けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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投稿日:2010/07/27(火) 14:20:38

「りっちゃんってさ、弱み見せないよね」

それは何気ない唯の言葉が始まりだった。
部室に集まっていた律を除く全員が「ああ」と同意した。澪は小さな声で
「そうだな」と答える。遠い記憶を手繰り寄せてみても確かにあのに律が弱みを見せたことは殆ど無い。でもそんな律の弱みを知っているのが自分だけだと
いうことに気付いて澪は少しだけ嬉しくなった。

「律先輩、怖いもの知らずって感じですもんね」
「澪ちゃんみたいに怖い話とか痛い話も平気だよねー」
「りっちゃんの弱いものってなんなのかしら?」

そんな会話が続いた後。突然唯は立ち上がった。

「よし、今から『りっちゃん隊員弱点探し』を決行しますっ!」

はあ!?
澪が呆れて練習を放り出して今にも出て行きそうな唯を止めようと紬と梓に
目配せした。しかしその二人もまさかの裏切り。目をきらきらさせながら
「おーっ!」なんて手を振り上げてしまっている。

「澪ちゃんも気になるでしょ?一緒にやろう!」

気になるもなにも。
しかしもう既に人数に入れられていた澪は『りっちゃん隊員弱点探し』を
することになった。


「りーっちゃん!」
「うわ、なんだよ唯!」
「ほらほらー、虫だよー、蟻さんだよー、甲虫さんだよー」
「おぉ!でかしたぞ唯隊員!」
「……え」

「りっちゃんりっちゃん、今日はマシュマロ風ゴーヤ煮込み入りケーキを
持ってきたんだけど」
「……、美味いのか?」
「えぇ、絶品よ!それともりっちゃんゴーヤは嫌い?」
「……お、確かにこれはいけるなっ!」
「……、嘘」

「律先輩、この話知ってます?」
「あー、日本文学の傑作って言われてる奴だっけ?昔読んだことある」
「……本当ですか?」

*


「うおー、なぜだー!なぜりっちゃん隊員は何も怖がらない!」
「律先輩は日本の純文学とか苦手そうだと思ったんですけど……」
「りっちゃんって何でも食べるのねー、今度もっと面白そうなの作って
もらわないと」

既に一名、別方向にいきかけているが――『りっちゃん隊員弱点探し』は
失敗に終わった。

そりゃそうだよな、と机に頬杖を付きながら澪は真剣に考え込む三人を眺め
思った。

「なあ、そろそろ練習……」
「あー!」

と、澪の声を別の声が掻き消した。唯だった。

「どうしたんですか、唯先輩!」
「澪ちゃんだよ澪ちゃん!」
「え?何がです?」

「りっちゃんの弱点!」


「ったーく、さわちゃんの奴ー、居残り掃除とか押し付けやがって」
自分が悪いのを棚に上げ、ぶーぶー膨れながら鞄をぐるぐる回して部室へと
向かう律。階段をあと数段上ると部室に着くという時、音楽室から誰かが
転げるようにして出てきた。

「ゆ、唯?」
「あ、りっちゃんっ!」

心なしか、唯の顔色が悪い。何かあったのだろうか。
律は一気に階段を上りきると唯の身体を支えて訊ねた。

「唯、どうしたんだ?何かあったのか?」
「りっちゃん……!澪ちゃんが、澪ちゃんがね……!」

今度は律の顔色が変わった。心拍数が一気に上る。

「澪が、何?」

出来る限り落ち着いた声で、冷静に。
律は自分に言い聞かせる。

「澪ちゃんが……、倒れて病院に運ばれて……」

 嘘だ。

律は自分が倒れそうになるのを堪え、唯に尋ねた。

「どこ!?」
「え?」
「どこの病院だよ!?」

語尾がきつくなる。苛立ちやらなんやらでどうにかなってしまいそうだ。
何より、澪を失ってしまうんじゃないかという恐怖――

紬と梓も部室から出て来る。

「あ、あのねりっちゃん、私たちも今から……」
「どこ!」
「……え、えっと、○○病院……」

律は病院名を聞くとなりふり構わず走り出した。
ただ澪のことしか頭に無くって。


「……行っちゃった」
「……ですね」
「でも、○○病院って整形外科とか歯医者しかないのに……見事に騙された
わね……」

「よし、私たちも追いかけよう!」

*

転びそうになるのを何度も立て直す。少しでも早く澪のところへ行きたくて。
何度も何度も澪の名前を心の中で叫びながら。

○○病院ってどこだっけ。
あれ?そういえばあそこ……普通の病院じゃなかったような。

そんなことが頭の片隅に思い浮かぶけれどそれすら消し去り今は病院へ
行くことだけに集中する。
病院の前に着くと、律は荒い息を少し整える為に立ち止まった。目の端に
『整形――』とか『歯――』とかいう文字が見えた気がするけど気にしない。
律は大きく息を吸い込むと再び病院に駆け込んだ。

「すいません、澪の……秋山澪はどこですか!」
「は……?えっと、ちょっと待って下さいね……」

律の剣幕に驚いた看護師がぎょっとしながら言った。

「230番の……」
「ありがとございますっ」

とてつもなく長い時間と思われた澪の部屋探し。礼もそこそこに再び走り始める。
230番、230番ってどこだ?

病院内を駆け回る。

227……、228……、229……、あった!

部屋からきーんとか変な音が響いている。

「っ、澪!」

律は頭が真っ白になって部屋に飛び込んだ。
そこで見たものは――

「ふぇ?」

大口を開け歯の治療をしている最中の澪の姿だった。

*

「なっ……」

へなへなとその場に座り込む律。その後ろから軽音部の三人も顔を出す。

「もう、りっちゃん早いよう」
「ほんとですよ、もうへとへとです……」
「澪ちゃん、痛みおさまった?」

律はふらりと立ち上がると俯いたままもう一度全速力でもと来た道を
辿り始めた。

「あ、りっちゃん!」


後ろから近付いてくる足音。律の肩がびくりと震えた。
頭を抱え、絶対に顔を見せまいとする。

「りーつ?」
「……」
「なあ、律ー」
「なんだよバカ澪……」

やっと顔を上げた律はやっぱり真っ赤で、ちょっと涙目。
気のせいか、かたかた震えている。ああもう。

「来なかったら良かったのに」
「唯が澪が倒れたとか変なこと言うから……」

律はそう小さな声で言ってからさらに赤くなってまた俯いてしまった。

「かっこわりー、私……。澪が病院に運ばれたって聞いて頭真っ白になって、
……、澪がいなくなったらどうしようとか勝手に考えて……一人で取り乱して……」

そう言いながらまだ震えている律を澪は背中から抱き締めた。

「そうだね、でも律、私にはすごくかっこよく見えたよ。取り乱しちゃった律、
中々見れないし。でもね、律はさ、もっと皆に弱いとこ見せたら良いのに。
だから唯たちもあんなこと言って律の弱いとこ探ろうとしたんだよ」
「そんなことできるかよ……」
「……私はどんな律でも好きだけどな」
「っ、うるせー」

律が澪の回した手をぎゅっと握った。震えはおさまっていた。

「けど、暫くは律の弱み、黙っといてやるよ――私と律だけの秘密、な」

終わり



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