邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ

プレリュード 後編

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jyakiganmatome

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11.プレリュード 後編



燃えなければ熱さわからず

燃えてからでは遅すぎる


焼けた大地は全てを奪っていった―――――
はるか昔の幻想  魔女の生きていた刻(トキ)




―――――――――……





霧子は3日後の夜に会いましょう、と言ってあの場を去った。


魔女もすぐに部屋に戻ってしまい、フラーテルは仕方なく部屋に戻る



「あの人もオルドローズと戦って……」


死んじゃうのかな……

今までヒトの死なんてどうでもいいと 思っていたのに


一度話しただけの相手に、こんなことを思ってしまう自分になっていた。

今まで奪ってきた命は、無意識に消費され 意味のないモノとなっていたのに
初めて死の結果を、心の中で否定した



実験体ならば本来このような考えすら起こらない
でも、フラーテルは自分で考えた。



 きっと 不安定なんだ




そんな言葉で片付けてしまう
本当は違うのに、深くは考えない――




ガチャ



自分達の部屋のドアを開け、帰ってきた。
いつものように、ベッドの上に転がるソロンと―――――――



魔女。




「あ、お邪魔してるわよ」

本を広げて兄のベッドにいる魔女
ソロンは魔女に頭を撫でられながら「おかえり」と言う



「あ、え…? おるどろーず……?」

「少し話しがしたくなったの。 だから直接来させてもらったわ」

「それはいい、けど………」


何よりも驚いたのが、ソロンが魔女に懐いていること。
フラーテル以外には滅多に話すらしないのに、頭を撫でられて大人しく本を読んでいる。


でも気持ちはわからなくもなかった。
魔女の隣にいると、昔の友達と一緒にいるみたいで…


昔の友達……?


まだ7歳のフラーテルに昔の友達などというものは存在し得ない


いないはずの―――



「どうしたの? フラン」

「ううん、なんでもない」


とりあえず話しに来たと言っているのでフラーテルも自分のベッドに腰掛ける
ソロンや魔女と向かい合う形になる



「続きはー?」

先ほどまで魔女に本を読んでもらっていたソロンが続きをせかす

「ごめんなさいねソロン君、ちょっと妹さんとお話したかったから…
 続きは今度ね?」

「はーい……  すー……」


本を読んでもらえないとわかると、魔女の膝を枕にして寝てしまった。



「本当に… ここの子たちは可愛くて、素直で…
 戦う意思だけを無理やり植えつけられただけで、他はなんら人間と変わらないのに…」


私はちょっと違うみたいだけど、と魔女が零す


時計の音だけが鳴り、数分間の沈黙がある



「…フラン、まだ私が魔女に見える?」


「見える。」

沈黙の後に出た質問は、すぐに返された
それは絶対、と言うように


「……そう、そうね」

「私はあなた以外にも魔女と呼ばれているわ。
 魔法使いじゃなくて、魔女ってね」


寝ているソロンの頭を撫でながら話を続ける


「この外見から魔女と呼ぶ人もいる
 私が夜の月を好んでいることから呼ぶ人もいるわ。


 でも… 一番の理由はね


 人を殺すとき、普段では考えられないほど笑っているかららしいの。」

実験体に必ず存在する殺人衝動 魔女はそれを戦いのときに完全になくなるまで発散する。
この頃の実験体には"ブロックワード"などという便利なものなかったのだから



フラーテルは黙って聞いている
魔女が自分から、色々と話してくれること自体がフラーテルにとっては驚きだったから



「それを教えてくれたのは、マリアなの。

 私の一番の友達… 名前をくれた大切な友達…


 でも、おいていかれちゃった…」


「マリ、ア……」

以前魔女が話していたことを思い出す。
マリアという友人がいたという話だ


「どうして、どうして大切な友達だったのにいなくなっちゃったの…?」


置いてかれた、と聞いていなくなったとフラーテルは勝手に解釈したが
それは間違いでもなかった


「実験体にだって色々いるの

 あなた達や私のように羽を持たざる者


 マリアのように、魂として生きる持つ者…」


「魂と、して……?」


「ある日、大きな事故が此処で起きた…

 機材や化学薬品による火事あたりだったかしら


 私はその時、そこにいなかったから詳しくは知らないけど、マリアはそこにいた。」


「事故で体を失い、滅魂される前にどこかの実験体を器として魂を入れた


 それ以降、私も 誰もマリアを見ていない

 だから私は 彼女は本当はあの事件で、逆に自由になったんじゃないかなって

 翼を手に入れて、飛び立つことができたんだって 思ったの。

 置いていかれたっていうのは、嫉妬かしらね……」


苦笑いしながら魔女は話す。


「きっと置いていったわけじゃないと思う。

 名前をくれた大切な友達が、簡単にいなくなってしまったのは何か理由があると思うの。」

わかってる、と魔女が頷く
フラーテルもわかっていたはずだが、魔女の寂しげな表情を見て聞いてしまう


「お話をしたい、なんて言って一方的に喋っていてごめんなさいね」

「…ううん、もっと聞きたい」

魔女の言葉に、首を横に振って答えた

じゃあ、と言って話を続けた


「私は今、10人の能力者を倒そうとしている」

「8人はもう…」


「そう、殺した。  何の恨みもなかったけど
 約束をした以上はやるしかなかったわ」

「約束って…?」


それは答えられない、と言うように一旦魔女は間をおいた


「前に、天使さんになりたいって言ったの覚えてる?

 本当はね どんな結果になろうと後悔はしないって決めているの」


思わずフラーテルは"えっ…?"と声を出していた
それはなれなくてもいい、という意味だったからだ


「でも希望では、あるわ
 希望はずいぶんと嘘つきだけど

 希望というもの… それはね

 とにかく、わたしたち全てを楽しい小径を経て

 人生の終わりまで連れて行ってくれるものなの。」


「だから、私が今あるものをどうこうして変えることができなかったら、そういうものなのかなって。

 この美しい世界に、今以上のモノを求めるなって言われたら


 私はそこで、止まる。」







その日魔女が話したことは、全て魔女の心の中にある物だった





"私がいつか迎える結末は 何であれ後悔したくない。

たとえ死が、私にとって確実この上ないものであっても
生きる限り 希望を捨ててまでも 止まりたくない"
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