けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

ROCK!!28

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mioritsu

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 並木道を、手を繋いで歩いた。

 律の手は私のより小さいけれど、包み込むような暖かさがあった。
 横顔も、照れくさいような嬉しそうなどっちとも取れる表情。
 なんだか懐かしくて、くすぐったくて。
 嬉しかった。


「澪」
「うん?」
「……ごめん。あと、ありがとう」
「なんなんだよ」
「その、今までの事全部謝っとこうと思って」


 律の横顔は突然真面目になった。
 いっつもおちゃらけて笑ってるくせに、ふと見れば真剣な顔。
 律はそうだった。そんな奴だった。


 律のそんな顔を横で見るのは、久しぶりだった。
 でも、この感覚は何度もある。


 ――いつか目にした、君の――


「二年の時、迷惑掛けてごめん」
「それはもういいよ。私も悪かったんだ」
「受験に失敗してごめん」
「……それも」
「大学辞めさせちゃってごめん」
「それは私の判断だろ」
「苦しい思いさせちゃってごめん」
「お互い様」


 歩みを進める度に零れる律の懺悔。
 それを私は、何の気なしに受け止めた。
 律の顔は真面目だけど、前ほどの重みは感じない。
 律は自分なりに、けじめをつけようとしてるだけだと思う。
 だから。


「でも、ありがとう」




 律はこっちを向いた。
 ちょっとだけ微笑んだ顔が、夕日に照らされてとても輝いていた。





「律。今日から……私、またお前の家に帰るよ」


 半年ほど過ごした律の家。
 実際、律の家で過ごすのは八年以上だ。
 だから律の家は、もう一つの私の家だ。


「快気祝いに美味しい物作るぜ」
「おい、そこまでしなくても」
「いいっていいって」


 律は少しの沈黙の後、空を見上げて続けた。



「正直さ、この四日間本当に辛かったんだ。
 もちろん梓やムギの言うように、私たちはお互い苦しめ合ってたかもしれないよ。
 澪は私を苦しめてなんかないと言い張ったって、実際苦しんでたし。
 でも、それは澪の事が大好きな証拠なんだって思う。
 それぐらい澪の事好きなんだ。

 だから、一緒にいられないの嫌だったし。


 でも、屋根裏を整理してて。
 アルバム、見つけたんだ。
 澪と私の。

 それを見てたら、よくわかんないけど、すっごい泣けて。
 澪と一緒にいることがどんなに楽しかったかとか。
 幸せだったことや、嬉しい気持ち。
 全部溢れてきて。


 苦しいとか、辛いとか、どうでもよくなって。
 今まで悩んでたこと、全部どうでもよくなって。
 ホント、なに馬鹿な事にウジウジしてんだってなってさ。
 写真の中の澪が語りかけてくるみたいな、暖かい気持ちになったんだ」


 律はずるかった。
 一々私を感動させる言葉を投げかけてくる。
 今の私は、律の久しぶりに会えた嬉しさで心が緩い。
 簡単に涙が出てきそうなほどだった。

 でも今は堪えた。
 さっきもだったけど、私は泣くと喋れない。
 律と話す時間が欲しい。
 さっきは私がずっと泣いてたから、そんな時間もなかった。

 それにさっきから律は語り過ぎだ。
 今まで溜めこんできた想いを吐きだすように、饒舌だった。
 私にも、律に伝えたいこといっぱいあるのにな。

 でも。
 でも、嬉しかった。


「だからお礼に澪に美味しい物作るから。楽しみにしとけ」
「買い出しは?」
「うちにあるもので勘弁してくれ」
「それに美味しい物って、いつも律の料理はおいしいぞ」
「……またお前はそういう事を」
「嘘じゃない。律の料理はすっごく美味しい。そこらのレストランじゃ相手にならないよ」
「て、照れるから、やめろよな」


 赤くなって顔を逸らす律。
 可愛かった。
 そんな表情を、今までも何度も見てきた気がした。


 ――照れてる君も――


 さっきから感じるこの既視感は偶然じゃなかった。
 だって、さっきからふとした瞬間に歌詞が浮かぶんだ。
 過ぎったメロディが、なんだか懐かしくて。
 言葉にしたいけど。
 まだいいかなって思った。


「そんなに気合入れなくても、律の作った物ならなんでもいいよ」
「いいや、今日は豪華にしてやるからな。久しぶりに一緒にご飯食べるんだから」


 そう言って拳を握りしめる律。


「ふふっ……そこまで頑張らなくてもいいのに」


 でも嬉しい。
 久しぶりに一緒にご飯を食べれること。
 一緒に、って言葉がどんなにすごいかよくわかった。

 私は律と一緒じゃなきゃ駄目なんだなって。
 一緒にいることが、幸せで仕方ないんだって知ってるから。

 メニューを独り言と一緒に考えている律。
 私はそんな律に、切り出した。


「律」

「ん?」


 まだまだ言いたいことはあるけど。
 今はこれだけ言いたかった。


「ありがとう」






 しばらく歩いていたら、駅が見えてきた。
 並木道も終りに近づいていて、人通りも減ってきた。
 その時だった。


 少し先の駅から、誰かが出てきた。
 ゆっくりな足取り。茶髪。髪留め。それでも大げさな歩き方。


「なあ律……もしかしてあれさ」


「――唯だ」


 律の顔から笑顔は消えた。
 一瞬だけ引き締まった。

 律の悩みはほとんどなくなったかもしれない。
 だって律は、私に会ってくれたんだから。
 律を苦しめていたはずの私に、律は会ってくれた。
 それぐらい、苦しみから逃れられたと律は言った。

 だけど、律の痛みや悩みが完全に消えたわけじゃないと思う。
 それはわかってる。私にだって痛いほどわかる。
 律はまだ、完全に皆の事を信じたわけじゃなかったんだ。

 でも――。


 前方に小さく見える唯は、空を見上げて動かない。
 まだこっちに気付いてない様子だった。


「律……」


 私はきゅっと強く律の手を握った。


「澪……」


 律は少し驚いたような顔をして、こっちを見た。
 律が唯を見て、少しだけ不安になったのかもしれない。
 だからそれを取り除けないかなと、想いを手に込めていた。
 律はゆっくりと微笑んで、言った。


「ありがとな……多分、今度は大丈夫。
 前もこうやって澪と手を繋いでたけど、結局皆に会わなかった。
 多分勇気が足りなかったし、中途半端な気持ちだったんだ。
 だけど今回は……心が楽だから。
 『以前の私』……澪の好きな、私の好きな『田井中律』で、話せるよきっと」


 私の好きな律。
 それは律の好きな律だった。


「今の律なら大丈夫だよ。だって私がそう思うんだ」
「……どういうこと?」
「ずっと律を見てきたから、律の気持ちの変化もなんでもわかるんだよ」


 ずっと律を見てたから、なんでもわかる。
 今の律の心の中も、思ってることもなんとなくわかる。

 今の律の心の中は、多分それとなく澄みきっていた。
 さっき律は言った。
 『アルバムを見て、不思議な気持ちになった』と。

 私も同じだった。
 律の誕生日プレゼントを買いに行くアラーム。
 その音が、私に過去の『律との思い出』を振り返させた。
 律と同じ、『共有する記憶』に想いを馳せたんだ。

 だからわかる。

 律ともう一度会おうと思ったきっかけは、そんな律との思い出だ。
 会えない四日間から、もう一度会おうと決めるまでの苦しみが全部消えるくらい、律との思い出を振り返ることは、これ以上ないほど心を満たした。
 そして、律の事が大好きな事や、一緒に笑いあっていたいと再認識した。
 そんな高揚したような、嬉しい気持ちになった。
 多分それと、律は同じだ。
 だからそっくりそのままなんだ。
 私の気持ちが、律の気持ち。
 今、私の心は満たされているし、不安も痛みもそれほどない。


 私にとって、『律ともう一度一緒にいる道を選べた』事が何よりも大きいから。
 律と一緒にいられない痛みが、私の中の痛みの中で一番大きかったから。
 だからそれが解消されただけで、随分と心は楽になった。
 それも以前のように、『一緒にいても苦しい』という矛盾した想いじゃない。
 一度律と距離を置いてわかった。
 『一緒にいたことは苦しい』。でも『一緒にいないのはもっともっと苦しい』。
 だから。
 『一緒にいることで痛みを分け合っていた』んじゃないかって。


 今、私は律と一緒にいる。
 手を繋いでいる。
 隣にいる。
 傍にいる。


 だから律は、大丈夫なんじゃないかって思う。
 唯とも、『以前の律』――つまり今の律で接することができると思うんだ。
 私が言ってるんだから、間違いないと思う。


「私が傍にいるから……唯とも、話せるよ」
「……そうだな。澪がいるもんな」

 そう言ってニッコリ笑って、律は唯の方を向いた。
 唯も、こちらに気付いている様子で、ちょっとずつ歩み寄っていた。

 唯の顔が見える距離まで来た。
 律は私の右手を強く握り締めて。
 私も強く握り返して。




 受験に失敗したあの日から、律と私ははたくさん苦しんだ。
 これから先、私たちが苦しいと思う事がまったくないとは言い切れない。

 だけど私は、笑顔を取り戻しつつある律を支えようと思う。
 頼りになるけど、実は細い律の背中をずっと支えていようと思う。
 そして、ずっと一緒にいるんだ。
 律と一緒に。












 唯と話した後、私はムギにメールを送った。














 唯と話した後、私は梓にメールを送った。


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