年の瀬の昼過ぎ。
ゴロリ。寝癖の付いた青い髪を直そうともせず、コタツに首まで埋まった少女が
昔懐かしのRPGを寝転んだままで器用にプレイしている。
勇者の名前は「いかりく」、パーティーは賢者一人で「レイ」。
さきほど、「そうりゅ」と名付けた商人を、どこぞの町に置いてきたところだ。
ペラリ。そのこたつの対岸では、制服にカーディガンを着た少女が
綺麗な正座を微塵も崩さずに読書をしている。
そこに、対面から、手だけが伸びてきて何かを探すようにぺちぺちとこたつを叩く。
読書中の少女は、無言でその手にこたつの上のみかんを一つ握らせてやる。
「ありがとう、有希」
「どういたしまして・・・」
また、RPGのフィールドの音楽と、時折ページをめくる音だけがリビングに残る。
カチャ、バタン。玄関の方から、とんとん、と足音がして
髪を二つに結んだ少女が、大きな買い物袋を二つ抱えて入ってきた。
「ただい・・・ま・・・」
目の前の姉二人の光景に、思わず挨拶が途切れる
この家の長女、RPGをプレイしいた少女は、入ってきた少女を見るやコタツにもぐる。
この家の次女、読書の少女は、見る人が見れば分かるいささか気まずそうな表情を
浮かべて、ついっと目をそむける。
そんな姉二人を交互に見つめ、一方はコタツの中だが、
この家の三女が一言、「買い物に行くから、大掃除しておいてって言いましたよね?」
こたつの中から応えがする。
「・・・寒いから、大掃除の前にちょっと温まろうと思って・・・」
コクコクと、次女も同意する。
「わたしはその寒い中を、お買い物に言って来たのですけど」
三女、ルリの声は冬の寒さを忘れるほど冷たかった。
そして最後に一言、「せっかくお正月のご馳走を沢山買ってきたのに・・・」
ぴしり、と固まったのは有希。慌てたのかゴツンとコタツに頭をぶつけたはレイ。
次の瞬間から、窓を開けてこたつを上げて、掃除機・はたきを持ち出してと
いそいそと掃除を始めた。
動き出した姉達を見て、ルリも満足したのか、わたしはキッチンを掃除しますねと
言い残し去っていった。
その声音が何時もどおりだったので、レイと有希は、そっと見合って胸を撫で下ろした。
どうやら、今年もなんとか無事に年を越せそうである。