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とある少女の騒動日記

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匿名ユーザー

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とある少女の騒動日記



1.

「ふあーっ、あーあ」
 お昼休みも半ばに差し掛かった頃、昼飯用の焼きそばパンを食べ終えた上条当麻は大きな欠伸をした。
 教室ではクラスメイトがグループで集まって談笑していたり、外を見れば運動部が部活に励んでいたりもする。教室にいる上条当麻は前者であり、前と右隣の席には青髪ピアスと土御門元春が上条に椅子を向けていた。三人のお決まりのトークタイムである。
「どうしたんやカミやん。午前中寝といてまだ寝足りんの?」
「……にゃー。昨日は深夜までうるさかったからなあ、カミやん」
 金髪グラサンの土御門が意味ありげな含み笑いをしていた。
「だぁー、うっせ。昨日、布団に水をこぼしちまって、あんまり寝てないんだよ」
 夜は床で寝ているとインデックスがベッドから転がり落ち、不意打ちのボディプレス。その上、体の色んなトコロが密着していまい、朝起きたら噛みつきのオンパレード。銀髪碧眼少女に朝ご飯を十二分に与えていなければ、自分まで朝食にされそうな勢いだった。
「そりゃあ災難だったなあ、カミやん。まあ、日頃の行いの罰として、それくらいは受け取ってもらわんとなあ」
「日頃の行いの罰って何だよ? 青髪」
「なははー☆」
 青髪ピアスは、両手を挙げて腰をクネクネと軟体動物のように揺らしたかと思いきや、
 グバァ! と金髪グラサンと共に身を乗り出してきた。
 頬づえをついていた上条はその迫力に押され、思わず後ずさった。
「な、何だよ?」
 不気味な笑顔を浮かべたまま接近してくる青髪男と金髪男。ツンツンとした黒髪男は言い知れぬ恐怖を感じる。
「カミやーん、先週の日曜日、ショッピングモールで手つないでた常盤台の女の子は誰なんや~? 夏休み最終日の子とまた違ってやんかー?」
「そうだぜー、カミやん。カミやんの軽率な行動は彼女いない歴=年齢の同胞(オレ)たちを裏切ることになるんだぜい?」
「なっ! あれはっ……」
「ツインテールの可愛いらしい子やったなあ。あーあ、カミやんはあと何本フラグを立てたら気が済むんや」
 眉間にシワが寄った笑顔の青髪ピアスはポキポキと腕を鳴らしている。
「あ、あれは『風紀委員(ジャッジメント)』の人で、別に強制フラグイベントみたいなドッキリドキドキなモノでは全然無いですヨ!?」
「それもフラグの一つですたい。カミやんはそうやって幾つものフラグを立てては女の子を傷つけているんだぜい?」
「おい、土御門。お前何言って……」

「それは。私も賛同」

 不意に後ろから声が聞こえた。
「おわぁっ!! 姫神!? いつの間に!?」
「ついさっき。何やら。面白そうだったから。何となく来た」
「……ここにも上条フラグが」
 呪いの言葉を吐くように呟いた青髪ピアスを見た土御門は、ポケットから『何か』を取り出し、青髪ピアスに手渡した。
 スコーピオンの柄が入った装飾品。銀色に輝く爪のような形をしており、鎧の一部のような印象を受ける。
「……あのー、土御門サン? その禍々しいブッタイは一体何ですう?」
「それ。通販で。見たことある」
「気が利くやないか土っちー。何や、知らんのかカミやん? これは『でこピン』用の装備品や。酒瓶も一発で粉々になるスグレモノなんやで♪」
 右手の人差し指に装着すると、青髪はカシャカシャと音を立てて、でこピンをする素振りを見せていた。上条に笑顔を向けたままで。
「って、おいいいィ!! 何なんだこの空気は!? カミジョーさんが何となく『でこピン』を喰らってしまうという強制イベント突入ですか!?」
 金髪グラサンは逃げ出そうとする上条の肩をつかんだ。振り返ればキラリと輝くサングラスに金のネックレス。親指を突き立てた左手。
 笑顔が語っていた。
 逃げられないぜい☆、と。
「そ、そんな! いくらフラグが立とうがそれから何も進展しない駄フラグオンリーばかりの不幸少年カミジョーさんですよ? ただ女の子と手を繋いでたからってテテテッイデェ!?」
 上条にものの見事に土御門のヘッドロックが決まった。
「『ただ』女の子と手を繋いでたって言ってる時点で十分ムカつくんダヨ。その言葉もっぺん言ってみ? ん?」
「あががががががっ! ひ、姫神、ヘルプミー!」

 だが、神様は残酷だ。

 ぽん、と肩を叩かれる。
「君は。一度。制裁を受けるべき」
 唯一の救世主から、死刑宣告が下った。



2.

 突然、教室が静かになった。
 周囲の異変に気づいた姫神と青髪ピアスは廊下に視線を向けた。
「え?」
 二人は目を丸くした。
 それを見た土御門も視線を向けた。
 腕の力が緩んだ隙に、土御門のヘッドロックから抜けられた上条は折り曲がった学ランを戻しながら、息を正していた。
「っ、ぷはーっ。土御門、本気でやるなよ! って、ん?」
 クラスメイトの視線が集まる方向へ上条は目を向けた。
 上条はギョッとした。
 高校の教室には相応しくない人物がいた。

 そこには4,5歳程度の少女が立っていた。

「うー、ここドコー?」
 不安な顔で呟く少女。背丈は1メートルもない。
 黒い瞳に黒髪のショートヘアー。白いワンピースを着ていた。
 少女はキョロキョロと辺りを見回す。誰かを探しているようだった。
 クラスメイトの人たちが対応に困る中、一人の少女が近寄った。
 姫神秋沙である。
「君は。どこから来たの? ママは?」
 膝を折り、優しく話しかけた。
 突然、話しかけられたことで少女は動揺した。
「……ふ、ふえっ」
「大丈夫。落ち着いて。何も。しないから」
 姫神はそっと少女の頭を撫でた。
「……ほんと?」
「うん。本当」
 その光景を見ていたクラスの三バカ(デルタフォース)は、姫神の評価をググッと上げている。
「優しいなぁ、秋沙ちゃん。なかなかレベル高いでぇ、彼女」
「……すっげえイイにゃー。あの少女」
「……土御門、犯罪の匂いがするぞ。お前」
「でも誰なんや。あの子。……まさか、カミやんフラグじゃないやろうな」
 上条はその少女の顔を見た。
「ンなワケ無えだろ。俺も知らないよ」
 見覚えは無い。先生の子どもか何かだろうと考え、『でこピン』強制イベントをどう切り抜けるか思案していたところ、
 ふと少女と目が合った。
 今度は少女が目を丸くしていた。
 何故だろう。上条は嫌な予感がした。
「あっ。ちょっと」
 姫神を通り越し、少女は走り出した。
「あれ? あの子、こっちに来とるぞ。土っちー、知り合いか?」
「いんや、知ら……」

「パパー!」

 少女はそう言って笑顔で上条当麻に抱きついた。

「……………………………………………………………………………………………え?」

 絶句する上条。凍りつく姫神と青髪ピアスと土御門。時が止まる教室。
「……うみゅう? どうしたの、パパ?」
 無垢な少女は上条を見上げながら呟いた。



3.

「皆さーん、ここに幼稚園生くらいの女の……ってエエッー!! 上条ちゃーん! 一体どうしたのですかー!?」
「小萌センセー!! 止めんどいてください! 男には死んででもヤらなあかん時があるんです! かっ、カミやんは俺たちを裏切ったんや! 男たちの友情を弄んどったんや! 仲間のフリをして、一人で笑ってたんやー!」
 昼休みが終わる五分前。教室の男子全員は一人のクラスメイトを囲んでいた。
 名を上条当麻という。
 右手に『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を宿す不幸な少年。
 学園都市第三位の電撃から神の御加護まで打ち消せる力を持つ彼はこれまでに数々の人知れぬ功績を生み出してきた。
 一〇万三〇〇〇冊の魔道書を保有する少女の運命を、
 無意識に吸血鬼の命を奪ってしまう少女の運命を、
 実験で産み落とされ、殺されていくだけの少女たちの運命を、
 右手一つで、絶体絶命の運命から救い出してきたのである。

 だが、そんな彼の右手も現実では何の意味もなさない。

 上条に抱きついた少女は、姫神と数人の女子生徒と一緒に教室の外に行ってしまい、残された男子生徒は一言も言葉を介さず、自分がなすべきことを理解した。そして行動に出た。
 男たちの扉が今、開かれたのだった。
 クラスメイトに囲まれた上条当麻はボロ雑巾のようにフルボッコにされ、漢泣きする青髪ピアスの鉄拳を喰らい、彼の意識は向こうの彼方へと飛んでいった。
 そんな光景を、担任、月詠小萌は見たのである。



「どうしたのー、パパァ? 元気無いよ?」
 真っ黒で、純粋そのものの瞳で上条を覗き込む少女。真っ黒な髪で、真っ白く燃え尽きたようにうなだれる上条。
 ここは職員室の近くにある会議室。パソコン一台に、本棚にはクラブ活動に関する日誌。長方形の白いテーブルに、教室にあるイスとは2ランク高いオフィス用の椅子に三人が腰かけていた。
 午後の授業は上条のクラスだったのだが、月詠小萌は「自習」と黒板に大きく書いて、現在は会議室で上条の対面に真剣な面持ちで座っていた。
「で、この子は上条ちゃんの一体何です?」
「俺にもサッパリで……」
 視線も合わせず、下を俯く上条当麻。呼吸をするたびに体中に激痛が走った。クラスメイトの人たちはマジで殺る気だったらしい。
 そして、上条の左腕を力強く抱きしめる少女は頬を膨らませた。またもや激痛が走る。
「もうっ! 何言ってるのー? パパはパパだよぉ!」
「………パ、パ?」
「そうだよ! 私のパパなのっ! ねー?パパ!」
 上条は小萌先生を見た。体が小刻みに震えて何だか目が潤んでいるようにも見える。
「か、上条ちゃん?」
「いっ、いや、本当に知りませんよ……」
「えー!? パパ、大丈夫!? 私のこと覚えてないの? 昨日もママと一緒にお風呂に入って洗いっこしたじゃん!」
 空気が死んだ。上条は再び小萌先生を見た。
「か、か、上条ちゃん?」
 わたくしめにも全く身に覚えがないものでして、と言おうとして、上条当麻は口を噤んだ。

 上条当麻は記憶喪失だ。

 彼は七月二八日以前の記憶がない。
 自分は無実だと信じたいだが、記憶がないために『上条当麻』は身の潔白を証明できないのだ。その上、今までの事件を振り返ると過ちが起きてもおかしくない事態に幾度となく遭遇したことがある。記憶が無くなる以前にも、同じような状況が起きていたなら、何らかの拍子で若気の至りを冒してしまったのかもしれない。そう考えると上条はますます塞ぎこんでしまった。
 少女の顔を見る。
 キラキラと輝く大きな黒い瞳に肩にかかるほどの黒い髪。白いワンピース一枚に赤い皮靴。日にあまり浴びていないような透き通った肌。成長すれば結構な美人になりそうだ。
 ん?
 その顔をじっと見ていると、上条は誰かに似ているような気がした。顔の輪郭と目つきが知り合いの誰かに似ている。
 そんなことを考えていると、
「ほ、ほほ、本当に、上条ちゃんの……娘なのですか? あ、相手の方は一体誰なんですかー!? し、しかもママと一緒にお風呂に入ったなんて、き、昨日も、なんて、じゃあ、いっつも上条ちゃんは、ふぅ~」
 顔を真っ赤にした小萌先生はその場で気絶してしまった。刺激が強すぎる妄想は彼女の精神をパンクさせてしまった。
 上条はもう一度、少女を見た。
「……あのさ」
「ん? なぁに? パパ」
「もう一度確認するけど、俺の、娘、なんだよな?」
「うんっ! 私はとうまパパの娘だよっ!」
 とびきりの笑顔で返事をする娘。幼い子の笑顔は、なんて可愛らしいのだろう。
「……そうか、そっか」
「もーう、パパったらー、何か今日はおかしいよ? 風邪でもひいたのー?」
 上条当麻は『以前の自分』に一言、言ってやりたかった。

 アンタ、スゲェよ、と。



4.

 午後の授業を抜け出した上条は、第七学区にある大きな公園に来ていた。
 上条はベンチにぐったりと腰かけ、青空を見上げていた。
 隣には美味しそうにアイスを食べる白帽子の少女。初め、垂れたアイスクリームが白いワンピースを汚さないか冷や冷やしていたが、食べ方を見る限り大丈夫そうである。上条の思考は止まっていた。先ほど買った抹茶アイスが七〇〇円だったことがショックなのではない。
「ねえ、パパも食べる?」
 自分をパパと呼ぶ、『上条ミカ』と名乗る少女が原因だった。



 クリクリとした大きな黒い瞳に黒髪のショートヘアーの可愛らしい少女。つばの長い白い帽子に純白のワンピース、着色されたリンゴのように赤い皮靴を履いている。
 もちろん今の上条の記憶には無い。乙姫のように「お兄ちゃん」と呼ぶ親戚はいたが、流石に「パパ」と呼ぶ知り合いはいなかった。
 というか普通はいないと思う。かつての上条当麻は一体何をしていたコーコーセーなのか、恐怖すら感じていた。
「な、なあ、ミカちゃん」
 アイスを舐めながら、少女はこちらを振り向いた。
「もへ? なあに? パパ」
「……ママは、何処にいるんだ?」
 そういうとにんまりと笑った少女は、ミカと名乗る少女は言った。
「あともうちょっとで来ると思うよ?」
 太陽のように輝く笑顔。日差しが照らす少女の笑顔はとても可愛かった。上条は思わず見惚れてしまう。口の周りに付いた抹茶色のクリームをハンカチで拭きとった。インデックスの対応とはうって変わり、優しくその頬を触る。ハンカチごしに伝わる柔らかさは心地良かった。
「えへへ、ありがとう。パパ」
 上条は無意識に頭を撫でていた。そんな自身の行動も驚きつつも、上条はそれを受け入れていた。これが子を持つ父親の愛情というやつな――――――――――――――

「上条さん?」

 唐突にそんな言葉を投げかけられた。
 慌てて正面を見ると、そこには二重まぶたが印象的なショートヘアーの女の子がいた。
「い、五和? 何故ここに?」
 縞模様のタートルネックネットにベージュ色のジャケット、紺色のデニム素材のジーンズ。豹柄のベレー帽を被った五和がそこにいた。頬を若干染めつつ、慌てた素振りで上条を見ていた。
「お久しぶりです。あ、あの今日はですね、あ、ええっとぉ……」
「あ、五和お姉ちゃん!」
 と、少女はアイスをベンチに置くと、五和の足にしがみ付いた。いきなりの行動に二人は驚く。
「おいっ、ミカちゃん。五和を知ってるのか?」
「うん! ママの友達だもん!」
「えっ、あ、えと、ママ?」
「………何だ、天草式の仲間の子だったのか。その子」
「え、ええっ!? そうなんですか? 私、知りませんよ?」
「は? でも、ミカちゃんは五和を知ってるみたいだぞ?」
「……この子、『ミカちゃん』っていうんですか?」
 訝しげに五和は少女を見て、腰をかがめた。頭を撫でながら、笑顔で五和は少女に問いかける。
「ねえ、ミカちゃん。パパとママのお名前は分かる?」
 至極当然な質問。しかし、少女は奇妙な顔つきで大きく首をかしげていた。白い帽子が風に揺れる。
「何言ってるの? ママはママしかいないじゃん」
「ごめん。ミカちゃん。お姉ちゃんド忘れしちゃった」
 少女の目の前で手を合わせて片目を瞑る五和。こういうやり方もあるのか、と上条は五和の臨機応変さに感心していた。上条も幾度となく母親の名前を聞いたのだが、上手くはぐらかされていた。幼稚園程度の少女に話しをはぐらかされる上条の話術も問題はあるが、もしも本当に彼女が上条の娘だったならば、母親の名前すら知らないというは不自然なので、それ以上追及できなかったということも事実である。
「ママの名前は―――――――――」
 その時、少女の声を遮るように五和の背後から、聞き覚えのある女の声が聞こえた。思わずその声に五和と上条は振り返る。そこには――――――――――
「―――――――――捜しましたよ。上条当麻」
「あ、神ざ……」


「あ、ママ!」


 この瞬間、世界が止まった。






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