けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

17-330

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mioritsu

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「別についてこなくてもいいのに」
「そういうわけにもいかないだろ。私、保健委員だし」
「そこは嘘でも『律が心配だから』って言うところじゃないの」
「いいからほら、いくぞ」
 ぐい、と澪に手首を掴まれて歩き出す。
 と、右足を踏み出したその拍子、膝小僧に鋭い痛みが走って思わず顔をしかめる。
「いてっ」
「あ、ご、ごめん、平気?」
「へーきへーき。でももうちょっとゆっくり歩いて欲しいかも」
「うん、ごめん」
 澪はそう言って、今度はスピードを落として歩き出してくれる。
 あたしの手首をつかむ力も、心なしか優しくなったようだった。

 授業中の廊下は静かで、あたしも澪も足音が響かないよう出来るだけ静かに歩いていく。
 向かう先は保健室。さっきからずきずきと痛む膝小僧がその理由だ。
 ちなみに怪我の原因は、体育のサッカーですっ転んだ、というなんとも格好悪いもの。
 幸いジャージを着ていたので直接肌が地面に擦れることはなかったけれど、それでも擦り傷を避けることはできなかった。
 青いジャージの下から、じんわりと血が滲んでしまっている。

「……律、痛い?」
「痛くない」
 というのは嘘で、さっきから足を踏み出すたびに振動が伝わってきて痛い。
 ……痛いんだけど、グラウンドからここに来るまで、いっさいあたしの膝を見ようとしない
 澪の姿を見てしまっては、正直に答えるのも心苦しかった。
 怖いんだよな、あたしの血が。
 だからついてこなくて良いって言ったのに。
 そんなことを思いながら長い廊下を歩いていった。

―――

「…………」
「澪、白目になってるから」
「はっ!?」
 ぱちんと手を叩くと、澪の意識が戻ってくる。
 保健室にやってきて、けれど保険医がいなくて、じゃあ適当に手当てしようということになって。
 ジャージの裾をめくった途端、澪の黒目がどこかへ行った。
 この子、なんで保健委員になんてなっちゃったの。
 そんな気持ちでいっぱいになる。

「思った以上に擦りむけてたな」
「そうだな」
「結構血出てるし」
「そうだな」
「痛いわけだ」
「……」
 また白目になってるよ。
 とツッコミを入れるのもなんだかアホらしくなってきた。

「澪。澪しゃーん」
「あ、ご、ごめん」
「もういいからさ、澪はあっち向いてなよ」
「でも」
「そんな青ざめた顔してる澪見てる方が心配だよ」
 そう言って澪の座った椅子をくるりと回転させて、こちらに背を向けさせた。
 これで良し。


 あたしは澪の出してくれた救急箱から消毒液を取り出して、傷口に振りかけた。
 しゅわしゅわ。痛い。ものすごい染みて泣きそうだ。
「……っ」
「律!? 大丈夫、痛い?」
「へい……き……だぞ!」
 自分に言い聞かせるようにして脛を伝う消毒液を拭き取る。
 怪我なんて小学校卒業してから滅多にしてなかったけど、こんなに痛かったんだな。
 ……もう一回消毒液かけるの、怖いな。でもまだ傷口汚れてるし。

「……私、やる」
「え?」
 傷口とにらめっこしていた顔をあげると、いつの間にか澪がこちらを向いていた。
 相変わらず青い顔のままで、ピンセットを手にしている。
「消毒するぞ、律」
「澪しゃん、平気なの……?」
「へいき……だ……よ!」
「ちょっ、いててて、ピンセット、ささってる! ちゃんと傷口見て!」
 顔を背けたまま、えいや、と突き出されたピンセットが傷口をえぐった。
 ……ほんとに泣きそうなんだけど。

「澪、やっぱり……」
 自分でやるからいいよ、と言おうとして、あたしは口を閉じた。
 澪、今度はちゃんとあたしの傷口しっかり見て手当てしてくれてる。
 顔、青い。変な汗書いてる。目に涙浮かんでる。手、震えてる。
「澪、大丈夫か……? あんまり無理しなくても」
「痛いのは律の方だろ……だっ、だから、私が手当てしてあげるの」
「…………ありがと」

 澪は震える手で不器用に血を拭き取ると、大きめの絆創膏を傷口にぺたんと貼りつけた。
 最後の最後で気が緩んだのか、ちょっと位置がずれているけど、そんなのは別に気にしないよ。
 だって澪が手当てしてくれたんだから。
「澪のおかげで治った!」
「ばか」
「ほんとだよ! もう痛くない!」
「ほんと?」
「うん。あと澪が痛いの痛いのとんでけって言ってチューしてくれたら完璧」
「……」
 赤い顔で「ばか」ともう一度言われたけれど、澪の表情を見る限りはまんざらでもなさそうだ。

「言って欲しいなー」
「……一回だけだからな」
「うんうん!」
「……」
「早くぅ」
「わ、分かってる! いっ、いっ、痛いの痛いの、飛んで――」
 言いながら澪があたしの足を見て、言葉を止めた。
 はみ出した傷口からまた血が流れ出していた。
「……………………」
 ぱたん。
「おわっ」

 本日三度目の白目を公開した澪が、意識を失いあたしに向かって倒れてきた。
 肩にもたれかかってきた澪をなんとか抱き支えて、そのままあたしは笑う。
「……せっかくいいところだったのに」
 でもね、ドキドキさせてもらったからね。
 それに、澪、いっぱい頑張ってくれたからね。
 まあ、これで良しとしよう。
「ありがとね、澪」
 意識を失ったままの澪をぎゅっと抱きしめると、なんだか本当に怪我が治ったような気がした。
 ああ、でもさっきの続きは後でちゃんとしてもらおう。そこだけは譲れない。


おわり


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