とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

2-6

最終更新:

index-ss

- view
だれでも歓迎! 編集
(二日目)10時39分
第二三学区。
航空、宇宙産業を専門とする学区であり、他にも軍事関係の施設、企業が立ち並び、学園都市の生徒に内部構造はあまり知られていない。
普段は企業関係者が多く行きかう航空ターミナルへの巨大ブリッジ。しかし今は、誰一人ともおらず、一部の風力発電のプロペラの音だけが鈍く響く不気味な静寂さが漂っていた。
その中心に白髪の少年はいた。
強く胸を抑えていた。体からは恐怖感から来る汗と、口元からは鮮血が滴り落ちている。
「はあ、はあ、ぐっ、がはッ!」
(無理しないで!ってミサカはミサカは命にかかわる危険性を訴えてみる!)
「バカ野郎。無理やり痛覚の電気信号を抑えてると、一気に受信してショック死しちまうンだよ。少しは流しとけ。温度まで感じなくなッちまうと後が怖ェからな」
(でもでも、さっきの『白い羽』のせいで体がボロボロなんだよ!左腕の二の腕は一四センチの裂傷。肋骨は五本骨折してるし、動脈だって傷ついてる!ってミサカはミサカは貴方の体の状況を報告してみる!)
「…ンな事は分かってんだ。体内の『ベクトル操作』は任せたぜ。激痛が走ると演算に支障をきたしちまう」
膝に手をつき、体を起こした。先ほどまでの痛みが引いていく。『打ち止め(ラストオーダー)』が痛覚の電気信号を『ベクトル操作』で抑えたのだ。白髪の少年は口に溜まった血を吐き捨てると、体の動作確認をした。
(…痛覚を止めたってことは『感覚』が無くなッてるってことだ。体を動かしてる『感覚』はあンだが、服を触ッてる『触感』が無え)
「ラストオーダー。あとどのくらいだ?」
(すでに全治二か月程度の負傷。これ以上怪我をすると緊急手術をしても危ないかも。特に胸部のダメージは注意して。さっきの怪我で、腎臓と肺を傷つけてるからってミサカはミサカは貴方が私の言うことを聞かないのを了解しつつも、冷静に貴方に警告してしてみたり)
「へッ、うッせ」
『一方通行(アクセラレータ)』は口元を歪ませた。その唇からまたもや血が流れているのに気付かないまま。
少年の背後から足音がした。
ゆっくりと、白髪の少年は振り返った。全身の『方向(ベクトル)』を「反射」に切り替える。『一方通行(アクセラレータ)』の赤い瞳は一人の少年をとらえた。
『上条当麻』という、人の皮を被った『怪物(ドラゴン)』を。
多くの人で混雑する幅一五メートルの階段も今は無人。その中心を下りてくる。悠然とした態度で歩調は乱れない。
服装は白いワイシャツに胸元からは赤いTシャツとピンクゴールドアクアマリンのネックレスが見え隠れしている。下は長点上機学園の制服のズボンに学校指定の皮靴を履いている。『竜王の顎(ドラゴンストライク)』の出現と同時に右腕の服が吹き飛んでいた。どこかでシャツを調達したのだろう。見るからに新品特有の純白さが残っている。
二人の距離は約五〇メートル。
その間に行き交うのは殺気に満ちた視線が交差する。
相手の機微を詳細に分析し、あらゆる思考を巡らせ、反撃の機会を窺う赤い瞳と、強烈な存在感と共に確固たる意志を感じさせる黒の瞳。両者とも不敵な笑みを浮かべていた。
「『ドラゴン』。一つだけ教えろ。なぜオマエは俺の意識だけをこの時代に跳ばしてきた?」
ピタリ、と『魔神』の足が止まった。黒い瞳が白髪の少年の視線を正面から捉えた。
「なに、貴様に興味があっただけだ。この『上条当麻』とは対照的で、よく似ている貴様にな」
「あ?俺がその能天気なテメェと似てるだと?反吐が出るぜ。つかオマエはそんな下らねェ理由で、こんなフザけたお遊びをしたってワケか」
一瞬、『一方通行(アクセラレータ)』の頭は怒りで沸騰しかけたが、無理矢理に感情を抑え込んだ。

敗北条件は『魔神』の機嫌を損ねること。

『一方通行(アクセラレータ)』はそれを理解していた。『魔神』は、『上条当麻』の能力である『触れた物体を消滅させる能力』に、学園都市外にある山を貫通する威力と射程距離を持った巨大レーザーを発射する『ドラゴン』としての能力もあり、底が知れない。能力の全貌を知ってしまえば、戦いを破棄するという選択権が最良である理解してしまう可能性も否めないのだが、核ミサイルすら傷一つつけられない学園最強の超能力を持ってしても、真っ向な勝負では『ドラゴン』には絶対に勝てない。幾度と無く、裏社会での殺し合いに身に置いていた彼の本能がそう告げていた。 ひとつだけ、策はあるのだが、まだそれを実行するべきでは無い。
さらに、と『一方通行(アクセラレータ)』は付け加える。交渉の余地がある事自体、希望が持てる。『ドラゴン』は人を下等な生物だと見下していることから、自分自身に対して、強烈な自尊心(プライド)がある。敵を嬲るという『三流の殺し方』からもその傲慢さが垣間見える。そのおかげで、『一方通行(アクセラレータ)』は2時間以上の戦いを持ってしても殺されていないのだ。国家間の争いでも同様である。人的、物質的被害を被る戦争よりも、長期にわたる会議による解決の方が互いの損失は最小限で済む。大きな問題であるほど、交渉による解決はその有益性は増すのだ。
けれど、これももはや時間の問題であった。
「いや、これは余の意図していたものではない。まさに『運命』ともいえよう」
「神のお導きってヤツか?生憎、俺はそんなもんはハナから信じねえ性格(たち)だ」
「『俺』も貴様も、強大すぎる力が故に、その力を開花させることを『世界』から拒まれた。『俺』は常に『不幸』な人生として。貴様は『超能力』という『殻』で本来の力を隠蔽しつづける人生としてな」
『魔神』の含みのある言動に、白髪の少年は眉をひそめた。
「…俺の本来の力だと?」
「本来の力、というより『人為的な偶然の産物』といったほうがいいだろう」
「テメェは俺の何を知っている?」

「余は『人』として生きていけない人間を知っているだけだ」

「強大な力を持つ者は、それだけで人の輪から外れてしまうものだ。異質による違和感と恐怖感によって、同種でありながら交わることを拒絶される」
「それでは『人』としては生きていけない。貴様なら理解できるはずだ。その『超能力』とやらで数奇な人生を辿ってきた貴様ならな」
『一方通行(アクセラレータ)』は答えられなかった。彼が『超能力者』でなければ学園都市の暗部とは全く無縁の世界で生きていただろう。普通の学校で、普通の友達と触れ合い、群衆に紛れて、日々の雑事に葛藤する人生を歩んでいた。人を殺すことも無く、自分の名前を忘れることも無く、人を拒絶することも無く、友達を作り、恋人を作り、日常に退屈を覚えるような光のあたる世界にいた。
「随分とペラペラと喋るじゃねエか。何だテメェは、そんなに一人ぼっちが寂しいか。あ?」
「ああ、寂しい」
「ふん、じゃあ、テメェを倒してまた一位に君臨してやるぜ。第二位ってのは中途半端で気持ち悪いんでなァ」
「なら頼む。余を倒してくれ。でないと、退屈で世界を滅ぼしてしまいそうだ」
「ハッ。笑えねェ冗談だなオイ」
「だが、これは『俺』の望むところでは無い。出来ることなら構わないがな」
その言葉に、白髪の少年は口元を邪悪に引きつらせた。

「アァ、じゃあお望み通り、殺してやるよ」

「!」
『魔神』は目を見開き、ハッと右手で自分の口を塞いだ。
「…貴様!」
「もう遅えンだよ!」
『一方通行(アクセラレータ)』は両手を『魔神』へ突き出し、白く細い両手の拳を強く握りしめた。
その瞬間、周囲の風が逆流する。『魔神』は膝をついた。首を右手で抑え、左腕で口元を拭った。
「ハッハ!俺が何でテメェにケツを振りながら逃げ回ったと思ってンだ!?より多くの大気に触れるためだ。それに俺の背後にあるプロペラだけが回ってンのもおかしいとは思わなかったか?追い風ができるように細工してたンだよ。テメェに届く空気を操作できるようになァ!」
その問いに、『魔神』は答えられなかった。咳と共に、唾液や胃液が吐き出される。
「テメェは幾ら強かろうが所詮はホモサピエンスっつう動物だ。呼吸できなければ死ンじまう。ならテメェを取り巻く大気を掌握して、低酸素濃度の空間を作っちまえばいい」
白髪の少年は、さらに口元を引きつらせ、『魔神』に向かって中指を突き立てた。
「あとよォ」
と、『一方通行(アクセラレータ)』は言葉を紡いだ。

「テメェの肺にある空気も、俺の支配下にある」

もう一方の手の親指を突き立て、その指を地面に向けた。
「…げぼっ!っつ、ガハッ!」
嘔吐を繰り返し、『魔神』は、強く胸を抑え、両膝をついた。
先ほどまでの余裕がまるで嘘のように地面に這い蹲っている。両腕は小刻みに震え、頭は項垂れたまま動かない。人間が七パーセント以下の低酸素濃度の空気を吸い込むと、脳内に急激な酸欠状態を招き、意識が朦朧となってしまう。そして、日差しが照りつける太陽の下、『魔神』は大きな闇に覆われた。

頭上には、三〇トンを超す大型旅客機が落下していた。

ここは多くの交通機関から国際ターミナルへと繋がる合流地点であり、他の通路と比べても数倍の面積を持つブリッジである。
あまりにも場違いな無人旅客機。エンジンが稼働していない飛行機は、数分前から『一方通行(アクセラレータ)』の『ベクトル操作』によって動かされていた。
迫りくる鋼鉄の鳥。圧倒的質量のある物体に押し潰されれば、タンパク質の塊である人の肉体など原型すら留められない。
『魔神』は旅客機を『消滅』させる。
白髪の少年はそれを読んで、他の旅客機から一〇〇〇キロの重油タンクを2つ、予め抜き取っておいた。それをブリッジの両側にある街路樹をカモフラージュにして配置していた。
『一方通行(アクセラレータ)』の真の狙いは、旅客機による物理的な死では無く、爆破と素粒子の『ベクトル操作』での酸素欠如による窒息死。『魔神』は瞬時に移動できる術を持っていない。幾ら強大な能力を持っているとしても、生身の肉体を持った人間なのである。酸素無くして生物は生きられない。そこに勝機を見出したのだ。
落下速度から旅客機が『魔神』と衝突するのはもう1秒足らず。
そんな絶望的な下、『魔神』はゆっくりと立ち上がった。
『魔神』は襲いかかる巨大な闇を見上げ、言の葉を告げる。


「風よ。余に従え」


突如として、人為的な大気の動きが止まり、ピタリと鋼鉄の鳥が空中で静止した。
「ッ!!」
想定外の事態に戸惑う暇は無い。瞬時に両サイドに配置された重油タンクを動かそうとして、
それらが全く動かなかった。
それどころではない。全身が動かせない。
『一方通行(アクセラレータ)』の思考は凍り付いた。
このブリッジを落とし、距離を取って再機を謀ることも出来無い。
『魔神』は俯いたまま、その場に立ち尽くしている。
「少々貴様を侮っていた。…ふむ、右の肺がやられたようだな」
『ベクトル』を使って距離を取ろうにも、指一つ動かせない。白髪の少年の背筋に言い知れぬ怖気が走る。まるで死神に心臓を握られているかのような錯覚にとらわれていた。息することさえ許されないように。
『魔神』は顔を上げ、白髪の少年と視線が交差する。
そこにあったのは満面の笑み。上条当麻を知っている者であれば、見たことも無いほどの邪悪に口を歪ませた笑顔。その笑みが崩れぬまま口元の血を袖で拭い、言葉を紡いだ。

「余の命令だ。本気を出せ。『魔王』」

トン、とコンクリートの床に足を踏んだ。
『魔神』がしたのはただそれだけだ。
なのに、
グチャリ、と『一方通行(アクセラレータ)』は地面に崩れ落ちた。
同時に体中から鮮血の飛沫が舞う。
無人のブリッジの上で、学園都市第二位の『魔王』が慟哭した。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
何が起きた?『一方通行(アクセレレータ)』に激痛が走った。一瞬にして全身の筋肉が萎縮し、力を失った体は、糸の切れた操り人形のように床に叩き付けられた。
血液が沸騰したように体が焼き尽くされた錯覚が脳を襲う。
ヒトとしての理性も感情も一瞬にして吹き飛び、残るのは人間の本能が剥き出しになった動物としての姿。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

「ぐッ!ば、はァ!…ひ、ひゅ、ヒュー、ぐェあ、オエェッええ!」
地面に消化物が混ざった胃液を吐き出した。肺に残る酸素は全て吐き出され、呼吸すらままならない。
地面でもがく白髪の少年を、笑顔で見据えながら『魔神』は告げる。
「余を起点に『上条当麻』の力を直径1キロ展開しただけだ」
理屈は簡単だ。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』によって、体内を操作していたベクトルが打ち消されたのだ。傷口から血が溢れ出し、制服で隠れていないYシャツは真っ赤に染まる。制御していた電気信号は正常に戻り、痛覚の電気信号が一気に直接脳へと流れ込んだ。
そんな『魔神』の告白も、白髪の少年の耳には入らなかった。
「さて、と」
モゾモゾと床を蠢く『一方通行(アクセラレータ)』を横目に、『魔神』は右手を振り上げる。


頭上に静止してい三〇トン強の旅客機は、周囲の大気ごと『消滅』した。


ゴオォ!!と、一瞬遅れて轟音と共に爆風が巻き起こる。
『魔神』を中心とした竜巻のように舞い上がる螺旋の爆風。
白髪の少年の華奢な体は、風に揺られるビニール袋のようにゴロゴロと転がり続け、ブリッジの端にある街路樹の花壇に激突した。ペンキで無造作に塗られたように、床に鮮血のアーチを描く。
コツ、コツ、と、足音をコンクリートの床を響かせるように、ゆっくりとした歩調で『魔神』は白髪の少年の元に近づいていた。
距離は僅か、五メートル。
無様に床を這いずる『一方通行(アクセラレータ)』を見下ろしながら、『魔神』は言葉を紡ぐ。


「どうだ?無能力者というのは。非力なものだろう?」


非力。
その言葉に、『一方通行(アクセラレータ)』の心は深い『闇』に染め上げられた。
意識が朦朧としながらも、血で塗れた鋭い眼光で黒髪の少年の姿を捉える。
この命に代えてでも、『ドラゴン』を粉砕することをここに誓う。
右脳と左脳が割れ、その隙間から、何か鋭く尖ったものが頭蓋骨の内側へ突き出してくる錯覚。脳に割り込んでくる何かは、あっという間に白髪の少年の全てを呑み込んでいく。果物を潰すような音と共に、両目から涙のようなものが溢れた。それは涙ではなかった。赤黒くて薄汚くて不快感をもよおす、鉄臭い液体。頬を流れる液体は、白髪の少年にとって不快なものでしかない。
カチリ、と。
頭の中で、何かが切り替わった。
少年の自我が深い闇に塗り潰され、擦り切れる音が気こえた。ドロドロに染まる真っ黒な感情。
「ォ」
叫びとも呪文とも聞こえる白髪の少年の咆哮。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオォ!!」
白髪の少年の背中から噴射する黒の翼。その規模は爆発的に展開し、一瞬にして数十メートル上空へと伸びていく。
『魔神』はそれを見て、邪悪な笑みをより一層、顔に刻んでいく。


「余に示せ。貴様の――――――――――――『竜王の翼(ドラゴンウイング)』をな」


晴天の空を塗り潰す黒の翼。
赤く染まった眼球が捉えるのは、不適に笑う得体の知れない少年。
ドス黒い一対の翼は、ブリッジにある街路樹やコンクリートでできた床、巨大エスカレータ、ガラスの破片、一〇〇〇キロの重油タンクなどの周囲の物体全てを巻き込んで、
『魔神』を呑み込んだ。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー