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『とある喫茶店の一日 〜Mad_Tea_Party〜』

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匿名ユーザー

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 とある喫茶店の一日 ?Mad_Tea_Party?


 君はこんな噂を耳にしたことはないかな?
 その喫茶店には、普通にはありえない出会いが待っている。
 現在過去未来の全てにおいて接点のないはずの人とも、“偶然”巡り会えてしまう不思議なカフェ。
 アーネンエルベ。
 もしも街を歩いている時、そんな名前の看板を見かけたなら。急ぎの用事がないなら、足を踏み入れてみるといい。
 とても貴重な経験が出来るはずだ。
 まあ身の安全の保証は出来かねるが……いやいや、何事も自己責任ということだよ。
 店自体の質もとてもいい。マスターオリジナルのブレンドコーヒーに、軽めのツナのサンドウィッチ。あとはモンブランでもあれば言うことなしだ。
 そうそう、座るならテーブル席を選ぶべきだ。向かいに座る人がいたなら、その人はきっと、君が絶対に出会えない相手だろうからね。


 キィッ、と擦れる音を立てて木製の扉が開く。カランコロンという鈴の音が、少し遅れて続いた。
 視界に入ってきたのは、電灯を極力排した薄暗いカフェテリア。まあ雰囲気づくりは悪くない。さびれていると言い換えることも出来そうだが、どうせ“この街”では平日の昼間に繁盛している店はないから気にすることもないだろう。
 案の定、並べられたテーブルはどれも空席だった。たった一つ、奥まった場所に置かれたテーブルに赤っぽい制服の少女と白っぽい修道服の少女が陣取っている。白昼堂々サボリとはたいした度胸だ。修道服ということは、第十二学区の学生かもしれない。わざわざこんな所まで足を運んだのは、教員の見回りを回避するためだろうか。
 (…………ン?)
 不意に、自分の思考に疑問が浮かぶ。
 “こんな所”って、一体どこだ?
 この店に入る前に、街のどのあたりを歩いていたのか思い出せない。
 しかし、疑問が違和感に変わる前に、カウンターから声がかかった。
 「――いらっしゃいませ。お一人ですか?」
 男にも女にも、大人にも子供にも、聖人にも囚人にも見える人物。ついでに言えば店長とも店員ともとれる態度だった。長すぎる髪を大きな三つ編みに束ね、花柄のエプロンをつけてコーヒーカップを持ち上げている姿に、彼はなぜだか対軍兵器級のツッコミを入れたくなったが、ギリギリで自制する。
 「……あァ」
 「テーブル席とカウンター席がございますが、どちらに?」
 「テーブル」
 「かしこまりました。左手奥のCテーブルをお使いください。注文がお決まりになりましたら、卓上のベルを鳴らすか、カウンターに直接声をかけてくだされば承ります」
 手振りで了解したことを伝えると、彼は支持されたCテーブルとやらに向かう。静電気で髪の毛を持ち上げられているような奇妙な感覚があったが、不思議と店を出ようという気にはならなかった。
 ――その喫茶店には、普通にはありえない出会いが待っている。
 いつ聞いたのかも思い出せない、うさんくさい噂話を真に受けた訳でもないのだが。


 こうして学園都市最強の超能力者、一方通行(アクセラレータ)は、今日という取り戻せない日をアーネンエルベで過ごすことになった。
 時刻は午後一時。少し遅めのランチタイム。


                    ◇   ◇


 一方通行が座ったテーブルの二つ隣り、Aテーブルには、赤と白の対照的な少女達が座っている。
 クリームソーダのアイスに刺さってしまったストローと格闘している修道服の少女がインデックス。注文した紅茶に自前のブランデーをボタボタ足らしている冬用制服の少女がサーシャ=クロイツェフ。
 彼女達は、一方通行が想像したように学校をサボってこの店に来ていた訳ではなかった。二人はもともと学園都市のどの学校にも所属していない、いわゆるモグリの住人なのである。
 しかし、それも実は今日までの話。
 「明日から、かぁ。いいなぁサーシャは。ロシア成教公認で転入出来るなんてー」
 「そうは言うけど、あくまで諜報活動の一環としてであるし。むしろ周りの人たちを騙しているようで気が引けるというか」
 インデックスのぼやきに、サーシャが控えめに答える。
 ここ最近の彼女たちの話題は、「サーシャの学園都市への転入」に集中していた。
 一端覧祭と『灰姫症候(シンデレラシンドローム)』の事件が無事終わり、さあ別れを惜しもうとした所へやって来た国際郵便。開けてみれば近所の中学校への転入手続き書類とサーシャに当分の間学園都市への駐留を命じる指令書だったのだから驚いた。
 えらいこっちゃえらいこっちゃと騒ぎながらも準備しているうちに、いよいよ明日が初登校の日。
 今は学生向けのデパートで注文しておいた冬服教科書その他の必要雑貨をまとめて引き取ってきた帰りなのである。テーブルの下にはパンパンに膨れた紙袋がいくつも置かれていた。大分冷え込んできたこともあって、冬服だけは受け取ってすぐに着替えたが。
 ちなみに、サーシャは転入先である夕凪中学校の女子学生寮に既に部屋を与えられていたが、そちらではほとんど寝泊りしていない。これまで通りとある少年の部屋に押しかけ居候のような形で暮らしている。
 「でも、さあ」
 インデックスの愚痴は止まらない。ここ数日ずっとだ。
 上条さん家の白シスターは、決して赤シスターを妬んでいる訳でも、ましてや恨んでる訳ではない。それだけは絶対だ。
 けれども、
 『サーシャが学校に行くようになると、また私は昼間一人ぼっちになっちゃうもん』
 口に出した訳ではないが、サーシャは友人のそんな隠された本音を察してしまっていた。
 自分が属している魔術サイドとは敵対していると言って差し支えない科学サイドの街で、朝から放課後までという長い時間をたった一人で過ごす寂しさはどれだけのものだろう。サーシャはようやく出会えた、さの寂しさを分かち合える友達なのだ。
 その彼女までが、学校に通うようになれば。
 (……問一。どうすればいいのでしょう?)
 落ち込み続ける友にかける言葉も浮かばず、天にまします我らの父とかに祈ってみる赤シスター。だがそう簡単にありがたいお告げを下さるほどこの作品(せかい)の神様は親切じゃない。
 その代わりと言ってはなんだが、感覚的には右斜め後方から幻聴じみてか細い女の子の声が聞こえてきた。
 (えっと。……とりあえず、何でもいいから褒めて、褒めて、褒めまくってみるのはどうですか……?)
 なるほど。ありがとう私の天使(スタンド)。
 (え、そんな、私オラオラとかアリアリとかだが断るとか出来な――あれ、もしかして今後私ってそういう扱いなんですか?)
 それこそ神のみぞ知る、だ。
 サーシャ=クロイツェフは意を決し、怒涛の褒め殺し作戦を敢行する。
 「そう、だ。インデックス、注文した時と今日と、デパートまでの道案内をしてくれてありがとう。やはりこの辺りの地理には、まだ慣れていないから」
 「大した事じゃないよ。私が案内できたのは、昼間暇な時にぶらぶらするコースだったからだもん。――うん、昼間、暇だから」
 一層暗くなる声に、サーシャは第一撃が裏目に出てしまった事を悟る。
 「うう……ん、荷物も、半分持ってくれて、感謝している。これはとても一人で持てる量ではない」
 「……でもさりげなく教科書とかの重い袋を自分で持って、服とか靴なんかの軽い方を私に回してるよね」
 続く第二撃が(両者の)ボディをえぐるように打つ。
 「ああああああ。そ、そのクリームソーダ、おいしい?」
 「うん。サーシャのおごりだけどね。とうまは私にお金持たせてくれないから」
 第三撃が急所に当たった! 効果は抜群だ!
 「…………大丈夫?」
 「うん。うん。大丈夫だから……今は貴女のために祈らせてください……」
 挙句の果てに慰められてしまう。十行足らずで精神的にフルボッコされたサーシャの明日はどっちだ。学校か。



 その頃、彼女達の二つ隣のテーブルで白く、白く、白い超能力者が四肢を震わせてツッコミ衝動に耐えていたことを知る者はいない。
 誰にだって出会いを選ぶ権利はある。

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