とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

3rd-1

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 自分が周りとは違うと理解したのはたしか幼い頃引っ越してすぐだったと思う。

 母親に連れられていったデパートのくじなんかは決まって一等が当たるし、他の同年代の子よりも自分の運動神経は明らかに頭2つ3つは抜きん出ていた。
 引っ越す前までは近くの孤児院の少女ぐらいとしか遊ぶ相手はいなかったし自分のそれについてさほど疑問に思うことなどなかったのだが、比較対象が複数出てくると周りとの違いというものはが浮き彫りになるものだ。
 ただし、過ぎた力というものはいつの時代もどんな社会でも疎外されるものである。子供同士の社会でもそれに例外はなく、あの子と遊んでもつまんない、だからあの子と遊んじゃだめという暗黙のルールが自然と出来上がっていた。
 その頃にはレベルの低いやつらと遊んでも仕方ないなんて子供らしくない強がった考えを持ちながら、同時に仕方がないと心のどこかで思えるようになっていた。
 そんな子供の退屈しのぎのための興味は、果たして自分はどこまで特殊なんだろうということに行き着く。
 その特殊性の例として、まだ彼の周りに友達というものがいた頃のことだが、その中の1人がある日誤ってそこにある蜂の巣をつついた。逃げ惑う子供たちの中に彼も居たのだが、結局彼のみがただの一度も刺されることもなくことを終えたのだ。
 そんなこともこれまで何度かあり、その都度無傷でやり過ごしてきた彼はいつしか自分から意味もなく危険に向かう癖がついた。
 その全てをほぼ無傷でやり過ごしてきたために、いつしか彼の恐怖という意識は次第に薄れていく。そしてその日、彼は無防備に車の行きかう車道へと飛び出し目を瞑った。
 自分なら大丈夫だ、どうせたいした傷も負わない。
 そんな意識とは裏腹に次の瞬間にドン、と彼の体に衝撃が走った。
 ただし、車の前に真正面で立っていたにもかかわらずその衝撃は横からのものだった。
 結局その次の瞬間に前からも衝撃は来たのだが彼自身にたいした怪我はなかった。彼に絡み付いていた女が代わりに衝撃を受けたからである。
 その頭から血を流す女には見覚えがあった。
 子供ながらその長く茶色の髪がきれいだと思った人。
 自分が悪戯をしたとき、こっちが泣くまで叱ってくるくせにその後必ず抱きしめてくれる人。
 いつも自分のために料理を作ってくれる人。

 それは、自分の母親だった。

 篠原はガバッと勢いよく起き上がった。息は上がっており、汗で着ている寝巻きはぐっしょりと濡れている。
 しばらくその体勢のままでいたが、やがて落ち着き呼吸も整ってくる。その後髪を両手でかきあげ、ベッドから抜け出した。
「しばらくあの夢はみてなかったんだけどな……」
 それは彼にとってのトラウマであり悪夢、そして取り返すべき過去でもあった。
 今更夢を見たのはリアが母親のことを言い出したからかそれとも儀式の完成が近いからか。
 完全に目が冴えてしまった篠原はシャワーを浴びた後、早朝のホテルのホールへと足をやった。
 外は日が昇り始めたもののまだ若干薄暗い。ホールには受付が一人眠そうに立っているだけで他には誰もいる様子がなかった。
「お早いお目覚めですな。もうよろしいので?」
 突然背後から声がかけられる。その声の主、サイモンはいつの間にか音も気配もなくホールへ
と降りてきていた。その手には一冊の本が抱えられている。
「目が冴えちまったんでな、二度寝する気にもならん」
「そうですか。ならば圭様、これを」
 そう言って黒スーツの男は懐に手を入れる。そこから十字架(ロザリオ)を取り出し、それを篠原へと差し出した。
「昨日言った『鍵』の霊装です。それを身に着けておいてください。方向は覚えられていますか?」
「ああ」
 少年はそれを受け取ると十字架本体が背中の方にくるよう、逆向きに首に掛けた。
 それを見たサイモンは口元をにやっと歪ませると手の中の本を開く。次の瞬間、その本は淡い光に包まれた。

「主は、その背に十字を背負われた」

二時間目の授業を終えた後の休み時間、上条当麻は学内の自動販売機の前にいた。
 その横にはいつもの三馬鹿……ではなく青髪ピアスがいるのみである。
「ったく土御門のヤツ、また今日も遅刻か」
「まーあいつの遅刻早退無断欠席なんて今に始まったコトやないからね」
 ここにいない級友の愚痴をこぼしながら上条は取り出し口からパックのジュースを取り出す。
 まあ普段の土御門の学校への出席の悪さはあいつのこの学園都市で多重スパイとしての活動をしているということが関係しているのだろうとおおよその予想はつく。
 ということは、今も何かすらの事件で動いているのだろうか。その場合、上条当麻がそのうち現場に招待される可能性はなかなかに高い。
(うげ、いやなこと考えちまった)
 不吉な考えに行き着いて上条はその考えを強制的に中断した。考えただけでどうこうなるとは思わないが、それでもなんとなく気分のいいものではない。
「どーしたんやかみやん、そないいやそうな顔して」
 なんでもねーってと青髪ピアスからの言葉を上条はかわしてパックにストローを刺す。
 この二日でインデックスに振り回されたり美琴に因縁つけられたりと、最近ちょっとは収まってきたかなーなんて思っていたことが続けて起こっている。
(神様、できれば今日くらい平和に過ごさせて欲しかったりします)
 今まで一度も彼の味方をしてくれたためしのない神様に向かって心の中で頼んでみる上条。
 しかし、普段から信仰心などあるわけがないツンツン頭の少年にはやはり神様は味方してくれない。

 ドゴォっという遠くからでも聞こえたような爆発音のようなものとともに校舎が軽く揺れた。

「なっ、なんだっ!?」
 突然の轟音と振動に上条と青髪ピアスは思わず手の中のパックをこぼしてしまう。
 音の方向はちょうど上条の教室の窓側の向こう側にあり、この自動販売機はその逆に位置している。ここからでは音源あるいは震源を確認することができない。
 そう判断した上条は、落ちたパックに構わず自分の教室に向かって走っていった。その後ろを青髪ピアスが慌ててついていく。
 各教室には授業が始まる少し前とは思えぬほどの騒々しさで満ちており、そのほとんどの生徒が窓際へと張り付いていた。例外なく、上条たちのクラスも皆が騒いでいる。
 自分の教室の窓から身を乗り出して確認すると、はるか遠くの方でもうもうと煙が上がっているのが見える。
 時間的にはもう授業が始まっているはずなのだが、開始の鐘は続く轟音にさえぎられ、かつ教師も入ってこないためにそれに気付くものは誰もいない。
 そんな中、上条は突然横から誰かに胸倉を掴まれた。
「ちょっと貴様! あれは何なのか説明しなさい!」
 その少女、吹寄制理は上条を掴んでいる方と逆の手で煙の方へと指差し上条に突っかかる。
 えぇっ! と理不尽な言及に思わず上条は声を上げるが、そのかわいそうな光景も周りの者にとってはいつものコトなので外側への興味を逸らす対象にはならない。
「みなさーん、席について下さーい!」
 それらを遮ったのは教壇の横に立つ一見小学生にしか見えないこのクラスの担任、月詠小萌であった。
 吹寄は上条から手を離し、他の生徒も視線を窓の方へやりつつもぞろぞろと席についていく。
 全員が席についた後、小萌先生は少し緊張した様子で咳払いをした。
 普段ではまず見ないような表情をしたこの担任の様子に皆が何事かと顔を合わせあったりしてる。そして彼女の口から出た言葉は、この学園都市においてにわかには信じられないようなコトだった。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。今、学園都市第七学区は同時多発テロを受けています。安全を図るため、皆さんには今から避難所に移動してもらいます」

「……んっ……」
 第七学区に響く爆発の轟音で黒いスーツの少女、リア・ノールズは目を覚ました。
 ゆっくりと意識が覚醒していく中で、彼女は自分の状態を確認していく。
 場所はホテルのような部屋。どうやら自分はベッドではなくその床に転がっているようだ。体はまだ起ききってはいないようで力が入らない。なぜこんな状況なのか。昨夜はたしか・・・
(篠原っ!?)
 全てを思い出し一気に起き上がろうと体を起こした瞬間、バチィッとリアの全身に白っぽい電流が走った。
「うあああああああっ!!」
 その痛みに強制的に力が抜け、体は重力に従い元通りドサッと床へと転がる。それと同時に体を走る電流はスッと消えていた。
(い……まのは……?)
 もう一度起き上がろうとしてゆっくり体を起こすと、その前にやはり電流が流れて今度は声もなく床へと転がった。そしてまたも電流は消えていく。
 リアはこれに見覚えがあった。篠原が扱っていた能力である。
 そもそも彼は原石と呼ばれる天然の能力者だと聞いていたのだが、彼女の知る限り、こんな風に動くものに反応する力は彼は持っていなかったはずである。
 篠原が言わなかっただけかもしれないが、リアはそれより高い可能性について考える。

 篠原圭は魔術師だ。

 魔術というものが具体的にどのような力を指すのか見当もつかないが、もはやリアにはもとある能力を何らかの魔術によってそう使えるようにしたのかそもそも能力自体が最初から魔術によるものなのか、なんにせよ魔術が絡んでいるとしか思えない。
 そして、彼はその得体の知れない力でリアをここに監禁しようとしている。儀式の邪魔になるのを防ぐためだろう。
 昨日の会話であいつは儀式によって死ぬと言っていた。冗談か何かと思いたいが、この状況でそう思えるほどリアは楽観的ではなかった。
(……っざけんなっ……!!)
 リアは心の中で叫ぶと歯を喰いしばりながら体を一気に起き上がらせる。
 当然、少女の全身には白い電流が流れた。それに表情を苦痛に歪め、声にならない声を押し殺し、それでも彼女は倒れない。

 約束したのだ、あいつの母親と。
 決めたのだ、あいつを見守り続けると。

 リアは昨日倒れ際に見た、表情を歪める幼馴染の顔を思い出した。
「……待って……なさいよ……」
 手をひざに置き、小刻みに震える足を必死で押さえつける。
 そして流れる電流を承知で前へ進み始めた。
 場所なんてわからない。だが進むしかない。
 何もわからないが、だからこそあいつを死なせるワケにはいかない。

 校庭には避難のために全校生徒が各クラスごとに集められおり、既にまとまって校外に出ているクラスもいた。行き先は第七学区の総合体育館である。第七学区内が危険であることには変わりはないのだが、それでも一ヶ所に集まってくれた方が守りやすいためというのが警備員の考えだ。
「はーいみなさん、ちゃんと準備はできましたか?」
 そんな緊迫した状況のなか、まるで遠足の引率でもするような小萌先生の声が響いている。
 その前には彼女のクラスの生徒達がざわざわと騒ぎながらも、先生の横の吹寄が率先して仕切っているため何気に統制が取れていた。
 そのまとまった集団から一人がこっそり抜け出ようとしているのに気付き、小萌先生はリーダーを勝手に吹寄に任せて慌ててそっちに駆け寄っていく。
「ちょっ、上条ちゃん一体どこに行くつもりなんですか?」
 上条はこっちを向きやべっというような罰の悪い顔をして少し考えるそぶりをした後、諦めて小萌先生の方へと向かってきた。
「先生、俺インデックスを迎えに行ってくるよ。こんな危険な中にあいつを放っておけない」
 まっすぐな目をしたまま言い切る上条に対し、思わず担任教師は少し怯む。
「で、でも学校以外の寮や施設は警備員の方々が見てくださいますし、なにより危ないとわかっていて生徒がその中へ行くのを黙って見逃すわけにはいかないのです!」
「そうなんですか?でも警備員っていっても万能じゃない。やっぱりあいつのことわかってる俺が行くのが一番だと思うんです」
「むぅぅ……」
 彼の性格はわかっているつもりだ。誰かを助けるために危険に飛び込むことさえ顧みず、それを当たり前のことだと思っている。
 こんなときのこの少年が折れることは決してない。
 はあ、とため息を一つこぼし、観念したような小萌先生は上条に向かって苦笑いする。
「わかりました、こんなときの上条ちゃんには何を言っても無駄ですからね。ただし条件が一つ!」
 いきなり真剣な顔になった小萌先生に、思わず上条は緊張して姿勢を正す。
「ちゃんとあの子と二人、無事に帰ってくるんですよ」
 それと警備員の人に見つかったら事情を説明しておとなしく引き下がること、と何気なく二つ目の条件をつけて小学生にしか見えない教師はにこっと笑う。
「……ありがとう、小萌先生。絶対にあいつと戻ってくる」
 そう言って上条は踵を返し、校舎の裏口に向かって駆けていく。
 姿が見えなくなるまで見送った後、とりあえず小萌先生は吹寄がふざけている青髪ピアスへ制裁を加えているのを止めるため、自分のクラスの方へと向き直った。

 とくに広くもない路地の途中にキャンピングカーが停車している。
 本来そこは駐車禁止のはずの場所だがそれを咎めるものも迷惑そうにするものもいない。
 というより、周りには人も車も存在しなかった。原因は今も鳴り響く爆発である。
 そんなわけでこの広い空間を貸切状態であるキャンピングカーの中では、机の上に広げられた第七学区の地図を挟むように二人の男が座っていた。
「ようするにやつらが二十分前に襲撃した場所はこの三つ、その五分後、十分後での場所はここだ、つまり……」
「なるほど、円を描くように移動していますね。目的は魔法陣の描画といったところでしょうか」
「恐らくな。それで中心のここにはやつらの親玉がいるってところだろ」
「ですね。ところで、敵は三、三、二と分かれているようですが事前に聞いていた人数だとあとの二人はどこに?」
「不慮に対する予備か他の目的があるか……。どっちにせよそっちの方はとりあえず周りを潰してから考えりゃいい」
 地図にペンで書き込みながら土御門元春は不適な笑みを浮かべる。その対面では一見好青年な身なりをした海原光貴が腕を組んで地図を眺めていた。
「ちょっとあんたたち、自分だけ勝手に納得してんのはいいけどいい加減説明してもらえるかしら」
 少し離れたところから声をかけたのはさらしのように桃色の布で胸を隠し、その上からブレザーを羽織った女子高生、結標淡希だ。
 壁にもたれるように深く腰掛けて楽な格好のまま、彼女は視線だけをこっちに向けている。
「そう難しいことじゃない、こいつらは街中を円を描くように移動している。もっともあと少しで円自体は完成するんで、次にこいつらがどう移動するかはわからないから先回りはできないが」
「ようは見つけ次第撃破ということですよ」
 結論を先に言われ、土御門は少し面白くない顔をする。いいところを奪った海原はといえば笑顔のポーカーフェイスを崩さない。
「おい、聞いてたか!」
 半分八つ当たりのような感じで金髪サングラスは簡易ベッドに転がる白っぽい塊に向かって叫ぶように声をかけた。
「うっせーな、聞こえてンよ」
 めんどくさそうに声を返した後、それはゆったりと体を起こす。
「街中でハシャいでるクソどもをブチのめしゃいーンだろ?」
 赤い瞳をじろっとこちらに向けて一方通行はそう答えた。それに対して土御門はにやりと笑う。
「そーいうことだ」

 土御門元春、一方通行、海原光貴、結標淡希。
 この四人は『グループ』と呼ばれる社会の裏で活動する小組織だ。

 上からの指示によって学園都市の闇に関わる事件を対処している。だからといって、『上』の忠実な番犬というには彼らはあまりにかけ離れてはいるが。
 やるべきことが決まり、あとは現場近くまで移動だというときにふと海原は疑問を投げつけた。
「そういえば周りを処理するのはいいんですが中心はどうするんですか?」
 その問いに対し、土御門は相変わらずの不敵な笑みを浮かべて答える。
「心配するな」
 そう言いながらポケットから携帯電話を取り出し目的の番号を開いた。
「当てはある」

「わわっ」
 何度も爆音の鳴り響く学園都市の街中をインデックスという名の少女が振動に足元を取られながらも走っていた。
 彼女の名前の禁書目録とは、文字通り禁書など十万三〇〇〇冊の内容を全て知識として持っていることに由来する。彼女自身は魔術を使うことはできないが、それでも今も起こっている爆発が魔術によるものだとわかるくらいの察知能力はあった。
(一昨日ゲームセンターで感じた魔力の流れに似てる……)
 実は一昨日も魔術が近くで使われたことはわかっていたのだが、あまり大した力も使われていなかったのと近くに上条が居たために大丈夫だろうとたかをくくっていた。
 しかし今回は話が違う。
 なにしろ大きな爆発が、それも一度に違う場所で起こっているのだ。ならば、魔術の専門家である自分が解決しなければいけない。
 そう考えるインデックスは魔力の流れを追って走り続ける。
 ふと別の小さな魔力を感じ視線を横に逸らすと、道路の脇に見知った人間が倒れているのが見えた。黒いスーツを着ている昨日も一昨日も会った少女、リアだ。
「どっ、どーしたのリア!?」
 シスターはその少女へ近づくと、彼女の体に魔術がかかっているのがわかった。
 これは拘束、あるいは拷問などで使われる動作を禁止する類の魔術だ。あまり殺傷能力は高いものではないが、無理して動いていたのであろうこの黒スーツの少女は目に見えて衰弱しており、息も絶え絶えとなっている。
「ど、どーしよう。私じゃ解除用の魔術は使えないし、他にやってくれそうな人もこの辺にいないし……」
 やっぱりここは、とインデックスは使い慣れない携帯電話を取り出した。
 目的はこの携帯電話を与えてくれたツンツン頭の少年だ。彼なら解除用魔術うんぬん以前にその右手の力で全ての異能の障害を消し去ってくれる。
 だが、問題はこの携帯電話という文明機器だ。電話をかけたい相手の電話番号を電話帳から引っ張り出し、ボタンを押す。言葉はわかるがそもそもじゃあどこに電話帳なんてものが付いているのかがわからない。
「ううっ、こんなときにリアが元気ならリアからとうまに電話かけてもらえたのに」
 そもそもの前提条件を無視した矛盾を口にしながら、それでもその手の中の文明機器を必死にピコピコ動かす。
 そのとき突然、魔力を持った人間が近づいてくるのを感じてインデックスはそれをいじるのをやめた。そして目の前にはいつの間にか二人の黒いスーツを着た男がそこに立っている。
「禁書目録だな」
 そいつらの腕にはリアの腕についているものと同じリングが付いていた。リアのものと違うのはⅩⅡとは別の数字が付いていることと、爆発しているところから感じた魔力を帯びているというところだろうか。
「悪いが拘束させてもらう。逆らうようならば命の補償はしない」
「あなたたち、リアの仲間だね。なんでこんなことをしてるのかな。それにリアが今こんな状態なのはあなたたちがしたことなの」
 街中で暴れていることより友達を苦しめているかもしれないということに対する怒りを優先した感情で黒スーツに問いかけるインデックス。だがその問にはもう一人のへらへらした黒スーツがバカにしたように答えてきた。
「はっ、人の話聞いてたか? お前はやられる側なの、発言権なんざねーんだよ。大体なんでそいつはんなとこで転がってんだ、使い捨ててポイされたんじゃなかったっけ?」
 その言葉にインデックスは男二人を睨みつけ、リアから少し離れながら構える。
 魔術も使えず、勝ち目も少ないがそれでもこの男達は許せない。
 一方へらへらした黒スーツの片割れは、相手の反抗する姿勢を見てにやぁと邪悪に笑う。
「おい、勝手な行動は」
「いーじゃねーか、別に殺しちまってもいーんだろ? あっちはやる気まんまんだし危険分子の確保なんてつまんねー役もらってんだ、ちょっとくらい楽しんだっていーだろが!」
 そういってその黒スーツはリングを巻いた右手をこちらに向けてくる。
(ルーンを用いてリングの中に魔法陣を精製し、いろんな力を作り出す。爆発もそれによるものだろうけど、この魔力の感じなら使ってくるのは一昨日感じた力の・・・)
 リングの周りを複数の小さな光の玉が取り囲み、同時にリング自体も光りだした。
(電撃!)

 インデックスはばっとリアのいる方とは逆へと飛ぶ。直後、インデックスの居た場所に白い電流が飛びドガァッとそこのアスファルトを掘り起こした。
 黒スーツは舌打ちして右手を逃したシスターの方へと向ける。そのシスターは、地面に向かって転がってた石で何かを書いているようだった。
「くそったれが!」
「CR(右方へと変更)!」
 癇癪を起こしたように電流を飛ばすが、インデックスが叫ぶと同時にそれは彼女の右側へと逸れる。そしてそのまま左側へと走ると同じようにアスファルトに何かを刻む。
「なに抵抗してんだウサギが! さっさとくたばれ!」
「加勢しよう」
 右手から電流を飛ばし続ける黒スーツに加え、後ろで傍観していた男までもがリングをつけた左手から大量の氷の塊を飛ばす。
「CR! C、きゃっ」
 相手の魔術に割り込み誤作動を引き起こす強制詠唱。それをもってしても逸らしきれなかったいくらかの氷弾がシスターを襲う。腕と足のところをかすり、多少の血が出るがそれでもインデックスは止まらずに足元に向かって石を動かし続ける。
 それを見た落ち着いた方の黒スーツはふうとため息を付いた後、左手をシスターから少し逸らして構えた。
 そして次の瞬間、ドゴォッという音と共にインデックスの横で爆発が起こる。強制詠唱によって多少逸らしても爆風から逃れることはできずにシスターは五メートルほど横へと転がった。
「手間取らせやがってガキが……」
 右手にリングを巻いた黒スーツが怒りに歪めた顔をへらへらしたものへと戻した。
 それでもシスターは地面に向かって何かを書くことをやめはしない。
 それに業を煮やした黒スーツはガッとその手を踏みつける。
「何してんだ、無駄なんだよ! 所詮お前は知識しかもたねぇただのガキだろうがっ!」
 その言葉に反応して睨むように上を向くシスター。その目は決して諦めたものではなかった。
「……もういーよお前。冷めたわ」
 完全に興味をなくした顔をして黒スーツは振り返る。そのまま離れていくのを見てこのままどこかへ行く気かと一瞬インデックスは思う、だがそうではなった。
 距離をとった黒スーツはこちらに向き直り、右手をかざす。
「吹っ飛んじまえ」
 顔を歪な笑い顔に変え、右手のリングが光りだす。その光と距離をとったことでシスターは悟った。
 相手は爆発の魔術を使う気だ。
 だが、絶望に染まるはずのシスターの顔はなぜかにやりと口元を吊り上げるのみだった。

「RCP、FPS(力を逆流、空間を固定)!」
 瞬間、さっきとは規模の違う爆発が起きる。その轟音ははるか遠くまで響き、地面は震えた。

 ただしインデックスは傷を負うことはなかった。
 爆発は黒スーツを中心に起こったからである。なおかつその爆発は自然のものとは違い、ある一定の円の中のみにしか被害が出なかった。その円周上にはインデックスによってルーンが刻んである。
(リングと同じルーンを刻んだ魔法陣を作ることで、強制詠唱による干渉の範囲を飛躍的に広げる。あとはその力を逆流させることで自爆させて、その範囲を限定すればいい)
 ところどころを黒く汚した修道服を着た少女がその場をのろのろと立ち上がる。その視線の先にはさっきまで優位に立っていた二人の男が倒れていた。
「……える」
 別の場所で未だやまない爆発に声を消され、もう一度インデックスはその声を上げる。
「私だって戦える」
 その言葉に答えるものはここには居ない。
 そしてシスターは友達の様子を見るべく爆心地に向かって背を向ける。
 戦闘中の爆発で彼女が無事かどうかわからなかったが、それでも目立った傷のようなものもないことが確認できてインデックスは安心する。その瞬間、

「禁書、目録……!!」
 後ろでガサッという音と共に声がした。振り返ると、左手にリングを付けた男がこちらに向かってその手を伸ばしている。
 リングは光っており、気付けばそこからは既に電撃が発射されていた。
(間に合わない!)
 強制詠唱を唱える時間すらなく、ただインデックスは呆然とそれを見ているしかなかった。
 だめ、直撃する。
 そう思って覚悟したインデックスが次の瞬間見たのは

 その電撃を右手を伸ばしてかき消す見覚えのある少年の後姿だった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー