問題ないから、下ろしてくれて大丈夫ですっ」
金属製の外皮でなく、人工皮膚で触れるご主人様の肌。なんだかくすぐったくて、
それから抱っこも嬉しいけどなんだか恥ずかしくなって、不自然にあたふたしてしまいます。
ご主人様は、そうか、と言って、私をそっとベッドに座らせてくれました。
「そうだ……ご主人様、ごめんなさい。その……武器、食べちゃって」
「ああ、別に謝るようなことじゃないよ。悔しいけど、もう壊れちゃってたし……
それに、そのおかげで俺たちは助かったんだしさ」
ご主人様は私の頭にてのひらを乗せて、言いました。
「ありがとう、本当に。今日ほどおまえのことを頼もしく、誇らしく思ったことはないよ」
そうして、いつもの優しいナデナデ。
胸のリアクターから、全身が熱くなってゆきます。
「ありがとうございます。えと、も、もったいないおことばです」
「もったいないもんか。俺は本当に感謝してるんだから……俺も強くなんないとな。
おまえやあいつらが来てくれなかったら、本当に今頃どうなってたか」
一瞬だけ、ご主人様の表情がとても真剣なものに変わりました。
「ご主人様……」
「ああ、そうそう。明日、みんなで飲みに行くんだけどさ。おまえも連れてくから」
「ほぇ? みんなって、あの3人の?」
「そ。飲みの話自体は前からあったんだけど、みんななかなか都合合わなかったんだ。
でも、明日ならって」
――そうか。ニューマンさんは、それでさっきここを訪ねてきたんですね。
「で、ついでだから改めておまえを紹介しようと思うのさ。
みんなにもパートナーマシナリー連れてくるよう言っといたから、賑やかになるぞ」
「そうなんですか。それは楽しみですっ」
ご主人様と、お友達と……それから、そのパートナーマシナリーのみんな。
私も最後の進化を終えて、やっと彼女たちの仲間入り。
みんな驚くでしょうか?
とっても楽しみ……なのですが。
どうしてでしょう。なんだか引っかかります。
――あ、そうか。
「あ、あの! ご主人様!」
「うん?」
「ええと、もう夜遅いし、疲れちゃってると思うんですけどっ。
その……近場でいいから、一緒にお散歩にいきませんか?」
「ん、どうしたんだ、急に?」
「それはその……うぅ。だめ、ですか?」
「いや、全然」
ご主人様はにっこりと微笑むと、私に手を差し伸べてくれました。
「あ、ありがとうございますっ!」
私はその手をとって、ぴょんとベッドから飛び降ります。
「どこ行きたい?」
「ええと、ええと……どこがいいでしょう……」
そう。それはとっても単純なこと。
せっかくご主人様と同じ“ヒト”の姿になれたのだから。
最初のおでかけは、ご主人様と二人だけで行きたかったんです。
宿舎を出て、私たちは広場に出ました。
「あの、ご主人様」
「うん?」
「さっきご主人様、強くなんなきゃって言いましたよね?」
「ああ。本当に、思い知ったよ」
「私も! 私もこれから、強くなります。もっともっとご主人様の力になれるよう、頑張ります!
だから、ええと……これからも、よろしくお願いします!」
あったかいご主人様の手。
さっきはすこし恥ずかしくて離れてしまったけど、今度はぎゅっと握ります。
「……こちらこそ、よろしく。頼りにしてるぜ」
ご主人様は、まるで子供みたいな屈託のない笑顔で答えてくれました。
ああ、私は今日という日を一生忘れないでしょう。
――ご主人様。
ガーディアンとして戦ううち、きっと辛いこともあると思います。
今日みたいに大変なこともあるでしょう。
もしかしたら、悲しいこともあるかもしれません。
だけど私は、どんなときでも。……いいえ、そんなときにこそ。
あなたのそばにいて、その力になろうと思います。
あなたの笑顔を守るために。
あなたの夢見る“みんなが笑っていられる世界”を目指すために。
だって私は、あなたの“パートナー”マシナリーなのですから!
~おしまい~