邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ

遠き月を見つめて 前編

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jyakiganmatome

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15.遠き月を見つめて 前編



―――――もし、できたらでいい

     あなたが、オルドローズを助けてやってほしい



(また、この人…  誰なの……?)



――――わたしはあなた あなたと私は一緒。

    ……もう時間もないみたいね 手遅れにならないといいけど…


    あなた達に雷神の加護がありますように。



(待って… まだ何もわからないよ……)


待って、と暗闇の中に伸ばされた手は 何を掴むでもなく宙に浮いていた





「……ン、…ラン…!…フラーテル!」



「えぅ…?」

何度か呼ばれ、フラーテルは眼を覚ました



「ここ、は………?」

眼が覚めたばかり、ということもあるだろうが
窓から入ってくる強い日差しが強すぎて、こちらに声をかけている人の顔が見えない



「フラン、おきなよ」


いや、確かめるまでもなかった
声の主は「ソロン」。 自分の兄だ



「うーん………」

とはいえ、まだ意識がはっきりしない
時計を見ると、まだ午前9時だ

まぶたを擦りながら、フラーテルは起き上がった


「ここはJ3の第16研究所。昨日から泊まってたんだよ?」


兄の言葉によって思い出す
ついに配属先が決まったのだ。


それで、"眼"を得るために違う研究施設へと移されたのである


「ねぇ、お兄ちゃん」

「なぁに?フラン。」

「ボクたち、もうあそこには戻れないのかな…?」

「たぶん… でも、いいじゃんか あんな狭いところよりも、この広い部屋のほうが!
 ゆっくりと本も読めるし……」


「だって、ボク オルドローズに何も言ってないよ!」

「…っ!」

「お兄ちゃんだって…オルドローズが好きだって、言ってたよね…?」


「…僕だって、オルドローズに一言くらい言いたかったよ
 でも、組織の命令は絶対なんだ。

 移動は急だったけど、仕方ないんだ……」


二人は黙ってしまった
考えが食い違うことは何回かあったが、今回はいままでと違う

どちらかが妥協したところで、どうしようもなかった


「せめて、もう一度会いたいよ… オルドローズ……」




――――――――――――……




…魔女と氷仙の戦いから2日後の夜



雨が降りしきる中
一台の黒い車が夜の一本道を走る


中には運転手を含め、3人の男が乗っていた




「どうだ、ガンロン。 日本は慣れたか?」

長髪の男が口を開く

「えぇ、まぁ… 別にどうということはありませんよ」

ガンロンと呼ばれた若い白髪の男は適当に返す
それを聞いて運転手が前を見ながら話に入った


「もうじき到着します "体"の方はいかかでしょうか?
 早すぎるようでしたら、回り道をしていきますが…」

運転手の男は、アメリカ人でありながら上手く日本語を話す
ガンロンも中国人だが、日本語は得意だ

でなければ、長髪の男と一緒にいることはできないからという理由もある


「問題ない、もう少し急いでもいいくらいだ リチャード。
 俺の体になる奴とは早く会いたい」


ニヤリ、と笑って長髪の男は言った



「9人目も敗北したとの通知、来ましたからねぇ」

「そうだ 王の配下の奴がやられた以上、俺の行動は決まっている
 "魔女"は庭番にしておくには惜しい…」



不吉を乗せた車は、濡れた路面に水音をたてながら走り続けた


………
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