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3.

      ・  ・  ・  ・  ・

 Gコロニー内、リニアライン連絡通路。
 薄暗い路にコツコツと足跡を響かせながら、赤い服を身にまとったヒューマンの青年が歩いている。
 “彼”ことGH301のマスターは、この奥で待っているメールの差出人と合流すべく進んでいた。
 先程のミッションに同行した、キャストとヒューマンの二人組――
 その正体が危険な存在であり、この呼び出しそのものが罠であることなど、まったく知らずに。
「結構、奥のほうまで行ってるみたいだな……」
 辺りにデルセバンやパノンといったSEEDフォームの姿はなく、
 時折ゼリー状、あるいはクリーム状の肉片が残されているだけだった。
 その残骸を辿って歩くことさらに数分、第2ブロックの中ほどまでやって来たとき。
 どこからか、ドスン、と重たげな音が響いた。
「……、なんだ?」
 音の聞こえたほうに向かって、“彼”は走る。
 そして次の部屋へと繋がる扉を開くと、
「お、来た来た」
「意外と早かったな」
 部屋の奥に、メールの差出人である金髪のヒューマンの男、そしてキャストの男が立っていた。
 彼らの足元には、同じく先程のミッションに同行したヒューマンの少女が座り込んでいる。
 ――白い頬を、赤く腫らしながら。
「!? あんた、そのケガどうし――」
「逃げてっ。こっち来ちゃだめだ!」
 “彼”の言葉を遮って、少女が叫んだ。
「うるっせえ!」
 途端、金髪の男が少女の背中に蹴りを入れる。
 鈍い音。少女は短く呻き声を上げると、大きく咳き込んだ。
 よく見れば、彼女は背中で両手を縛られている。
「ちょ……何やってんだよ!」
 “彼”が抗議の声を上げると同時に、銃声が響いた。
 弾丸が空気を裂く音が“彼”の耳元を通り過ぎる。
 白いキャストの左手に握られた短銃の銃口から、微かなフォトンの粒子が立ち上っていた。
「解らないかな。今日の私たちの獲物なのさ、君たちは」
「獲物、だって?」
「そうだ。さあ、持っているメセタとアイテムをすべて渡してもらおうか」
 言って、キャストの男は右手の中の小さな端末のボタンを押した。
 “彼”の背後の扉が閉まり、ロック状態を示す赤いランプを点らせる。
「痛い目を見たくなければ、早めにな」
「……どういうことだよ。あんたら、ガーディアンズじゃないのかよ」
 ようやく事態を把握した“彼”は、驚きと怒りの混じった視線をキャストに向ける。
「ガーディアンズさ。君たちと同じ、ね」
「だったら――」
「ゴチャゴチャうるっせえ奴だな!」
 金髪の男が割って入る。
「この組織はいろいろとやりやすいんだよ。
 つーかガーディアンズが全員イイ奴ばっかだとでも思ってたのか、ボケが。
 そんなんだから俺らみたいのにカモられてんだろうが!」
「なんだよそれ……!」
 ぎりり、と歯軋りの音。
「どうしてこんなこと!」
 “彼”の瞳が、みるみる怒りの色に染まってゆく。
「へえ。その目、やっぱやる気? いるんだよなぁ。いいぜ、相手してやんよ」
 金髪の男はニヤニヤと笑いながら、二、三歩前に出る。
「……おっと、無闇に動かないほうがいい」
 キャストの男が、隙を突いて飛び出そうとした少女の額に短銃を突きつけた。
「姉ちゃんもそこで見てな。こーいう正義感だけ無駄に強い低レベルガーディアンが、
 今まで俺らに刃向かって、どうなってきたかをな」
 言って、金髪の男はナノトランサーから一本の小剣、<ダガ・サバッバ>を取り出した。
 その姿を見据え、“彼”は愛用の双小剣、<ツインスティンガー>を抜き、構える。
「そんなの、認められるもんか!」

      ・  ・  ・  ・  ・

 宿舎を出て、2階、3階、4階へ。私はクライズ・シティを駆け抜け、リニアライン連絡通路へ。
(ご主人様……ご主人様!!)
 ――なんてこと。
 ご主人様を呼びつけたのが、そんなに危険なひとたちだったなんて。

 ご主人様は、とてもまっすぐなひとです。
 優しくて、責任感と正義感が強くて、人を疑わないひとです。
 そんなご主人様が“初心者狩り”なんてひとを見たら、どう思うでしょう。
 人々の味方であるべきガーディアンズでありながら、
 弱いものから金品を巻き上げるなんて悪事を働くひとたちを見たら、どうするでしょう。
 相手は二人組で、相当の高レベルライセンスの持ち主です。
 今のご主人様が敵う相手では、とてもありません。
 けれど、怒りを胸に武器を執り、あの人はそれを正そうとするでしょう。
 そうなれば――、……身体だけでなく、きっと心にも大きな傷を負うことになります。

 罅割れた私のココロの隙間から、毒が入り込んできます。
 みるみるうちに侵して染める、毒の名前は恐怖。

 怖い。そんなのは嫌。
 そんな悲しいご主人様は、見たくありません。
 私が行っても、どうにもならないかもしれない。
 だけど、解っていてじっとしていることなんて、できないのです。

 どうか、どうか無事でいてください――!!

      ・  ・  ・  ・  ・

「はああっ!」
 掛け声とともに、“彼”は<ツインスティンガー>による連撃を放つ。
 しかし、その攻撃は相手の持つ一本の小剣にことごとく弾かれ、いなされてしまう。
「甘ぇんだよ、モヤシが!」
 片方の刃が振りぬかれた隙を突いて、金髪男は“彼”の脇腹に鋭い蹴りを叩き込んだ。
 吹き飛ばされ、倒れる“彼”の左手から双小剣の片方が離れ、乾いた音を立てて床に転がる。
「そんな武器で勝とうってのか!」
 金髪男は左手に短銃を構え、続けざまに連射した。
 一発は床に落ちた小剣に命中、もう一発は未だ“彼”の手中にあった小剣を吹き飛ばした。
 リアクターを撃ち抜かれたことで、その刃を形成するフォトンが大気に還ってゆく。
「くっ……、こいつ!」
 “彼”はよろめきながらも立ち上がると、トランサーから長槍<ランス>を抜き、構えた。
「何吠えてんだ。そんなに今のしょっぱいダガーが大事だったか!?」
 金髪男が叫ぶ。手にした小剣のフォトンが輝きを増したかと思うと、
 男はその刃を身体ごと大きく回転させ、“彼”に向かって突進した。
 回転斬り、それに続く飛び蹴りを“彼”は長槍を斜めに構えて受け止めた。
 パル・ウッドの柄がミシミシと悲鳴を上げる。
 攻撃は止まらない。
「おらおらおらおらぁ!」
 男は姿勢を低くして、さらに連続の回転斬り。
 一撃、二撃、三撃……受けきった瞬間、<ランス>が限界を迎え、真っ二つに折れる。
 直後の蹴りが、“彼”の左肩に炸裂した。
「ぐああっ!」
 重い衝撃に顔を歪め、その場にくずおれる。
「く、っそ……」
「フン。もうちょっと楽しめるかと思ったのになぁ。お前、ちょっと弱すぎだわ」
 折れた<ランス>の片割れを弄びながら、金髪男は心底つまらなそうに言った。
「もういいよ、お前。さっさと金とアイテム置いて行っちまえ」
「……、まだだ!」
 身体のあちこちに走る痛みを押し殺して“彼”は再び立ち上がり、
「認められるもんか、絶対!」
 杖を除く最後の武器、赤い刃の片手剣<バスター>を抜き放って、構えた。
 その姿に、金髪男は顔を不愉快そうに引きつらせ、小剣を収める。
「……そうかそうか」
 再びトランサーから抜き出された手には、その身の丈ほどもある無骨なフォルムの長剣、
 <ソダ・キャリバ>が握られていた。
「よっぽど死にてえらしいな、てめぇは?」

      ・  ・  ・  ・  ・

 薄暗いリニアラインの連絡通路。
 初めて訪れたこの場所は、写真で見るよりずっと広いです。
 だけど、とても感慨に耽っていられるような心境ではありません。
 ……見つけた。
 第2ブロックに入ったところで、私のセンサーがご主人様の持つ端末の反応を捉えました。
 私は、その方向へと急ぎます。
(ご主人様、無事でいて――!!)
 50メートル、40メートル、30メートル……反応が近づいてきます。
 ご主人様は、次の扉の向こうに。
 けれど、私が近づいても、その扉は開きません。
(!? ロックが掛かって……)
 赤いランプの点った扉の向こうから、何か聞こえてきます。
 罵るような叫び声。間違えようはずもないご主人様の声。そして、フォトンの刃が交差する音。
「ご主人様! ご主人様っ!!」
 私は小さな金属の腕で目の前の扉をガンガンと叩きました。
 けれど重たげに閉ざされた扉は、びくともしません。
(どこか、近くにロックを外せる端末が……)
 ――ありました。
 扉のすぐ隣の壁面に、テンキーを備えた小さなパネルが。
 私はパネルに身を寄せ、側頭部から延ばしたケーブルをテンキーの下のスロットに接続しました。
 ……どうやら、今かかっているロックの構造は、宿舎のルームロックと同じようです。
(これなら、私にだって)
 私はすぐさま4桁の数字を高速で回転させ、パスを探します。
 扉の向こうから、ガギン、と一際大きな音とともに、ご主人様の苦しげな声が聞こえました。
「……っ、早く、お願い!」

 ERROR ERROR ERROR ERROR
 ERROR ERROR ERROR ERROR
 ERROR ERROR ERROR …… OK

 遂にパスが一致し、重たく閉ざされていた今までが嘘のように、扉が開きました。
「ご主人様あぁっ!!」
 千切らんばかりの勢いでパネルからケーブルを引き抜き、私は部屋の中へ飛び込みました。

 視覚センサーに飛び込んできたのは、跳ね飛ばされ、宙を舞うご主人様の<バスター>。
 その向こうに、金髪のヒューマンの男が立っています。
 男が握った長剣の切っ先を突きつける、その先。
 そこには、身体のあちこちに傷を負って、床に倒れるご主人様が――!
「おい、何か入ってきたぞ!」
 視界の隅に映った白いキャストが何か言っています。無視。
「うわああああぁぁぁぁーーーーっ!!」
 背中の羽根を大きく羽ばたかせ、私は全力で金髪男に突進しました。
「うおっ!?」
 不意打ちの体当たりに、男がよろめきます。
 こみあげる怒りのままに、私は男の顔面に張り付いて、ガリガリと爪を立てました。
「くそっ、なんだこいつは!」
「よくも、よくもっ、ご主人様をっ!」
 だけどそれも一瞬。すぐに私は男に頭を掴まれて、剥がされてしまいました。
 そのとき、背後からご主人様が私の名前を呼ぶのが聞こえました。
「おまえ、なんでこんなところに……!」
「ご主人様、大丈夫ですかっ!」
「大丈夫ですかじゃねえ!!」
 一瞬の浮遊感の後、激しい衝撃。私は、頭から床に叩きつけられたようです。
「!”#$&’……!」
 視界にノイズが走ります。
「こりゃてめえのパシリか。戦闘型でもねえハンパもんのくせに……
 随分しつけがなってねえみてえだな、ええ!?」
 全身がガツンと大きく揺さぶられ、私は宙に浮きました。蹴られたようです。
 ご主人様が私の名前を叫んでいます。
 がしゃん、という軽い音とともに、私は再び床に叩きつけられました。
 無数のエラーコードが頭の中を駆け抜けてゆきます。
「パシリの不始末は、主人が償わねえと、なあ? ……痛かっただろうが!」
 金髪男の激昂とともに鈍い音が響き、ご主人様がうずくまりました。
「や、めて……!」
 私は羽根を羽ばたかせ、ギリギリと軋みをあげるカラダをなんとか持ち上げました。
「やめて、くださいっ!」
 衝撃にひしゃげた喉で、私は叫びました。
 けれど、金髪男は止まりません。爪先がご主人様の背中を突きました。
 ――嫌だ。こんなの嫌。ご主人様、私のご主人様。助けないと――!

 武器が。なにか武器があれば――。
 ふと横に目をやると、一本の剣が床に刺さっていました。
 跳ね飛ばされたご主人様の<バスター>です。
 私はよろよろと飛び、<バスター>の柄を握りました。
「ご主人、様……今、助けに……!」
 だけど、壊れかけのアームでは、その剣を抜くことさえままなりません。
 私が苦戦していると、
「だめだ、逃げて!」
 という声が。
 直後、どこからか、ぱん、と銃声が響きました。
「そんなもので何をしようと言うんだい、マシナリーくん?」
 先ほど無視した白いキャストの男が、私に短銃を向けていました。
「ああっ……!」
 その傍らでは、腕を縛られたヒューマンの少女が悲痛な表情を浮かべています。
「……っ、あ」
 放たれたフォトン弾は、<バスター>の柄を貫き、私の腹部に埋まっていました。
 それを認めると同時に、視界が『深刻なエラー』の表示に真っ赤に染まります。
 ――逃げて、っていうのは、そういうことだったんですね。
 私の心臓、フォトンリアクターが出力を弱めてゆくのがわかりました。
 固体として繋ぎとめておくことができなくなったフォトンの羽根が、さらさらと散ってゆきます。
 翼を失ったカラダは、ゆっくりと落ちていって――。
 ああ、私は。私のカラダは……こうも簡単に壊れてしまうんだ。

「―――――っ!!」
 ご主人様の、ほとんど泣き声に近い叫び。
 私の名前を呼んでいます。

 ――ごめんなさい、ご主人様。

 私は、こんなにも無力でした。

 助けてあげられないばかりか、今まで育ててもらった大切なカラダ、
 ぼろぼろに壊してしまいました。

 ごめんなさい。私は――。

 意識が、遠ざかってゆきます――。





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