カタリと音を立てて湯飲みを机に置く、その音が妙に不快に感じた。
なんとなく気に入らなかったのでもう一度湯飲みを机に置きなおしてみる。
やはり湯飲みはカタリ鳴った。先ほどよりもゆっくりと置いたはずだが、何故か余計に大きく聞こえた気がする。
小さな溜め息をついて軽く伸びをしてみる。今まで溜った疲労が抜けていくように感じた。
少し軽くなった首を目の前のコンピューターに向けて、今度は大きな溜め息をついた。

 

またヤツが動いたか……

 

いつもいつも思い付きの奇怪な行動で私たちを振り回す。
全く、騒動になる前に事態を納める身にもなって欲しいものだ。
そしてヤツから私の携帯電話に連絡が入った。今すぐ来いとのことだ。
いっそこのまま無視をしてしまおうか。そうすればまた無駄な心労を負わずに済む。
……そうはいかないことくらいはわかっている。立場上、ヤツの側に付いていなければならないことも。
また一つ小さな溜め息をついて、私はヤツのいるはずの場所へ向かった。

 

「碇、学校のプールの授業を盗撮するのは関心せんぞ」
「問題ない」

 

問題しかない上司を黄色い救急車に詰め込んで、彼の本日の勤務は終了した。
その日の夜は湯飲みの音は全く気にならなかったという。
冬月コウゾウ、齢五十を過ぎて尚も童貞の男。
三姉妹の末娘が平穏な日常を享受できるのは彼のおかげである。






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